美少女は常に進化し繁栄しなければならない存在だからな
2024/9/22
更新日を9/29へ後ろ倒しにします。
申し訳ございません。
「……フッ」
少し間をおいて、男が思わずと言った風に笑う。
なんだこいつ人が真面目に話しているというのに。失礼な奴だな。
「それがお前の答えか」
「そうだ悪いか」
「いいや。回りくどい言葉より余程分かりやすい」
「今ので分かったんです?」
男は胸から手を離し、天を仰ぐ様にして上を見上げる。
話を最後まで聞いてやる義理は無いので、男を再起不能にすべく俺は人形を操り男へと近付く。
しかし、その途中で宙に浮いていた人形がぱたりと下へ落ちた。
「ああ? 一体何が――」
「人形遣い。『魔糸』と言う特殊な魔力放出で、無機物を活性させ自在に操る禁忌の能力」
バレてたか。まぁ知識があるなら、人形使ってる時点でバレるか。
だが、人形が動かないとはどういう事だ?
(ハナ様。人形と接続した魔糸が千切られています)
(げ、マジか)
(針で糸を切り遮断したと思われます)
気づかなかった。自分で切り離す時は分かるんだが、切られるのは初めてだからな。
魔糸、結構細いんだがな。技術と知識が無きゃ出来ない技だ。
「類稀なる力を持ち、精霊や幻獣を従える。まさに英雄と為りえる素質だろう」
「何、褒めてんの?」
「逆だ」
先程まで怪我をしても涼しい顔で話していた男が、初めて顔を顰めた。
俺を見る目が、嫌悪に満ちている。笑ったり怒ったり忙しい奴だな。
「それほどの力を持ちながら――何故、何も為そうとしない?」
「あー? どういう意味だ?」
「ストレチア国王も、魔導元帥も。何故、不変を望む? 何故、人の進化を妨げる」
いけないスイッチを押してしまった様で、顔を歪めながら男は次々に言葉を並べていく。
「進化も退化も世の常だ。繁栄しようが衰微しようが、それが運命ならば受け入れよう」
いや俺は受け入れんが。美少女は常に進化し繁栄しなければならない存在だからな。
「だが――停滞は愚陋だ。足を止め、世に居座り続ける醜悪な存在」
男は空に手を掲げた。
「俺の名は『エデル』。大国ベゴニアを滅ぼした繁衰の象徴足る破壊の神と一つになり、世に留まり続ける醜怪を排除する者だ」
男――エデルの体が変質を始める。
どう見てもヤバいだろアレ。さっさと止めないとマズい事になりかねないので、俺は急いで魔糸を人形へと繋げ直す。
「ハナさん!!」
「分かってる!!」
ケイカがサイクロンをエデルへと放つ。エデルはそれをまともに受け、吹き飛ばされた。
叩きつけられるような音が奥から聞こえる。
「追加のサービスだッ!!」
人形から光弾を放つ。バシバシと、何回も撃ち続ける。
物を破壊し風が吹き荒んでいるのも相まって、奥側は埃で全く見えない。
「直撃です。あれで無事な訳がありません」
「そうだが、そんなあっけなくくたばるか?」
ずっと組み合っているリコリスを確認しつつ、ユーリへ指示して慎重に近づいていく。
ケイカのサイクロンですら結構な衝撃だったから、流石にオーバーキルだったかと考えた直後に、奥から物音が聞こえた。
「ユーリ、離れろ!!」
嫌な予感が過ぎり、俺達は直ぐに後退する。
それと同時に、元居た場所から剣山が現れた。あの場にいたら全員串刺しだったであろう。
この様子だと、まだエデルは生きている。
「チッ、面倒な事になったな」
「どうするハナ」
「姿は見えねえが、場所は分かってんだ」
俺は人形を操ると、再び光弾を撃つ姿勢に入る。
「ケイカ、もう加減しなくて良いぞ。この屋敷をぶっ飛ばすつもりで撃て」
「良いんですか?」
「ああ。――リコリス」
一言、リコリスの名を呼ぶ。
プロテアと戦いを繰り広げていたリコリスが後退し、俺の元へと戻ってきた。
「お前もぶっ放せ」
「遺跡ごと破壊するつもりか?」
「ボタンが自由だと分かった以上、手加減する必要は無いだろ。あいつなら、ルーファ抱えて逃げられる」
「……そうか」
何か言いたげだったが、リコリスは俺の言葉に頷いた。
恐らく、騎士とかその辺を巻き添えにするのが嫌なのだろうが、あんな氷漬けにしても生きてるような連中心配するだけ無駄だろう。
「逃がす訳ないだろ……っ!?」
自由になったプロテアがこちらへと近付くも、動きが止まる。
いや、何かに引き摺られる様に後退していく。
「な、にが」
「ご苦労だったプロテア。もう眠ると良い」
「お前――っ!! 待てっ!! まだ僕は――っ!!」
言葉を紡ぐ前に、プロテアがエデルの元へと吸い寄せられる。
「ぐっ、この……!! くそっ、貴様等助けろっ!!」
敵である俺達に助けを求めてくるプロテア。幽霊(暫定)なのに生への執着が強いな。
「おいおい、この期に及んで命乞いか?」
「僕は、ここで終わる訳には行かない!! 僕にはまだ、やるべき事が――」
「まぁ安心しろ。お前も、あの男も一緒に葬ってやる」
「クソォォォッ!! 化けて出てやるからなぁっ!!」
もう化けて出てるんだよな。そんなツッコミも間に合わず、プロテアはエデルの元へと吸い寄せられた。
「リコリス。あれはなんだ?」
「分からぬ。分からぬが……今、ここで排した方が良いのは確かじゃな」
「それは、俺にも分かる」
未だ姿を見せないエデル。
だが、奥で生きているのは確かだろう。
「リコリス、ケイカ。特大のをくれてやれ」
「ではとっておきを」
「遺跡が崩れるやもしれぬ。ユーリ、逃げる準備をしておくがよい」
「マジかよ!!」
ユーリが驚きつつも、しっかりと俺を蔦で支えてくれる。
ケイカの角が薄く光っている。犀人は角に魔力を蓄えられるという話だが、その魔力も消費しようとしているのか。
それは良いんだが、俺を抱えながらそれを撃つのは辞めて欲しい。
「おいケイカ」
「……」
「せめて降りてから」
「行きますよ」
集中してたのか故意なのか、俺の言葉を遮りケイカは魔法を放つ構えに入る。
衝撃で人形が魔糸の射程から吹き飛ぶといけないので、すぐさま俺は自身の元へと引き寄せた。
「一切合切を吹き流せ――【サインバースト】」
ケイカが魔法を放った瞬間、俺の目の前に存在する全ての物が押されるように吹き飛んでいく。
風と言うよりは、濁流に飲まれたかのように全てを巻き込んで行く。
ぐっ!! 風圧が凄すぎて喋れん!! 正に特大の一撃と言うに相応しい魔法だ。
なんとか横目でリコリスを見る。続けて魔法を撃つ様に見えるが、何やら様子がおかしい。
「主よ!! 急ぎ魔法を斬れッッ!!」
「!!」
その言葉を聞き、魔断の剣へと魔糸を繋ぐ。
その直後、ケイカの放った【サインバースト】が止まったと思いきや、逆風となり俺達を襲う。
直ぐに俺は剣を正面に振り下ろした。
「ガッ!? ぐうううっ!!」
舌を噛みそうになりながらも、魔断の剣で風を斬った。
剣を振った場所を境に、風が二つに分かれ周りを吹き飛ばしていく。
「一体何が――」
俺が最後まで言い終える前に、俺はユーリごと吹き飛ばされた。
「くはっ!?」
宙に投げ出され、俺は魔糸を人形に繋げ直す。
何だ今のは。魔法を跳ね返したのか?
「リコリス!!」
考えている暇はない。俺が叫ぶと、リコリスがすぐに動き出す。
直ぐに俺の元へと跳び、空中キャッチをキメる。
「今のは?」
「跳ね返したというよりは、風の向きを逸らしてこちらへ方向転換させたような動きじゃな」
「それって、さっきのガキが使ってた技か」
奥から、パキリと木の板を踏む様な音が聞こえた。
煙の中に人影。大きさから言ってもプロテアでは無く、エデルだろう。
「なんとか、間に合った様だな」
全身白い皮膚に覆われ、爬虫類が二足歩行している様な姿。
もはや人では無く、魔物――いや、化け物の姿をしている。
「てめえ何しやがった?」
「見たままの事をしただけだ」
エデルと思わしき化け物が、指を動かすと同時に、リコリスが再び空へと跳ぶ。
その直後に、またも下から剣山。インチキだろこの技。地面にいられねえじゃん。
「ユーリ! ケイカ! 留まるな!! とにかく動き回れ!!」
吹き飛んでいた物の、ユーリもケイカもしっかり着地しており、俺の叫びと共に一斉に動き出す。
「前哨戦は終わりだ。この力、試させてもらうぞ」
エデルが、崩れ行く屋敷の中央へ堂々と歩き始めた。
次回更新9/22予定