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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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私は心が寒いですヨ!!

 時は少しさかのぼり、ここは冒険者ギルド。ディゼノの中心に位置し、ここ一帯の冒険者たちが活動拠点として使っている。

 大きな建屋の中では、露店の通り以上に騒がしく、忙しなく人々がひしめいている。

 そんな祭りの様な喧騒に溢れている中へ、ギィギィと古臭さを奏でる両開きのスイングドアが勢い良く開かれる。



「オッス!」



 依頼の話を煮詰めていた者、依頼を終え帰る者、ただ居座り駄弁っている者等が一斉に振り向く。

 扉の前には大木のような腕を掲げた、大柄で逞しい男がにこやかに立っていた。

 そこへ、同じく大柄なスキンヘッドの人物――ファイトが、その男の前までやってくる。



「オッスじゃ無いッスよジナの旦那。急に帰ってきたと思ったら馬車をふんだくって」

「おう、ファイトか。今日もツルツルだな」

「聞いちゃいねェ……ギルド長が旦那を探し回ってるんでさぁ、俺ァ知らねぇぞ?」

「なんだ、マリーの奴いないのか。暫く待つしか無いな」

「自分から地雷に突っ込むたぁ、相変わらずキモが座ってらァな」



 ファイトを皮切りに、冒険者たちがジナの元へと集まってくる。

 ディゼノ出身のS級冒険者であるジナは、地元の冒険者からすれば誇りであり、尊敬する師の様なものだ。

 静かだった冒険者たちは、あっという間にいつもの騒がしさに戻る。

 そこに、ジナの後ろから犀の獣人……ケイカがひょっこりと現れる。



「ふう――流石ジナさん、大人気ですね。いつも以上に歩き辛いです」

「すまんなケイカ。暫く待つ事になるんだが、大丈夫か?」

「はい、平気です。少し離れますね」



 ケイカはジナの元から離れる。ここに来てから半年程経つので、ギルド内の勝手は理解している。

 行き交う人々を躱しつつ目的の人物を探していると、後ろから声を掛けられる。



「ケイカ、随分と遅いじゃねえか。緊張して起きれなかったのか?」

「……アルス」



 振り向くと、ケイカと同じく額から角が生えている男が立っていた。異なるは、角の位置が左右に二本生えていると言う事だ。鬼人。獣人とはとはまた違う種族であり、人よりも力が優れる特徴を持つ。

 その鬼人――アルスの誂うような態度に、ケイカは手慣れた様子で対応する。そこへ、アルスの隣にいるフルプレートアーマーに身を包む人物が嗜める様に鬼人に言った。



「兄さん……ダメよ兄さん……ケイカちゃんは繊細なの。ガサツな兄さんのノリはウケないワ」

「ケイカが繊細な訳無いだろ……普段から一緒に依頼受けてんだから分かるだろ」

「いきなり声かけてきて喧嘩売るとはいい度胸です。アルス、ロメリア」

「私もなの……?」



 厳つい防具から華奢な声を出すのはアルスの双子であり、妹であるロメリア。

 当然ロメリアも鬼人であり、アルス同様に冒険者として活動している。

 二人はスノーの同期でもあり、年齢もそう変わらない為ケイカともすぐ打ち解け、こうして軽口を叩き合える仲となっていた。



「ケイカちゃん、今日は依頼受けないの?」

「はい、今日から暫くノイモントにいる事になりまして」

「なんでまたあんな辺鄙へんぴなトコに」

「実は――」


 

 ケイカはノイモントへ向かう経緯を話す。

 話し終えた所でアルスはなるほど、と相槌を入れた。



「へぇ、ジナさんと一緒にねぇ」

「凄い……ケイカちゃん凄いワ……羨ましい限りなの」

「ふふん、帰ってきたら今までの私とは違うはずです。お二人も角を洗って待っていて下サイ」

「取り敢えず、その理由の無い自信をひけらかす所は直した方が良いな」

「駄目よ……兄さん駄目よ……私より角が小さいからって誤魔化すのは良くないワ」

「そうじゃねえよ!? そのダサいヘルム外したろかッ!?」

「ああっ……無理強いは良くないワ……駄目よ兄さん」



 目の前でじゃれ合ってるのを見て、ケイカは微笑ましく感じた。ハナとレイも似たような関係だから、既視感を感じたのかもしれない。

 暫くガチャガチャした兄妹は満足したのか、ケイカに向き直る。



「ふごご……ふぐごご……」

「ロメリア、ヘルムがずれてますよ」

「むぐぐ……酷いわ兄さん……私じゃなかったら首がカラプスしてたワ……」

「鎧なんて着けてるからだ。いい加減人前でヘルムは外せって言ってるだろ?」

「駄目よ……恥ずかしいワ」



 ロメリアはヘルム越しに顔を覆っている。どうやら彼女は顔を見られるのが苦手な様で、この半年間ケイカは一度も彼女の顔を見たことが無い。

 人を繊細呼ばわりする割には自分が一番繊細だな、とケイカは思いつつも話を戻す。



「それでロメリア、何か言ってませんでした?」

「ええ……ケイカちゃん、さっきの話だとジナさんの子供達が来てるって話だけど」

「レイくんとハナさんの事ですか。はい、先程まで一緒にいましたよ」

「どんな子なの?」

「どんな子、と言われても……良い子と悪い子です」

「雑すぎるだろ」



 アルスは呆れて答えた。仕方ない、これが一番わかり易いのだから。ケイカは二人の特徴をと語る。



「レイくんは誠実で温厚、剣の扱いも10歳とは思えない程です。正直、今から冒険者やっていけると思います」

「へぇ、そいつは楽しみだな。一度見てみたいモンだ」

「その上とても礼儀正しいんですよ。ジナさんの息子とは思えないです」

「怒られるぞお前」



 実際、誰に習ったのかわからないがとても行儀が良い。あの豪快な父親からは連想出来ないだろう。



「ハナさんは……そうですね、見た目だけは絶世の美少女と言っても良いですが」

「絶世……そこまで褒めちぎる程可愛いのね」

「本人が言ってました」

「……凄い自信だワ」



 実際はそれ以上に褒めちぎっているのだが。ケイカは苦笑いしつつも、話を続ける。



「ですが、上辺に騙されてはいけません。中身はチンピラなので期待しないで下サイ」

「そうなの……? 私が10歳の時も色々考え込んでいたし、複雑なのね」

「お前、昔はもっと単純で粗暴だっただろ……グゲッ!!」

「駄目よ兄さん……女の子にそんな事言ったら駄目よ……」

「首ッ……!! 首はヤバいからッ……!!」 



 普通の人相手なら笑えないくらいの力で締め上げている。やっぱり鬼人ですね。と、ケイカは内心思った。

 アルスの顔面が茄子色になってきたので、止めに入る。



「し、死ぬかと思った」

「ロメリア、危ないからこういう事はアルスだけにして下サイね」

「ええ……ええ……勿論やらないワ……ごめんねケイカちゃん」

「まず俺に謝れよ……」



 絞るように声を出しているアルス。この前一緒に魔物討伐に向かった時より疲れている。



「兎も角、二人共ここには来ないのね。残念だワ……」

「ぜいぜい……ふう。なんだロメリア、お前も会ってみたかったのか? 人見知りなお前が珍しい」

「だって兄さん、ハナちゃんはとってもお洒落な子なのよ……話が合うかもしれないじゃない」

「絶対合わないだろうけどな」

「絶対合わないと思いますね」

「酷いワ……二人共……」



 ジャンルが違いすぎてハナも困惑するだろうと思う。

 がっくりしているロメリアを慰めていると、先程よりも大きく扉が開かれる。どうやら、ギルド長が戻ってきたようだ。




















「ジナはいるかァーーッッ!!」



 壊れるのではないかと言う程、扉が勢いよく開かれる。

 どしどしと大きな音を立てて入ってくる、獣人の女性。青筋を立てながら、ジナの名前を呼んでいる。

 入口付近で待っていたジナは、そんな彼女に臆すること無く話しかけた。



「マリー、そんな騒ぐと喉痛めるぞ」

「ハハハ、そんな所にいたのかコイツめっ!」



 返答すると同時に獣人の女性――マリーがジナに斬りかかった。



「どわッッッぶねぇェェェ!! いきなり剣抜くとか冗談じゃねーぞこの女正気か!!?」

「冗談で済んだら騎士はいらねぇんだよボケッ!! 勝手に馬車持っていくヤツの方が正気を疑うわ!」

「俺はちゃんと承諾を得ただろ。せめて話を聞いてから斬りかかってくれ」

「私は聞いてないぞ……いつ、誰に言った?」

「昨日の夜、副長のリナリアに」

「シャァァァァァァッッ!!」



 声で威嚇と共に斬りかかる猫の獣人。目の前まで刃が振り下ろされ、すんでのところで躱すジナ。

 周りの冒険者達は怯える様子も無く、巻き込まれないように絶妙な位置を保ちながら様子を見ている。



「おーい、そこの机退かしとけ。傷が付くぞ」

「流石マリーさん、もう引退したってのに全然衰えてねェな」

「ジナさんも毎度毎度よくやるよ、全く」



 感心してるのか呆れてるのか。またやってるよ、と言った様子である。

 遠くから眺めているケイカは、異常な光景に内心少し焦っていた。



「大丈夫なんですか、アレ」

「ええ……私も以前はびっくりしたけど、アレが普通らしいのよ……大人の世界って、怖いワ」

「でもよ、思いっきり斬りかかってるんだが。あれ当たったら普通に死ぬよな?」

「大丈夫よ兄さん……ジナさんは兄さんよりずっと頑丈だから」

「そういう問題か?」



 鬼人兄妹も緊張感無く見ている。兄妹で似たような事をやっているので、それ程驚いていないようだった。

 ケイカとしては気が気でない。絶対怖い、とばっちりくいそう等不安でいっぱいだった。



「ヌウッ、クソッ、一発当てさせろッ!!」

「アホか死ぬわ! それよりも、そんな事してる場合かお前は。外出してたって事は何か仕事があったんだろうに。俺と遊んでる場合じゃないだろ」

「ふむ、確かにそうだ」



 急に落ち着いたと思うと、剣を収めるマリー。

 ジナは猫のサカリに似てるな……と喉元まで出かけたが、なんとか抑える。



「済まなかったマリー。今度から3日前には連絡を入れる」

「出来ればギルドの馬車を使わないで欲しいのだが……まぁ良い。それでなんだ、それだけか? 私は忙しいのだが」

「いいや、流石に斬られに来ただけじゃねえよ」



 ジナはマリーの近くまで寄ると、先ほどとはうって変わり真面目に答える。



「黒い魔物の件だ」

「――そうか。待ってろ、5分で片付ける」



 マリーは淡々と答えると、奥の部屋へと入ってしまった。

 それを見た三人は、首を傾げる。



「あれ、ギルド長どうしたんだ? 急に部屋に入っちまったぞ」

「喧嘩に飽きたのよ……猫だから飽きやすいのよ……」

「確かに忙しなく動く人だけどな」



 ケイカも半年前からマリーとは面識があり、彼女の性格もなんとなく理解している……が、どうも様子がおかしい。

 考え込んでいると、ジナの方からケイカの元へとやってきた。



「悪いなケイカ、少し長くなりそうだ。手空きなら先に帰ってても大丈夫だぞ?」

「いえ、ここで待ちます。アルスとロメリアもいますし」

「俺らそろそろ帰るぞ」

「ウェ!? そこは話し合わせて居て下サイよ!! 可愛い後輩じゃないですか!!」

「嫌よ……寒いもの」

「寒い!! 私は心が寒いですヨ!!」



 結局、アルスとロメリアを夕方まで付き合わせた。

 その間、ジナとマリーはずっと何かを話し込んでいたようだ。何を話していたのかはわからないけど、きっと深刻で大事な話なんだというのはジナの雰囲気からなんとなくわかった。

 何か悪い事でも起こるのではないか? と不安になると同時に、ジナと一緒に出かけるからと言って浮かれている場合ではない、もっとしっかりしなくてはと気を引き締めるケイカであった。

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