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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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騎士から身を守られる美少女

 二日目の夜。俺は宿の部屋でぐったりと過ごしていた。散々運動したので体が動かない。遠出する前に何やらせてるんだあいつは。嗚呼、風呂に入りたい。



「ケイカ、ノイモントって風呂ある?」

「私が一泊した宿にはありましたよ。どうやら年中寒いみたいで、お風呂があると客の入りが良くなるらしいです」

「ほー、楽しみだ」



 欲を言えば温泉が良い。あれは良いものだ、前世でも良く入ってた。

 何故あそこまで温泉ってのはリラックス出来るのだろうか。嗚呼、早く入りたい。

 温泉への欲求に悶えていると、コンコンとノック音が聞こえた。ケイカが扉を開けると、驚いたように声をあげる。



「イルヴィラさん!?」

「こんばんわケイカ。ごめんなさいね、驚かせてしまったかしら?」



 扉の前に居たのは、ルマリの衛兵であるイルヴィラだった。軍衣を身に纏い、見た目は如何にもな騎士、という印象を受ける。以前、トレント騒動の時にも世話になり、ケイカとはあれからもちょくちょく会っていたようで親しい間柄になっている。

 俺も割と会う。というか、買い物してると妙にばったり出会うんだよな。衛兵ってそんな見回るものなのか?



「イルヴィラさん、こんばんわ」

「ああ、ハナさん。良かった、無事だったのね」



 ほっと胸を撫で下ろしている。もう今朝の事を知っているのか。

 ケイカが驚きつつも、イルヴィラに尋ねる。



「それで、どうしてここに?」

「今朝方、冒険者の方から言伝があってね。馬車を動かして欲しいとの事だったので、私が来たの」

「はい? イルヴィラさんは衛兵でしょう? そんな御者みたいな事して大丈夫なんですか?」

「ええ、勿論その件だけで動いてる訳では無いから大丈夫よ。私としてはこっちが本命だけど」



 ノイモントに用事でもあるのかな? ま、衛兵や騎士の仕事は俺にはわからん。

 何にせよ、知ってる人がやってくれるなら安心だ。イルヴィラさんは強いからな。しかも美人だし。最高じゃないか。



「ジナ殿から事情は聞いているわ。安心して、私が来たからには貴方にはもう指一本触れさせないから」

「心強いです」

「ええ、美少女に手を出す不届き者の穢らわしい指なんて、全て刎ねてしまえばいいのよ」

「はあ、本当にこころづよいな……」




 あ、安心させてくれているのだろう。言ってる事が怖いけど。

 それにしても……これはかなりの美少女展開なのでは? 衛兵とはいえ、騎士から身を守られる美少女――絵になるなぁ。素晴らしい。



「来てくれてありがとうございます、イルヴィラさん!」

「ウッ」

「どうしたんですか!?」

「……いいえ、何でも無いの。今日は早く寝た方が良いわ、ジナ殿と私が見張っているから、安心して」



 そんな息切らして言われても……この人は基本クールなのだが、偶に奇行へと走る。

 寝るにはまだ早い時間だったが、俺は直ぐにでも寝れそうなくらい疲れ切っていたので、お言葉に甘える事にする。

 そうさせてもらいます、おやすみなさい。そうイルヴィラさんへ言うと、彼女は笑顔で答えるも、ふらついてブツブツ言いながら外へと出ていってしまった。



「イルヴィラさん、疲れてんのか? 無理しないで自分も休めばいいのに」

「ウーン、イルヴィラさんはハナさんと一緒の部屋にはしない方が良いですね」

「なんで?」



 何か事情を知っていそうなケイカだったが、何も言わずにベッドへバサッと潜り込むと、そのまま眠ってしまった。なんなんだ全く。

 ……やれやれ、ここ数日は濃い一日が多いな。命まで狙われるハメになるとは。俺がちょっかいを出さなければ良かったのかもしれないが、後悔はしていない。あのまま放置するのも後味が悪いしな。その分、他の人に負担が掛かるのは心苦しいが。

 なんて事を考えているうちにうつらうつらと意識が薄くなり、俺は眠りについた。



















 次の日。早朝から俺たちは馬車に乗ってノイモントへと向かった。現在、草原に作られた簡易的な馬車道を進んでいる。

 ディゼノに来る時とは違い、馬車がガタゴトと揺れ動く。ノイモントへと向かう道は、整備こそされているものの人の行き来が少ないのか、砂利や凹凸な道が多い。

 座布団っぽい物は敷いてあるとは言え、時々大きい振動で尻が浮く。酔いはしないが、普通に尻が痛え。

 やる事も無いので、俺は昨日の報酬を数えていた。



(にししし、まさか金貨がこんなに貰えるとは。次はどんな服作ってもらおっかなー)

(ハナ様、馬車の揺れで金貨を落としてしまいますよ。しっかりと握ってて下さい)

(へいへい)



 ルーファがほとんど拾ってしまったとはいえ、俺の手元には金貨が8枚。元々はもっとあったのだが、レイに半分渡した。それでも……ふへへ、重い重い。金は重いなぁ。

 金貨8枚で何が作れるかな? これだけあれば防具兼用の実用的な服も行けるんじゃないか? ファンタジーによくありがちな、○○の素材みたいなの使ってさ。うはー夢がひろがりんぐ。

 一人でニヤけていると、外で御者の役割を果たしているイルヴィラさんから声が掛かる。



「レクスが狩りをした痕跡があります。状態を見る限り、まだそう遠くへは離れていないでしょう」

「そうか、あいつら鼻が聞くからなぁ。こっちに気づいてるかもな」

「一旦止めますか?」

「いいや? 突っ切って良いぞ。小規模のグループなら勝手に逃げるだろうし、多少数がいても問題ないさ。腕の立つ魔法師や騎士さんがいるからな」



 レクスとは濃緑の毛色が特徴である狼の魔物だ。妙に格好良い名前なのも理由がある。なんでも、この世界にも神話があるらしく、その神話に登場する森の王様が濃緑色の大狼らしい。そこから由来した名前だそうだ。

 群れで行動し、素早く草原を駆け獲物を捉える。特別強いかと言われるとそうでもないらしいが、当然ながら一般人には恐ろしい存在だ。冒険者としても油断は出来ない。

 更には、レクス自身食べる箇所が無いので解体して持って帰る旨味も薄い。毛皮が多少売れるくらいで、基本は害獣扱いのようだ。繁殖力もある為、定期的に討伐依頼も出ているそうだ。



「外に出た途端に、魔物が出るんですね」

「ああ、この辺は大した事無いがな。レクスは基本積荷の食料狙いだ、最悪それを捨てて逃げちまえば良い。ま、商人からすればたまったもんじゃないだろうがな!」

「頭が良いんですね、その魔物」

「味をしめた、って所だろうな。普段は狩りで飯食ってるレクスも、物によっちゃ上等な肉にありつける。運良く成功しちまったレクスの群れは、襲った地点を中心に巡回ルートを作る。だから、襲われた時点で直ぐに討伐依頼も来るんだ」

「盗賊みたいな魔物ですね」



 まぁ、盗賊と言うよりはカラスのイメージだけど。

 一度美味いもん食べちまうと舌が肥えてしまうからな。多少危険を冒してでも良い飯を食いたいのだろう。

 


「大丈夫ですよハナさん、ジナさんにイルヴィラさん、そして私もいるのです。レクスなんてお茶の子サイサイですよ」

「さいですか」

「雑! 折角安心させようとしてるのに!」

「お前、以前もスライム相手に調子乗ってダメだったじゃん?」

「あ……あれは、起きたばかりで本調子じゃなかったからノーカンと言うか」

「もっと精進したまえ」

「何様ですかっ!?」



 ぎゃいぎゃいと喧しい奴だ。元気ね、とイルヴィラさんに笑われてしまったぞ。

 逆に、レイはいつもより静かだ。魔物がいないかどうか、外をずっと眺めているんだと。ずっと気を張ってると疲れるぞ、と言ったのだが、どうやらジナの戦う所が見たいだけらしい。魔物に来て欲しいんかい!

 と、突っ込んだ矢先に、レイが声を上げる。



「父ちゃん!」

「ああ、いるな。イルヴィラ!」

「はい、馬車は私が」

「あっ、私も行きます!」

「レイ、ハナ。絶対ここから出るなよ?」



 本当に来ちゃったのか……レイ、そんなに嬉しそうにするな。危険なんだから。

 馬車を停めると、ジナは颯爽と外へ出る。それにケイカも続く。俺は続かない。美少女だからね。ボタンがいるとはいえ、守られる系の美少女なのだ。

 なんだかんだ、スライム以外の魔物を見た事が無い。ここで安全に見学出来るならありがたい話だ。俺はレイが見ている方向をじっと見つめる。

 んーー? 何処だ? 全然見えないけど……。



「ふむ……? なんだ、こっちだけか。ケイカ、頼むぞ」

「はい、お任せ下サイ!」



 ジナはぶつぶつ言った後、ケイカへ指示を出す。

 どうやら、茂みに擬態するかの様に隠れているらしい。何処にいるか全然わからん。

 ケイカが手を構え、詠唱を始める。標的へ向けた鋭い眼は、魔物を狩る冒険者としてのケイカに切り替わっている。



「荒れ狂う暴風で、全て貫く――」



 手先に魔力が溜まり、先程までいでいた葉風はかぜが、少しずつ勢いを増している。

 あの詠唱は、確か――



暴風砲火サイクロン



 青々とした草原を、強烈な暴風が吹き抜ける。かまいたちにも似た暴力的な風は、草原に潜む獣達をあらわにした。



「おお、見えた。あれが『レクス』か。よくわかったなレイ」

「父ちゃんに教えてもらったからね。レクスはああやって、草原に紛れて獲物に近づくんだ」



 迷彩服みたいなもんか。確かに草と似たような色だから分かりづらい。



「今のだけで数匹空に吹っ飛んだね。さすがケイカさん」

「でも、まだ何匹もいるな。……オイオイオイ一気にこっちへ来たけど大丈夫かあれ!」



 魔法が放たれた直後、一斉にレクスは行動を開始した。魔法の威力が想像よりも高かったのか、逃げ遅れたレクスが数匹空に舞い上げられる。

 それでも、後12~3匹はいる。大きさは大型犬程、顔は狼を更に厳つくし、刺す様にに鋭い視線をこちらへ向けており、俺は思わずたじろいでしまった。



「大丈夫。ジナ殿とケイカがいる限りここへは到達出来ませんよ。万が一があっても、必ず私が守りますから」

「それに、ハナちゃんにはボタンもいるでしょ」

「きゅ」



 自分を忘れるなとでも言うかの様に、ボタンがぴょこぴょこ跳ねている。

 そうだった。ボタンの闇魔法を試すチャンスじゃないか。むしろ一匹くらい抜けてきても良いんじゃないか?

 なんて思っていると、ジナが動き出した。 



「レイ! レクスは素早いが、武器は牙しか無い。しかし、連携が厄介だ。稀にフェイント掛けてくる狡猾な個体もいるからな。直接的な攻撃方法しか無いとはいえ、油断するなよ!」



 と、レクチャーしつつ、ジナは――跳んだ。



「――は?」



 俺が気の抜けた声を出した直後、跳び上がったジナは、いつも担いでいた大剣を振るう。

 一番最初に目をつけられた哀れなレクスは、真上から大剣を叩き込まれて絶命する。その傍らにいたレクスも、大剣を叩きつけた衝撃で一瞬怯んだ。

 そのままジナは大剣を切り上げて、怯んだレクスを空へと吹っ飛ばす。そこへ、その隙を突くように一頭のレクスがジナへと飛びかかった。



「ハハハッ! そーら!」



 子供の様に無邪気な笑い見せると、ジナは大剣から手を離す。

 一匹のレクスがジナの首に噛み付こうと跳んだ所を、ジナはしゃがんで回避する。そのまま、ジナは自慢の豪腕をレクスの腹部へとめり込ませる。

 ギャインと言う嘔吐えずきと悲鳴が混ざりあった声をあげると同時に、カウンターを受けたレクスが吹っ飛んだ。



「魔物を素手でぶっ飛ばすなよ……」

「豪快――という言葉が一番合いそうね。ジナ殿の戦い方は」



 豪快っつーかあれじゃ野生児じゃねえか。開始早々武器手放してぶん殴るとは。

 そのままジナは大剣を拾い上げ、他のレクスへと向かって跳躍する。



「ケイカッ! 二匹そちらに向かったぞ!」

「はい、見えています」



 ジナは伝える頃には、既にケイカもレクスを視認している。既に魔法を撃つ準備が整えられていた。

 それを見たレクスは、先程の魔法を警戒したのか向けられた手の直線上から離れ、左右に分かれる。



「ふふん」



 そんな行動、既に見透かしていますよ、と言うかの様にケイカは笑う。

 両脇から距離を詰めるレクス相手に、ケイカは自らその中心へと向かう。そのまま手を頭上に上げ、唱える。



救世旋風イサ・イーバ



 ケイカを中心に、小規模の旋風つむじかぜが発生する。

 レクスは危機を直感するも既に遅く、渦を巻く強風に弾き飛ばされ、地に体を強く打ち付ける。

 その余波なのか、こちらの方にまで突風が突き抜ける。



「ぐおっ、あぶねっ! コラー! こっちまで巻き込むな―!」

「ダメだよハナちゃん、大声出したら」

「ケイカ……やりすぎよ」



 急な突風により興奮している馬車馬ばしゃうまを宥めつつ、イルヴィラが嘆息する。

 ケイカはスキルである魔力貯蔵により、通常よりも多くの、しかも威力の高い魔法を乱発出来る。

 更には魔力吸収により通常よりも魔力の回復速度も早く、継続して魔法を撃てるのでケイカは出し惜しみをしない。



「あれ、角がへし折れて暴走してた時に似てるな」

「新しく使える様になったみたいね。周りを巻き込むから場所を選ぶそうだけど」



 あれから半年、ケイカも成長している。

 冒険者としての知識や経験もそうだが、日々魔法の研鑽を怠らない。魔力暴走時に起きた魔力放出の感覚を、そのまま魔法として発現させたら新しい魔法が扱えるようになったそうだ。

 アイツも大分頑張っているようだ。親父のことを引きずっていないようで良かった。

 でも、あのネーミングは絶対正式名じゃないだろ。


 少しして、レクスの群れはあっさりと倒された。

 まさか、ケイカとジナだけでこうも簡単に倒されるとは……大体ジナが暴れてたせいなのもあるが。

 レクスは危険度が低く見つかっても逃げれば見逃してくれるらしいので、Gランクという最下級の魔物として扱われている様だが、あんなすばしっこいので最下級なのか。

 この世界の戦闘技能は高水準だなぁと、途方に暮れるハナちゃんでした。

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