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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
26/181

平気でそういう事言いますよね貴方達は!

2019/1/28 会話表示修正

 レイとスノーは夜の森を駆け抜ける。前方はどっぷりと暗闇に浸かっており、中々速度が上げられない。

 その為、後ろから迫りくるスライムを振り切れずひたすらに走り続けた。

 スノーはきゃんきゃん言いながら前方を駆ける。レイは口を開く余裕も無い。体力には自信があったのだが、スノーの体力に比べれば大したものでは無かったようでちょっぴり自信を無くした。

 後ろからぽよんぽよんと気の抜けた音がする。いつか夢に出てきそうだなとレイはげんなりしながらひたすらに走る。



「スライムの癖にしつこいわね! なんでこんな熱烈追いかけて来るのかしら!」



 それはスノーが大暴れしたから……と言うのも当然あるが、それだけでは無い気がする。

 そもそも、スノーの言う様にそこまでスライムは戦闘に執着しない。追いつかないと理解すれば直ぐに諦めるはずだ。少なくとも自分がよく潜っていたこの森のスライムは。

 だが今回は明らかに違う。いつまで経っても自分達を追いかけ、攻撃を仕掛けてくる。明確な殺意が有る様に見える。

 このままずっと追ってくる様ならいつかは追いつかれる。それならば、いっそ迎え撃った方が良い。そろそろ体力も限界だ。

 レイはその場で立ち止まり、後ろを振り返る。

 


「ちょっとレイくん!? 止まったら駄目よ!!」

「いいや、このままじゃ二人共やられちゃうよ。ここは僕が止めるからスノーさんは早く逃げて!」

「何言ってるの!! レイくんにそんな事できるわけ無いでしょう!!」



 止めるなんて無理だ。という事はレイ自身も分かっている。だが、少しでも時間が稼げればスノーは逃げ切れる。



「大丈夫、普段からスライムを倒してるんだから。少しくらい時間は稼げる、そのスキに逃げて」

「……」



 スノーは言い返さず、レイをじっと見つめている。確かに彼女は冒険者で、自分よりもずっと凄いけど。でも、ここで守ってもらう訳にはいかない。

 女の子を見殺しになんてしたらそれこそ父から、ハナから怒られる。そっちの方がずっと嫌だ。

 スライムはそこまで迫ってきていた。もう時間がない。



「よーし、いつも通り落ち着いて行くぞ。さぁ、スノーさんは早く」

「逃げない」

「……え?」



 スノーはレイの隣に立ち、拳を突き出す。不敵に笑いながら、スノーは口を開く。



「ふふん、流石ジナさんの息子ね。私が美少女じゃなかったら……惚れてたわ」

「いや美少女とか関係ない……じゃなくて! 早く逃げてよ! 本当に死んじゃうよ!」

「逃げないし死なないし美少女は関係ある!」

「えええ!?」



 前に出した拳を突き上げて、スノーは答える。



「ここで逃げたら美少女が廃るわ。ここで死んだら……ハナに勝ち逃げされるじゃない!」

「勝ち逃げ?」

「そうよ! 今の所1勝2敗ね」

「いつの間に3回も勝負してたんだ……しかも1勝してるし」



 なんとも緊張感がない内容だが、スノーがふざけているようには見えない。彼女なりに真面目なのだろう。



「ええ、1勝よ。一笑に付さないで欲しいわね」

「……」

「とにかく! こんな所で死ぬなんて許さないんだから。こうなったら全部とっちめる!」



 自分を励ましてくれている……? うーん、ないな。多分素なんだろう。こうなれば自分も覚悟を決める。

 全て倒しきる。どうせなら逃げずに立ち向かえば良かったが、今考えても仕方ないことだ。

 ついに、スライムが目の前まで来た。

 


「スノーさんの言う通りだ。全部倒しきればいいだけの話だね。僕はあのジナの息子なんだ、これくらい直ぐに片付けてやる!」

「ヤケになっちゃ駄目よレイくん」

「なってないよ!? せっかく覚悟を決めてるんだから水を差さないでよ!」



 レイは剣を構える。目の前にいるスライムの後ろには、沢山のスライムが飛び、跳ねながらこちらへ向かってくる。



「さあ行くぞ! 全部切り伏せてやる!」

「魔法なんて無くたって拳で全部ぶち抜いてやるわ!」



 レイとスノーが同時に仕掛けた。スライム達も同時に、二人へと襲いかかる。

 その時、強い突風がその場に起こった。






























「ケイカ!! あいつらを止めろ!!」



 レイとスノーを目撃した瞬間、俺は思わず叫んだ。

 ついに二人の元へと辿り着いた。と、同時にかなりのピンチだったようで、正に玉砕覚悟の突撃をしていたのだ。

 ケイカは直ぐに風魔法を放つ。二人と魔物を分かつ様に風が突き抜け、ふっ飛ばした。



「うあっ!? いきなり何だ!?」

「この風に拳を逸らされるような感覚は……まさか」



 レイとスノーは風に飛ばされて、後方へと下がる。ギリギリセーフだな。と言っても何も解決してないけど。

 ケイカがひと足早く二人の元まで駆け寄る。



「サイ悪の事態は免れましたね。……何をやってるんですか貴方達は」

「やっぱり角付きお化けね!」

「もうお化けじゃないです。ただの角付きです」

「一体どういう事?」

「説明は後、まずはスライムを倒しましょう」



 ケイカは自慢げに角を光らせている。凄いどや顔だ。そんな事やっとる場合か。

 俺は少し遅れて辿り着いた。ずっと早歩きだったから足が痛い。



「レイ、無事か?」

「え、ハナちゃん!? 何でハナちゃんがここに?」

「んな事はどうでも良い。んーどれどれ……とりあえずヤバそうな怪我は無いな」

「わわ、ちょっとハナちゃん」



 ぱぱっとレイの体を確認する。多少の擦り傷はあったものの、問題無し。

 念のために持ってきてたポーション、すぐ使っちゃったし良かった。まぁスノーも買ってたし大丈夫だろうけど。



「やはり来たわね。颯爽と現れるわけでも無く、静静と登場しまず男の子の体を心配するなんて、流石私の美少女ライバルなだけはあるわ」

「……あ、居たの?」

「いや、さっき目が合ったじゃない!」



 スノーは抗議しながら近寄ってくる。相変わらずきゃんきゃんうるさい奴だ。

 適当にあしらっていると、ケイカが突然風魔法を放った。……そう言えば今もスライムが襲ってきているんだった。



「今は呑気に話している場合ではありません。まずはこの状況をなんとかしなければ」

「さっきの見る限りケイカ一人で何とか出来るんじゃね?」

「そうそう、戦ったり走り続けたりして疲れちゃったわ。ちょっと休憩させてよサイカ」

「平気でそういう事言いますよね貴方達は! 流石に無理ですよ、手伝って下サイ。後、私はサイカではありません、ケイカです!!」



 ケイカはくどくど説教を始める。話してる場合では無かったのでは。一応魔法でスライム追っ払ってるけど。

 相も変わらずスライムは単調にこちらへと向かってきている。こりゃ本当に殲滅しないと終わらなそうだ。



「えっと、ケイカさん? 僕も手伝うよ。あんまり役に立たないけど」

「え? あ……ありがとう。強く、優しい子ですね。まだ子供なのにこのスライムの群れを見てここまで落ち着いているとは。私が見込んだだけはあります」

「そ、そんな事無いよ」



 レイは恥ずかしそうに頭を掻いている。照れてる場合では無いのでは?



「レイくんは私の魔法を抜けてくるスライムを叩いて下サイ。今はまだ正面からしか襲ってきてませんが、徐々に回り込んで来るはずです」

「分かった! って、僕の名前知ってるの?」

「ハナさんが教えてくれました。格好良い名前ですね」

「あ、あはは。ありがとう」



 そう言うと、レイはケイカの近くに立ちスライム達の様子を見ながら構えている。

 あんな強力な魔法、スライムが抜けてくるのかと疑問に思ったら、どうやら魔法を撃つにも間隔が空いてしまうみたいで、物量で攻めてくる相手には些か辛いようだ。



「頑張れレイくん! 私、精一杯応援するから!」

「何言ってるんですか、ハナさんも前に出て下サイ。あー! そこくつろがない! スタンダップ! お茶を仕舞って下サイ」

「メリハリは大事よサイカ」

「ケイカです!!」



 スノーはなんとお茶を飲んで寛いでいた。さっきまで死にかけてたのになんという胆力。冒険者はこれくらいじゃなければなれないのかもしれない。



「まあまあ、確かに平気そうな雰囲気だけど、実際はスノーさん、魔力を殆ど使ってしんどいはずだよ。少し休んで貰おうよ」

「レイくんが言うなら……そうですね、少しだけですよ。本当に危険な状況になったら貴方にも働いて貰いますからね!」

「はーい」



 今が正にその危険な状況ではないのか。と言うか緊張感がまったくないのだが。この世界の人間はそう言った物が欠けているのだろうか……俺が言うのも何だけど。

 徐々に、スライムの距離が縮まってきている。そろそろマジで危なそうか。



「殺傷力が高い魔法に切り替えます。範囲は狭いのでそこそこな数が抜けて来ると思いますが、耐えて下サイ」

「えー、大丈夫かよレイ」

「うん、なんとか頑張ってみるよ。ケイカさんだけに任せるのは嫌だからね」



 真面目だ。この出鱈目な人間が揃っている中で唯一の常識人と言っても良い。ケイカはああ見えて突拍子も無いことを言い出すしな。

 ケイカは少し前に出ると、またも角を光らせる。両手を広げ、目の前に大きな風の渦を作る。



「荒れ狂う暴風で、全て貫く。暴風砲火サイクロン!」



 格好良い詠唱と共に、強烈な暴風がケイカの正面から吹き荒れる。全てを飲み込むような、轟々とした鈍い音をたて、全てを巻き込み、吹き流していく。

 正に風の濁流とでも言うような、凄まじい勢いだった。

 もう全部アイツ一人で良いんじゃないかな。と思ったのだが、そう甘くは無いようだ。



「左右から来ます! レイくん! ハナさん!」

「ちょ、待て待ていきなりかよ!」

「行くぞ! ハナちゃんは無理しないで!」



 ケイカの言う通り、どうやら回り込んできたみたいで左右からもスライムが数体迫ってくる。

 レイはスライムの応戦を始める。無理しないでって言っても流石に働かないと駄目なようだ。



(ハナ様、覚悟を決めて下さい。ケイカさんの魔力が無尽蔵の様に見えても、いつかは限界が来ます。全員で力を合わせないと)

(うん、流石にここでお陀仏は嫌だからな。向かってくる奴は叩き潰してやる)

(その意気です!)



 そう言えば、一番真面目な奴を忘れていたな。混乱しないように、人と話してる時は極力会話を避けてくれている。

 セピアの言う通り、ケイカにも限界はある。スライムの数がわからない以上、任せっきりなのは良くない。

 俺は懐から三本箸を取り、スライムを迎え撃った。

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