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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
19/181

出来る美少女は目だけじゃなくて鼻でも美少女を感じさせる

2018/05/02 誤字訂正

2018/11/24 会話表示修正

 ルマリ村入口のすぐ近く、レイは剣の訓練を行っている。

 いつもは一人だが、今日は父の知り合いである冒険者に稽古を付けてもらっていた。



「レイ、もう少し左足を前に出せ。……そうだ、基本はその構えから動くんだ」

「はい! ヨルアさん、行きますよ!」



 ヨルアはレイの父であるジナの後輩であり、冒険者歴12年の中堅どころだ。ジナと共にパーティを組んで依頼を受けたこともある。

 依頼を受ける時は槍を得物として使ってはいるが、先輩であり、師匠でもあるジナに憧れて剣も扱っている。これはヨルアだけでなく、ジナの豪快な戦いぶりに心を惹かれて同じ剣を握る冒険者も少なくない。



「むっ、いいぞ。以前よりも形になってきているな」



 レイはまだ10歳だ。本来であれば本格的な訓練はまだ早い。

 だが、レイは小さい頃からずっと父に憧れ、剣を振って振って振り続けている。7歳の時点で既にスライムを倒しているくらいだ。

 ダズや知り合いの衛兵からは無理をするなと念を押されているが、ジナからは「さっすが俺の息子だ!! レイ、ガンガン強くなってくれ。いつか俺と一緒に冒険しような!」と、止めるどころか後押しされている。



「やぁっ! ハァァ!!」



 訓練用の剣で攻撃、防御、カウンターと動きを体に覚えさせていく。

 刃の潰れている剣ではあるが、重さは一緒だ。レイの年齢からすれば重いのだが、それを感じさせない動きでヨルアの攻撃を弾く。

 ヨルアが大きい動作で剣を振り下ろす。それに対しレイは切り上げてカウンターを狙った。



「くっ……あっ!」



 その時、剣がスポンと手から抜けてしまった。少しして、剣が落ちる音が虚しく響く。

 元々ヨルアはギリギリ止めるつもりだったので無傷ではあったものの、レイはがっくりとして座り込む。



「レイ、大丈夫か?」

「はい、だけど……やっぱり駄目かぁ」

「そう気をを落とすな。剣の扱いは簡単に身につけられる物でもない」



 子供ながらに剣を振り回せるほど、父親譲りの力はあるものの、何故だか上手く扱えない。

 形にはなっている。だが、どうもしっくり来ないのだ。剣が偶に手から抜けてしまったり、いつもと同じ動きなのにも関わらず弾かれてしまう。

 剣にこだわっているわけでもない。他の武器を試したこともある。だが、最終的にスタンダードなロングソードが一番扱いやすかった。



「何がいけないんだろう。コツさえ分かれば行ける気がするんだけど」

「そうだなぁ。俺から見れば剣の持ち方も問題ないんだがな。いろんな奴に見てもらったほうが良いかもしれんぞ。丁度今、幽霊調査の依頼で何人か来ているからタイミングを見て声をかけてみるか」

「はい! じゃあさっそく行きましょう!」

「流石に気が早すぎるぞ!?」



 その後も、ひたすらに訓練を続ける。愚直な努力こそレイの美点であった。

 2年前に父の状態石で見せてもらったステータスも決して悪いものではない。



名前:レイ

情報:人間 男 8歳

体力:D

筋力:D

敏捷:E

魔力:F

知力:F

魅力:D

幸運:B

スキル:【剣術】

特殊スキル:【格致かくち



 8歳の時点で駆け出し冒険者の平均値を少しこえている状態であるのも、小さい頃から鍛えていたおかげである。

 その分、勉学が疎かになってしまっている。当然知識はあったほうがいいが、冒険者であれば多少読み書きできれば問題ない。

 特殊スキル【格致かくち】は、経験を積む毎にスキルの獲得率が上がる、スキルの精度が上がるという言わば能力早熟のスキルだ。

 レイが生まれた頃から持っており、そのスキルのおかげか、小さい頃からやっていた剣のスキルを既に会得している。


 一重に【剣術】と言っても、スキル所持したての者と、研鑽を積んでいる者では天と地ほどの差がある。

 スキルを所持しているというのは単純に「才能がある」というだけで、ただ持っているから高い技術があるというわけではない。



「もうそろそろ昼か。レイ、一旦休憩にしよう」

「はい、ヨルアさん。ぷはぁー疲れた!」

「ははは、あれだけ根を詰めていれば疲れもするさ。俺がレイくらいの歳だった頃は訓練どころか剣も握った事が無かったよ」



 レイは門近くの石段に腰を降ろすと、包みから昼飯のサンドイッチを取り出す。

 「お前は体を動かすんだから昼もちゃんと食べろ」と、ハナが作ってくれたものだ。たまごや豆が具になっている。

 ヨルアも横に座ると、レイが取り出したサンドイッチに目を向ける。



「お、美味しそうじゃないか。ダズさんに作ってもらったのか?」

「爺ちゃんはそういうの苦手だから。これはハナちゃんに作って貰ったんですよ」

「前に、レイが言ってた女の子かい? はは、レイもやるようになったな。女の子にサンドイッチを手作りして貰えるなんてなぁ。もう付き合ってるのか?」

「ちょ、そんなんじゃないですよ。ハナちゃんはなんというか……兄妹きょうだい? いや、姉弟しまい? みたいな感じです」



 自分でも良くわからない。だけど、ハナが家に来てからは賑やかで楽しい。苦手だったお肉もハナのお陰で今じゃ好物になりつつある。

 その後も、筋肉は休ませないと成長しないから適度に休めとか、体調崩さないように朝昼晩きちんと三食食べろとか色々気を遣ってくれて……うん、やっぱり姉だな、とレイは改めて思った。

 そんなハナに作ってもらったサンドイッチを口に入れる。美味しい。ゆでたまごを切ってパンで挟んであるだけなのだが、この素朴な感じが良い。


 ハナは物知りだ。ちょっと個性的な所もあるが、色々な事を教えてくれる。なぜか文字は読み書き出来ないけれど。

 もしかしたらハナなら剣について自分の何が悪いかがわかるかもしれない。今度見て貰おうか。


 ハナは面倒くさがり屋だからたぶん断られるだろうけど……料理当番を1日肩代わりしたら見てくれるだろうか。

 そんな事を考えながら食べていたらいつの間にか完食していた。もう少し味わえばよかったなとレイは少しだけ後悔する。



「すまないが、今日は早めに切り上げる。次の依頼は夜からの活動になるからな、少し休んでおきたい」

「はい、依頼を受けてる最中なのに付き合ってくれてありがとうございます」

「なに、気にしなくていい。俺もまだまだ未熟だしな。普段は魔物相手でも、非常時には人間相手もしなきゃならない。俺にも良い訓練になるさ」



 ヨルアは立ち上がり、腕を回しながら「そろそろ続きを始めるか」と、歩きだす。

 最近胃袋が大きくなってきたのかちょっと物足りないなーと思いつつもレイの気力は十分だ。剣を肩に担いでヨルアの後を追いかける。

 レイはその後もがっつりと稽古をつけてもらった。



















 飯を食った俺は庭へと向かう。あの植物の様子を見に行く為だ。

 庭へ出てみると、俺は呆然としてしまった。



(嘘だろ……何でもう花が咲いてんだよ)

(しかも、色が増えてますね。赤青黄色と、目がチカチカしますね)



 そのうち育ちすぎて家まで侵食してきそうで怖い。というかまた信号カラーかよお前ら好きだな信号。

 植物が俺に気づいて、話しかけてくる。



(おー早いなハナ。もう暇になったのか?)

(休憩中だ。それよりもなぜ花が咲いているのか説明して欲しいんだけど)

(それな。初めて人と話せて嬉しかったからうっかり開花しちゃった!)



 植物に刺激を与えると育ちやすいというのは本当だったのか。絶対ニュアンス違うだろうけど。



(お前、これ以上育つの禁止な。勝手に花を咲かせるな)

(無茶言うな!!)



 ずびしっ! と植物がツッコミを入れる。器用に柄の部分を動かして。

 コイツ……少しだが動けるようになってやがる。もう収拾つかんぞこれ。



(それで、オイラの名前決めてくれた? 朝からお預けくらってそわそわしっぱなしなんだぜ?)

(なんか名前つけたら更に手がつけられなくなりそうだから、名付けは無しの方向で)

(そんな酷い!!)



 酷いのはお前だ! 悩みのタネを増やしおって。花だけに。



(ハナ様、あれだけ頑張って考えたのに良いんですか?)

(セピア、余計なことは言わなくてよろしい。どうせ名前付けるならちゃんと付けてやろうと思っただけ。別に頑張ってない)

(本当かセピア! なんだかんだでちゃんと考えてくれてたんだなぁ……これがツンデレって奴か)

(うるさいぞ植物)



 俺は空かさず蹴りを入れる。大体なんでツンデレなんて言葉知ってるんだ。

 植物はまぁまぁと、くねくね踊っている。植物の成長過程を倍速で見てるみたいで怖いというか、キモイと言うか。



(暴力は良くないぞハナ。花の匂いでも嗅いで落ち着けって)

(はーなんで花に諭されなきゃならなんのだ。花は花らしく無言で咲いていなさい)

(あの、あんまりハナハナ言うと訳がわからなくなるので早く名前を付けてあげましょう)



 俺もそう思った所だ。という訳で、早速付けてやろう。



助平すけべい、それがお前の名前だ。お前らしい良い名前だろ)

(え? マジで言ってる? ヤダ怖いさっきの根に持ち過ぎじゃない? ハナだけに)

(ハナ様、ちゃんと付けてあげましょうよ)

(冗談だよ冗談)



 別に根に持ってないし。下着にケチ付けられたからってどうとも思わん。



(じゃあ改めて……お前の名前はユーリ。ユーリだ。ちゃんと覚えとけよ?)

(お、おおお、覚えやすい上にちょっと格好良いじゃねえか。ユーリか……へへへ)

(良かったですね、ユーリさん)



 ユーリがめっちゃ揺れてる。どうやら喜んでいるようだ。

 単純に百合から取ったんだけどね。こっちにも百合は存在するのかな。



(ハナ、セピア。これで俺も名前で呼び合う仲になったわけだ……)

(大袈裟すぎない?)

(そんな事はない! ただのしがない植物だったオイラがここまで成長し、名前まで貰えるなんて夢にも思わなかった。何か手伝えることがあれば良いんだが……そうだ!)



 ユーリは、赤い花を俺に近づけてくる。



(こんなので悪いけど、受け取ってくれ! オイラこれくらいしか持ってないし!)

(まぁ花だしな……。でもいいのか? ぶっちぎったら痛いんじゃないのか)

(花は大丈夫だ。そっちで言う弱めの静電気でバチっと来るみたいな感じだから)



 静電気でバチっと来たことないだろお前。分かりやすい例えだけど。

 俺はユーリの赤い花を摘む。



「それにしても派手な花だな……む。これは――」



 甘い香りがする。花特有の甘い香りと……蜜か。見た目は派手だが、優しく慎ましやかな香りだ。



(ハナ様、どうしました?)

(この花、めっちゃ良い香りがするんだよ。なんつーか……まろやか?)

(気に入ってくれたならオイラも嬉しいぜ。ユーリ臭、良い匂いだろ?)

(その言い方やめて? なんか汚いもの嗅いでるみたいで凄い嫌だわ)



 もう一度、俺は花に顔を近づける。……本当に良い香りだ。部屋に置いておくと安眠できそうだな。いやまて? これ香水に出来ないだろうか。

 香水自体作るの案外簡単だし……うん、行ける気がする。

 問題はユーリがどれくらい花を付けられるかだな。結局これだけじゃ何も出来ないし。



(ユーリ、一つ聞きたいことがあるんだが)

(ん? なんだい? 何でも聞いてくれよ!)

(この花……というかユーリ自身、これからどれくらい育つんだ? 夏まで保つ?)

(ふふん、ハナの魔力水をずっと与えてくれれば枯れる気がしないぜ。花くらいなら毎日咲かせてやれるぜ?)

(マジか、でかしたぞユーリ)



 異様に成長が早いから期待はしてたんだが、願ったり叶ったりだ。

 ふふ、また一歩真の美少女に近づけるぜ。美少女から放たれるかぐわしい花の香り……素晴らしい。

 出来る美少女は目だけじゃなくて鼻でも美少女を感じさせることが出来るからな。よーし、めっちゃやる気出てきたぞ。



(うへへ、褒められるのは悪い気しないな)

(毎日ガンガン水をくれてやるからガンガン咲かせると良いぞ。ちなみに花は全回収する)

(マジかよ! ……別にいいけど、水はほどほどにしてくれよ? 流石に飲みすぎると、水分過多で枯れちゃうからな)

(わかった。枯れるのは困るからな、調子が悪くなったらすぐに言えよ? 俺がなんとかしてやる)

(えっ、何で急にこんな優しくなってんの? 何か裏があるの? 怖いんですけど?)



 そろそろ店番に戻らないといけないし、回収は後にしてまずはこの赤いのを調べてみるか。

 一応レイにも確認して貰おう。男から見てこの香りをどういう風に感じるか聞いておかねば。俺も中身は男だけど。

思い出したかの様にステータス表示。

今後もちょいちょい挟みますが、成績表とか健康診断の結果みたいなノリなのでそこまで出すつもりは無いです。

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