本日一番のクリティカルダメージ
俺にいきなりどついてきた黒いスライムを捕獲し、ステータスを確認した。
名前:――
情報:カースドスライム - 0歳
体力:C
筋力:-
敏捷:A
魔力:D
知力:C
魅力:F
幸運:D
スキル:【闇魔法】【粘液】
特殊スキル:【変化】
カースドスライム。どうやら呪われているらしい。どの辺に呪われている要素があるのかわかりません。特筆すべきは敏捷:Aだろう。
Aってかなり高ステータスだよな? 体力もそこそこあるし、カースドって割には肉体派な気がする。セピア曰く、スライムは筋力……いわば攻撃力? が随時変化するので表記ができない、とのこと。
お待ちかねのスキルだが、希少な【闇魔法】、スライムの基本スキルである【粘液】。そして、特殊スキルとして【変化】を持っている。
闇魔法って一体どんな事が出来るんだろう? とセピアに聞いた所、状態異常……いわばデバフ、目くらましの様な嫌らしい魔法や、グラビティなどの重力を操れるような魔法もあるらしい。すげー、俺なんかよりよっぽどファンタジーだぜ!
粘液はスライムが必ず生まれ持ってくるスキル。このスキルで相手を溶かしたりくっついたりする事が可能となるらしい。
「とまぁここまでは前座だ。こうしている間にもトレントと死闘を繰り広げている奴らがいるからな、巻きでいくぞ」
「闇魔法は本命だと思われますが」
「甘いぞセピアくん。俺としてはこのスキルの方が俄然本命、いや、大本命と見たね!」
特殊スキル【変化】。間違いなくあれだ、他の生物に姿形を変えられるスキルだろうな。普通のスライムは持っていないらしい、黒スラの固有スキルと言うことだ。
恐らくスライム界では誰しもが欲しがるスキルに違いない。知れば誰もが望むだろう、君の様になりたいと!
うまく行けばあのトレントを倒せるかもしれないのだ。という訳で、早速黒スラに命令してみる。従魔に対して、こうして近くにいれば念話で命令が可能らしい。念話便利すぎじゃん?
さて、どんな姿にさせてみようか……そうだな。
「よーし黒スラちゃん、俺みたいな美少女に変化しろ! あ、流石に俺レベルまで行くと敷居が高すぎるか。難しかったら美少女レベルをワンランク下げてもいいよ」
「ハナ様、内容が細かすぎる……というより、意味不明ですよ。なんですか美少女レベルって。第一、変化のスキルを持っていてもそれを活用できる知能がなければ扱えませんよ」
スライムの知能は人ほど良くない。先程からいたる所でぴょんぴょん跳ねているのを見てれば分かるか……だが、俺は諦めない。
「いーや、この子なら出来るって信じてる。黒スラちゃん、美少女に変化だっ!」
黒スラは俺の体からぴょんと離れ、俺の前に移動する。おお、まさか話が通じたのか?
ぷるぷると体を震わせている黒スラ。これは期待できそうだ……と思った次の瞬間
「バカお前っ――ぐべぇっ!!?」
「ハナ様!?」
またも俺の腹にダイレクトアタック。笑えない衝撃と共に尻もちをつく。
「げほっ、げほっ……本日一番のクリティカルダメージだぞお前……」
「――ちゅう」
またもすりすりと俺の腹にすり寄ってくる。遊んで貰ってると思っているのかもしれない……こやつめハハハ。
「ハナ、やっぱりそいつ危ないわ! 少し離れてなさい、今すぐに助けるから」
「ハナさん危険です! 今すぐそのスライムから離れて下サイ、私の魔法で――」
「ケイカ、スノー、ステイ! コイツは敵じゃな……おい待て! 黒スラもステイ! ステイ! ちょまっ、ぐばぁっ!」
ヤバい、痛い、死ぬ……ここに来て伏兵が現れるとは。
スノーが拳をこちらに向けている。本当に俺ごとやる気かこの女!?
「ああもういい加減にしろ! この黒いスライムは俺の従魔! さっき捕獲したから敵じゃない! 黒スラ、俺から離れて待機しろ!」
「ちゅう!」
黒スラはすぐに俺から離れ、目の前でじっと待っている。やれば出来るじゃん。
「あの、ハナちゃん。捕獲ってどういう事……?」
レイは戸惑いながら、俺に尋ねてきた。
そういえば、魔物使いの事言ってなかったな。普通にスキルの存在忘れてた……もとい、本当の事を言うと混乱するだろうから言わなかったんだけど。
今となってはもうカミングアウトせざるを得ない。しないとスノーにころがされる。
「俺、魔物使いのスキルを所有してるんだ。このスライムは敵意が無いようだったから、サクッと仲間にした」
「そ、そうだったんだ。信じがたいけど、確かにそのスライム、もう襲ってこないね」
「やるじゃない! 魔物使いなんてレア中のレアスキルよ! さっすが私のライバルね!」
まぁ……レア中のレアスキルが霞むくらいレアなのを所持してるんだがな……。そっちだけは隠し通さないとな。
ともあれ、これで落ち着いて黒スラちゃんの性能を確認できる。
変化は保留にして、闇魔法は扱えるのだろうか。と、思案していたらケイカからちょうど良く声がかかる。
「ハナさん、もし戦力になるのならその子を守りに回して下サイ! 予備魔力にも限度があります!」
「おう、丁度コイツの力を試してやろうとしていた所だ。よっこいせ……と」
俺は立ち上がり、周りを確認する。どうやら冒険者の方に流れているスライムを片付けた方が良さそうだ。
(セピア、闇魔法って最初はどんなのが使えるんだ?)
(そうですね、シャドウエッジ――攻撃対象の影から鋭い刃を突出させ攻撃する魔法があります)
(おお、如何にもな魔法じゃないか)
聞く限りだいぶ強そうだ。問題は生まれたての黒スラがちゃんと闇魔法を扱えるか……だな。
「よし、黒スラ! あのスライム共にシャドウエッジだ!」
俺は期待を込めて黒スラに命令する。腹をガードする事も忘れない。
黒スラはきゅうっと返事をすると、ぽよんと一回跳ねる。その瞬間、数十メートル先にいるスライム数匹の影から黒い刃が飛び出した。
刃はそのままスライムの核へと一直線に突き刺さり、スライムが次々に破裂していく。
「え、嘘、つっよ……思いの外上手く行って反応に困るな」
「いやいや、そこは褒めてあげようよハナちゃん」
「そうよ、黒スラくんが可哀想よ?」
「きゅ」
黒スラはぷるぷると震えてこっちを見ている(気がする)。ぐっ、くそ、一々可愛い反応しやがって。
「確かに凄いですね。これなら私も魔力を抑えられる……って、あれ?」
「どうしたケイカ。ブラのホックが外れたか?」
「サイテーです。そうじゃなくて、トレント、そろそろ倒せそうですよ?」
「へ?」
遠くでは斧をぶんぶん回してトレントの動きを封じ、馴れた手付きで槍を突き上げて片っ端から枝を切り落とし、縦横無尽に飛び回りトレントの傷を狙い続けている三人。
やべぇ、超かっけぇ。最初から逃げ回る必要無かったんじゃね? といってもその時はケイカが使い物にならなかったし仕方ないか。
「ここは大人しくサポートに徹していたほうが良いかもしれませんね。見た所そのスライムの魔法、範囲は申し分ないですが威力はそれほどありません。あのトレントに通用しないと思います」
「対象が木の棒すら貫通するスライムだからな……雑魚狩り向きなんだろうな」
「その雑魚に殺されかけているので笑えませんね」
自虐気味にケイカは言う。自分が一番舐めて掛かっていたからね……心なしか風魔法を叩き込むのに力が入っている気がする。
俺は黒スラに周りのスライムを蹴散らす様に指示する。きゅうきゅうと鳴きながら跳ねる黒スラは、影の刃でスライム達を倒していく。
二人で淡々とスライムを倒していくあたり、黒スラの高性能さが伺える。
「俺がどれだけ頑張ってスライムを相手してたと思ってるんだコイツら」
「まぁまぁ、助かってるんだし。これから頑張ろうよハナちゃん」
「レイはいい子だなホント」
「ちょ、ハナちゃん」
俺はレイの頭を撫でてやる。レイもボロボロになるまで戦ったのだ。ガキの癖に根性が座ってる。普通泣くぞこの状況。しかも自分の力を過信せず引き際を弁えている上に誠実。スペック高すぎか? 魂レベルでイケメンなのだろう。
だが、こういう純粋な奴ほど騙されたり、悪堕ちしやすいのだ。厄介事にもすぐ首突っ込むしな。今後、俺が徹底的にその辺の知識を叩き込んでやろう。これもレイの為だ。
(詐欺とか騙し討ちとか得意そうですもんね……)
(えっ、バリ酷くない?)
セピアに今までの中でも指折りに失礼な事を言われつつ、俺は大人しく待つ。
このまま冒険者がトレントを倒して無事帰還! となれば良いのだが
「何だコイツっ! 急に体が崩れて……ぐおあァァ!」
「ファイト!」
「くっ、リアム! トレントの様子がおかしい、回避に専念しろ!! ファイト、無事か!?」
そう簡単には行かないらしい。斧を振り回していたファイトが一発貰ったようだ。
こちらの方までふっ飛ばされたファイトは、左肩の辺りに大きな切り傷が出来ている。
いかん、結構出血してるな。傷は大したことなさそうだが血を流しすぎると命が危ない。
「スノー、ポーション出せ! 今日買ってただろお前! 後なんか布っぽい、縛るモンも寄越せ! なるべく綺麗なヤツ!」
「え、ええ!」
「ファイトさん、大丈夫ですか!」
俺はスノーからポーションを貰いそのままぶっかける。その後、スノーが持ってた薬を包んでいた布で肩の傷を思いっきり押さえて止血を試みた。
とりあえず止血。二に止血。腕とか切られても血を止めればなんとかなる時もあるって前に社内でやった救急訓練で聞いた事あった。ううむ、聞いとくもんだよな。
ファイトは無理に起き上がろうとする。ボロボロなんだから動くなっつーの。
「こんな事してる場合じゃねえ! トレントが……」
「おっさん、体ふっ飛ばされていたる所打ち付けてるだろ。暫く動かないほうが良いぞ」
「い、いちち! 嬢ちゃんもっと優しくしてくれよ」
「断る。つか何があったんだ。あんだけ優勢だったのに」
「ああ、奴の体が崩れたかと思うと、いきなり俊敏になりやがった……ありゃ二人じゃ危険だ」
「マジかよ」
トレントの方を見ると、確かに幹がボロボロ落ちて、更に黒くなった中身が見える。顔が凄い事になってんぞ。
グロイなぁ、残酷な表現NGなんだけど。勘弁して欲しい。
ヨルアとリアムが牽制……いいや、ありゃ避けるので手一杯と言う感じか。ジリジリと追い詰められている。
このままではやられるな。さっきの余裕な雰囲気が一転して深刻なものに変わる。
「よし、俺らも参戦するぞ。あのトレントをぶち転がす」
「正気か嬢ちゃん、確かにさっきの特攻は凄かったが、そう何度も通用しないぞ。ただでさえトレントの動きが早くなっていると言うのに」
「ええい、おっさんは少し休んでろ! レイ、おっさん任せたぞ。まだ少しくらいは動けるだろ」
「それは大丈夫だけど危険だよ! ファイトさんでも一撃で倒しちゃうような相手、ハナちゃんだったら――」
「平気だ。美少女はこんなしょぼくれた森でくたばらない。それにちょー頼れる魔物も仲間にできたしな」
きゅうきゅうと鳴きながら、黒スラは跳ねて自己主張する。可愛い。でもな、お前が手を止めるとスライムが突っ込んでくるから仕事して欲しい。
「ケイカ、スライムの様子は?」
「数は減ってますけど、とても無視できる状態じゃ無いです」
「そんな事言ってもお前、魔力がそろそろ無くなるだろ。ここは全員であのトレントぶっ倒さなきゃジエンドだ。ケイカも行くぞ。スノー、そろそろ動けるか? いや、動け。動かなきゃ死ぬぞ」
「ふふん、誰に向かって言ってるのよ。私はこの時を待ってたんだから。美少女は遅れてやってくるってね」
スノーは立ち上がると、パシンと拳を鳴らし気合を入れる。
「本当に強引な子ですね……はぁ、わかりました。スライムは各々なんとかして下サイ。ハナさんもです。自分で言ったんですからね?」
「ふふん、当然だ。黒スラちゃん、護衛頼んだぞ」
「うわあ……確かに魔物使いとしては正しいけど。ちょっとダサいです」
「うるせーバーカ角無し! さっさとあのトレントぶっ倒してお前をこき使ってやる。行くぞ!」
「ぐぅぅ、ほんっとに口の悪いガキです!」
カースドスライムと言う強力な味方を従え、俺はトレントへと向かう。
結局俺が扱えそうな道具は拾えなかったな。ま、黒スラがいるしどうにでもなるか。