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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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こんだけ可愛い美少女が歩いてるんだから普通見るだろ!

「楽しかったな、レイ」

「いつも以上に疲れたよ……まだノイモントへ向かう前なのに」



 あれから暫くレイと特訓していたのだが、そろそろ冒険者たちが来る頃合いだと聞いていたので切り上げた。剣を遠隔操作しているからな、見られたら怪しまれそうだし。

 現在、宿へと戻っている道中。疎らだが、行きに比べて人が増え始めた。



「ハナちゃん、こんな早くから人がいるよ。何をしてるんだろうね」

「夜起きて朝寝る奴だっているさ。夜にずっと起きて見回りしてる衛兵さんとかそうだろ」



 こちらの世界もきちんと夜警はあるようだ。そりゃ魔物や盗賊がいる世界じゃ夜も警戒するのは当然か。夜型は肌に悪いから俺はゴメンだけど。



「ふわぁ~……ネム。もう一回寝てから、もう一度この街を見て回るか。次は露店じゃなくてしっかりとした店を見たい」

「今度はケイカさんも来るかな?」

「あいつが一番勝手を知ってそうだしな。連行しよう」



 折角一日伸びたのだ、色々周ってみたいじゃない。

 それに、昨日あれだけ街に出たのに俺のことを見向きもしない。こんだけ可愛い美少女が歩いてるんだから普通見るだろ! きっと人がごちゃごちゃ溢れていたから悪いのだ。もう少し人が少ない場所で歩き回れば注目の的間違いなし。

 という事で、今日は別の場所へ向かおうと言う訳だ。



(ハナ様、目立つ行動は避けたほうが……)

(目立つ訳じゃないのだ。あっ、あの子可愛いな~って視線を受けたいだけなのだ)

(……)

(……なんか言えよ!)



 失礼な奴だ。いつかセピアを実体化させて説教してやりたい。

 セピアに美少女が何たるかを語ってやろうとしたその時、見覚えのある人影を目が捉える。



「おいレイ、あれって」

「確か――ルーファさんだっけ」



 昨日出会った少女、ルーファが駆け足で路地に入っていく。一瞬見えた横顔からは、動揺や焦燥感が伺えた。



「何してんだあいつ。おーいルー……って、だからはえーよ!」



 路地に入った瞬間とてつもないスピードで駆けていった。世界陸上で金狙えるレベルだな。

 それにしても、大分急いでたな。昨日の脳天気なアイツには見えなかったが。

 ……ううむ、折角忘れてたのに気になってしまうではないか。ルーファが走り去った路地をずっと睨んでいると、レイが声をかけてくる。



「行こう」

「え?」

「あの子、きっと困ってる。放っておけないよ」

「あっ、おいレイ!」


 

 レイはルーファの後を追う。やっぱこうなるか……良いさ、俺もスッキリしたいし。やっぱ美少女には笑顔でいて欲しいからな。

 最悪、街中なら声出せば誰か来てくれるだろ……と、不安を抱えながらも俺はレイに続いて、路地裏へと向かった。

 暫く進むと、奥で話し声が聞こえてくる。やべ、ルーファの他に誰かいるのか?



「レイ、ストップ。他に誰かいるっぽいぞ。少し様子を見てみよう。ボタン、お前も静かにしてろよ?」

「え? うん、わかった」



 走るのを止め、声の聞こえる方へと歩いて行く。

 話し声が段々と鮮明に聞こえてくる。一人はルーファの声。残りは……男の声だ。しかも数人はいる。

 これって衛兵さん案件なのでは……緊張で、ごくりと唾を飲む。



「ハナちゃん、こっそり覗いてみよう」

「マジか……見ちゃうのか……」



 ハナちゃん不安でいっぱいなんですが……俺とレイは影からこっそりと様子を見る。

 以前ルーファと出会った時のような開けた空間に、ルーファとガタイの良い男が三人いた。仲良くお話……なわけないよなぁ、明らかに脅されている。

 男たちの身なりは冒険者の様にも見える。各々帯剣しており、リーダー格と思われる男がルーファと話している。



「お願いです、商品を持っていかないで欲しいのです」

「しつこい奴だな。売れねえなら無いのと一緒だろうが」



 ルーファは泣き崩れながら男の一人に懇願している。傷んだ服と血色の悪い肌が更に痛ましく見える。

 男は威圧的にルーファをあしらっている。後ろの男たちも、何処か小馬鹿にしたような笑みでルーファを見ていた。



「それが無くなったら、私本当に死んじゃうです……」

「知らねぇよそんな事!! お前が金を返さねえのが悪いんだろ?」

「そんな、酷い」

「ハハハ、でもまぁ良くここまで無駄に生きながらえたなぁ。呪いを維持するのは苦労したろ?」



 ルーファが金を借りてるという事はなんとなく分かるが……呪い? コイツ何かされてるのか?

 男たちは荒々しい口調でルーファへ詰め寄る。



「で、どれくらいこの体に貯め込んだんだ?」

「ひっ、お、教える義理は無いです」

「ほおお~~?」

「ッ!? ガぁッ!?」



 ルーファが否定した直後、男は手を伸ばしルーファの首を掴む。

 力が加えられた男の手が、ぎりぎりと容赦なくルーファの首元を締め付ける。



「かふっ、げほっげほっ」

「もう一度聞くぞ? 何枚の金貨を食べた?」

「ごほっ、わからない……です。量が多くて……」



 首を押さえ、苦しそうに咽せつつもルーファは答える。

 金貨を食べる……あれ食えたのか。って、そうじゃなくて。子供にも容赦のない男共……頭がイカれてるな。このままだとルーファが危険だ。

 隣を見ると、今にも飛び出していきそうなレイの姿が目に映る。まずい、いくらレイでも冒険者……しかも三人相手は無理がある。



「おい、レイ。絶対に手を出すなよ?」

「っ! でもこのままじゃ……!」

「俺がやる」

「え? ちょ、ハナちゃん!」



 こういう時こそ【人形遣い】の出番だ。要は、バレずに助ければ良いのだ。

 俺はこっそりと男達の後ろへと回り込む。魔糸の射程が短いので、ある程度近づかなくてはならない。こういう時、体が小さいのって便利だな。



(ハナ様、どうするおつもりですか? 【人形遣い】は人を直接操れないのですよ?)

(まー見てろやセピア。この半年間のうのうと美少女やってた訳じゃない)

(わかりました。何か違和感があればお伝えします)

(頼んだ)


 

 セピアと話してるうちに、男達の後ろへ回り込んだ。早速魔糸を3本飛ばす。



「ボタン、勝手に動くなよ? なるべくお前の存在はバラしたくないからな」

「ちゅう」



 ボタンも頭の上でじっとしているが、バレたら大変なのでちゃんと指示しておく。

 先程からずっとルーファがいびられている。やべえな、段々エスカレートしてきている。なんとかしないとルーファがもたない。



「どうせ死ぬんだ。少しくらい痛めつけても問題無いだろ」

「ああ、いいなそれ。こちとらボスに振り回されてストレス溜まってんだ」



 後ろに立っていた男二人のうち、一人が剣を抜いた。



「おい、迂闊な事を言うな。聞かれたら殺されるぞ」

「聞かれやしねぇよ。朝っぱらからこんな路地裏に来る奴なんざいねぇって。いたとしてもこんなボロいガキ、見て見ぬ振りさ」



 男は剣でルーファをつつきながら笑う。やっぱいるんだな、こういう危ない奴。

 ルーファは体を屈めて震えている。つつかれる度に流血し、悲痛な声をあげる。

 すると、後ろから見ていた男の一人が諌める。



「おい、間違っても殺すなよ。死んだ時点で俺達も死ぬ。ちゃんと呪いでトドメを刺せ」

「わかってるよ、耳くらいなら死なねえだろ」



 そう言って、男は剣を振り上げる。狙いを定めるかのようにルーファの前で振り上げたままの姿勢を取っている。



「じっとしてろよ? 動くと別の場所に当たっちまうかもしれないからな」



 ルーファは恐怖で身動きが取れず、身を屈めて体を震わせる事しか出来ない。



「う……誰か……助けて」



 泣きながらも誰かに助けを求めるべく、喉の奥から絞るように声を出す。

 男はにたりと下卑た笑みを浮かべると、切っ先が血で汚れた鉄の剣を振り下ろした。



(ハナ様!)

(わかってる!)



 流石にアレは見過ごせん! 俺は予め剣に付けていた魔糸をぐいっと引っ張る。

 すると、剣はルーファを捉えず空を切る。それどころか、剣を振るった男がバランスを崩し、派手に転倒した。



(にっしっし、大成功。見ろよあの何が起こったんだって顔をよ、ウケるぜ)

(ハナ様、ふざけている場合ではありません)



 ハナちゃんふざけてないんですが……ちゃんとルーファ救ったし。

 人に魔糸は直接繋げられないが、装備品は別。まぁ誰にでも考え付く事なのだが、如何せん誰も持っていない固有スキルなので検証が必要なのだ。

 それに、剣を引っ張ると言っても強い力で引っ張れる訳ではない。せいぜい子供の力程度だ。なので、相手の力を利用して、バランスを崩さなくてはならない。

 転んだ男は指をおさえながら立ち上がる。どうやら、剣を握っていた方の指を痛めたようだ。



「おい、何やってんだ! 大きな音出すんじゃねえよ!」

「急に誰かに引っ張られたんだ! テメエかアルソン!」

「ああ? お前が勝手にコケたんだろうが!」



 よーしよし、荒れてるな。イライラしてると周りが見えなくなる。魔糸も俺の存在もバレにくくなるし悪戯もやりやすくなる。

 にしし、次だ次。

 二人で喧嘩しているのを、最後の一人が止めようとする。



「おいおい、お前ら落ち着けよ……うおっ!?」

「なっ!?」



 宥めようとした男の足元に大きめの石を移動させた。結果、男は足を引っ掛けて転倒する。同時に、目の前にいた男を突き飛ばした。



「痛ぇっ!? クソっなんなんだオイ!」

「待て、落ち着け!」

「うるせぇ! リーダー面してんじゃねえよ!」



 男達が襟首を掴んで取っ組み合いを始める。このスキにルーファを逃がせれば良いのだが、男達の剣幕にルーファ自身がビクついて中々動けないようだ。



(どうにかして誘導できねえかな)

(ボタンさんにお願いして、遠くから音を鳴らしてもらいましょう。表通りの人がここに駆けつけたと思って、暴漢共が逃げるかもしれません。興奮状態の今なら、考えるより先に足が動くでしょう)

(うちの神は有能)



 早速ボタンへと指示する。ボタンは静かに、そして迅速に地を這い路地の向こうまで滑っていく。

 普段ぽよぽよ跳ねてるのに、こういう時はちゃんと隠密行動してくれるのね。うちの従魔は有能。


 レイにも手伝って貰いたいが、どうやって伝えるかな。取り敢えず魔糸を使い小さな石をレイの近くでコツコツと鳴らすと、レイは俺の方を向く。しまったな、何か文字が書けるものでも用意しとくべきだった。そうすりゃ一発で伝えられるのに。

 ジェスチャーで……分かるかな?



(レイ! 向こう行って! 音鳴らしてこい! コイツらを追い出すぞ!)



 心の中で叫びながら、身振り手振りでレイに伝える。……だめだ、首をかしげている。

 じゃあ口パクでいけるか? と、口の動きでレイへ伝えようとするも、反応が薄い。クソ、最初から計画立てとくべきだった。


(無計画だったんですか!)

(ホラ、取り敢えずあいつら仲違いさせれば後はフィーリングでどうにかなるかなって……)



 セピアと話していると、突然、俺の隣で大きな音がなる。どうやら、誰かが突き飛ばされてぶっ倒れたようだ。

 木がひしゃげ、金属がガシャンと落ちる大きな音に、俺は思わず



「ひうっ」



 と、声を上げてしまった。

 しまった、男達の動きを見ていなかった。適当に向こうでじゃれてれば良いものを……暴れすぎだろ!



「おい、待て」

「何だテメエ! もう降参かオイ!」

「落ち着け! そのボロい木箱をどけてみろ」



 やばいやばい一人気づいてるっぽい! 逃げるか? いや待てここは先制攻撃を……!

 そうこう考えているうちに、一番短気そうな男に見つかり、目が合ってしまう。



「……」

「……」

「……じゃあ、失礼します」

「待て」



 乱暴に服を掴まれる。クソ、服が伸びるだろ!

 俺はそのまま強引に、前まで引っ張り出されてしまった。ルーファも俺に気づいたようで、驚いた様子でこちらを見ている。



「お前、いつから見ていた」

「今来たばかりです」

「嘘を付くな、この至近距離で隠れる理由が無いだろ」

「ここ私の秘密基地なんで……ぐげぇっ!」



 コイツいきなり首を掴んできやがった! 他に芸がねえのか!?

 クッ、苦しい……首を締める手を引き剥がそうと必死に抵抗するも、力では到底勝てない。

 意識が遠のきそうになった瞬間、そのまま後ろに叩きつけられた。セピアがめっちゃ騒いでいるが、それどころではない。



「がぁっ、く……いってぇ……」

「秘密基地とやらで昼寝でもしていたか? 寝言を言っていた様なのでな、起こしてやったんだが」

「ち、くしょうが……」



 調子に乗りやがって……ムカつく奴だ。だが、そろそろ――



「おい、アルソン! 向こうから人が来るぞ!」

「チッ、お前ら派手に暴れ過ぎだ! さっさと逃げんぞ!」



 ボタンが指示通り、騒音を出す。木が倒れ、石がぶつかるようなゴツゴツ音。……やりすぎでは?

 だがまぁ、焦ってるこいつ等にはそこまで考えは至らない。よし、これで助かった――



「おいヴェスタ何している!! モタモタするな!!」

「待てよ、呪いで死ぬガキは良いとしても、こっちのガキは生かしちゃまずいだろ」



 短気そうな男がとんでもないことを言いだした。やばい、早く逃げないと!!

 直ぐにその場を飛び退こうとするも、怖くて足が震え、歩き出せない。ルーファの気持ちがわかったような気がする。



「やるなら直ぐにやれ。いたぶる暇は無い」

「ああ、わかってるさワール。さっきもそれで痛い目見たしな」



 ヴェスタと呼ばれた男が、再度剣を抜く。

 魔糸で剣を引っ張ろうにも、ヴェスタが剣を強く握りしめているためびくともしない。

 石でもぶつけるか?いや、間に合わない。クソ、万事休すか。



「運が――悪かったなぁ!!」



 ヴェスタが、俺の心臓目掛けて剣を突き刺す。

 だが俺の体を貫く前に、男の手から剣が弾かれた。



「ハナちゃん、大丈夫!?」



 咄嗟にレイが飛び出して、剣を弾いたようだ。

 危ねえ、間一髪だ。俺は直ぐ様立ち上がる。



「レイ、ごめん」

「無事で良かった。無茶し過ぎだよもう」



 剣を弾かれたヴェスタが、一歩下がる。突如現れた闖入者に、警戒しつつも声を荒げる。



「何なんだこいつ等はッ! ガキ共が寄ってたかって……!」

「おいヴェスタ、もう限界だ。引き上げるぞ。子供二人は後で始末すれば良い」

「クソ、覚えとけガキ共!」



 暴漢三人は、捨て台詞を吐いて逃げていった。

 ……ぷはぁ、し、死ぬかと思った……。レイがいなかったらマジで死んでた……。

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