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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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自分が一番優れてるって自信に満ちた顔

 墓参りも終わりノイモントへ戻ろうとしたその時、イルヴィラさんが突如として走り出す。

 どうしたのかと声を掛ける間もなく俺の目の前に飛び出ると、そのまま剣を横に振るう。



「フッ!!」

「どわっ!? なんだいきなりっ!?」

「ふわっ! 襲撃ですか!? ライズは悪い魔物じゃありませんよ!」



 キンッと金属同士打つかる音が響く。俺に向かって飛んできたのは小柄なナイフだった。俺は驚きつつも後ろへ下がり、辺りを見回す。



「ケイカ!」

「そこですねっ! 暴風砲火サイクロン!」



 溶け残った雪や泥を巻き込んで、ナイフが飛んできた場所へ容赦のない暴風が突き抜ける。

 その直後、目の前に大きな火球が現れた。火球は暴風の真正面からぶつけられ、爆風が巻き起こる。辺り一面、煙で覆われてしまう。



「ゲホッゲホッ……なんだ今のは、魔法か?」

「いました。皆さん、あそこです。気をつけて下サイ」



 ケイカが風魔法で辺りの煙を吹き飛ばす。すると、魔法の衝突した場所の方角に、目つきの悪い女が立っていた。眉間に皺を寄せ、こちらを睨みつけている。……あいつ、ケモミミだ……尻尾まで生えてる。金色の毛並みが陽の光を反射させ、美しく輝いている。

 そのケモ女に、警戒しながらもジナは声を掛ける。



「おいおい、いきなり刃物投げ付けるとはご挨拶だな?」

「……」

「お前さん、何者だ? ディゼノで金をセビってた暴漢の仲間か?」



 ジナが問いかけるも、女は反応せずじっとこちらを見ている。……あいつ、俺を見てるよな?

 うーん、中々の美人さんだが性格悪そう……顔怖いし。なんでガン飛ばしてくるの?

 ずっと俺のことを見ているので、俺の方から話しかけてみた。



「え……と、何か御用ですか?」

「……アンタね、そのウザったい魔力は」

「はい?」



 出会い頭にウザい言われたぞ。ハナちゃんは困惑した。魔力がウザいって言われてもどうしようもないだろそんなの……。



「俺の……私の魔力がどうかしたんですか?」

「ああ、悪かったわね。この山の天辺にいる奴に用があったのだけど。アンタからいけ好かない魔力がプンプン臭うのよね。知り合いにも似たようなのがいるんだけど、碌な奴じゃないのよ。アンタ何者よ?」

「いきなり何を言って――」

「まぁ良いわ。大事な大事な戦いの前に不安要素は残せないし。直ぐに殺してあげるから――」



 言い終える前に、獣人の女はナイフを俺目掛けて投げつけてきた。

 イルヴィラさんが直ぐに剣を構え、全て打ち落としていく。怖え……なんなんだこの人。快楽殺人者か何かだろうか。



「あーもう、片田舎の衛兵如きが。鬱陶しいから邪魔しないでくれる?」

「貴方正気かしら? 子供を連れているとはいえ、一人で襲ってくるなんて。見る限りこの付近の人間じゃなさそうだけれど……一体、何が目的?」

「目的ィ~? だから、さっきから言ってるじゃないの」



 獣人の女が凄まじい速さで跳躍する。一瞬でイルヴィラさんの目の前に到達すると、手に持ったナイフを刺突する。



「なっ! ――あぐうっ!!」

「イルヴィラさん!!」



 なんとか防いだものの、イルヴィラさんは剣ごとふっ飛ばされてしまった。何だ今の……人が動ける速さじゃねえぞ!



(狙いはハナ様です。直ぐ構えて下さい!)

(いやいやいや、構えるったってこんなの受け流せな――)



 俺が思考している内に、女は既に目の前まで近づいていた。クソ、卑怯だろこんなの!?



「さっさと死んで――」

「させるかっての!!」

「ッ!?」



 ナイフが俺へ届く前に、ジナが間に割り込む。そのまま大剣を振り下げるも、女は後ろへと下がる。

 ふう、まだボタンがいたから死ぬことはなかっただろうけど……怖かった。



「ケイカ、レイとライズを頼むぞ!! イルヴィラ、動けるか?」

「は、はい。問題ありません。ですが、この人間離れしたスピードは一体――」

「ハァ、邪魔、邪魔、邪魔。何も知らないただの人間の癖に」



 ブツブツと独りごちる女の周りに、幾つもの火球が現れる。辺りの雪が溶け始め、寒々しい空気が一転し熱気が立ち込める。

 女が指を鳴らすと、火球が一斉に俺達へと襲いかかる。



「父ちゃん!」

「ハハ、心配すんな!」



 レイが声を上げるが、ジナはニカッと笑い陽気に返す。

 ジナが大剣を振り上げ、思い切り地へと叩きつける。それだけで、辺りの火球がろうそくの火を吹き消すように消し飛んだ。



「何?」

「驚いてる場合じゃあねえぞッ!!」

「チッ、馬鹿力が――」



 呆気なく対応された事に苛立ちを隠せないようで、女は悪態をつく。



(マジかよ……ジナと言いケモミミちゃんと言い人離れしすぎだろ)

(イルヴィラさんがいなかったら余波で吹き飛んでいましたね)



 そのままジナは女の前へ飛び出ると、大剣を横へと薙ぐ。一振り、二振りする度に、辺りへ衝撃が与えられる。

 獣人の女がこれには堪らずと後ろへ下がるも、ジナは執拗に距離を詰めていく。



「あぶなっ!? クソっ、なんなのよアンタ!? 見た目冴えないオッサンの癖に……」

「ハハハ、酷い言われようだな、まぁ慣れてるけど。誰だか知らないが、取り敢えずお前を衛兵に突き出してやる! さぁ、どんどん行くぞッ!!」

「グウウッ、こんな、どこの馬の骨ともわからない人間如きッ!」



 スゲェ、あからさまにヤバそうな人だったのにめっちゃ押してる。やっぱジナってめっちゃ強かったんだな。

 合間合間に襲いかかるナイフを巧みに避け、押して押して押しまくるジナ。



(魔法を使う機会を与えない様に強引に近づいていますね。常人では難しい力技です)

(下手に手を出すと邪魔になりそうだな……)



 重量のある大剣を軽々と振り回し、獣人の女を追い詰める。女は余裕がなくなってきたのか、段々と反撃の手が少なくなっていく。



「グッ、どうなってんのよ……アイツと戦うための前座――ウォーミングアップのつもりだったのに……!」

「アイツだかライズだか知らねーがな、喧嘩売る相手間違えてんじゃねえか? ま、運が悪かったと思って、大人しくしょっ引かれろ」

「ッッ――」



 ついに、女は大剣を正面から受け、後方へとふっ飛ばされる。ケイカの暴風砲火サイクロンに引けを取らない衝撃が、女に襲いかかった。

 先程の魔法衝突よりも大きな砂煙が起こり、ジナの放った一撃で地面がえぐれている。



「うげえ、えげつな……」

「大丈夫ですか!? あれ生きてるんですか!? 私、暫くイチゴ食べられそうにありませんよ!!」

「ミルさん、少し黙ってて下サイ」



 ジナの放った一撃で起きた砂煙が晴れていく。そこには、腕に大きな傷を負った女が立っていた。

 あの攻撃で腕だけしかダメージ入ってないのも驚くが、更に気になるのは女の様子だ。何処か落ち着いた様子で、先程のキレたナイフの様な状態ではない。だが、ブツブツと独り言を呟いている。



「ああ、本当にツイてない。私って世界一ツイてないわ。なんで? どうしてなのルコ。邪魔邪魔邪魔、皆邪魔ばかり――」



 自分から襲って来ておいて何を言っているのか。典型的な自己中野郎め。そもそもツイてないのは俺の方だよ。

 ジナはそんな様子を見ても、警戒を解かず大剣を握り女の出方を伺っている。だが、女が見ているのはジナじゃなく、俺。何故だ、何故そこまで俺に固執するのだ。



「――何よ、その顔」

「え?」

「その、自分が一番優れてるって自信に満ちた顔。アンタやっぱ、ムカつくわ」

「え? ……ええー……」



 アカン、コイツの思考回路が読めん。トチ狂ってる上にヒステリックとか手に負えん。

 確かに俺は一番可愛いし美少女だし凄いし賢いしめっちゃ潜在能力秘めてるけど……ムカつくなんて言われるほど自己主張してない! ……つもりだが。



「ハア、もう良いわ。さっさとアンタ消して、本命も片付ける」



 その言葉と同時に、女の姿が変わっていく。

 体は大きく膨れ上がり、金色の体毛が生え、尾が膨れる。ただでさえキツい目つきは更に鋭くなっていく。これはまるで――



「……狐?」

「あれは――幻獣か?」

「あわわ、もしや伝説の御狐様!?」



 既に人の影形は無くなっており、目に前にいるのは全身金色の毛に包まれた大狐だった。まさに幻獣と言うに相応しい容貌。

 御狐様……と言うにはカフさんの話と違い些と違和感がある。だけど、この山で幻獣って言うとその御狐様しか浮かばない。一体どうなってるんだ?

 先程とは比べ物にならない程の重圧で、寒いってのに嫌な汗が出る。まさに獣の如き鋭い眼光を俺に向け、敵意を剥き出しにしている。



「そこの軽賤きょうせんな人間。大人しく死を受け入れなさい? この世界にアンタはいらないわ」

「いきなり現れてウザいだのムカつくだの死ねだのいらないだの言いたい放題言いやがって。死ねって安易に言っちゃいけないって親に教わらなかったのか?」

「――ぶっ殺す」



 大狐は俺に向かって走り出す。待って! 今の何処にキレる要素があるんだよ! 正論言っただけだろ!

 って、速っ! 目で追うのがやっとだ。



「ハハ、こりゃあ疾い。今まで出会ってきたどの魔物よりも疾いんじゃないか?」

「魔物なんかと一緒にしないでよ――オッサン!!」



 大狐は体中に炎を纏わせる。周りの雪は全て蒸発し、メラメラと金色の毛並みが燃え上がる様に揺らめいている。そのまま大狐はジナへ一直線に向かっていく。

 ジナも先程とは違い、真剣な眼差しで大狐を見遣る。



「暑いな、厚着で来たのは間違いだったか?」

「さっきから余裕ぶって……一々癪に障る奴!!」



 大狐は纏った炎を広げ、ジナを包むように放つ。

 それを、ジナは先程の様に大剣を大きく振り下ろし、衝撃で炎を消そうと試みる。

 だが――



「アチチッ! なんだこの炎は!? 纏わりつくように……!」

「【螺旋炎らせんえん】――その辺の魔法師とは格が違うのよ」



 大狐が放った炎は消えることはなく……いや、一瞬消えたのだが大狐に纏わる炎が絶え間なくジナへと襲いかかる。

 何度衝撃を出そうとも炎は消えること無くジナに絡み付いていき……やがて炎は、ジナを包み込んだ。


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