一生愛してる
2018/11/04 会話表示修正、会話内容修正
俺はあれから数十分ほど歩き続けている。
流石体力G、既にヘトヘトになってきている。因みに前世でも似たような体力だった。
(無理は禁物ですが、せめて開けた場所までは頑張りましょう)
転生した後、直ぐに俺のサポートとして現れた(と言っても念話とやらで語りかけてくるだけだが)セピアに言われた通り、俺は只管森の中を歩いて行く。
くそ、この靴薄い……靴ずれしそうだぞ。脚が短いから歩幅も狭いし妙にじれったい。
(へいへい……お、言った側から)
目の前に小さな泉を見つけた。ここなら休憩するのにぴったりだろう。
俺は近くの岩場に腰を降ろす。
「ふいーどっこいせー」
(見た目に反して少しオヤジ臭いような)
(なんか言ったか?)
(いえ、失礼しました)
本当に失礼なやつだ。元の年齢も20代後半だぞ。
それにしても疲れた……足が痛いよ全く。
(そういえばハナ様。よろしいのですか?」
(ん? なにが?)
(いえ、ご自身の顔を確認しないのかと思いまして)
(あっ! そっか!)
そう言えばそうだった! 何故一番重要な事を忘れていたのかッ!!
俺はすぐさま泉の近くへと向かった。
(まだまだ元気ですね……)
人間誰しも疲れが忘れるくらい大切なことがあるんだよ! 人間やめてるけど。
泉の前までたどり着く。泉はそのままでも飲めそうなくらいに澄んでおり、風で波を立たせて揺らめいている。
「スウウゥゥゥゥゥ――ハアアァァァァァ――」
(何をなさっているのでしょうか)
(深呼吸だ……これは俺の人生が全て決まってしまう、極めて重要な案件だからな、緊張するのだ)
ハーフエルフだしこんだけ肌がやわやわですべすべでもちもちなのだから大丈夫だと思うがそれでも不安なのは不安だ。
俺は美少女になるためだけに転生したと言っても過言ではない。
(もしこれで俺が変な顔だったら……)
(変な顔だったら?)
(この場で舌を噛んで死ぬ)
(そこまで!?)
そこまでだよ!! 当たり前だろ!! 美少女だぞ!!
なんで美少女じゃないのに生きなきゃいけねえんだ!!
(待って下さいハナ様! 最悪後からでも頑張れば……)
(嫌だい嫌だい! かわいいは作れるなんて嫌だい! 俺は天然物じゃなきゃ嫌なんだい!)
(それは色んな人に喧嘩売ってますから! もうちょっと穏便に!)
知るか! わけわからん死に方したんだからこれくらいの我儘言ってもいいだろ!
(大丈夫です! ハナ様ならきっと美少女、いや超絶美少女になってますから! 落ち着いて水面を見て下さい)
(本当かな? 本当に美少女かな?)
(はい、きっと!)
そうだよな……女神様にあれだけお願いしたんだからきっと大丈夫だよな。
もう一回深呼吸して……ふぅ、落ち着いた。
「それじゃあ――行くぞ」
俺は恐る恐る水面を見る。
風でゆらゆらと揺れていた水面は、ゆっくりと元の形に戻り、俺の顔を映していく……。
……
……
……
(……ハナ様?)
……
……
……
(ハナ様、一体どうし……)
「いよっしゃぁああああああああああああああああ!!!!!」
(ぶはっ!?)
セピアが驚いてぶっ倒れた音が聞こえたがそんなの知らん!!
俺は!! 今!! すっごい感動している!!
水面に映るは美少女では無いッ!! 正にッ!! 絶世の美少女ッッ!!!!
体と同じで白く透き通った肌。
目は大きく、かと言って主張せず幼さを残している美しい瞳。
サラサラで艷があり、一本一本がキラキラと綺麗に煌いている白銀の髪。
端正という言葉では表せない程に可憐、端麗、優美、文雅!!
「ふ、ふひひ、ふ、ふふ……ぐふふふ……」
俺が下卑た笑いをする度に目の前の美少女が愛らしい笑み(自分視点)を浮かべる……。
ああもう良い! 可愛い! 俺、俺の事一生愛してる!! 俺は自分を抱きしめる。
まさかこれ程とは……凄い、凄いよ女神さん!!
(ハナ様! お気を確かに! 大丈夫です! それはもう最高に、すっごい可愛いです!)
セピアがなんかめっちゃフォローを入れてくる。何か勘違いをしているようだ。
(大丈夫だセピア、俺は正常だ。余りに俺が美少女だったんでな、少し興奮してしまった)
(ああ、なるほど……取り乱してしまい、申し訳ありませんでした)
この人真面目か? 謝ることではないのだが。
まぁいい、とりあえずこれで俺が意地でも生き抜かなければいけない理由ができてしまった。
(よしセピア! 俺はこの世界で生き抜く為になんでもやるぞ! まずは何をすればいい!)
(えっと、まずは休んで下さい。それからスキルの使い方をお教え致しますので……)
俺というより、自分が休みたそうな声でセピアが提案する。
そうだな、まずは休憩だ。歩きっぱなしで疲れたしな。
俺はここで、しばらく休憩を入れた。勿論顔が見れる泉の前で。
「ふへへぇ」
しばらく休憩しつつ、俺は自身の顔を堪能していた。
ああ、笑うと可愛いなぁ……俺。尊さ測定器5000兆点。
このあどけなさが残る目も可愛い。上目遣いで見られたい……。いや、俺が見るんだけど。
このぷにぷにとした頬も最高だ。この世界の宝だな。
(あのー、ハナ様。大丈夫でしょうか)
(ああ、わりいわりい。つい自分に見惚れてしまった)
(確かに、私が見た中でもトップクラスの美少女ですね。自分の事ながら、見惚れてしまうのも仕方ないかと)
ですよねぇ。俺も見たこと無いぞこんな可愛い子。
(だからこそ、スキルの使い方を身に着け、自身を守れるようにしなければなりません)
そうだな。いつまでも呆けてる場合ではないか。
(わかった。セピア、早速教えてくれるか?)
(はい、といってもハナ様のスキルにある魔物使いは現状使用が難しいです。なので、人形遣いの方を先にお教えしますね)
(ん、任せた)
とは言ってもだ。人形なんて無いしどうすれば良いのだろうか。
(まず、人形を用意しますが正直、精巧な物でなくても問題はないのです)
(と言うのは?)
(例えばですが――ハナ様、申し訳ありませんが、辺りの地面を見回しては頂けませんか)
俺は言われた通りに辺りを見回す。
見たこともない木々や草、そして落ち葉や枝が落ちている。
(あ、あの枝なんて良さそうですね。先端が二つに分かれたあの枝を拾って下さい)
(うーんと……、あ、あれか)
セピアはどうやら俺と同じ視界を共有しているようだ。俺と一緒に顔を見たんだからそりゃそうか。
言われたとおりに二つに分かれた枝を拾う。
(まずはそれに魔糸を繋げる練習をしましょう)
(魔糸ってさっき言ってた奴か)
(ええ、まずは魔糸の出し方ですが)
俺は言われる前に小指と人差し指を立て、スパイ○ーマンの如く手首から出そうと試みるが、糸は出なかった。
「ぴゅしっぴゅしっ! ……やっぱダメか」
(どうなされました?)
(いや、何でもない。続けてくれ)
(?)
うん、ちょっとだけ恥ずかしい。相手がネタを知らないと尚更。
(魔糸の出し方ですが、まず、魔力を指先に貯めて……)
(おいおい、魔力がまず分からねえよ)
(えっと、転生者の方にわかりやすく言うと、血液を指先に動かすイメージだそうです!)
(普通の人間は血液を動かさんが……まぁなんとなくわかる)
要はそんなイメージで集めればいいんだろ。日本人のイメージ力なめんなよ。
ごぉぉぉぉぉ……集まれ集まれ……。ピッ○ロの魔貫○殺砲みたいなイメージで……。
(凄いです。魔力がちゃんと集まってきていますよ。それを更に糸として枝にくっつけるイメージです)
(難しいぞ……うにゅにゅにゅにゅ……あっ今の俺凄い可愛かった)
(……)
糸――蜘蛛の糸の様に細く……。
指先からうねうねと魔力の糸が出てくる。だが、少し伸びただけで、そこから中々先に行かない。
しばらくして、俺は維持できずに魔力を霧散させてしまう。
(ぶはぁっ! これ、難しいぞセピア。結構時間がいるかもだ)
(ええ、ですがいきなり魔力を集めて、糸までイメージできるのは凄い事ですよ。何回か練習すればすぐに上手くいきます)
(そうだな……早くしないといつ魔物が襲ってくるかわからんからな)
そういえば、未だに魔物と遭遇しないな。運:Aは伊達ではないということか。
遭遇したらステータスも相まってジ・エンドだけどな。あれ、割と現在進行形で綱渡りしてる?
急いでスキルを扱えるようにしなければ……。俺はそれから、一生懸命人形遣いのスキルを練習した。