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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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か弱い美少女ですし、魔物と戦うとか考えられませんから

 美味しい昼食を嗜んだ後は、どうやらステータス確認の時間らしい。個人的に凄く困る展開である。

 大体なんだよ「ステータス確認と行こうじゃねえか!」って……ゲームのチュートリアルキャラかおめーは。

 ジナは手のひら程の、アメシストの様な透明感のある石をレイに手渡した。



「これを握って魔力を流せば自身の能力が見える。やってみろ」

「もう、1年おきにやってるんだから大丈夫だってば」



 レイは目を瞑り、手に軽く力を入れる。次第に、状態石ステータスドロップが微かに光り始めた。

 どうやら俺がセピアに見せてもらった時見たく、レイにも自身のステータスが確認できているようだ。

 ……とても楽しそうだな。確かに、もしガキの頃こんなシステムがあったら俺だってワクワクしていたかもしれない。



「どうだ? 何か変わったか?」

「うーん、1年前とあんまり変わらないなぁ」

「どれ、見せてみろ」



 ジナが、自身の手をレイの手に重ねる。

 やべえ、もしかして手を重ねると他人のステータスを一緒に見られるとか? 自分だけにしか見えないのかと少し期待したのに。



「私も見てみたいです!」

「じゃあケイカさんも手を乗せて魔力を……ハナちゃんも見る?」

「うん? あ、ああ。じゃあ、お言葉に甘えて」



 そういやレイの能力知らないな。剣の練習してるから剣のスキルみたいなの持ってそうだけど。

 ……これ、魔力流したら俺のステータスバレたりしないよな? セピアー!!



(大丈夫です。最初に魔力を加えた者が魔力を与え続ける限り、ステータス閲覧が切り替わる事はありません)

(またそんな事言って、まさかそのような事が……知りませんでしたー! とか言うなよ?)

(……大丈夫です!)



 少し間があったが……ま、平気だろ。俺はそっとケイカの上から手を添える。

 皆で手を重ねてると、まるでスポ根漫画で気合い入れてるみたいな演出に見えるな。

 さてさて、レイの能力はっと――





名前:レイ

情報:人間 男 10歳

体力:D

筋力:D

敏捷:D

魔力:F

知力:F

魅力:C

幸運:B

スキル:【剣術】

特殊スキル:【格致かくち





 全体的に高いな。……高いよな? ガキにしてはD多すぎだろ。ケイカが泣くぞ。

 やっぱり毎日の鍛錬が重要なのだろうか。体力筋力敏捷が軒並みDだ。

 スキルはやはりと言うべきか【剣術】を所持している。そういやスキル持ってると何か出来るのかな。必殺技みたいなの。



(剣術や槍術などのスキルは、鍛錬を積むことにより強化されていきます。アーキスさんの様に派手な技を扱う方もいますよ)

(あの剣ビームか。かっこよかったな、あれ)

(ビームとはちょっと違いますが……スキルを所持している方はあの様な事も可能という事です)

(マジか。俺も撃ってみたいなぁ、剣ビーム)



 どうやらスキルにも技があるようだ。レイもいつか出来ると良いな。

 さて、一番気になるのがこの【格致】だな。見た事も聞いた事も無い言葉だ。どういう意味?



(格致とは、鍛錬を重ねるとスキルの習熟率が通常よりも増幅するスキルです。ハナ様にわかりやすく例えるならば、成長チートです)

(俺に負けず劣らず良いモン持ってんじゃねえか。これは将来が楽しみですなぁ)

(上から目線で話されていますが、現時点でハナ様に勝てる要素はありませんね)

(そんな冷たい事言うなよ。ハナちゃん悲しい)



 俺にはボタンがいるから良いし。魔物使いだからボタンの強さは俺の実力って事だし。

 セピアに能力の説明をして貰っている間に、レイ達は盛り上がっていた。



「全体的に高いですね。私よりも力持ちです」

「お、敏捷がDに上がってるじゃねえか。毎日走り込んでる成果が出てきたな」

「でも、なんかパッとしないなぁ。父ちゃんみたいにもっと凄いのを期待してたのに」

「ハハハ、最初はそんなもんだ。俺だって毎日コツコツ頑張ってきたんだぞ? レイも毎日続けて行けば、きっと俺を超えられるさ」



 毎日続ければ、か。そうだな、レイなら親父の様に活躍出来るだろうな。

 レイが強くなってくれれば俺も安心だ。守ってもらえるしな。



「レイくん、頑張ってね。私の為に」

「なんか最後の言葉が気になるけど……頑張るよ。ありがとう、ハナちゃん」



 おう、頑張れ頑張れ。少しなら手伝ってやらんこともないからな。

 そうだな……俺も、レイと一緒にジョギングくらいするか。プロポーション維持のために。



(鍛錬は良い事ですが、ハナ様は維持するまでも無いかと思いますが)

(出来る美少女はそういうとこ抜かないんだよ。大体その言い方は女性に対して失礼だぞ!)

(女性……?)



 紛れもなく女性だけど何か問題でも?

 と、セピアが余計なこと言うからまた話聞いてなかった。どうやら今度はケイカが見る番らしい。



「ふおおお!! 凄いです!! スキルに【呪術耐性】が増えてます! レアですよハナさん!」

「そりゃすげえや」

「もう、スキルを手に入れるのって結構大変なんですよ! なんですかそのわざとらしい興味なさげな返事は!」



 いやまぁ知ってるし。それよりも、スキルってポンポン入手出来るわけではないのか。

 順調に癖の強いスキルを手に入れてるから勘違いしそうだ。その辺の常識も、しっかり頭に入れないとな。

 よし……皆盛り上がってるし、こっそりと抜けてその場をやり過ごそう――



「おや、ハナちゃんは見ないのかのう?」

「そうですね、見てもらいましょうよハナさん。お箸をぴゅんぴゅん飛ばすカラクリも見たいですし」



 ジジイ余計な事を……そしてケイカ、お前は俺の【呪術師】を見られたら困るだろ何いってんだオイ!



「いや、私は大丈夫ですよ。か弱い美少女ですし、魔物と戦うとか考えられませんから」

「ハナちゃんこの間、生き生きとスライムを狩りまくってなかった?」

「本当は戦いたくなかったんです……スライムとかドロドロでキモいし」

「ボタンさんに謝って下サイ」



 いだだっ、ボタンが膝の上から頬をびしびし叩いてくる。美少女に対してなんという仕打ちだ。



「本当に良いのか? 冒険者ギルドに行けば、いつでもステータスは見れるだろうけどよ」

「はい、ボタンのステータスはいつでも見れますし、私のは大丈夫です。スキルは魔物使いと地魔法だけって分かっていますし」

「地魔法、扱えたんですね。意外です」



 使えないけど使えるって言っとかないと後々面倒だ。また咄嗟に魔糸を使うかもしれないからな。



「まぁ、無理にとは言わんが。俺がいるうちならいつでも確認できるから、見たけりゃ言ってくれ」

「はい、ありがとうございますジナさん」



 ふう、助かった。騙す様な真似をして心が痛いが、流石にこれは話せない。

 ……いやまて、こんな簡単に切り抜けられる訳が無い。きっと何か罠が――



(……ハナ様、疑心暗鬼にならないで下さい)

(だって、いつも安心した時に何か突っ込まれるから)



 蒸し返されないうちに退散するか。午後はケイカが店番だし、早速呪術書を漁るか。

 と、その前に――



「そういえば、外のお花に水を上げるのを忘れていました。今から行ってきます」

「花? そんなの植えてたか?」

「ハナちゃんが育ててるんだよ。お風呂の近くにある、あの花壇にね」

「ああ、そんなのあったな。薬草があった場所か」



 俺はそそくさとその場から抜け出した。

 うむ、取り敢えずは切り抜けたか。傍から見れば何でも無いだろうけど、俺に取っちゃ心臓バックバクだよ。

 そのままジョウロを片手に、ユーリの水遣りへ向かうのだった。


















(遅いぞハナ! オイラの事忘れてただろ!)

(やかましい。こっちも立て込んでたんだよ)

(まぁまぁ、お二人とも落ち着いて)



 片方、人じゃないけどな。俺は水を撒きつつ、ユーリの文句を聞き流していた。

 この喧しい植物――ユーリは、俺がいつの間にか魔力を与えてしまった水を吸収して歪な成長をしてしまったらしい。ド派手な花を咲かせている。

 植物が自我を持つ事は、この世界だと無い事も無いらしいのだが、その声が聞ける奴は中々いないそうだ。

 だがまさか、神様セピアにまでちょっかいを掛けられるとは。流石、俺の育てた植物。やはり俺の力は偉大ということだな。 



(いやぁ、やっぱ駄目だわ)

(何が?)

(ハナ以外の奴とは話せねえんだよな。あの坊っちゃんや爺さんは見向きもしないし)

(そりゃそうだろ。お前植物なんだから)

(ハナは話せてるだろ)

(それは、俺が特別凄いからだ)



 俺以外に、お前と話せる様な奴が来たらまずいんだよ色々と。お前の出自がバレるだろ。



(俺もハナみたいに出歩いて、色んな奴と喋りたいなぁ。なぁ、何処か連れてってくれよ)

(無理だろ……根っこ引っ張り上げる事も出来ないのに。寝言言うな)

(根ごとだけにか?)

(しばっ!)



 スパーンと、ユーリの茎へ蹴りを入れる。相変わらず頑丈で、びくともしない。

 むしろこっちがダメージを受けるくらいだ。日に日に硬くなっていくなこいつ。



(……痛いだろユーリ)

(自分でやったんだろ! 相変わらず乱暴な奴だなぁ)

(お前が戯けた事言うからだ。何処か行きたいならそれ相応の姿になれよ、こんな訳わからん姿になったんだから足ぐらい生やせるだろ)

(無茶言うなよ!)



 まぁ、仮に足が生えても絶対連れて行かないけどな……目立つから。

 さて、ちゃっちゃと花を摘まなければ。別に誰かに売るだの薬になるだのって訳では無いが、毎日生えるのに勿体無いからと言う貧乏性が出ている。

 ユーリも対して気にして無いからな、貰えるものは貰っておく。



(って待て待て! またこの黒いスライムがオイラの花に齧り付いてるんだがっ!?)

(ボタンだ。別に良いじゃん減るもんじゃ無し)

(いやこえーよ! いつか全身喰われるんじゃねーかと)

(明日辺りいなくなってたりしてな、ハハハ)

(なんでそんな落ち着いてるんだよ!)



 どうやらボタンはユーリが気に入ったようで、毎日ユーリの花を食べている。

 最初は悪影響があるんじゃないかと思って止めたんだが、別段変化は無かったので、今では好きにさせている。

 ユーリとボタンが戯れているのを尻目に花を摘んでいると、後ろから声がかけられる。



「ほー、これが例の派手な花か」

「……ジナさん」



 いきなり現れてユーリをじっくり見始めるジナ。

 ……心臓に悪い。驚かせないでくれ。



「あの、どうしたんですか?」

「む? ああ、お前さんに聞きたい事があってな」

「私に……ですか?」



 一対一、逃げ場無しの状況で聞きたい事。うう、嫌な予感しかしない。



「その……なんだ、レイの事なんだが」

「え? レイくんですか?」



 なんだ、俺の事じゃないのか。

 少し安堵しつつも、俺はジナに聞き返した。



「レイは普段、どんな様子なのかと思ってな」

「あれ? 食事中に散々話してた気がしますけど」

「ありゃ鍛錬の話だ。俺が聞きたいのは普段アイツが何してるのか、って事さ」



 そんなもん、親子なんだから自分で聞けばいいのに。



「レイくんから直接聞けば良いのでは? 私だってつい最近来たばかりですから」

「ああ、そうなんだが……ハナの印象を聞きたくてな」

「私の?」


 俺の印象と言ってもな。親父であるアンタのほうがずっと理解してると思うのだが。

 だからこそ、ジナには極力レイに会ってやって欲しいんだがな。さて、どう言ったものか。



「そうですね……良くジナさんの事を話してくれますよ。次はどんな冒険譚を聞かせてくれるのかなって、目をキラキラさせながら」

「そうなのか?」



 それを聞き、ジナは少しニンマリしている。やっぱ嬉しいのかな。



「後はそうですね、剣の修業とか店番とか薬草取りとか。10歳にしてはしっかりしてるなぁ、と思いますが」

「ダチと遊んだりとかは?」

「いいや、見た事無いですね」

「そうか……元々この村には子供が少ないからな」



 それでもダチの一人くらい作るべきだとは思うがな。特にガキの時の男友達は必要だ。



(そうそう、だからオイラがダチになって……)

(今ちょっと取り込んでるから黙ってて)

(扱い酷くない?)



 会話しながら念話ってややこしいんだ。頭がこんがらがって要らぬ事を口にしそうだし。

 改めて俺は、ジナに話を促す。



「子供が少ないって言うと、若い人は皆出稼ぎにこの村を出ていくって事ですか?」

「そういう事だな。直接ディゼノの方に住み着く奴も多い。俺も実際レイに相談したんだがな、レイの奴、ここから離れたがらないんだよ」

「いずれは冒険者になって、離れるのにですか?」

「ああ、ここは居心地が良いんだと」



 慣れ親しむ場所から離れたくないと言うのはわかるが、多分それだけでは無いと思うぞ。

 俺がレイだったら――そうだな。恐らく不安だろう。所謂一人暮らしだ。親父はずっといる訳じゃないし、爺さんが気にかけて来てくれるだろうが歳だから無理させられんし。

 ダチが出来る以前の問題じゃねえか。この親父は全くわかっとらんな。



「むー……」

「どうした? 変な声出して」

「ハッキリ言うけど……自分勝手過ぎる!」

「うお!?」

「ガキっつーのは親の背中見て育つもんだろ。忙しいのは分かるけど、年に一度会うか会わないかなんてそんなの親として有り得ん!!」



 急に大声を出したからジナが驚いている。

 家庭の事情に口出しするのは図々しいと思うが、あっちから聞いてきたしここは一つ言わせてもらおう。



「ハ、ハナ? 一体どうし――」

「少なくとも一年で三回だっ! せっかく俺やケイカがいるんだ。店は俺らに任せて、レイを墓参り以外にも色々連れ回してやれよな」

「ちょっ、落ち着け落ち着け! どうどう!」



 別にキレてる訳じゃないのだが。思わず素が出てジナが混乱している。

 つい声を荒げてしまった。反省反省。



(ハナ様、もうちょっと穏便に行きましょうよ)

(大体、ハナが一番自分勝手じゃね?)

(それを言っちゃ駄目ですよユーリさん……)



 後でユーリは締め上げる。



「ふう。とにかく、もっと家に帰ってきて下さい。冒険が楽しいのは分かるけど、家族を放ったらかしにしないで」

「……ううむ、そうだな。レイと一回、じっくり話してみるよ」

「それが良いです。レイくんも喜びますよ」



 ジナも爺さんも、もう少し気が回らないもんかな……いや、この二人、ガキの頃から普通の生活送ってなかったみたいだから仕方がないのか。

 そもそも、偉そうな事言っといて俺もガキなんざ作ったこと無いからな。レイが実際、どう思ってるかも知らずに言っちまった。



「……なんか新鮮だな」

「え? 何がです?」

「叱られたのは母ちゃん……ヘレナにどやされた時以来だ。俺は馬鹿だからよ、アイツがいなくなってからレイとどう接するか、未だ悩んでいたのかもしれないな」



 アンタ爺さんに叱られまくって無かったか?

 まぁそれは良いとして……レイの母親か。飯の時も言ってたな。気が強い女性だったのだろうか。

 確かにジナと合う女性って言うとそんなタイプが浮かぶが。



「よっし! 善は急げだ。早速レイと話してくるよ。ありがとうな、ハナ」

「いえ、私は何も――」

「お前さんも、何か悩み事があれば言えよ。力になるからよ」

「うぇっ? ああ、はい。ありがとうございます」



 食い気味に来るから少し引いてしまった。悩み事、ねぇ。とてもじゃないが言えないけどな。

 しかし、美少女に叱られて元気になるなんていい趣味してるな。



(絶対そんなんじゃ無いですよね)

(ああ、もし仮にそうなら俺はこの家を離れる)

(今までの話が台無しですね……)



 ジナも部屋に戻るようだし、俺もそろそろ戻るか。

 本格的に呪術師も勉強しなきゃな。何か役に立つかもしれんし。漠然とした理由だけど、知っておいて損はないはずだ。

 こういう時、経験豊富なジナに相談したいけど……今はまだ、打ち明ける勇気が無い。

 そう思いつつ、俺が部屋に戻ろうとするとジナがさり気なく一言告げる。



「そうそう。その植物な、多分遅かれ早かれ精霊化するから。ちゃんと面倒見てやれよ」



 ……はぁ?

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