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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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どうでもいいけど美少女が内緒だよって言うと背徳感があるね

 急いでルーファの元へ向かう。先程よりも衰弱しているようで、倒れ込んだまま動けないようだ。



「レイ、悪いがポーション使うぞ」

「うん、どうせ後で買えるから気にしないでいいよ」



 前回の反省をふまえ、俺もレイもポーションを数本分常備している。体力回復にはならないが、剣でつつかれた程度の切り傷ならすぐに治る。



「少し染みるけど我慢しろ」



 傷口にポーションを振りかけながら、ルーファ自身にも飲んで貰う。

 顔が強張ってたが、血は止まり、傷も少しずつ治っていく。相変わらず便利な薬だ。傷塞いで包帯を巻く必要すら無いとは。



「よし、血が止まった。大丈夫? ルーファさん」

「あ……うぅ……」

「ルーファ?」



 傷は治ったものの、中々起き上がらない。それどころか更に顔色が悪くなり、発熱している。

 何がどうなってる? 考える暇も無く、ルーファは徐々に息が荒くなっていく。



(おいセピア、どうなってんだ)

(暴漢共が先程言っていた呪いが原因かもしれません。ルーファさんのステータスを見てみましょう)

(頼む)



 俺はセピアに頼んで、ルーファのステータスを見た。






名前:ルーファ

情報:人間 女 13歳 【金縛り】

体力:C

筋力:G

敏捷:A

魔力:G

知力:E

魅力:B

幸運:F

スキル:【掏摸すり

特殊スキル:無し






 スリってお前……ひでえスキルだな。と、それは良いとして予想通り、情報の部分に見慣れない文字がある。

 【金縛り】ねぇ……普通なら動けないだけなんだろうが、この様子じゃ碌でもない呪いだろう。

 早く解いてやらないと危なそうだ。レイに色々バレちまうけど……仕方ねえな。



「レイ、時間がなさそうだ。これからやる事、誰にも内緒だぞ? 後で詳細を話すから」

「え?」



 唐突な告白に首をかしげるレイ。どうでもいいけど美少女が内緒だよって言うと背徳感があるね。



(あの、ハナ様)

(やります! 真面目にやります!)



 目の前でくたばりかけてる美少女がいるのに何やってんだと言った声色でセピアが詰めてくるので俺は直ぐ様、解呪ピリフィケイションを試みる。ハァ……またアレ、言うのか……。



の者よ、廉潔れんけつなる呪光じゅこうを以て呪染じゅせんの檻を打ち砕け――解呪ピリフィケイション



 ルーファに向かって、解呪を唱える。淀みなく言えるくらい、きっちり呪文は覚えていた。

 唱え終わると同時に、ルーファから黒い靄が浮かび上がる。ウゲぇ、ねっとり魔力が不愉快過ぎる。ケイカの呪いを解呪した時にそっくりだ。同じ奴か?

 レイが心配そうに見ているので、美少女流あどけない笑顔で返す。実際、ねっとり魔力が不快なだけで辛くはないからな。



(この呪いを掛けた奴はお仕置きだな。出来れば女が良い)

(え? 何故です?)

(エッチなお仕置きが出来るから)

(……)



 呆れて無言になるセピアをよそに、俺はルーファから呪いが抜けきるのを待つ。

 ……遅いな。ケイカの時より遅い。まさか失敗か? と思った矢先、突如ルーファの胸元が発光する。



「うおおっ!?」

「うわっ、どうしたのハナちゃん!?」

「わからん! わからんが、呪いが解けたのかも……くうっ!」



 光は更に広がり、辺り一帯を包む。

 直ぐに光は収まり、同時にルーファを蝕む黒い靄も消滅した。



「目がチカチカする……畜生、最後の最後まで嫌がらせしてきやがって」

「あっ! ハナちゃん、それ! 足元足元!」

「え? ……おおっ!?」



 下を見れば、なんと金貨、金貨、金貨。沢山の金貨が下に散らばっていた。

 動く度にガシャガシャと金貨が鳴る。幸せの音だ。

 取り敢えず全て回収してトンズラしようと画策していると、目の前にいる少女が立ち上がる。



「う……む……ここは……?」

「ルーファさん! 無事で良かった!」



 フラフラとして再度倒れそうな所を、レイが支える。金貨を拾い集めてた俺とは大違いだ。良い冒険者になるよ、レイは。



(いや、ハナ様も手伝ってあげて下さい……って、金貨を懐に入れないっ!)

(バカお前金貨1つで4万円だぞ。こんなチャンス滅多にねえんだ、回収できるだけ回収を……)



 俺がカサカサ地べたを這いずり回っていると、ルーファが俺に声をかけてくる。



「あの……昨日のお客さん」

「ハナだ。俺の名前はハナ。ちゃんと覚えとけチビ」

「私はルーファです」

「知っとるわ」

「じゃあチビだなんて言わないで欲しいです!!」



 大声で訴えて来るルーファ。元気な様で何よりだ。



「で、体は大丈夫か? 死にかけてたようだが」

「はい、もう死ぬのかと諦めてたですが、一体何が――」

「いや、そりゃこっちの台詞だよ。お前、なんで呪いなんて掛けられてたんだ?」

「呪い?」



 レイが何の事? と俺に聞いてきた。すまんな、置いてきぼりで。

 俺はざっくりとステータスの事とルーファの呪いについて説明した。俺が触れればステータスが見える事を教えたが、レイはそこまで驚いてはいなかった。



「普段からよくわからない魔法使うし、今更だよ」

「あー……そうさな」



 普段から変人みたいに見られるのはとても遺憾である。が、都合がいいので言い返さない。

 相手のステータスを覗き見するスキルって、この世界にあるのかな? 転生者に一人くらいいそうだけど。

 ともあれ、俺はルーファに事情を聞く。



「それでルーファ。あの暴漢共と何があったんだ? 金が返せないだの何だの言っていたが」

「はい、実は――」



 ルーファは元々孤児みなしごで、5歳の時に両親が行方不明になったそうだ。

 その後、偶々とあるお爺さんに拾われる。それから数年間、一緒に暮らしていたらしい。ルーファはお爺さんに恩義を感じ、精一杯お爺さんの手伝いをした。

 そしてつい最近、そのお爺さんが亡くなってしまった。ルーファは悲しみに暮れていると、お爺さんの知り合いと名乗る男がルーファに近づいてきた。

 身よりもなく、何よりまた孤独になってしまい心細かったルーファは男を頼った。

 ルーファが男と知り合ってから一ヶ月後、男はルーファに契約を持ちかける。



『お爺さんの後を継いでみたくないかい? 数年間ずっと師事を受けた君なら、きっとやれる』



 男は穏やかな口調でルーファに提案する。

 お爺さんの為ならばと、ルーファは二つ返事で了承してしまった。



『さぁ、僕の手を取って。君にまじないを掛けてあげよう』



 男は手を差し出し、暖かな笑顔でルーファを見る。

 その翳りのある救いの手を、ルーファは掴んでしまった。







「――それから、お金を貸してくれたのです。その時は返さなくても良いって言ってたですが、その代わり……」

「その代わり?」

「貸した分だけ金貨を直接体内に入れる……つまり、金貨を食べてくれ。でないと、まじないが消えて命に関わるって。でも、食べても食べても一向に苦しいのは消えなかったです。その後、さっきの人たちがしょっちゅう邪魔しに来るです。昨日の商品も全部持っていかれて」



 美少女を困らせるとはいい度胸だ。クズ共め、いずれ衛兵に突き出しちゃる。

 先程ステータスを見た所、情報には金縛りと書いてあった。

 どういった効果かは知らんが、ルーファの状態を見る限り有害にしか見えない。



「この散らばってる金貨、もしかして……」

「え? ……あっ! 何これ! 凄い凄い! 金貨が一杯です!」



 ルーファは金貨に気付くなり、下に屈んで金貨を拾い始める。

 どうやら、ルーファが今まで体に貯め込んできた金貨が、呪いを解いた事で一斉に放出されたようだ。



「コラ、俺のだぞ。拾うな」

「何言ってるですか図々しい。私の貯め込んだ金貨です。あげないですよ」

「俺が呪いを解いたんだから、俺の物になるのは自然の摂理だぞ」

「そんな摂理知ったこっちゃねえです」


 

 ルーファは高速で金貨を収集し始める。マジかよ、めちゃくちゃ早え!! 敏捷Aらしいし、あの速さも納得ではあるが。

 あっという間に全ての金貨を拾い上げてしまった。一体あの量を何処にしまったんだ。



「お礼は今お客さんの懐にある金貨で払うです」

「ちぇっ、仕方ねえな……俺は心が広いからな。感謝にむせび泣け」

「当然感謝はしてます。命を救ってくれたのもそうですし、私の人形も買ってくれたですから……」

「人形?」



 そう言うと、ルーファはボロい人形を出してきた。俺が昨日買ったのと似ている。



「これ、私が作った人形です。私の師匠は人形師で、拾われた時からずっと教えを受けていたです」

「ほー、これだけ値段が違うと思ったらそういう事か」

「これでも人形師の卵。どんなに落ちぶれても職人としての誇りはあるです。これだけは適正な値段で売るって決めてるですから」



 キリッと擬音が聞こえてきそうな程、真面目に答えるルーファ。

 確かに子供受けは良さそうだ。だが……。



「ブサイクすぎるだろこの人形。もっとマシなの作れんのか?」

「んなっ! 好き勝手言うなです! お金が無くて素材が集まらないからこういうのしか作れないですよ! 文句があるなら返せです!」

「嫌だ、返さん。折角手頃な人形が手に入ったんだからな」



 いずれは、格好可愛い人形を手に入れ自在に操れるようになるのだ。俺みたいな美少女に相応しい人形を見つけるまでは、ルーファに作ってもらおう。



「今後は俺の為に人形を作ってくれよ。お金はタダでいいからさ」

「それこっちの台詞です。いや、タダで作らねえですけど」

「はー助けてあげたのになー」

「恩を楯にして報酬を要求するなんて最低野郎です」

「野郎じゃない、美少女だ」



 一筋縄では行かないようだ。随分ガードが固い。騙されすぎて逞しく育ったようだな。まぁ、騙された事を引きずっていないようで良かった。

 どうするかなと思案し始めた時、ルーファの方から俺に提案してきた。



「でも……もう少しだけ、もう少しだけ待ってくれたら、きっと恩返し出来るです」

「今からでも出来るぞ、その金貨で」

「真面目に聞くですよ!!」



 真面目なのに。



「私は一旦お爺さんの家に帰るです。呪いも無くなったですから、もう自由に動けるです。その後……また必ずお客さんの元に行くですよ」

「一人じゃ危ねえだろ。あの冒険者もどきにまた絡まれたら……」

「今までは会いたくなくても会わなくてはいけなかっただけですから。大丈夫です、私なら絶対逃げ切れます。足には自信があるですよ」



 確かに凄い早かったけど。子供で敏捷Aってどれだけ速いんだ。体力もあったし。

 だが、それでも不安だ。飯もちゃんと食えて無いし、そもそも子供一人でってのもよろしくない。

 レイも同じ事を思ったのか、ルーファに提案する。



「ルーファさん、やっぱり危ないよ。一旦僕たちと一緒に――」

「いいえ、どうしても戻らなくてはならないのです」

「そんなに急ぐのか?」

「呪いが解けた事が、あの男にもバレてるはずです。お爺さんの家に何かされる前に大事なものを全部回収するですよ」



 あの男……ルーファを騙した奴か。イマイチそいつの目的が掴めん。ルーファを騙してまで一体何がやりたかったんだろうな。

 金貨が欲しかったとか? いや、無いな。わざわざ呪いかけるなんてまどろっこしいし。

 それにしても……男か。チッ、つまんねぇ。



「ともかく、私は行くですよ。止めないで欲しいです」

「へいへい、わかったよ。別に俺ら関係ないしな」

「うーん、でも……」



 どうやら、レイは納得していないようだ。

 俺も出来れば連れていきたいが、無理強いは良くない。



「レイ、そんな心配するな。それに、俺らじゃ持て余す案件だぞ?」

「そうだけどさ、やっぱり心配だよ。さっきまで怪我してたのに」



 本当なら真っ先にジナへ相談したい所だが、途中で逃げ出しそうだ。俺らじゃ追いつけないし、結局同じ結果だろうな。

 ……しかたねーな。



「おい、ルーファ。これ持っていけ」

「これは……?」

「さっきお前に使ったポーションだ。残ってるの全部やる。後、飯ぐらいはちゃんと食え。折角の美少女が台無しだ。暫く金には困らんだろ?」

「う……はい。ありがとうです」



 美少女と言われて顔を赤らめている。少しは可愛い所あるじゃねえか。

 うおっ、いつの間に手元からポーションが無くなっている。少し目を離しただけなのだが。



「それじゃあ、私は行くです」

「ルーファさん、気をつけてね。何か困ったことがあればいつでも言ってね。力になるからさ」

「やたらめったらに金貨使うなよ。目をつけられるからな」

「はい、助けてくれてありがとうございます! ハナさん! レイさん! 絶対に戻ってきますから!!」



 ルーファは俺とレイの手を握って感謝を示すと、一瞬で目の前からいなくなる。

 あんだけ痛めつけられてたのに、よく動けるな。この世界の子供は逞しい。

 ……あっ、ルーファに俺らの家の場所を伝え忘れた。アイツ、どうやって俺を探す気だ?


「大丈夫かな」

「レイ、お前は人の事を気にしすぎだ。そもそも、俺らだって危なかったんだから」

「うん……」



 まだまだ、安心できる強さにはなれていないようだ。

 色々反省が必要だな。一番駄目だったのはボタンと別れた所だろうか。いやまて、俺がちゃんと男達を見張ってればそもそも見つかってなかったのかもしれない。……あれ、もしかして最初から俺の能力でボタンの役割を果たせば良かったのか?



(反省は後にして、今はまずジナさんの所へ戻った方が良いのでは)

(……そうだな)



 レイよりも、俺の方がアツくなっていたかもしれない。

 路地の奥から、ボタンがぽよぽよと跳ねて戻ってくる。



「きゅ」

「お前のおかげで助かったぞボタン。ありがとうな」



 また腹に突っ込んでくるかと思ったが、ゆっくりと優しくよじ登ってきた。毎日こうなら良いんだがな。

 ボタンは頭に乗っかると、体を伸ばして首をさすってくる。



「ちゅう」

「ん? どうしたボタン」

「多分、ハナちゃんを心配してるんだよ。痣になってるし」

「ナヌッ、マジかよ」



 俺の麗しい首が……あのクズ共、絶対許さん!! 次会ったら必ずシバく!!

 ポーションを飲もうと仕舞ってある所を漁るも、全部ルーファにあげてしまった事を思い出す。しまった……痕にならないと良いんだが。



「ぐぬおお……ガッデム!」

「僕がもっと早く動けていれば……ごめん。早く戻って手当しよう」

「出るタイミング間違えたら最悪お前も怪我してたんだ。気にするな」



 俺達は、誰もいなくなった路地裏を後にする。

 やれやれ、朝からハード過ぎるな。ノイモントとやらに行ったら、ゆっくり休みたいもんだ。


誤字の修正、助かりました。ありがとうございます。

今一度見直して極力減らしていきます。すみませんでした。

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