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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
35/181

こんな寂れた村には勿体無いくらいの可憐な美少女IN秋冬モード

2章開始です。



2018/10/08 

セピアとの会話等、念話の表現を変更しました。追って前章の修正も致します。

章タイトルを変更、雑だったものを微妙にスタイリッシュにしました。それに伴い、前章も変更しました。


2019/1/28

前章の修正が全て完了しました。

 リールイ森林のトレント騒動から半年。暑さが抜け肌寒く感じる時期となり、ルマリの村の人々は以前変わりなく平穏に暮らしている。

 この騒動を切っ掛けにリールイへの調査が進められている。既に警戒は解け、ルマリ、ディゼノ側から見て手前の区分は、冒険者であれば誰でも探索が可能だ。そこから先は、国により通行を制限されている。

 トレントが出現したと言われる区から奥側には傾斜の激しい山が幾つも構えておりそちら側からの進入は不可能と言っていい。それ故に、冒険者にとっては正に好奇心をくすぐられる未探索地域スポットなのだ。

 尚、森林入口には建屋が新設されており、森林に入る際は衛兵の許可を得る必要がある。先の騒動から、魔物に余計な刺激を与えないためである。


 幽霊騒動は未解決であるものの、幽霊が姿を現さなくなったという事で一応の収束となった。

 実際の所、既に解決済みであるのだが。冒険者ギルドが機転を利かせ、このような処置を取ったそうだ。

 それに幽霊自体何か被害を出した訳でも無く、半年以上音沙汰無く、その他これといった問題も出ていないため、村人達は次第に話題にも出さなくなった。


 この騒動は国――ストレチア王国にも届いている。だが、騒動はルマリだけに留まらず他の地域でも同じ様な事が起こっていた。

 場所によっては甚大な被害をもたらした魔物も居た。既に討伐はされている物の、ストレチア王国は既に看過出来るものでは無く、国を挙げて原因を調査している。

 その点、ルマリは運が良かったと言える。その凶悪な魔物は、偶々居合わせた冒険者、騎士、そして調停者が魔物が強く、強大になる前に仕留めたのだから。

 実は、他の地域でも調停者が黒き魔物を倒していたのだが。今回の調停者は、トラブルに巻き込まれる者が多いようだ、と選定の神であるカラーは物憂げに語るのだった。















 乾燥した風が美少女の肌を撫でるように吹き抜ける。うう、肌寒くなってきたな。転生してきた時は暖かくて良かった。あの時は全裸マン、もとい全裸ウーマンだったからな。

 だが、そんな寒さも今の俺には気にならんのだ! ハナはこの世界に来て自分の姿を見た時と同じくらいの、ワクワクとした気持ちで外を早歩きする。

 目的の場所へたどり着くと同時に俺は深呼吸する。……うん、心の準備はバッチシだ。いざ、ゆかん! 俺は目の前にある建物の扉を開く。



「ツバキおば様! ごきげんよう!」

「あら、ごきげんよう。待ってたわよハナちゃん」



 俺が扉を開けると、少しふっくらとした体型の女性……ツバキおばさんが出迎えてくれた。

 まだ店を開けてから時間も経っていない。我ながら急ぎすぎたか? いや、それも仕方がない事。だって今日は――



「それじゃ、早速持ってくるわね。勿論、着ていくでしょう?」

「はい!! なんだったら服脱いで待ってますよ!!」

「あらあら、女の子なんだからそんなはしたない事しないの。すぐ持ってくるから我慢なさい?」



 そう、今日は仕立ててもらった服が届く日なのだ。

 金貨をどう手に入れたか? 何、トレント騒動の時に頂いただけだ。なんだかんだ俺もレイも討伐に参加したからな。冒険者で無くとも多少は支給された。

 少し扱いが難しかったそうだが。そこは頑張って話を付けてくれたヨルアのおっちゃんに感謝だ。

 ツバキおばさんは俺を窘めて、奥へと行ってしまう。

 年甲斐もなく興奮してしまった。いや、実際10歳だし年相応か。でもな? 数ヶ月前からずっとツバキおばさんとデザインを考えて、ついに完成した物がやっと届いたのだぞ? そりゃ興奮するわ!



(気合が入りすぎて金貨一枚の予算を大幅オーバーしていましたけどね)

(だってセピア。仕方ないじゃん? これだけは妥協できないし。それにツバキおばさんだってノリノリだったぞ。超過した金もサービスしてくれたし)

(確かにツバキさん、ハナ様以上に真剣でしたね。普段こういった事が無い分、新鮮だったのでしょうか)



 俺が転生した時からずっと補助サポートしてくれている神様、セピアが話しかけてくる。補助というよりも、やりすぎる俺を宥めるのが専らの仕事になっているが。

 そのセピア、そしてツバキおばさんとデザインや素材、費用などの算段を付け、2ヶ月程前にオーダーメイドを頼んだ。

 そこからツバキおばさんが作るのかと思いきや、王都の方に仕立てるのが上手な妹さんがいるらしく、その人に頼んだのだそうな。

 ツバキおばさんも編むのは上手いと思うんだが、形作って衣服まで縫い上げるのは妹さんの技量には敵わないらしい。

 実は、貴族からも一目置かれているらしく、専属としてお誘いを受けた事もあるそうだ。いわばブランドだな。そんな人に頼んだのだから興奮して服を脱ぎそうになるのも仕方ないことだ。

 わくてかしながら待っていると、後ろからぽよんぽよんと柔らかいボールが跳ねるような音が近づいてくる。



「きゅっ! ちゅう」

「遅いぞボタン。だから俺の頭に乗っかってろって言ったのに」

(ハナ様が食事が終わった途端に飛び出すからですよ)

「へいへい……ほら、おいで」

「きゅう」



 俺の胸に飛び込んでくるボタンを受けとめる。

 『ボタン』とは、先の騒動で従魔にした黒いスライムの名前だ。普通のスライムよりも弾力があり、いつも跳ねている。

 自分で言うのも何だが、とても俺に懐いている。すぐに飛びついてくるのを受けとめれられるようになるには苦労したぞ。おかげで不本意ながら、腹を鍛えられた。



「お待たせ……あら、ボタンちゃん、いらっしゃい」

「ちゅう」

「お、おおお、遂に、遂に念願のオーダーメイドが!」

「ふふ、早く着替えてらっしゃいな」

「はい! ボタン、ちょっと待っててね!!」

「きゅう!」



 俺はボタンを置いて、ツバキおばさんから服を受け取ると急ぎ試着室へと向かう。

 この持っただけでも分かる肌触り……着心地は今まで以上に良いはずだ。そして冬に向けて暖かい物を揃えているのでそのまますぐに着ていけるという事だ。という訳で早速試着をしてみた。

 おおう……予想以上に肌触りが良い。この手の材質は直接肌に当たると痒くなると思っていたのだがそうでもないのか?



(ふ、ふふふ、どうだセピア。こんな寂れた村には勿体無いくらいの可憐な美少女IN秋冬モードだぞ)

(はい、とても似合っていますよ。ですが、全体的に黒いのは何故でしょうか)

(それはだな、銀や白の髪にはこういった対になる色の方が印象強いんだよ。肌も綺麗に見えるしな。元々綺麗だけど)



 元々ファッションには疎い方だったからそこまで突き詰める事は出来ないのだが。比較的なんでも似合う黒色に逃げているのもその為だ。こういう時、年頃の女の子がいれば……いや、いるにはいるんだが。

 かたや俺よりセンス無し、かたや世間に疎い箱入り娘で参考にならんのだ。

 ポンポンと髪を整え、試着室から出る。



「……まぁ、とっても可愛いわ」

「えへへ、ありがとうおば様。サイズ、全部丁度良いみたいです」



 腰ほどまで下がっているグレーのニットカーディガンに、ボトムスは足のラインがわかりやすいネイビーブルーのスキニーパンツを着けている。

 カーデの下にスッケスケなレースブラウスを着けているが、思ったより痒くならない。スッケスケだぞ。当然キャミソールを着けているので変に露出も無く、下品には見えない。

 機能性も高く、この間みたく事件に巻き込まれても自由に動けるぞ。靴もちゃんと買ったしな。



「気に入ってくれて良かったわ。あの子、随分気合い入れてたみたいだから」

「そ、そんなにですか。確かにとても丁寧な作りですけど」

「いつもとは変わったデザインだからねぇ。あの子が携わってる貴族さまのそれとは全く毛色が違うから変に気合が入ってしまったみたい」



 確かに、ドレスとはまた違った服ではあるが。あまりこういった服は売ってないのかな? 毎回こうやって高額使う訳には行かないし、少しは我慢しないといけないか。

 だが、金貨一枚を使うだけの価値はある。このレースとかってどうやって編んでるんだろうな……ふへへぇ、可愛い。



「きゅっ!」

「うぶっ、……ボタン、急に飛びかかったら駄目だって言ったでしょ?」

「きゅ?」



 スキあらば突っ込んでくるなこいつは。半年経っても癖は直らんか。



「おば様、ありがとうございました! 大切にしますね」

「ええ、妹にもちゃんと伝えておくわ。それと、偶にでいいからその服、私にも見せに来て頂戴ね」

「はい! 勿論です!」

「ふふ、じゃあ気をつけてお帰り」



 俺は意気揚々と店を後にする。

 むふふ、わかるぞ。村の人の視線がいつもより多いのが。そりゃ俺みたいな超可愛い美少女が気合入った素敵なコーデに身を包んでいるのだ。見ない方がおかしいな。

 道行く人々に笑顔で挨拶を交わしつつ、今の状況を楽しみながら帰宅するのだった。





















「ただいまーっと、なんだケイカ、戻ってたのか」

「おや、ハナさん、ボタンさん。お帰りなサイ。私も先程戻ってきたばかりですよ」



 俺が家の戸を開けると、額の上から生えた小さな角が特徴的な美少女、ケイカが出迎えてくれた。

 犀人という獣人の仲間で、自分たち犀人の認知度をもっと広めようとしているらしい。



「昨日は帰ってこないからプチ家出でもしたのかと思ったぞ」

「帰らないって言ったじゃないですか。なんですかプチ家出って」

「いや、ケイカが隣町で買ってきたまんじゅう食べちゃったからてっきりな」

「アンタが食ったんかい!」

「美味しかったぞ」

「聞いてないわ!」



 ケイカが俺の頬をぐにーっと引っ張ってきた。いひゃい。カラーさん程じゃないけど。

 この様に、帰って早々イチャコラするくらいには仲良くなったのだ。出会った当時はこんな関係になるとは思わなかったな。幽霊だったし。



「それで、どうだケイカ」

「どうだって……何がです?」

「俺の服だよ服!」

「言われてみれば……いつもと雰囲気が違いますね。いつも言っていた、例の服が届いたのですか?」

「その通りだ! どうだ、可愛いだろ? 特にこのスッケスケの所がだな……」



 今回の秋冬コーデに於けるチャームポイントをケイカにじっくり語ってやろうとしたその時、ガラッと戸を開ける音が聞こえた。

 振り返ると、そこには俺よりも背が低く、そして幼い少女が立っている。その子は開けると同時に元気な声で、挨拶をしてきた。



「おはよーございます! ハナさん、ケイカさん!」

「おはようございます、ミスミさん」

「おう、ミスミか。兄貴はどうした?」

「もうすぐ追いついてくるよ!」

「走ってきたのかよお前。もうちょっとお淑やかにだなぁ……」



 この子の名はミスミ。最近良くこの店に遊びに来る女の子だ。

 幼い外見とは打って変わってしっかりした子だ。この歳で家事をこなせるらしい。

 いきなり誰? と思うかも知れないが、この子、実は――



「――ミスミ。あまり急ぐな。転んで怪我でもしたら……」

「あ、お兄ちゃん。冒険者なのに歩くの遅いよ!」

「冒険者は関係ないだろう……。二人共おはよう。いきなり済まないな」

「リアムさんも、おはようございます。今日は早いですね」

「ああ、今日はミスミの買い物に付き合う予定なんだ。今日一日、冒険者稼業はお休みだな」



 そう、このミスミと言う少女はリアムの妹なのだ。

 リアムはトレント騒動の時に知り合った冒険者で、とても優秀なルーキーらしい。

 実際、間近で見てても凄かった。俊敏で的確に急所を狙う、レンジャーのような立ち回りだった。

 そのリアムが、実はご近所さんでちょいちょい買い物をしにここへと寄ってくれるのだ。



「それでねー、あの香水が欲しいんだけど……」

「あれか。少し待ってな」

「うん!」



 ミスミがねだって来たあの香水。そう、遂に香水も出来たのだ。

 と言っても、ユーリの花を摘んで熱湯で抽出しただけの簡単な物だが。元が結構強い香りなのでそれだけでも十分だった。

 体につけるというよりは、空間に仄かな香りを通わせるような物だ。今この場でも使っている。薬独特の匂いを完全には消せない物の、上手く中和出来ていると思う。

 俺は店の奥から抽出水を取ってくる。ポーションを入れる容器に移せば誰でも持っていけるのは良いな。



「持ってきたぞ。はい、どうぞ」

「いつも悪いな。いつか謝礼は渡すから」

「気にしなくて大丈夫ですよ。売り物としては出せないものですから」

「わぁ! ありがとうハナさん!」



 両手を前で重ねて、太陽のように笑うミスミ。……なるほど、これが本物の美少女か。あの仕草可愛いなぁ。俺も参考にしよっと。

 ギュッと手を重ね、上目遣いをしながらにっこりと笑う。



「ありがとうリアムさん!」

「何故いきなり礼を言われたのか」

「ハナさんの奇行は気にしないで下サイ。気にしても仕方ありません」

「そうだな……妹の教育に悪いから程々にしてくれよ?」

「お礼を言っただけで何故奇行扱いされるのか」



 おかしい、何故ミスミは良くて俺は駄目なのだ。やはり外見だけ磨いても駄目だと言う事か。

 あれから半年、美少女らしい立ち振舞や仕草を日々練習してきたのだ。この装いに見合うような美少女っぷりをこれからたっぷり見せてやるからな。



(そもそも突拍子がなさ過ぎて伝わって無いのだと思いますが……それ以前に努力の方向性が根本的に間違っているような)

(何か言ったかセピア)

(ハハハ……)



 ぐっ、その乾いた笑いがムカツク! 見てろ、あっと言わせてやるからな。修行の成果を見せてやる。

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