女神がドン引きしている
「俺を!!!!!!!!! 可愛い美少女にしてくれ!!!!!!!!」
「……はい?」
はい? じゃねーよはい? じゃあよお!!
俺は美少女になりてえんだよ美少女に!!
「出来ますか? 出来るのか? いや出来ると言え!!!」
「命令!? いえ、出来ない事はないでしょうが……良いのですか?」
「何がだ?」
女神はたどたどしく言いながら、俺に話を続ける。
「男から女に変わるというのは大変な事なんですよ。女性に変わって後悔する可能性だってあります。ましてや雪中さんの住む世界とは違って治安も良いとは言えません。女性だからこその危険もあって……」
「レ○プとか?」
「コラコラ、みだりにそんな事を言ってはいけませんよ」
確かにな。そこら辺は怖い所だ。人間ならまだ良い方、魔物とかいたらそいつらに○イプなんてされた日には……それこそ自殺を考えそうだ。
俺はそんな被虐趣味はない。そのスキルとやらが使えるならそれで自衛していけばいい話だ。
「そもそも、何故女性になりたいのですか? 男性の方がお好きとか、それとも女装が趣味だとか」
「そうじゃねえ。俺は普通に女が好きだし別に女装も好きじゃない。そいつらの事を否定もしないがな」
「じゃあどうして……」
女神でもわからんか。誰にも理解されたことはないから良いけどな。
俺が美少女になりたい理由。なんてことはない。
「俺はな、俺が一番大好きなんだよ。その俺が美少女になったら究極だろ……。鏡を見たら可愛い俺がいるんだぞ。これ以上何を望むんだよ」
「……」
女神がドン引きしている。わからんでもない。別に俺は世間を知らないわけじゃないし、そういうやつがおかしい部類だと言うのも知っている。
だがそれを踏まえて上で俺は……俺が好きなのだ。ナルシスト、自己愛が強いとも言える。
良いじゃないか、自分が好きで何が悪い! 半ば開き直ってここまで生きてきたのだ。
「で、どうなんだ。女神様としてその理由で俺を美少女にしてくれるのか?」
「ええ、大丈夫です。少しトンチキな理由ですが……それで世界のバランスは崩れるわけでもありませんし。それでは人間の女の子に設定して」
「ストーーップ!!! ちょっと待ってプリーーーズ!!!」
「ひゃっ!?」
どうせならもう一つお願いをしよう! ゴネ得だゴネ得。
人間の女の子と言ったが、それでは直ぐに成長してしまう。だから……。
「その世界、魔族とかいるんだろ? だから他にも種族がいるんじゃないか?」
「え、ええ。存在しているのは人族、エルフ、ドワーフ。人族の中にも獣人族や竜人族。そして先程挙げた魔族がおります。エルフやドワーフは人族寄りの精霊ですね。他にも私が把握しきれない種族が多種存在します」
把握しきれてないって結構他人事だなオイ。まぁ、それは置いといて……。
「俺をただの人じゃなくて別の種族に出来るのか? 例えばエルフとか」
「エルフは正確には人ではないので難しいですね。他の人種、獣人族などなら問題ありません。但し、魔族はおすすめ致し兼ねます」
「魔族か。それは何故だ?」
「魔族は特殊で、他の人種とは関わらず、魔王が復活すれば基本従わざるを得ない種族です。場合によってはバランス崩壊に加担する事もあり得ます」
確かに普段から動きづらそうだ。魔王が復活したら従わなきゃいけないって……そう言う呪いでもかかってるのか?
そこまで魔族に固執しているわけじゃないしいいけどな。俺が興味あるのは……。
「この中で一番寿命があって、子供の時代が長い人種はどれだろうか」
「一番寿命が長い、ですか。であれば鬼人ですが子供の時代となると……あっ」
「どうしたんだ?」
「ええ、先程エルフは選択できないと言いましたが、その因子を継ぐ者、人とエルフの子であるハーフエルフにはなることが出来ますよ。その種族であれば雪中さんの希望を両方満たすことが出来ます」
ハーフエルフか。なるほどな、エルフって創作でもよく長命でいつでも若く美しいって聞くからな。
良いじゃないか、ハーフエルフ。出来れば長く美少女をやってたいしな。すぐ老いるのはゴメンだ。
「じゃあそのハーフエルフでお願いしたいんだが」
「はい、じゃあそれで……もう良いですよね?」
「なんか対応が適当になってきてないか?」
「まさか容姿でここまで拘る方がいるなんて思いませんでしたからね。他はどの方もそのまま人族として転生していましたし」
俺以外にもいるんだな。その転移者とやら。
容姿に拘らないなんてよっぽど自分に自信があるんだろうな。普通気にするだろう。
「では、時間がないので直ぐに特典の希望を受けたいのですが……」
「そこは適当に頼む。時間無いんだろ?」
「はい?」
身を守る力さえあればなんでも良い。俺は美少女にさえなれるなら、それで良いのだから。
「本当によろしいのですか? 今後の人生を決める重要な事なのですが」
「おういいぞ! 俺にとっての重要な事はもう決まったしな!」
「そうですか。欲があるのか無いのか分からない方ですね。では、ランダムに設定して……」
ランダムとかあるのかよ。本格的にゲームのキャラメイクだな。
俺は青髪の女神がやっている設定とやらを待った。
「――はい、これで終わりです。死んだ側からこの様な事をして頂いて申し訳ありません」
「いやいいよ。むしろこっちの我儘を聞いてもらって悪いな」
「いえ、此方としても手伝って貰う身ですので……」
随分腰が低い女神様だな。なんか胡散臭いけど俺が何か出来るわけでもなく。
ぺこりと一礼した女神はこほんと咳払いをする。
「これより転生を始めますね。調停者なんて言いましたけれど、まずは自分優先で大丈夫です。気負わずに頑張って下さいね」
「ああ、ありがとうな女神さん」
言われんでも自分優先で行かせてもらうけどな!
これが夢でないことを祈るばかりだ。前世? あんな世界に未練なんて無いですが何か?
こうして俺は異世界転生を果たした。