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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
へちまくれの流浪少女
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大事な場面なので、珍しく凄い真面目な顔をしながら俺は宣言した

 俺達は建物の中へと入る。


 ここは……なんだ? 外から見たら荒れたお屋敷みたいだったのに、中は沢山の物が整理され置かれている。

 見た事もない調度品や、用途不明の道具。そういう物を集めるのが趣味なコレクターの家みたいだな。



「……とりあえず、針は降ってこないみたいですね」

「すげー、色んな物が置いてあるぞ」



 広めの建物とはいえ、入口だけでここまであると奥はどうなっているんだろうな。



「油断するな。いつ襲われてもおかしくないぞ」 

「ああ。これらはそいつぶっ飛ばした後で物色するぞ」

「たわけ」

「まずボタンさんとルーファさんを見つけないと」

「分かってる分かってる」



 あいつら、ここに居なかったらどうしよ……まぁ居なかったらその時考えるか。

 周りを気にしながら、建物の中を進む。

 

 へんてこな物ばかりだが、徐々にベッドの様な物や薬品の様な物が増えてきている。

 如何にも悪い実験してます的な感じの雰囲気だ。



「ここで魔物と人間配合したみたいな奴らを作ってたのかねぇ」

「うう、変な事言わないで下サイ」



 でも、こんな露骨なのあったらそうとしか思えないんだがな。

 そう思いつつ、更に先へ進もうとした時、奥から音が聞こえてきた。

 それと同時に、リコリスが氷をぶっ放す。



「いきなりかよ!」

「先手必勝じゃな。ここにいる以上、誰であれ敵じゃ」



 万が一ボタンとかだったら……まぁ、あいつならくらっても平気か。

 リコリスが放った氷魔法が、容赦なく建屋の壁を突き破る。やり過ぎると建物が崩れそうだ。



「婆さん、やり過ぎだぜ。オイラの出番無くなっちゃうだろ」

「ユーリ。いつでも動けるようにしておけ」

「え?」



 カツカツと、靴の音が正面から聞こえてくる。

 先程の攻撃をどう躱したかは分からないが、何事もなかったかのように近づく人影。


 小気味よく音を鳴らしながら、徐々に近づいてくる。



「……ほう」



 目の前に現れたのは、背が高い白衣の男。その男が、少し驚いた表情でこちらを見ている。




「騎士と聞いていたが、他にも居たのか」

「何をゴチャゴチャ言ってやがる。テメーがこの騒ぎの元凶か?」

「騒ぎ? 外の事は知らんが。ラフィルの襲撃の件ならば、そうかもな」

「!」



 どうも要領を得ない言い方だが、コイツが黒幕で間違いなさそうだ。



「それで、俺に何か用か?」

「まあ、色々言いたい事はあるが。まずは、ボタンとルーファ――お前の部下が誘拐した子供を返してもらうぞ」

「……ああ、検体の事か。俺もそいつらに会おうとしたんだがな。残念ながら、既に逃げ出した後だったよ」

「何?」



 その検体とやらがボタン達を指しているのか知らんが、既に抜け出していたとは。



「まぁ、運が良ければここから脱出しているだろう。それだけか?」

「そうだな。そいつがメインだったが、ついでにお前をとっ捕まえて衛兵へ突き出してやる事にした」

「……」



 白衣の男は表情を変えぬまま、俺の話を聞いている。

 とりあえず、ボタンとルーファがいるのはほぼ確定した。ボタンなら山賊程度問題無いだろうし、人質にされる心配も無さそうだ。

 で、あれば――



「そこまで話が聞けりゃ、てめーはもう用済みだ。やれ、ユーリ」



 俺が命令するとともに、ユーリが蔦を放つ。

 何本もの蔦が、白衣の男へと迫る。



「プロテア」

「はいはい」



 いきなり、男の後ろから少年が現れた。

 朱色の髪が特徴的なその少年が手を振るうと、目の前まで迫っていた蔦が跳ねのけられる。



「うおっ!?」



 その衝撃で、ユーリがバランスを崩す。

 俺もそのまま落ちそうになったが、ケイカが俺を支えてくれる。



「何やってんだユーリ」

「い、いや、あの子すげえ力だぞ。びっくりした」

「なんだあのガキは」

「あの子……」



 ケイカがじっとその男の子を見ている。



「どうしたケイカ」

「よく見ると透けてます。人では無いですね」

「なんか浮いてるしな」



 最初に出会った頃のケイカみたいな感じだ。ケイカは幽霊じゃなかったけどコイツはどうかな。



「おいガキ。邪魔するんじゃねえよ。今すぐここから消えるなら見逃してやる」

「黙れブス」

「あ? ……あ゛あ゛ん???」

「お前の様な無礼者は、このプロテア・ヴィザーク・ラウナが直々に処刑してやる」



 よし、コイツはおしおき決定。この世界で一番美しいこの俺をブスなどとほざいた事、一生後悔させてやる。生きてるのか知らんけど。



「あのガキは俺がやる。他は全員あのおっさんをとっちめろ」

「ここは狭いからのう。どちらにせよ混戦になるであろう」



 そう言いながら、リコリスは氷の槍を放つ。話をしながらさらっとヤバい魔法を使うな。



「このまま何もしなければ、僕は解放されるのでは?」

「その時は、お前も一緒に地獄を味わう事になるだろう」

「はいはい! 分かってるって! 全く……王族たるこの僕になんたる仕打ちを――」



 ぶつぶつと文句を言いながら、少年――プロテアは氷槍の前へと移動する。

 そのまま掌を前に向けると、氷の槍が上へと避ける様に方向転換する。



「ユーリくんの時と同じ感じですね。スキルでしょうか?」

「厄介だなー」

「ただ守るだけでは無いぞ!」

「!!」



 プロテアがこちらに急接近する。

 あいつ、透けてるから物とかもガン無視して一直線にこっちに来やがる。



「お前1人で俺達を相手しようなんざ100年早いわ」

「100年も生きていない子供が何を偉そうに」

「お前も子供だろ」

「無礼者が。王たる僕にその態度は万死に値する」



 俺に照準を定めたのか、直進しながら掌を俺に向けてくる。さっきの現象見るに、あの手はヤバい気がするな。

 人形を操り、プロテアへ向けて剣を振るう。



「っ! それは――!」



 直進したまま、体を捻ってプロテアは剣を避けた。

 よし。避けたって事は……攻撃が通じるって事だな?



「近づかせぬ」



 リコリスの掌底が、プロテアへ向けて放たれる。

 しかし、避ける素振りも見せずプロテアがリコリスへ向けて右手を向けた。



「フン、獣畜生が僕に触れられるワケ無いだろ」



 右手をふわりと撫でる様に振ると、リコリスが何かに衝突したように吹き飛んだ。



「リコリス!!」

「お前も吹き飛べ!」

「チィッ!! ユーリ!!」



 ユーリが蔦を使い防御を試みる。

 俺も人形でプロテアを攻撃するも、直前で何かに防がれた。



「また針かよ!!?」



 細い針が、人形の剣を弾いている。

 あの男、何かしやがったな!! なんか腕上げてるし!!

 


「ハッ、精霊の癖に頭が高いんだよ!!」

「オイラは大精霊だからな!! 王様よりも偉いんだぞ!!」

「ほざくな!!」



 謎理論でマウントを取りながら、ユーリはプロテアを迎え撃つ。

 プロテアが下から上に手を振り上げると、またしても蔦が弾かれ四方へと飛ばされる。



「ぐっ!?」

「これで――」

「させません」



 後ろから、ケイカが風魔法で応戦する。ユーリの真正面に強い突風が起きる。

 プロテアも、体を庇いながら後退している。どうやら、風魔法は有効な様だ。



「わぷっ!? おいケイカ!」

「あの子がレイスの類なら、魔法は効く筈です。ならば、範囲の広い風魔法に任せて下サイ!」

「それは良いけど、オイラ達も巻き込まれてるんだが!?」

「建物の中ですから。我慢しなサイ」

「うおい!?」



 普段はそこそこ大人しい割に、いざ戦闘になるとぶっ飛んだ思考になるなコイツは……。リコリスの教育がなっておらんな。



「リコリス!! いつまで寝てんだ!! お前がいないとケイカが暴走するぞ!」

「人を厄介者みたいに言わないで下サイ!!」

「自覚があるならもう少し抑えろ!!」



 俺の声が聞こえたのか、ぶっ飛んでいたリコリスが起き上がると同時に白衣の男へと迫る。

 男は防御の姿勢を取るも、リコリスの放つ掌底を防ぎ切れず、体を曲げて吹き飛ばされ、壁に激突した。

 プロテアは、焦るように白衣の男の方を振り向き叫ぶ。



「おいっ!?」

「ごふっ……問題無い。直に準備が整う」



 口から血を吐きながらも、冷静にプロテアへと返答する白衣の男。

 どうやら、状況を変える何かを隠している様だ。


 とっととぶっ倒して、使わせないのが良い。切り札を切らせずして勝つのが出来る美少女なのだ。

 リコリスはそのまま男へと接近する。このままリコリスに全てを任せたいところだが――やはりそうもいかんか。



「タフな獣だな。また吹き飛ばされたいのか」

「あの程度ではビクともせぬよ」

「強がるなよ」



 リコリスとプロテアが接近戦を始める。

 接近戦と言っても、リコリスの攻撃が通じない。こっちまで寒々しいほどの寒気を吐き出しているが、プロテアは意にも介さずひたすらリコリスを吹き飛ばそうとしている。

 リコリスはただそれを避け続けている。



「リコリスがあのガキの面倒を見てるうちにこっちから仕掛けるぞ。あの男をボコボコにして再起不能にしてやる」

「では、私の魔法で――」



 ケイカが言い切る前に、ユーリがその場から跳ぶ様にして離れた。

 元居た場所には、禍々しい紫色の針が刺さっていた。げぇ……見るからにヤバそうな針だな。


 男の方を向くと、胸を抑えて弱ってはいるものの、表情は笑っている。不気味な奴。



「この小賢しい針は、テメーのスキルだな?」

「ハァ……説明するのも億劫だ。そんな事より……」



 白衣の男は息を整えると、俺の方を向いた。

 ……なんだ? ジロジロと。 観察されている様で気味が悪い。



「幻獣に精霊。それに、その娘は一族皆消息を絶った犀人」

「犀人を知っているんですか?」

「そして、それらを従えているお前は、何だ?」

(無視された……!!)



 ケイカが勝手にがっくりしてる中、男は俺に向けて問いかけた。

 何だって言われても困るぞ。俺はボタンとルーファがさらわれたからここに来ただけだしなぁ。



「そんなに俺の事が知りたいか?」



 俺がそう返すと、男は無言でこちらを見続ける。

 最近の奴は無言で返すから、YESかNOか分からなくて反応に困るんだよな。

 仕方ないので、無言は肯定の意というていにして俺は話を続ける。



「じゃあ特別に教えてやる。俺はこの国、いや、世界で一番美しい少女――ハナちゃんだ」



 大事な場面なので、珍しく凄い真面目な顔をしながら俺は宣言した。

次回更新8/25予定

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[一言] 全く質問に答えてやる気がなくて草。
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