うーん、美少女過ぎてヤバいぞ!
急になんなんだ……精霊と言われてもピンとこない。
ジナに話を詳しく――って、もういない。こういう時はセピアくんの出番だ。
(セピア、精霊って何?)
(精霊とは、自然的な魔力によって生み出される生命体――と聞いています)
(訳わからん。もっと分かりやすく)
(す、すみません。分かりやすく言いますと……魔力の保有量が多い生物に進化します)
進化ね、どういう理屈だか知らんが……ユーリめ、これ以上どうなるというのだ。
あのトレントみたいにならないよな? そうなったらもう手に負えないぞ。
(おいユーリ、なんか体に違和感とか無いのか?)
(そうだなぁ。今の所は特に感じないな。急に言われてもわかんねーよ。大体あのおっさん誰だよ)
しばらくは大丈夫そうか。なんだろう、考えなければならない事が一気に増え過ぎでは?
まず呪術書探して、人形遣いで扱える武器の確認と準備。よそ行きの為の服を決めて……って、防御力皆無だけど大丈夫かな? ジナがいるとは言え心配だ。だけど、せっかくのお出かけなんだからもっと美少女っぽい立ち振舞いをしたいしどうするべきか――
(ハナ様、話が脱線してますよ。まずは5日後に向けて呪術書を探しましょう。出先では何が起こるかわかりません。一刻も早くステータス隠蔽をしなくては。ユーリさんの事はその後考えましょう)
(そうだな。ユーリ、俺が帰ってくるまで精霊化禁止な)
(無茶苦茶だこの子!?)
無茶苦茶なのはお前だよ……精霊なんて崇高なモンお前には似合わないのに。
おっといかん、いつまでもダベってる場合じゃない。さっさと戻って探しモンだ。
俺はそれから、5日後に向けて準備を整えていった。
ノイモントへ向かう当日。俺とケイカ、ボタンは村の門前で待機している。
年甲斐も無く……いや、年相応にそわそわするな。リールイ森林以外は初めてだからね。
せっかくのお出かけという事で、結局ツバキおばさんに頼んで仕立ててもらった服を着ている。シンプルなストレートヘアにアレンジして、前髪を軽くピン留めしている。
そう、ありましたよヘアピン。まさか防具屋さんに売ってるとは思わなかった。やっぱり冒険中は髪が乱れて邪魔なのだろうか。
少し無骨だけど、着色したアメピンもあった。それを幾つか購入して、俺の美しい銀髪にセット。うーん、美少女過ぎてヤバいぞ!
「どうだケイカ。可愛いだろ」
「そうですね。とても似合ってると思います」
「にしし、そうだろそうだろ。そうだ、ケイカにも今度やるよ。銅貨3枚で」
「金取るんかーい」
ケイカはと言うと、以前と比べて着込んでいる。まぁ、寒いしな。
以前はドレスチックなお洋服ってイメージだったが、今は布の服にレザーのベスト。何の生地か分からんが、固めの素材で出来ているズボン。その上からマントを着けている。
冒険者らしいと言えばらしい、機能性重視の服だな。俺ならもうちょい可愛く仕上げるけど。
「むー、固い。触っても全然肌の実感ないな」
「ちょっと、どこ触ってるんですか!」
「尻だけど」
「何騒いでるんだ? みたいな目で何言ってるんですか! サイッテーです!!」
「ぐおお、髪をワシャるな!!」
ボタンがきゅうきゅう言いながら、煩わしそうに俺の頭から降りる。ケイカは朝から元気だな。やる気十分で何よりだ。
俺達が門の前で待っているのは理由がある。今回、ノイモントへ向かうのに馬車を利用するらしいのだが、ルマリからディゼノへ向かう馬車は数が少ないのだ。
なので、ジナとレイが昨日、ディゼノへ向かい馬車を借りると言っていたのだが。
「中々来ないな」
「そうですね。道中はそこまで危険じゃないので、心配は無いと思いますが……あ、来ましたよ」
「お、あれか。結構コンパクトだな。4人入るのかあれ」
「大丈夫ですよ。ハナさん小サイし」
二頭の馬に牽かれて、馬車がこちらへとやってくる。実は、馬ですら実物あんま見たこと無いんだよな……おお、思ったより肌触りが良さそう。
門前までやってきた馬車の中から、ジナが出てきた。
「おう、待たせたな。ギルドに言って貸してもらったんだが、予定より少し遅れちまってよ。ディゼノに着いてから飯を食う予定だが、我慢できるか?」
「まだお昼前ですし大丈夫ですよ。それに、ディゼノまでそんなかかりませんし」
「魔物が出る心配は無いが、油断はするなよ。俺は荷物を積んじまうから先に乗っててくれ」
「はーい」
俺とケイカは御者さんに会釈し、馬車へ乗り込む。もっとちゃっちいリヤカーみたいなのを想像していたが、作りはしっかりしている。
流石に屋根なしは、魔物が跋扈する世の中では不用心が過ぎるのだろう。
「おはようハナちゃん、ケイカさん」
「おう。今日は重装備だな、レイ」
「うん! 村の外へ出る時はいつもそうなんだ」
「へぇ、中々様になってるな。……よっと」
俺はすとーんと、レイの隣へ座る。ボタンもそのまま俺の腹にダイブしてくる。……もうこの衝撃にも慣れてきたな。
レイはいつもの服装と違い、ケイカと同様に皮の鎧を着用している。
ゲームとかだと薄くて大丈夫なのかって思ってたけど、結構頑丈そうなんだな。
「結構窮屈そうだな」
「そう言えば、着る時少しキツかったかな。前まではそうでも無かったんだけど」
「成長期なんですよ。これからぐんぐんと背が伸びて、男前になります!」
グッと力強く手を握って良い笑顔をするケイカ。
今まで敬遠してた肉をガッツリ食べてるおかげだったりして。このまま親父みたいになったらモテないな。
「そうかなぁ。父ちゃんみたいにもっと大きくなりたいよ」
「ゴリラ化はケイカの悲憤を誘発するからNG」
「誰がゴリラだってぇ?」
「あ、ジナさん……いっだぁ!?」
ぐおお、美少女の額にデコピンとは容赦の無い奴……。
御者と暫く話していたジナがタイミング悪く戻ってきたようだ。
「もう、美少女に手を上げるなんて酷いですよ!」
「やれやれ。たまーに悪い子になるな、ハナは」
「偶にじゃないですよ、頻繁に悪い子です。斜に構えるのが格好良いと思うお年頃なのです」
「言いたい放題!!」
俺がいわれのない酷い扱いを受けている内に、馬車が動き出す。ガラガラと聞こえる車輪の音は、正に旅の始まりを連想させる。
にしし、ディゼノでも俺の美少女力を遺憾なく発揮してやる。
流石に数時間の移動ではなにか起こるという事も無く、お昼を過ぎた頃に馬車はディゼノへと辿り着いた。
ルマリとは違い、しっかりと外壁に囲まれている。魔物とかいるとやっぱり壁に覆われた街ってのがデフォルトなのだろうか。
(閉鎖的で美少女としてはよろしくないな)
(その美少女を守る為の物でもありますので、我慢して下さい)
(へいへい)
馬車が門の前で停止すると、御者さんが門の前にいる衛兵と話をしている。
門番……いや、守衛と言った方が正しいか。心なしかあっちよりもしっかりしてそうだし。
「アレは何をしてるんです?」
「検閲だよ。冒険者ギルドの馬車って言っても、普通に通過するって訳には行かないのさ」
「手続きとか必要なんですか?」
「いつ何処で使用されたか、くらいは履歴として取っとかないと後で怒られちまうんだよ。以前勝手に借りた時はどやされたからな」
その辺は割としっかりしてるのね。お、守衛がこっちに来た。
「よう、ご苦労さん」
「よう、じゃないですよ。また急にギルドの馬車を使って。しかも早朝から勝手に飛び出して……マリーさんに叱られますよ」
「大丈夫だ、今回はちゃんと一声かけてるからな」
「昨日の今日ですよね!? 冒険者ギルドからは未だ何も聞いてないのに……上司に説明する私の身にもなって下さい」
「ハハハ、悪い悪い」
全然しっかりしてなかったわ。何やってんだこの親父。見ろ、レイもケイカもすげー微妙な顔してるじゃないか。
「ま、いいや。入るぞ」
「ちょっとジナさん!?」
この親父強引に突っ切りやがった。日本じゃ捕まるぞお前。
遠くで守衛が騒いでいるが、肩をがっくりと落とし、諦めたようだ。なんか申し訳ない気分になるな。
「良かったんですか? あんな事して」
「いつもの事だ。アレくらいじゃ問題ねえよ」
「日常的にやってんのかアレを……」
頭痛くなってきた。強引すぎるぞこの人。
そのまま宿まで移動し馬車を停めると、ジナは降りて荷を降ろしている。
「さて、飯を済ませたら俺はそのままギルドへ顔を出しに行く。お前達はどうする?」
「あ、私も行きます。数日離れるって先輩達に言っておかないと」
ジナとケイカはギルドに行くのか。俺も一目見てみたいとは思うけど、ここはやっぱり――
「私はこの街を見て回りたいです」
「そうか、そういえばディゼノは初めてだったな。レイ、ハナと一緒についてやってくれ。問題を起こされても困るからな」
「うん、わかったよ」
「ハナさん、お店に入る時はくれぐれもいい子にしてて下サイね」
えっ、俺ってそんな評価なの? 心外だわ。少なくともジナだけには言われたくないんだよなぁ。
でもレイがいるのは楽で良い。ルマリを案内してもらった、レイと出会った日を思い出すな。まだ半年程しか経ってないけど。
「明日の朝には出るからな、夜遅くまで出歩くなよ。それと、勝手に街を出ない事。後は――」
「少し見て回るだけなんだからそんな心配しなくても大丈夫ですよ。レイくんもいるし」
まるで保護者だな。いや、保護者だったわ。
まぁリールイの時見たくヤバそうなら即退散すれば良いし、表の通りを歩いていれば大丈夫だろ……多分。




