雪の中に佇む神秘的な美少女も悪くない
それからすぐに皆が集まり、食事を始める。
俺とケイカは初対面だったので、まずジナが自分の紹介をしてくれた。
「さっきも言ったが一応な。俺はジナ、しがない冒険者だ。お二人さん、名前は?」
「私はケイカと言います。冒険者であり、犀人の伝道師です。半年ほど前から、ダズお爺さんにお世話になっています」
「ああ、さっきレイから聞いたよ。店番もやってくれてるんだってな」
「はい、居候させて頂く以上出来る事はなんでもやりますよ。お任せ下サイ!」
伝道師と来たか。ころころ設定変わるなお前。
「犀人……珍しい種族だな。聞いた事が無い。鬼人の類なのか?」
「違います! ……ジナさんでも聞いた事無いのですか。やっぱり、並大抵の努力では広められませんね……頑張らないと」
「何事にもやる気のある奴は嫌いじゃないぜ。俺に出来ることがあれば相談に乗るぞ?」
「はい、ありがとうございます」
長年各地を旅してる冒険者でも聞いた事がないとなると、相当マイナーなのかもしれない。
犀の他にもいそうだよな。稀少種族のフレンズでも探して同盟でも組んだらどうだろうか。
「で、そっちの黒いの膝に乗っけてる可愛らしいお嬢さんは?」
「ハナと申します。この子はスライムのボタン。よろしくお願いしますね、ジナさん!」
「おう、元気な子だな。よろしくな、ハナ」
軽く頭を下げて返答する。美少女スマイルでアピールも忘れない。
ボタンは俺の膝で肉をもぞもぞと吸収している。薬草も食うし、やっぱり雑食なのだろうか。
どれ……ん、美味い。熊肉って結構味濃いのな。酒のつまみにぴったり……おっと、美少女は酒なんか飲まないのだ。
俺がむぐむぐ咀嚼していると、ジナが先程の話を続ける。
「スライム……と言うとリールイからとっ捕まえてきたのか?」
「はい。魔物使いのスキルを持っているので、捕獲したんですよ」
「ほお、魔物使いか。俺の知り合いにも何人かいるが、ハナくらいの歳で魔物を連れ回してる奴は初めて見たな」
「そうですね、少し特殊な状況だったので……私もこの子の事はあまり良く分かってないんです」
「凄かったよねボタン。次から次へとスライムを倒していって」
「レイ、お前もちゃんと立ち回ってたと聞いたぞ。実際どうだったんだ、その黒い魔物とやらは」
俺とレイはジナにボタンを捕獲した時の状況を話す。
トレントの一件はジナも聞いていたようで、大まかな事は知っていた。と言ってもヨルアのおっさん達や衛兵達が見てない事は伝わっていない。
ケイカが呪いで幽体になっていた事は話したが、ケイカの親父の事や呪術師の事は話していない。ケイカにとっても余り公にはしたく無いそうだし、俺も呪術師のスキルを持ってるとバラされたくないしな。そこは二人だけの秘密としている。
……秘密が多いと隠すのが大変だな。種族や人形遣いも隠さなきゃいけないし。ボロが出る前になんとかしたいよな。
あらかた話し終えると、ジナは感心したように話す。
「闇魔法か……そいつはまた珍しい魔法を使う。それに、変化というのは少し知ってるぞ」
「本当ですか! 一体どんなスキルなんですか?」
「どんなスキルってのは分からんが、強大な力を持つ魔物――主に幻獣が持っていると言うのは聞いたことがある」
幻獣……聞くからに強そうでファンタジーな響きだ。
そいつと一緒のスキルを持ってるボタンはやはり特別なのだろう。美少女の俺にふさわしい従魔だな。
しかし幻獣か。かわいい系の愛らしい小動物なら欲しいけど、魔物と言うからには厳ついんだろうな。
だが万が一、もふもふなワンコっぽいのがいたら……率先して捕獲してしまうかもしれない。
幻獣の理想像を妄想していると、ボタンが俺の額をベチっと叩く。こいつめ、飯を食うか嫉妬するかどっちかにせい。
「変化というくらいですから、姿形が変わるんでしょうね」
「俺も見た事は無いんだが、幻獣クラスになると並の冒険者じゃ太刀打ち出来ない程の力があるらしい」
「父ちゃんは倒せるの?」
「やってみなきゃわかんねえな。出来れば一回くらい見てみたいもんだが」
意外だな。てっきり力比べしたいぜガハハ的な事言いそうだったんだが。
俺がそう思っていると、ケイカが俺の代弁をしてくれた。
「ジナさんなら戦ってみたいとか言うと思ったのですが、そんなに興味ないのですか?」
「うん? 戦わなきゃいけない状況なら仕方ないけどよ、幻獣ってのは頭も良いらしいからな、こっちに悪意がなけりゃ早々出会い頭に襲っては来ないだろ」
「ダズお爺さんの話を聞いてると、すぐに襲っていきそうなイメージがあるので」
「このジジイは……別に戦うことだけが生きがいって訳じゃねえっての」
マッチョが大剣背負って歩き回ってるの見ればそう思うのも仕方ないけどな。
だが、思ってたより普通だな。てっきり話が通じないくらい野性味溢れた男かと思ってたが。生焼け肉食うらしいし。
爺さんはひたすら肉を食べていたが、箸を止めてジナへと話しかける。ジジイ……油ものは駄目だって言ってたじゃねえか。
「それで、今回は行くのか。墓参り」
「ああ、その為に早く来た訳だしな。母ちゃんも寂しがってんだろ」
「墓参り?」
俺は何気なく聞いた。
母ちゃん……レイの母親のことだろう。お墓参りというとお盆のイメージだけどこっちはそんなもんないしな。
「うん、父ちゃんが帰って来た時はいつも行ってるんだ。去年は行けなかったけど」
「悪ィな。前は立て込んでて帰るのが遅れちまったんだ」
「別に遅れても行けるのではないですか?」
「あー、そうさな。冬になると降雪が凄くてな。墓参り行くのに遭難なんて笑えないだろう? 息子に何かあったらアイツに怒られちまうよ」
そんなに降るのか。確かに危険を冒してまで墓参りするもんじゃないな。
レイは納得してないようで、ツンケンして反論している。
「別に僕は大丈夫だよ。父ちゃんと一緒に冒険してみたかったのに」
「駄目だ。あの豪雪の中に入るにはそれ相応の準備と経験がいる。それにお前、寒いの苦手だろ?」
「むう、そうだけど。少しくらい我慢できるよ」
仲睦まじく言い合っているが、今回は早めに帰ってきたらしいので雪とは無縁だろう。
良かった、俺寒いの苦手なんだよ……冬用の服も早めに買わないとな。出来れば今の服に重ねて着れるのが良い。
だが、雪の中に佇む神秘的な美少女も悪くない。銀色の髪はさぞ雪とマッチするだろうな。
「へへへ、アリだな」
「お肉食べながら気色悪い笑い方しないで下サイ。そんなに美味しかったんですか?」
「気色悪いって言うな」
コイツも大概口が悪い。俺のせい……ではないよな?
ジナはレイに言い聞かせると、水をぐいっと飲み干して話を進める。
「それでだ。5日後に行こうと思うんだが、大丈夫か爺さん」
「大丈夫も何も、いつもは突拍子もなく出ていくではないか。どうしたんじゃ、久々にちゃんとした食事をしたからおかしくなったかのう?」
「ひでえ扱いだなオイ、俺にも色々あるんだよ。それで、ハナとケイカはどうする? 無理についてくる必要は無いぞ?」
そうだな……ジナがいれば安全だし、俺もこの村以外の場所へ行ってみたいとも思っていたんだ。
あの事件の後、俺は人形遣いのスキルを日々訓練している。今なら箸を三本自在に操れるくらいだ。
偶に、レイやヨルアのおっさんがリールイへ向かう際付いて行って、ボタンの闇魔法も練習したしな。
ケイカだって冒険者になって暫く経つし、大丈夫だろう。
「ジナさん、私とケイカさんも是非連れて行って下さい!」
「ちょっと! 勝手に決めないで下サイよ!」
「行かないの?」
「まぁ行きますけどぉ……場所は何処なんです?」
例え断られても、有無を言わさず連れて行くけどな! 旅の安全性を高めるために。ワガママは美少女の特権なのだ。
「ディゼノから見て、王都の反対方向へ向かうとモントという山がある。その麓にあるノイモントっていう町だな」
「ああ、そこですか。その付近までなら、危険な魔物もいませんし比較的安全に移動できますね」
ケイカは知っているらしい。冒険者になってから行った事があるのかもしれない。
ディゼノすら知らない俺には分からんが。まぁ、王都から離れるってことは田舎なんだろうな。山と言っているし、確かに雪が降ったら大変そうだ。
「だが、モント山には入らないぞ。魔物が彷徨いているからな」
「山に魔物がいるんですか。その麓に町って……危険じゃないですか?」
「その辺は大丈夫だ。大丈夫じゃなかったら、今頃滅びてるしな! ハハハ!」
「笑い事ではないがのう……」
確かにそうだけど……何故そんな危険な場所に町を作ったんだ。
理由はあるんだろうけど、常に安全な暮らしをしたい俺にとっては些か疑問に思う。
「まぁ、行けばわかるさ。つー訳で爺さん、今回も留守番よろしくゥ!」
「あれ、お爺様は行かないんですか?」
「店を放っておく訳にもいかぬからのう。それに、数日の移動となると腰にくるわい」
「一人で大丈夫ですか?」
「何、お主らが来る前と似たようなものじゃ。儂の事は気にせず、行ってきなさい」
まぁ、大丈夫なら良いけど。この村、何気に強そうな衛兵多いしな。治安も良いし。
小さな田舎村の割には安全なんだよな。こう言っちゃ失礼だが、衛兵ガチャに恵まれたのかもしれない。
「爺さんはこうみえて元冒険者だからな、問題ねえよ」
「そうなんですか! 実はとても強くて裏で色々暗躍してるとか」
「余りハードルをあげないで欲しいのう……此奴と違って、儂は一介の冒険者であったよ。薬師も兼ねていたしのう」
普段から戯けた事を言っているが、爺さんも冒険者だったのか。
冒険者ってメジャーな職業なんだろうか……危険だし人を選ぶと思うのだが。
気づけば、結構量があったハックベアのソテーは綺麗に片付いていた。うん、美味かったしな。自然と早食いになっていたか。些と勿体無い。
またケイカに作ってもらおう。でも、あんまり褒めると調子に乗るから言わないでおく。
皆も食べ終わったのか、一服モードに入っている。ボタンは未だにもっちもっち食べているが。そんな咀嚼する程、気に入ったか?
「大体決まったな。レイ、ハナ、ケイカ。5日後にノイモントへ墓参りだ。数日はかかるから、きっちり体調を整えておけよ」
準備する事は……何かあったかな。一応、寒くないように服を余分に持っていくか? でも、嵩張るしなぁ。あ、そういや防具とやらをつけなくて良いのかな。俺、冒険者じゃないけど流石に村の外は危ないよな? その辺は後で聞くか。
数日かかるって言ってたからユーリの水を準備しとかないといかんか。後で爺さんにお願いしておこう。そういや、朝に水を撒くの忘れてたわ……まぁ良いか。
後は……そうそう、ステータス隠蔽の呪いを探さなくては――
「それじゃあレイ、飯は食い終わったな? 早速ステータス確認と行こうじゃねえか!」
――来ちゃったかぁ。