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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
33/181

女だったら惚れてたな

2018/09/04 誤字修正

2019/1/28 会話表示修正

 トレントが根を振り下ろす。その直前、後方から仄かに暖かな熱風を感じた。その直後、ズシンと響き渡るような音が森を駆け抜ける。

 根は振り下ろされる事無く、爆裂四散したかのように千切り取られていた。



「な、ななな、何が起こったの!?」

「スノー、ボサッとするな。今のうちに戻ってこい!」

「え、はっ、はい!」



 リアムの一言で、直ぐ様退避するスノー。どうやら間一髪助かったようだ。いきなり爆発した? いや、後ろから何か吹っ飛んできたような。

 俺が疑問に思っていると、後ろから更に熱風――いや、火球が飛んでくる。



「ハリス、威力を抑え牽制を続けろ。イルヴィラは前方にいる負傷者を保護。あの得体の知れない異形には注意しろよ、しっかり挙動を見ておけ」



 後ろから聞き覚えのある声。流石に何回も聞いていれば名前もすぐに浮かぶ。あれはアーキス、この街の衛兵――騎士だ。

 更に、二人の衛兵を引き連れている。その片割れが、トレントに小さな火球を放つ。

 火球はトレントを狙うも、根で防がれる。だが、着弾と同時に小規模な爆発を起こし、根を木っ端微塵にする。

 アーキスはレイの方へ向かうと、安堵したかのような顔で優しく声を掛ける。



「レイくん、無事で何よりだ」

「アーキスさん! 良かった、来てくれたんですね」

「なんだ、サボり魔のおっさんが珍しく仕事してるじゃねえか」

「偶には騎士らしい事をしないと、本当に追い出されてしまうからね。――随分と苦戦していたようだね、ファイト殿」

「少し不覚をとってな。新入り共はおろか子供にまで助けられちまって、冒険者としての面目が無えぜ、全くよ」

「ハハ、それは頼もしい子達だ……と、話している余裕は無いようだ」



 アーキスはそのままトレントの方へと向かって行く。

 自分で偶にはとか言うなよ……と思いつつも、ファイトは衛兵達の登場に安堵した。

 田舎の衛兵と言っても、歴とした騎士だ。実力は国の折り紙付きである。



「間一髪だったッスねぇ。これは今回のMVP頂いたのでは?」

「ハリス、援護お願い」

「無視!? イルヴィアさん、会話しません? 仕事において意思疎通は大事ッスよ」

「ハリス、仕事して」

「あっはい」



 更に後ろでアホなやり取りが聞こえてくる。俺は黒スラに下がる様に指示しつつ、後ろにいる騎士二人をチラッと見る。

 女性――イルヴィラという騎士は俺をそのまま通過して前衛の二人へと向かう。男性――ハリスはというと、俺とケイカの近くへとやってきた。



「お怪我はありませんか? 美しいお嬢さん方。ここは私に任せて後方へ退避して下さい」

「美しいだって。わかってるなこの兄ちゃん」

「はい、わかってますねこのお兄さん。顔も整ってますし中々良い線行ってます。少し調子乗ってるのが気になりますが」

「いや、お前何様だよ」

「犀人ですけど? あ、そうだ犀人の復権に向けて騎士様に名前を売っておくのもアリですね」

「えーと……あんた達、早く下がってて欲しいんスけど」



 ハリスは困惑しつつも、トレントへ向けて構える。さっきの火球は恐らくこの男の物だろう。

 ケイカは毛頭下がる気が無いようで、ハリスと並んで風魔法をぶっ放す。火球と突風が入り混じり、凄まじい熱気だ。



「ほう、中々やりますね! 身なりからして冒険者じゃないと思ってましたが、人は見かけによらないですねぇ」

「むふふ、騎士様に褒められるのは中々どうして悪くありません」

「ケイカと兄ちゃん、絶対他の木を燃やすなよ。フリじゃないからな。いいか絶対燃やすなよ」



 黒スラが巻き込まれないように俺の前まで戻るよう命令する。

 胴体に穴が空いているトレントは、相変わらずスノーとリアムに狙いを定めている。リアムは迎撃で手一杯、スノーはよろめきながらギリギリの所で躱している。

 ハリスとケイカが援護してるとはいえ、根の再生が早く、スキが無い。

 リアムがどうしようかと考える間もなく、またもスノーに大きな根が襲い来る。アイツどれだけ恨み買ってんだ。



「こんのっ……しつっこい奴ね!! 殴られてキレるくらいなら最初から襲ってこないでよ!!」

「失礼します」

「え、何、ちょっ、うわわっ!?」 



 イルヴィラはスノーを突き飛ばし、そのまま剣を抜いた。

 小さく息を吐いて、振り下ろされる根に対して真正面から振り上げる。あのデカい根を正面からかよ!?



「ふっ――ヌゥン!!」

「た、叩き割ったーッ!?」



 イルヴィラの剣が根に達した瞬間、根は鈍い音を立てて文字通り圧し折れた。

 無茶苦茶だ。この世界の人間、化物すぎる……。

 そのままイルヴィラはスノーを担いで一気に後退する。リアムもそれを見て、トレントと距離を取る。



「……すみません、助かりました」

「気にしないで下さい。それよりも、すぐにここから離れます」

「はぁぁぁぁ、し、死ぬかと思ったぁ」



 このスノーって奴毎回死にかけてんな。よく今まで生きてたなコイツ。

 と、第三者視点で観戦してる場合ではない。コイツらが戻ってくると言うことは当然――



「オ、オ、オオォォォォォ!!」

「来ますよね、来ますよねそりゃあ! 黒スラ、俺を最優先で守れ! 他は自分でなんとかしろ!」

(酷い命令ですね……)

「ちゅう」



 セピアがごちゃごちゃ言っとるが知ったことか! この中で一番か弱いのは間違いなく俺だ!

 あの女騎士も凄いスピードだが、あのトレントもそれぐらいに速い。大きな木が高速で迫ってくるだけでこれ程怖いとは。

 ちくしょう、シャドウエッジだけじゃ止まらねえ! バシバシと影の刃を出しているが、お構いなしに突っ込んでくる。



「化物め、そろそろ倒れてくれない――かッ!!」



 ヨルアが槍を投擲する。間近で見ると人が投げてるとは思えない速度だな。これもスキルとやらが関係しているのだろうか。

 投げられた槍はそのまま数本の根を穿つも、はねのけられてしまう。



「あれだけダメージを受けて何処にあんな力が」

「窮鼠猫を噛むといった所でしょう。最後まで気が抜けませんね」

「……アーキス殿。ご助力感謝します」

「それは此方の台詞ですよ。元々、私達が出した依頼ですからね」



 軽く笑い、アーキスはトレントへと向かって行く。

 おっさんの態度からしてあの人偉い人なのかな? 昼間に爺さんの家に来るぐらいには暇そうだったのに。あ、目が合った。

 アーキスはもう大丈夫だ、と言うような笑みでチラッとこちらを見て、直ぐ様トレントの方へ向き直る。



「この森にこれ程悍おぞましい魔物が潜んでいるとはな。ハリス、牽制はもう良い。そこのお嬢さんもだ」

「アーキス副長。よろしいので?」

「本体があれだけ削れているんだ。後一振りあれば十分だろう」

「このおじさん誰です? 勝手に仕切らないで下サイ」

「ちょ、お嬢さん……この人はですねぇ」



 言いたい放題だなケイカ。この子ちょっと自我が強すぎる。まぁ勝手に転移使うくらいだから最初からわかってた。いい子ではあるんだけど。

 アーキスは気にしていない様子で、二人をスルーして前へ躍り出る。



「イルヴィラ!」

「はい、直ぐに」

「へ? はっ!? アアァァァァァァァァ!!」



 内容を言わずとも理解していたようで、イルヴィラはスノーを後ろへと投げる。

 おーすげー飛んでる。そのまま着地……あ、騎士の兄ちゃんとぶつかった。



「この村でも慕われてる方で……ぶげっ!?」

「ぎゃん!!」



 降ってきたスノーがクリーンヒットし、盛大にとっちらかすハリス。おいおい、剣がこっちに滑ってきたぞ……あぶねぇな。



「ひゃっ!? スノーさん、いきなり飛んでこないで下サイ! もう、今人脈を広げてる最中なんですから! 邪魔ですよ!」

「いつつ……ちょっと! 無理に動かさないでよ!」



 コイツもいい性格してるな。親の顔が見てみてえ……いや見たわ。いきなり頭叩くいい性格したおっさんだったわ。つか戦闘中に何してんだこのアマ。



「副長、この距離で届くのですか?」

「問題ない。イルヴィラ、剣撃の道を空けてくれ」



 返事を待たずに、アーキスは剣を抜き構えた。



「はい――アクアレイン」



 手を掲げ一言、イルヴィラが魔法を唱える。

 唱えた瞬間、地面から数多もの水……小さな雫が、アーキスの前方に立ち上がる。トレントの根が、水に弾かれるように道を開いていく。

 水の道が開けたと同時に、アーキスは構えた剣を横振りする。



熊爪ゆうそう斬り」



 目に見えぬくらい速く繰り出された剣から、衝撃波が放たれた。その剣撃は邪魔される事無く、まっすぐにトレントへと向かっていく。

 おおお!! アレが噂に聞く飛ぶ剣撃!! 予想以上にカッコイイ!! と、俺が興奮する間もなく直ぐにトレントへと直撃する。



「しゃあっ!! さっすが副長、真っ二つッスよ! 流石のアイツもこれで――」

「ハリス! まだだ、気を抜くな! 上だ!」

「なっ……ええっ!?」



 トレントは傷が入った場所から真っ二つに折れた瞬間、上半分が高く跳ね上がった。本体そっちかよ! 普通根っこだろ!?

 高く跳ね上がったトレントは、叫びながらそのまま一気に急降下してくる。落下する先は



「はぁ!? ちょ、待って待ってまた私なの!?」



 やはりというべきか、スノーに狙いをつけていたようだ。ハリスはバシバシと魔法を撃っているが、もはや捨て身の特攻だ、燃えていても関係なしに突っ込んでくる。



「ギャアアアアア死ぬゥゥゥゥ!!」



 スノーが断末魔の叫びを上げた瞬間、突如二人の姿が消える。なっ、あいつら何処に行った!? 

 そのままトレントは何もない所へ墜落する。……一体何がどうなってるんだ。展開が早すぎてついて行けねぇ。



蜃気楼風メサイアミラージ――フッフッフ、まんまと引っかかりましたね!」



 どうだ、これが私の実力だと言わんばかりの顔で宣言する犀娘。どうやら、ケイカが何かしたらしい。

 スノーはというと、いつの間にかリアムとハリスに引っ張られて逃れていた。



「ああああ……アレ、何ともない?」

「世話の焼ける女の子ッスね全く」

「……ホントすみません」

 


 俺からもすみません駄目な子でホント。まぁ俺も気付いてなかったけど。

 最後の悪あがきも空振りに終わり、ついにトレントは沈黙を



「グルルオオオオォォォォォ!!」



 していなかった。ぐるぐるうるせーなコイツ。段々イライラしてきた……しつこい奴は嫌いだ。いい加減ぶっ倒れろっつーの!



「危険だ!! 直ぐにそれから離れて!!」

「でもまぁ、コイツ動けねえだろ。黒スラ! 最後の仕上げだ。コイツに思いっきりシャドウエッジを浴びせて、派手に伐採してやれ!」

「きゅう!」



 アーキスが言い終わる前に、俺は黒スラにトドメを刺すように命令する。

 シャドウエッジは影から刃を放つ。今は深夜だが、冒険者や騎士たちが持つ多数のランタンにより大きな影が出来上がっていた。そこから、無数の刃がトレントを襲う。

 トレントは叫びながら、ガリガリとその身を削られていく。



「エグいッスねぇあの子。一体どんな魔法ッスか」

「あの液状の魔物がやっているのか、アレは」



 騎士達も驚いた表情で傍観している。実は俺も驚いている。刃の一つ一つは脆いが、数でガンガン削れていく。



「オラオラ、さっさとくたばりやがれ!! 黒スラ、手ェ休めるなよ!!」

「ググッ……オオオオォォォォォオオオオ!!」

「るっせーなっ……これでもくらいやがれェッ!」



 ダメ押しと言わんばかりに、俺は近くに投げ出されたハリスの剣を魔糸を使ってトレントへと飛ばした。

 ズタボロになったトレントの顔面に、剣が突き刺さる。最期に雄叫びを上げながら、ズシンと大きな音を立てて倒れた。

 ふふん、最期は呆気ないな。流石にあそこ迄バラバラにされたらタフなコイツでも生きていられまい。



「ウハハハ! ハナちゃん大勝利!!」

「きゅうきゅう!」



 俺の勝利宣言と共に、黒スラがぴょんぴょん跳ねる。うむうむ、よくやったぞ黒スラちゃん。



「お、終わったの……? もう起き上がってこないわよね?」

「スノー、最後まで気を抜くな。それで何度死にかけたんだ」

「でも、ピクリとも動きませんよ?」



 うんうん、これだけやったんだ。そもそもほとんど木の原型留めてないし、大丈夫だろ。

 安心しきって、俺は膝に手を置く。ふう、立ってるのも辛いわ。



「よーし、後は冒険者や騎士共に任せて、俺はさっさとか……」

「ハナ!! 直ぐにそこから離れろ!!」

「きゅう!」

「え?」



 一瞬、何が起こったかわからなかった。アーキスが声を上げていた時にはもう、黒スラの様な黒い液体、いや、黒い球体がトレントの体から抜け出て、俺に特攻してきた。

 黒スラも予想外だったのか甲高い声を上げて驚いていた。悍ましい顔の様な模様の球体が、すぐ目の前に迫ってきている。あ、やば、これ――



「ひっ!?」



 やられる!? 俺は思わず目を瞑ってしまう。

 だが、いつまで立っても衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると。



「化物――ハナちゃんに手を出すな」



 普段からはまるで想像できないような鋭い目つきで、レイが黒い球体を切断していた。

 そのまま球体は、べチャリと音を立てて崩れ落ちた。突然の出来事に何も言えない俺に、レイが俺に尋ねてくる。



「ハナちゃん、無事?」

「え、あ、う、うん、大丈夫。すまん、油断してた」

「よかった」



 ふわりとした優しい笑顔を見せる。レイは安堵したのか、すとんと座り込んでふぅっと一息ついた。俺もつられて、ぺたりと座り込む。

 あ、あぶねー……何だ今の。最後の最期まで悪あがきか。タフすぎるだろトレント。



「ふへぇ。……おい、レイ」

「ん? なに?」

「今の俺、可愛かったか?」

「えっ? なにそれ、今聞く事?」

「もちろんだ」

「……ぷふっ、本当にハナちゃんは変な人だね」

「変じゃねえよ! 俺にとっては重要なの!」

「まぁ……うん、そこそこ」

「なんじゃそこそこって。世界一可愛い美少女だぞ? もっと年相応に照れながら褒め称えろ」

「女の子らしくしてたらもっと可愛かったのに。むう、必死だったからあんまり顔は見てないけど。可愛かったかな」



 レイは照れくさそうに 泥と汗でまみれた顔をポリポリ掻いて答える。全く、最初からそうしろというのだ。ガキの癖に格好つけやがって。

 こうしてとんでもなくタフなトレントは、美少女&美少年with愉快な仲間たちによって倒された。





 まぁ、その、なんだ。女だったら惚れてたな、マジで。

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