今回の事件を起こした元凶の顔を拝みに行こうじゃねえか
「……」
ルコの命令と、リコリスへの執念で葛藤するアウレア。
「今は雌伏の時です。いずれあのリコリスと言う者にも再び相見え――」
言い終える前に、アウレアの踵がサントリナの顔目掛けて放たれる。
「私に命令するんじゃねえよ」
「命令ではありませんが」
「私のやる事は私が決める。お前も、リコリスも。上から目線でウザいんだよ」
アウレアは踵をサントリナの顔の前で寸止めする。
サントリナは避ける素振りも見せず、正面を向いたままアウレアへと言葉を続ける。
「……私の願いはただ一つ。レギネ様に覇道を進んで頂きたい。その為には、この国が滅ぶ必要がある」
「あん?」
「貴方がその妨げになるのであれば、例えルコ殿の従魔であれ容赦はしません」
鋭い眼光が、アウレアを射抜く。
アウレアの尾が、ざわりと逆立つ。尋常ではない殺気が、アウレアを突き立てる。
(コイツ……本当に人間か?)
抑揚の無い、何にも興味無さそうな声であった。そんな目の前の男から、異常な殺意を感じる。
汗が頬を伝う。アウレアは命の危機を感じつつも、足をあげたまま威嚇を続ける。
「……」
両者とも無言で、睨み合いを続ける。
今この瞬間にも、殺し合いが始まりそうな緊張感が漂っている。
「……はあ」
先に、アウレアが足を下ろす。
「もういいわ。どいつもこいつも頑固なんだから」
(どの口が言うのか)
「元々、賊狩りしに来ただけだし。ムキになってバカみたい」
(ツッコミ待ちなのだろうか)
アウレアはサントリナから離れると、辺りを見回す。
内心引いているサントリナを尻目に、アウレアは口を開く。
「賊はもう倒したんでしょ? なら、ここにもう用はないわ」
「退いて頂けるのですね」
「お前の顔を立ててやるよ。今度邪魔したらマジでぶっ飛ばすからな」
アウレアは纏っていた炎を消すと、元来た道を戻り始める。
少し落ち着きを取り戻しているが、相も変わらず不機嫌な様子で小石を蹴飛ばしながら歩く。
そこへ、アウレアの正面から足音が二つ。
一つは先程のアウレアと変わらぬ、とても速いスピードで近づいてくる。
「追いついたわね」
「またテメェか」
地下深くの遺跡ですら、微かな光の反射で輝く見える鎧を見に纏い現れたのは壮美の騎士レギネ。
アウレアの前まで来ると、ふぅっと少し息を漏らし整え話を始める。
「時間稼ぎが上手ね。あんなにしつこく延焼する炎は初めて見たわ」
「テメェが雑魚だから時間かかっただけだろ」
「いきなり何処へ向かうのかと思ったら、サンの元へ案内してくれるなんてね」
奥に立っているサントリナを見て、安堵の息をつくレギネ。
「もう飽きた。帰るからどけよ」
「いきなり襲い掛かっておいて何を――」
「レギネ様。その者は放っておきましょう」
サントリナが、レギネの言葉に重ねるように口を開く。
それに驚いた様子で、レギネは答える。
「サン、珍しいわね。貴方が不穏分子を見逃すなんて。何があったのかしら?」
「この者が暴れれば、被害が更に広がると言うだけです。聴取は既に終えています。もう邪魔はしないとの事なので、そのままお帰り頂きましょう」
「……」
サントリナがそう言う物の、どこか違和感を覚えるレギネ。
それが表情に出ていたのか、サントリナが言葉を加える。
「賊の頭は既に取り押さえています」
「取り押さえ……凍ってるけど。サン、貴方氷魔法なんて使えないじゃない」
「後で説明します。なんであれ、無力化してますので残る残党を滅すれば任務完了です。しかし、未だ人質が見つかっておりません」
「人質ですって?」
レギネが眉をあげ、サントリナの言葉に反応する。
「ええ。その方は賊に誘拐された少女を救うべく、単独遺跡へと侵入してきたようです」
「ああ?」
アウレアがこれでもかというほど歯を見せて不満を露わにするも、サントリナは存ぜぬと言うばかりに話を続ける。
「以前よりラフィルから人がいなくなっている事もあります。カンザ殿やラフィル候の意向も考えれば、ここは賊の殲滅及び行方不明者の捜索が優先かと」
「だったら、そこの氷漬けになっている人に話を聴けばいいんじゃないかしら」
「この者はダメですね。会話を試みようと思いましたがまるで話になりません。レギネ様がよろしいのであれば一度解放しますが」
「いえ、いいわ」
レギネは剣を鞘へ納めると、アウレアを横切りサントリナの元へと向かう。
「お止めして申し訳ありませんでした。どうぞお帰り下さい」
「別に。かかってくるなら相手になってやるよ」
「いいえ。今はこちらを優先したいの。さっき襲い掛かってきたのは見なかった事にしてあげる」
「そうかよ」
それだけ言って、アウレアはサントリナとレギネから視線を切り歩き出す。
「レギネ様ー!! 待って下さーーい!! ってギャアアアアアッ!!!?」
「うるせえな、なんだコイツ…」
目の前に現れた途端、奇声を上げるビエネッタ。
アウレアは鬱陶しそうに横切り、その場を後にした。
俺達はアウレアとサントリナからなんとか逃げ切り、遺跡の最奥(恐らく)へと辿り着く。
天井も高く、奥側に大きな建物がある。ここが最後で間違いないだろう。
「おー、明るいやん」
道を抜け建物へと向かう中、ユーリがそういった。
確かに、さっきよか周りが見やすい。
「つい最近まで、誰かが居たという事じゃな」
「道中火も灯っていましたしね。こんな奥地まで来て何をしてたんですかねぇ」
ま、行けば分かる事だ。俺は言葉に出さずケイカと目を合わせると、頷き前へと進む。
ボロボロだが、所々歩きやすく瓦礫が掃かれている。リコリスが言っていた通り、人が居たのだろう。
少し寒いな。まぁ、地下だから当然か。さっきリコリスの氷魔法ぶっ放した時よりマシだ。
「あいつら、ここに居なけりゃお手上げだな」
「居なくても、くまなく探して見つけ出しますよ」
「そうだな……リコリス、何か感じるか?」
「ウム、あの建屋の中に何かおるのは分かるのじゃが」
正面の建物を指してリコリスが言うと同時に、無数の影が地に映る。
ユーリとリコリスがすぐに跳びその場を離れると、その場へ大量の針が降り注いだ。
「あぶねえな。俺はまだ鍼灸施術するほど、体衰えてねえぞ」
「そんな事言ってる場合ですか! また来ます!」
さらに追加で針が降ってくる。
数が多い。ケイカの風魔法じゃキリが無いか。
リコリスの氷魔法で防いでも良いが真上で氷割れると大惨事なんだよな。
とりあえず横へ避けられるので、ユーリに頑張ってもらう。
ぴょんぴょん跳ねて避けるも、執拗に針が降り注ぐ。
「どうすんだハナ!」
「うぜー針だな。何処から攻撃してやがるんだ?」
見た所金属の針だが、いきなり空から湧いてくる。なんかのスキルっぽいけど、考える暇がない。
周りに一カ所を除き遮蔽物が無い以上、外で迎撃するにも限度がある。
「建物の中へ避難しましょう!」
どう見ても誘導されてるし罠っぽいけど……動かなきゃ打開出来ないしな。
見た所、結構な高さから降らせてるっぽいし、建物の中なら湧かなそうだ。湧いて来たら最悪リコリスが全部凍らせるしかあるまい。
俺はケイカの言葉に頷くと、リコリスとユーリへ目を合わせる。
「行くぞユーリ」
「おう!」
リコリスとユーリは、針を避けながら建物へと向かう。
賊の頭目は氷漬けになったが……これを見る限り、黒幕は別なんだろうな。
さて、今回の事件を起こした元凶の顔を拝みに行こうじゃねえか。
次回更新7/28予定