また蹴り入れられないうちにスタコラサッサだぜ
今月から暫く更新を4週に1度とします。
行けそうな時は隔週にしますが。
肌寒い遺跡を急ぎ進むと、遠くに大きな氷柱が見えた。
リコリスが放った魔法の影響だろう。とんでもない威力だ。こいつが味方で良かったわ。
「ハナさん、あれ!」
「おお、見事に凍ってんな」
遠くで汪騎士サントリナと、なんかデカいねーちゃんが凍っている。
氷の中にいるので、当然身動き一つとれていない。
デカいねーちゃんが地べたに座って、サントリナが今まさにトドメを刺そうとしている様な形だ。
「よくやったぞリコリス。褒めてやる」
「……まぁ、頭は冷えたじゃろう」
「ん?」
ピシリと、氷柱から音がした。上側から氷柱にヒビが入っていく。
「……震動で割れたとかじゃないよな」
「あの騎士が力技で抜け出そうとしておるな」
「あれで動けるのかよ……」
全身氷漬けって事は、表面だけじゃなくて心臓とか全部止まってんだぞ。どうやって動いてんだよ。
つくづく前世の常識が通用しないな。
氷柱のヒビが大きくなったと思いきや、すぐさま真っ二つに割れた。
中に居たサントリナが体が動く事を確認すると、こちらを向く。
「邪魔をしないで頂きたいのですが」
サントリナは冷たい視線と共に、そう言い放つ。
開口一番それか。こちとら死にかけてると言うのになんと自分勝手な奴だ。
「カンザ殿曰く、賊の殲滅中は誰一人中へ入れないとの事でしたが」
「私達の仲間がここに連れ去られてしまったんですよ」
「そうですか。……ヴィネア」
サントリナがその名を呼ぶと、ヴィネアが一歩前に出て頭を下げる。
「無事でなにより。報告をお願いします」
「私は単独でサントリナ様の捜索を。レギネ様とビエネッタは賊を探しつつ降っています。直にここへと到着するかと」
「では、この者の処遇はお任せします。暫くは動けないでしょうし、丁度良い」
目の前にいる氷漬けの女の前から離れると、俺達の方へと歩いてくる。
何するか分からんので、人形をいつでも出せる様にしつつ俺はサントリナへと話しかける。
「騎士様、私達はこの先へ進みたいのです。邪魔するつもりはないので、通してもらえませんか?」
「許可出来ません」
即答かよ。
「でも……」
「この討伐は国王が直々に下された決定です。それを阻害するならば、例え民間人と言えど容赦はしません」
表情は変わらないが、どこか冷めた様な視線が俺を刺してくる。
やれやれ、融通が利かない兄ちゃんだな。そういうのは現場で適当に話合わせて黙っておきゃあ良いんだよ。
と、言える筈もないのでこれは困った。
騎士様にたてつく訳にも行かないし。ヴィネアもあっち側だろう。同伴していた姫騎士ちゃんがいたら良かったんだが。
そもそも、許可得てるとは言えこっちが勝手に入ってる様なもんだしカンザの名前出してまでごねるのもなぁ。
ただ、退くという選択肢は有り得ない。最悪お尋ね者になるが、ボタン達の事を考えれば天秤にかけるまでも無い。
リコリスに目配せをして、押し通ろうと思ったその時。
「リコリス――ッッ!!」
げ、もう復活しやがった。暫くは放心してると思ったが立ち直りはえーな。
「今の声は?」
「件の話に出た狐人です。名を『アウレア』と」
「ああ……そうですか」
ここにきて、初めてサントリナは表情を歪める。
何とも気だるそうな、不快感を露わにした。
「私が抑えますので、貴方達は直ぐにここを出なさい」
「いやあ、そうもいかないと思いますが」
「それは――」
何故だと問う前に、アウレアがリコリスへと蹴りを放つ。
分かっていたのか、リコリスもそれを両腕で受けた。
「アウレア、今は退け。お主とてここではまともに戦えぬであろう」
「退けるかッ!! 偶然だとしても、アンタから逃げる訳には行かないのよ!!」
「アウレア――ッ!!」
リコリスが言い聞かせる様にアウレアへと話しかけるが、聞く耳持たぬと言った風にアウレアは蹴りを放つ。
その蹴りを、今度はサントリナが受け止めた。
「貴方でしたか」
「そこをどけ、汪騎士」
「ここは私の管轄です」
燃える炎の蹴りを、涼しい顔で受け流している。分かっていたけど、やっぱこいつ相当強いんだな。
「よし、良い感じに面倒事と面倒事をぶつけて対消滅出来そうだな。じゃあちゃっちゃと行くぞ」
「良いんですか? 絶対後で怒られますよ」
「良いの良いの。アウレアが怖すぎて逃げずにはいられなかったとか適当にでっち上げとけばいいんだよ」
「聞こえてんだよクソガキッ!!!」
おーこわ。また蹴り入れられないうちにスタコラサッサだぜ。
「やーん、こわーい!! 怖いから奥に逃げるぞ!!!」
(雑だなぁ)
ユーリに突っ込まれながらも、俺達は奥へと駆ける。
リコリスも何か言いたげだったが、そのまま後を付いてくる。
「もう邪魔する奴は賊だけだな。見つけ次第ぶっ飛ばしても問題あるまい」
「そうですけど、出る時どうするんですか?」
「その時考える」
後の事は後の俺に任せる。
どれくらい深いか分からんが、賊如きがそこまで深い場所いるわけないだろうし、そろそろ親玉に出会えるだろ。
後ろで戦いの音が鳴り響く中で、俺達は更に奥へと進むのだった。
「鬱陶しい、早くどけ!!」
「頭を冷やしなさい。ここで暴れるのは悪手ですよ」
アウレアの蹴りを避けながら、サントリナが説得を試みる。
ここでアウレアが問題を起こせば、半年後の計画に支障がでるやもしれない。
サントリナは内心そう思いつつ、ヴィネアへと指示する。
「ヴィネア。狐人は私が取り押さえますので、先程奥へと進んだ者達を止めてきなさい」
「ですが――」
「彼らが善人と言う保証はありません。万が一賊を取り逃せば、また被害が出る。確実に悪の根を断ち切らねば」
凍り付く様な声色で、サントリナは言った。
ヴィネアがサントリナと出会った時から、その冷徹な性格は変わらない。
だが、この声はどこか熱を帯びた様な、いつもと違う雰囲気であった。
「……承知しました」
とはいえ、騎士の命には逆らえない。
違和感を覚えながらも、ヴィネアは奥へと走っていく。
「――さて、アウレア殿。ルコ殿の言葉を忘れたのですか? あれほど問題を起こすなと言われていたのに」
「あいつ等の方から来たんだろうがッ!!」
ハイキックと共に返答するアウレアを、剣の腹で受けるサントリナ。
「あんたこそこんな所で何してんのよ。あんな街、半年後には消えるんだから放っておけば良い物を」
「レギネ様の威光を示さなければなりませんので」
「相変わらずワケ分からねえ騎士だな」
二言目にはレギネの名を出すサントリナを、アウレアは以前から不気味がっていた。
そもそも、なぜ騎士が仕える国の滅びを望むかが分からない。
「あの者達が、貴方とどういう関係かは存じませんが。王都付近での揉め事は避けて頂きたい」
「テメェの指図なんか受けるか」
「貴方が暴れれば、ルコ殿の悲願も叶わなくなるやもしれません」
頭では理解しているが、感情が制御出来ない。
まずはリコリスを打倒しない事には、自分の新しい人生を始められない。
そんな衝動染みた感情が、アウレアを突き動かしている。
次回更新6/30予定