今後が不安ですね
「はあ、間に合ってよかった」
選定の女神であるカラーは一仕事終え、ようやく肩の力が抜けた。
異世界に転生――定期的、一度に行う調停者の選定がようやく終えたのだ。
「今回は適正者が少なすぎて危なかったです。もう少しで遅れる所でした」
異界への扉は一週間程開かれるが、その間に死亡した人間の魂のみが選ばれる。
その中でも適正が在る者だけが転生する事ができる。
「セピア――」
カラーが名前を呼ぶと、1人の男が姿を現す。
琥珀色の髪が特徴的な長身の男性だ。
「お呼びですか、カラー様」
「はい、待たせてしまい申し訳ありません。ようやく最後の1人が決まりました」
「待たせただなんてとんでもない。無事に決まったようで何よりです」
セピアはカラーをフォローするように答える。
そして跪き、カラーが口を開くのを静かに待っている。
「セピア、最後の転生者……雪中 花さんの補助をしてあげて下さい。それが貴方の価値となり、神として存在する理由になるのです」
「はい、承知しました」
セピアはそう答えると、立ち上がり白き世界を見渡す。
カラーは笑みを浮かべながら話を続ける。
「彼はある意味とても純粋で、意思を曲げることは無い真っ直ぐな方です。人に気遣いもできて、ある一点を除けばとても素晴らしい方です」
「ある一点?」
セピアは気になって、カラーに尋ねる。
「差し支えなければ、そのある一点というのを聞きたいのですが」
「あー、えっと、そうですねー」
カラーは困ったように目を背ける。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。と、セピアは慌てて訂正する。
「あ、いえ! 答えづらいのであれば大丈夫です! 申し訳ありませんでした」
「こほん。セピア、清濁併せ呑む心を持つのですよ。彼に会えばわかります。補助神である貴方が彼の全てを受け入れてあげて下さいね」
「はい、必ずや――では、行って参ります」
セピアは一礼すると、白き世界をゆっくり、やる気に満ちた足取りで歩き始める。
「セピア、本当に申し訳ない。彼はなんとも形容し難い人物なのです。決して悪人では無いのですが、すこーしばかり特殊な所があるというかなんというか」
カラーは天を仰いでそうセピアに謝罪した。
あの特殊過ぎる人物、果たしてセピアは受け入れられるだろうか。
「今後が不安ですね……」
選定の女神、カラーの仕事はここまで。
後はどうなるか、遠くから見守るだけだ。不安を抱きつつも、カラーは白き世界を歩き始めた。