表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
46/181

綺麗で可愛いエルフが悪い事する訳無いじゃないか

 帰るなり、首にある痣の事を聞かれ、直ぐにポーションを貰った。飲んで少ししたら、痣は消えていた。万能すぎじゃん?

 その後、ジナとケイカに事情を説明する。変な事に首を突っ込んで怒られるかと思ったけど、逆に謝られた。



「街の中なら安全だろうと高を括っていた俺の落ち度だ。怖い思いをさせてすまなかったな」

「大丈夫ですよ、レイくんとボタンが守ってくれましたし」



 実際、救われたので特に話は盛ってない。普通にあった事を話したのだが、レイは浮かない顔をしている。

 全く、そんな辛気くせえ顔してると女にモテないぞ。それを見かねたケイカがレイに言った。



「レイくん、どこか具合でも悪いのですか?」

「えっ!? あ、いいや、平気だよ。なんでもないんだ。早朝から沢山動いて疲れちゃっただけだよ」

「レイ、今日はゆっくり休め。後の事は俺に任せろ」



 そうしたい所だが、最後の方で俺らを始末するだのなんだの物騒な事言ってて休むに休めないんだよなぁ。

 今日一日……というか、暫くはジナが付きっきりでいてくれるらしいから少しは安心だけど。



「冒険者紛いの暴漢ですか……昨日御者さんを怪我させた人と同じですかね?」

「わからん。だがここ最近、ギルドで妙な噂が流れている」

「噂?」



 噂とは、ディゼノ含む此処ら一帯の街で人が消える……つまり、行方不明者が出ているという物だ。

 目撃者によると、倒れ込んでいた一人の女性に声をかけようとした時、服や装飾はそのままにいきなり目の前で消滅したそうだ。

 しかし、捜索依頼が来ない、他に目撃者がいない等、決定的な証拠が揃わない為、噂の域を出ないそうだ。



「怖いですね、いきなり消滅するなんて」

「目撃者が錯乱して見間違えた、だなんて言われてるがもしかしたら呪術師や死霊術師が一枚噛んでいるかもしれないな。その暴漢と関係があるかはわからんが……」

「呪術師……」



 その言葉を聞くなり、ケイカは神妙な顔つきで俯く。

 親父が呪術師で、自身に呪いを掛けたのも呪術師なのだ。因縁めいたものがあるのかもしれない。



「ケイカ、すまないが冒険者ギルドへ一報入れてきて貰えるか? 俺はコイツらを見てる」

「はい、わかりました」

「気をつけろよ? 流石に街中では手出しして来ないと思うが」



 ニカッと笑い、もし来たら返り討ちにしてやりますよと豪語しながらケイカは立ち上がる。心配過ぎる……この子、調子乗る癖があるから。

 ケイカが部屋を出た後、ジナは俺に向き直り話を続ける。



「さて、ハナ。お前に渡しておく物がある」



 ジナは腰の後ろにある短剣を鞘ごと降ろし、俺に渡してきた。

 刀身が青白く輝いている。身飾品にも見える美しい短剣は、ジナの大きくゴツゴツした手とは何処かミスマッチだった。



「ミスリル製の短剣だ。俺にゃ軽すぎてな、何かあった時の為にと思って持ってたんだが、お前にやる」

「ミスリルって……」



 確かファンタジー特有のめっちゃ高価な素材じゃなかったっけ?

 いきなり渡されるので少し戸惑ってしまった。



「いきなりこんな物貰っても扱えな……ってかっる!?」



 すっげ、流石ファンタジー。ギルドの鉄剣は重くて振り回すなんてとても無理だったが、これならある程度扱える。

 こんな良いものを持ってるなんて流石ベテラン冒険者。



「気をつけろよ、軽いとは言え恐ろしい程よく切れるぞ」

「あの、何故いきなり短剣なんて」

「そりゃ、身を護るものが1つはあった方が良いからな。という事で」



 そう言って、いきなり荷物の様に担がれる。一体何事だ。

 じたばたと手足を動かしてみるが、びくともしない。



「うおっ!? いきなり何すんだよ! 離せっての!」

「今のうちに短剣の扱い方を教えてやる。数日だけの付け焼き刃でもやっといた方が良いだろ?」

「いや美少女に戦わせんなよ!? くそう、美少女誘拐だ! ちょ、おいレイ! 助けろー!!」

「あはは、ごめんねハナちゃん。父ちゃん、こうなると聞かないから」



 それから、ジナが付きっきりで短剣の扱い方……と言っても本当に簡単な事で、握り方や、近くに寄られた時の対処方法を教えてもらった。

 ミスリル製の短剣は軽いから良いものの、おんなじ動きを何回もさせられて腱鞘炎になりそうだ……ジナにもっと鍛えろと言われたが、10歳の少女に無茶を言うなって話だ。



「ハナは動きが直球……というか、せっかちだ。危ないと思ったらすぐ手が出ているぞ」

「そんな事言っても近づかれたら手を出すしか無いじゃん」

「もっと余裕を持て、直感だけじゃ避けられるぞ」



 うぐ……直感で動いてそうな奴に言われたくないが、その通りだ。よく直前でどうするか考えて失敗する事が多い。

 もっと視野を広げたほうがいいのはわかるんだが……集中力が下がるのよね。



「レイはこんなキツい事毎日やってんのか」

「いつもはもっとキツいよ」

「うへえ」



 訓練しているうちに、レイもいつもの調子を取り戻したようだ。いつもなら僕も一緒にやるなんて言いそうだが、後ろでちょこんと座っているのを見て、大分疲れているのを察する。

 その日、結局俺は街に出ること無く夜を迎えるのだった。くそう、お洒落なお店を探すはずが……。























 宿を出たケイカは周りを気にしつつも、無事にギルドへと辿り着いた。

 ギルドマスターへと伝える為、扉を開けて直ぐに受付へと向かう。



「おはようございます」

「あら、おはようケイカちゃん」



 受付の女性は挨拶を返すと、少し疑問に思いながらケイカへと尋ねる。



「ジナさんから今日はノイモントへ行くと聞いていたけど……何かあったのかしら?」

「はい、実は……」



 呪いの話や、ギルドの噂等を含め、ケイカは今日ハナとレイが目撃した事を話す。

 


「……まさか、この街でそんな事が」

「なので、ギルドマスターに一報入れて欲しいとジナさんに頼まれまして」

「そういう事ね、わかったわ。出来れば直接ケイカちゃんから伝えてほしいけど……今いないのよね、マスター」

「忙しい人ですからねぇ」



 2日に1度は何処かしらへと繰り出している。当然ギルドマスターとしての責務を果たしているのだが、彼女の性格上自分が直接話さなくては気が済まない質だから、というのが大きい。

 では、私からお伝えしておきますね。と受付の女性が言った直後、ケイカの後ろから近づく人影が見える。



「おや、どうしたのかな? 今頃はノイモントへ向かう道を、まったりと進んでいる頃かと思っていたけど」

「リナさん! おはようございます」

「ごきげんよう、ケイカ」



 声を掛けてきたのは、副ギルドマスターのリナリアだった。

 綺羅びやかな装飾に身を包み、金髪長身で美麗な髪からは尖りのある耳が覗いている。彼女はエルフと言われる精霊だ。

 その後ろから、ガッシャガッシャと大きな音を立てて歩く見慣れた鎧の人物が近づいてくる。



「ダメよリナさん……ケイカちゃんは置いてかれたのよ……察してあげて欲しいワ」

「え? なんかごめん」

「リナさん謝らないで……そんなんじゃないですから。ロメリアも適当言わないで下サイ」



 少し誂うように、ロメリアはごめんねと謝ってくる。冗談だとわかっているので、ケイカは軽めにコツンとロメリアのヘルムを小突くだけですませる。

 それで一体どうしたんだと尋ねられたので、ケイカは二度手間になったなと思いつつも、リナリアとロメリアへ説明した。



「ふむ、子供相手に恐喝……そして暴行か。とても見過ごせる事案じゃあ無いね」

「酷いわ……首を締めるだなんて、人としてあるまじき行為だワ……」



 昨日兄をシメてたのにどの口が言ってるのかと思ったが、心配してくれているので無粋な事は言わないでおこうとケイカは思った。



「わかった。私の方でマリーに話しておくよ。ジナにも話を聞きたいけれど、それはノイモントに行った後でも良いや。家族旅行に水を指す訳にはいかないからね」

「はい、私からもジナさんに言っておきます」

「頼むよ。約束をぶっちされちゃ堪らないからね。マリーにまた叱られてしまうよ」



 彼にも困ったものだね、とリナリアは頭に手を添える。



「そういえば、馬車を貸してくれたのはリナさんでしたね」

「うん、また勝手に持っていかれたら処理が面倒だからね。勝手に貸しちゃった。マリーから逃げるのは大変だったよ」

「そうね……リナさんも大概なのよ……」



 優しそうで、お淑やかな話し方とは裏腹に、リナリアもどちらかと言えば豪胆な性格だ。後ろで受付が苦笑いしている。

 リナリアはそうだ、と思いだしたかのようにぼそりと言い、ケイカへ尋ねる。



「所で、1つ聞きたいんだが」

「はい、なんでしょうか?」

「魔装具を落としてしまったんだけど、見なかったかな? どこで落としたのか見つからなくって……」

「また何か無くしたのですか」

「ダメよ……リナさんが魔装具なんて高価な物持ってはダメよ……絶対無くすもの……」

「酷いなぁロメリア。勝手に無くなってたんだよ」

「物を良く無くす人は皆そう言うのよ……兄さんもそうだワ」



 ロメリアはわざとらしいため息をついた。本当に良くある事らしく、妹としての苦労が伺える。

 魔装具。文字通り、魔力が込められた装具の総称だ。実際には装具だけでなく、装飾も指す。

 


「ちなみに、どんな魔装具なんです?」

「とある花を元にデザインした髪飾りなんだけど……ええと、なんて言ったかな」

「ここで落としたのですか?」

「……たぶん」

「ダメよ……見つからないワ……それ」

「もうちょっと協力的でも良いんじゃあないかい!?」



 ロメリアが余りの曖昧さに呆れている。確かに、魔装具を雑に扱うのは良くない。拾われて悪用されかねないからだ。

 その事に気づいたのか、リナリアは慌てて訂正する。



「だ、大丈夫さ。あれはね、エルフにしか扱えない魔装具なんだ。綺麗で可愛いエルフが悪い事する訳無いじゃないか」

「自分で言わないで下サイ……確かに、穏やかな精霊種ではありますが」

「言い訳なのよ……早く探したほうが良いワ」

「そうだね! という訳でロメリアも一緒にお願いっ!」



 手を合わせて腰を低くするリナリア。副ギルドマスターの尊厳が微塵も感じられないが、これでも一応実力派である……らしい。



「えぇ……嫌よ……面倒なのよ……」

「頼むよ~~、今度リアムくんと一緒にお肉の美味しいお店連れてってあげるから」

「……お手伝いするワ」



 食事と男に釣られた鬼っ娘は、途端に従順になった。省かれたアルス可哀想。

 要件が済んだことだし、そろそろ戻ろうとしたその時、辺りが急に騒がしくなった。

 少し離れた所で、ロメリアのお兄さん……アルスが、何やら嬉しそうに周りの冒険者達と話している。どうやら、少し強めの魔物を討伐して来たみたいで、見せびらかしているようだ。



「うう……喧しい兄貴なのよ……恥ずかしくって見てられないワ」

「ハハ、良いじゃないか。むしろ無事に帰って来た事を称賛すべきだよ」



 リナリアはそのまま、お疲れさんとアルスを迎えに行った。あれはロメリアと一緒に魔装具を探させる気だな。ケイカは皆相変わらずだなと安心した。

 正直、ここに来る前ケイカは少し不安だった。もしかしたら、ここにいる冒険者達の誰かが犯行に及んだのではないかと。だが、見ている限りそんな様子は無く、むしろその現場にいたら直ぐ止めに入るだろう。

 だから、冒険者達は関係ないと確信したケイカは、安心してジナ達の元へと戻るのだった。少しばかりの疑問を残して。



「それにしても……花形の髪飾りですか。どこかで見たような……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ