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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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あんな苛烈なのは俺の美少女像に反する

暴風砲火サイクロン!」



 ケイカが大狐に向けて魔法を放つが、尻尾を一振りするだけでかき消される。

 その間にも、ジナを包む炎は衰えること無く燃え続ける。



「父ちゃん!」

「レイくん駄目っ! 今近づいたら一緒に丸焼きですよ!」



 レイが必死に飛び出そうとするのを、ケイカが押さえている。

 イルヴィラさんが接近を試みるも、絶え間なく現れる炎の熱に近づくに近づけないようだ。

 マズイな、このままじゃマジでジナが前世の俺みたいになる。なんとかしなければ。

 魔法には魔法。こういう時こそコイツの出番だ。



「ボタン、あの炎、消せるか?」

「ちゅう」



 ネズミのような可愛い一鳴きをすると、服の中からボタンが出てくる。

 なんともこの場には似気無いが、コイツだけが頼りだ。

 ボタンは俺の前まで出てくると、ポヨポヨと跳ね出す。ウム、どうやら任せろとの事だ。



「よしボタン。半年の成果を見せてやろう」

「きゅう」



 跳ねるのをやめると同時に、前方に黒い靄が出現する。

 どうやって消すのかと思ったら、初っ端からデカイのをぶっ放すようだ。



「いきなりダークアライズなんて撃って、大丈夫かボタン」

「ちゅうう」



 黒い靄は一瞬にして膨れ上がり、黒い大きな手が現れた。大木と見間違えるくらいには大きい。

 大狐はその巨大な手を見るなり、距離を取るべく後方へと下がる。



「結構な魔力量だけど、あんな鈍い魔法に誰が当たるかっての」

「いやいや、当たってもらわんと困るぞ」

「何――痛ッ!!」



 大狐の足先へ、ナイフが射し込まれる。刺さるまでには至らぬものの、出血させるほどには傷が入ったようだ。

 アイツが人間形態の時にポイポイ投げていたナイフを、そのまま魔糸で利用させて貰ったのだ。フフフ、俺ってば策士。飛び退くのがわかってたとは言えアイツすばしっこいし、上手くいくか少し不安だったが……流石に自分のナイフまで警戒してなかったみたいだな。中々斬れ味が良いナイフの様で何よりだ。

 そのまま後ろへ逃さぬ様に、執拗に足元へナイフを飛ばしまくる。ううん? 結構な距離があるけど、射程はまだまだ余裕な感じ。結構練習したけど、今までこんな遠くまで飛ばしていたっけ。まぁ、長いにこしたことは無いし、いいか。



「この、しつこいッ!」

「よし、やっちまえボタン!」

「ッ!!」



 大きな黒い手が大狐を炎ごと包み込む。ずぶずぶと音をたてるように大狐が黒い靄へと沈んでいく。

 延々とジナに纏わっていた炎が途切れた。ふう、取り敢えずは成功か。



「ぶはぁっ! アッチィ! 死にかけたぞ!!」

「ジナ殿! ご無事ですか!?」

「おう、心配かけたな。息止めてたから大丈夫だぞ」



 全然大丈夫じゃねえから。お前の体は何で出来てんだ。本当に人間か?

 軽口を叩いてはいるものの、やはり多少の火傷はあるようだ。あまり無理はさせられない。



「チィィィ、ウッザい!! 何なのよこれは!!」



 大狐が相変わらずイライラしながら藻掻いている。あれ、スライムだとぐっちゃぐちゃになるんだけどやっぱ幻獣って硬いんだな。少しホッとした反面、あまり効いてないんじゃないかと焦る。

 ボタンも維持するのは辛いようだ、段々と魔力が萎んでいく。このままあの狐を押し潰せれば良かったんだが……



「ハナ、ダークアライズを維持してくれ。このまま仕留める」

「え? でもあの靄の中には入れませんよ?」

「外から攻撃すりゃ良いんだろ? ケイカ、イルヴィラ。一気に行くぞ」



 それを聞いたイルヴィラさんは、直ぐに剣を構えた。それを追うように、ケイカも大狐へ向けて魔法を撃つべく手を翳す。



「まだ、こんなもので止められると」

「幻獣、さっきは良くもやってくれたな?」

「グ……オオオオ!!!」



 靄が消えかかっている。ボタン、もうちょっとだけ頑張れ。

 ジナは大剣を背中に担いた。あれは……魔力を大剣に流しているのか? ここからでもわかるくらいには魔力が充満している。

 そのままジナが一気に振り落とすと、山津波の如く地面が砕ける。



(もはや災害だろアレ)

(ハナ様もジナさんくらい強くなっていただかなくては)

(あんな苛烈なのは俺の美少女像に反する)



 イルヴィラさんとケイカも、続けて叩き込んだ。地が割れ風が裂ける、容赦の無い攻撃が大狐へ向かっていく。

 流石の幻獣もアレだけの攻撃は絶えられないだろう。そう思った時だった。

 突如、ジナ達の攻撃が止まる。いや、正確には、止められた。

 何が起こったのかと見渡せば、辺り一帯が凍り付いている。全ての動きが停止させられたかの如く、一瞬で氷と雪の世界へと切り替わっていた。



「え……? 一体何が――」



 それを言い終える前に、突然の浮遊感が俺を襲う。

 え、いや、マジで浮いてないかこれ。しかも身動きが取れない!!



「お、お、おおおお!? 何事!?」

「ハナ!!」

「ハナちゃん!!」


 

 しまった、とジナは吐き捨てる様に言い俺の元へと駆け出す。

 クソ、何がどうなってる!? 何やらモサモサしたものが体に巻き付いている。ぐおお……ほどけん!!

 無理やり逃れようとジタバタしてると、後ろから声が聞こえた。



「これ、大人しくせい。落ちるぞ」



 声のする方を向くと、金色の大狐がいた。しかし、先程の大狐とは違う……? 別の個体か?

 どうやら尻尾で俺を固定しているようだ。さっきの口の悪い大狐と違って尻尾が三本もあり、妙に安定感がある。いや、安定感とか言ってる場合じゃないわ。



「おい、いきなり何するんだよ!! 離せったら!!」

「離したら死ぬぞ、お主」

「え? は?」



 下を向けば、ジナ達が俺を見上げている。いつの間にこんな高所まで移動したんだ!?

 どんどん元の場所から離れていく……待て待てヤバい死ぬ死ぬ!!



「おい馬鹿やめろー!! 死ぬっ! 死んじゃうー!!」

「騒々しい娘じゃな……少し黙っておれ」



 必死の抵抗も虚しく、大狐はどんどんと山を駆け上がって行った。



















「クソッ、やられた。まさか二匹いるとはな……!」



 突如現れた二匹目の幻獣。イルヴィラが離れたタイミングでハナを拐われてしまった。

 ハナを狙っていたのは知っていたがまさか幻獣が二匹いようとは。何故二匹同時に襲ってこなかったのか。ハナを狙う理由は何なのか。ジナは平静を保ちつつも、内心焦っていた。長年冒険者をやっており、想定外の出来事など日常茶飯事だったが……今回に関しては度が過ぎている。

 最初に現れた大狐は姿を消している。少なからずこちらの攻撃を受けているので、また直ぐに襲っては来ない……はずだ。



「ジナ殿、直ぐに追いましょう!!」

「落ち着けイルヴィラ。あの狐、恐らくだが……山の頂上へ向かったはずだ。このままの状態で頂上に向かうのは危険だ。直ぐにノイモントへ戻って、救出の準備をする。そこのライズ、戻ったらカフさんを呼んでくれ」

「ライズじゃなくてラ・ミルです! わかりました! 緊急事態なら怒られずに済みそうですね!」

「こんな時に何言ってるんですか……」



 本当ならイルヴィラの言う通り直ぐにでも向かいたい気持ちであった。ハナの服装では、寒さに耐えきれないだろう。急がなければハナの体力が保たない。

 しかし、自分たちまで動けなくなってしまっては意味がない。それに、一瞬でジナ達の猛攻を止めたあの凍結……どちらにしろ、対策が必要である事は明白だった。



「……」

「レイくん、大丈夫ですよ。ハナさんはこれぐらいじゃ全くへこたれません」

「……うん、そうだね」



 レイは沈黙の後、一言そう言って黙ってしまった。何か考え込んでいるような、小難しい顔をしている。ケイカはそんなレイを励ますが、自分とてハナが拐われて動揺を抑えるので一杯一杯だ。

 そんな錯乱とした中で、ジナ達は急ぎノイモントへと戻った。

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