慰謝料代わりにボコボコにして溜飲を下げなければ
エデルが特撮の敵キャラみたいなデザインになってしまった。実際相対してみると中々に威圧感があるな。
(セピア、この世界にあんな魔物はいるのか?)
(いいえ。魔物とはまた別の生命体ですね)
生命体ねぇ。エイリアン的な見た目してるし確かにその名称がしっくりくるな。
(ハナ様。あれは、バランスブレイカーに為り得る危険な存在です。今ここで排しなければ――)
(セピアに言われんでも、あいつは叩きのめすつもりだ)
この俺に多大な迷惑をかけたからな。慰謝料代わりにボコボコにして溜飲を下げなければ。
エデルは歩きながら、俺の方を見る。狙いは俺か?
あまり化け物に見つめられたくはないので、リコリスに抱えられたまま俺は人形で攻撃を始める。
あんま人形を近づけたくないけど、魔法を使い過ぎて魔力を切らしてもしょうがない。
双剣を構え、エデルへと接近する。
「ちゃんと動き回れよーリコリス。俺が剣山で串刺しにならんようにな」
「……お主がしっかり鍛えていれば我が抱える事も無いのだがな」
「こんな時までお小言かァ?」
随分余裕があるじゃねえかと思いながら、エデルへと攻撃する。
白き輝きを放つ双剣が、エデルの防御した腕を斬りつける。
「ほう」
意外という様な声を出して、エデルは人形をはねのける。
少し抉れる程度には通用するみたいだが……これじゃ決定打に欠ける。
「その人形――『センテ監獄』に囲われている人形師の作品だな?」
「ほー、知ってんのか」
俺は全然知らんけど。どうやってぶっ潰すか考えつつ、俺は話を合わせる。
「彼も憐れだな。スキルを持っていると言うだけで自由に外も歩けず、まるで貴重品の様に厳重な檻へ閉じ込められるとは」
少し苛立ったように言い放つと、そのまま腕を振るって人形を弾き飛ばす。
流石に反撃は来ると思ってたが……それでも危なかったわ。射程外にすっ飛ぶところだったぞ!
「リコリス、お前の氷魔法でなんとかならんか」
「ケイカの風魔法の様に、はね返されるのが目に見えておる」
「ぐっ、……やっぱ近づいて攻撃しないと駄目か」
何て厄介な反射なのだ。どうにかしてあれを崩さないとまともに攻撃が出来ないぞ。
「ユーリ! 動き回りながら蔦で牽制しろ!!」
「任せろ!」
蔦で動きを封じられれば良いのだが、そう甘くはあるまい。
しかし、指咥えて見ている訳にもいかん。極力跳ね返されないような攻撃で、突破口を見つけるしかない。
「……」
ユーリから伸びる蔦を、エデルは無言で見ている。
そして、蔦が届く間もなく、エデルはユーリへ向かって直進し始めた。
「うおっ!? ちょ、まっ!!」
いきなり自分の元へと接近するエデルに、ユーリはたじろいでしまう。
「ビビるなユーリ!! 早く――」
俺が必死にユーリへと指示するが、その前にエデルがユーリの目の前へと到達する。
「精霊とて、死なぬ訳ではあるまい」
「何を――がァッ!!?」
エデルの蹴りがユーリの顔に刺さる。
破壊音を出しながら、建物の外へとユーリが吹き飛ばされた。
「ユーリさん!!」
「ケイカ、足を止めるな!! あの者から常に距離を取れ!!」
リコリスが叫びながら、エデルから距離を取る。
まずいな……モロに入ったぞあれ。俺はユーリに念話を送り安否を確認する。
(ユーリ!! 返事しろ!! ユーリ!!)
あれでやられるほどヤワではないと思うが、暫くは動けんかもしれんな。
(セピア、ユーリに声を掛け続けてくれ)
(承知しました)
あのガタイで一発KOとは……まだ防御したり回避したりするのに慣れとらんのだな。
今後はそれも教えて行かねばなるまい……生き残れたら、だが。
しかしあいつ隙が無いぞ。蔦を避けながらユーリへ接近する速さもあるとは。
う~~~~ん……リコリスが接近して抑えるしかないか。これ、俺が抱えられて足引っ張ってんな?
仕方がないので、俺はリコリスへ降ろす様に言った。
「リコリス。俺を降ろせ」
「ならぬ」
即答かよ。
普段は厳しい癖に、土壇場で優しくなりやがって。こういう時こそ、俺を突き放して欲しい物だ。
「……俺が心配か?」
「そうではない」
「じゃあなんだよ。この状況ならお前が近づいてボコるのが最善だろ。心配せんでも少しは走れる」
何だかんだ半年ほど毎日走ってたからな。こういう時に普段の鍛錬が生きてくるんですよ。
それに、あの剣山そこまで精度高くないしな。正確な位置で出せないんじゃないか? フリと言う事も有り得るが……なんにせよ、リコリスを自由にした方が勝率が上がるだろう。
「ホラ、さっさと降ろしな。そんであの白いのボコボコにしてこい」
「やれやれ……常に離れておるのじゃぞ。無理に射程を気にしなくても良い」
タイミングを見計らって――よし、行くぞ。着地と同時に俺は走り出す。
それと同時に、リコリスが着地した場所に剣山が生えてきた。
こえええええ!!!! こえーよやっぱ!!!! 何故、俺がこんな目に!!!!
「俺を倒す算段はついたか?」
「どうかの。このまま我一人で終わらせてしまうやもしれぬ」
「幻獣とて、国崩しの力には及ばぬよ」
リコリスとエデルが接近し、戦闘を始める。
プロテアとの組み合いとは打って変わり、エデルの激しい殴打をリコリスが捌いている。
拮抗……いや、リコリスが押されている。何発か体に入れられているな。
あのリコリスを押すとは。これはマジで早く決着をつけないとまずい。
(セピア、何かいい手は無いか?)
(あのプロテアが使っていた攻撃を逸らすスキル。あのスキルをまずどうにか抑えるべきです)
抑えられれば苦労しないんだがな。
(人形の剣が弾かれず、エデルに傷を入れた以上外殻の破壊は可能です)
(確かにな)
(回避と反射を使い分け、容易く反撃をしている風に見えますが。実際は、一度でも攻撃を受けると再起不能になる綱渡り状態な筈)
強めの攻撃一発入れればいいだけか。まぁ、人形の双剣以上の威力が無いと駄目だけど。
だが、その為にプロテアの能力と思われるあのスキルを何とかしなきゃいけない訳だが……。
俺が走りながらも考えていると、エデルが笑みを浮かべ話を始める。
「この体にも慣れてきた。幻獣よ、お前で試させてもらうぞ」
「何を言って――」
言い終える前に、リコリスが吹き飛ばされる。
エデルの方を見ると、脇辺りから腕が生え、4本腕になっている。
「幻獣、この程度で死んでくれるなよ?」
エデルの背から翼が生え、リコリスへと接近する。
(きも)
(あの姿。ラフィルの劇場に現れた異形の者と酷似しています)
(もはや人じゃないな)
それよりも、リコリスが立て直す前に近づかれたらまずいな。
援護するなら……やっぱナイフか。
でもナイフ如きじゃ効かなそうだなぁ。……いや、待てよ?
「おい。あんま調子に乗るなよ白いの」
俺は魔糸がついたナイフを数本投擲する。
一直線にエデルへと向かう。うむ、今日も俺の肩は絶好調だな。
「フン」
下らないとでも言うかの如く鼻を鳴らすと、軽くあしらう様に手で払う動作をする。
ナイフがエデルを避け、俺の方へと返ってくる。
「そんな邪険にするなよ」
魔糸は繋がったままなので、ナイフをエデルの方へと反転させる。
「ほう、便利なものだ。【人形遣い】と言う物は」
「俺もそう思う」
余裕かましてやがるので、ムカつくから俺も余裕を持って返事をしてやると、エデルの顔を狙ってナイフの軌道を変える。
皮膚が硬くても、顔面は柔い部分が多いからな。そこを狙ってやるのだ。
次回更新10/27予定