美少女の俺が扱うにふさわしい双剣となるのだ
2024/5/30 ヴィネアの名前が間違っていたので修正しました。
前門の虎後門の狼、ならぬ狐。取り合えず目の前から襲ってくる濁流を何とかしなければ。
高台の様な場所はない。まぁ地下だしな。となれば、塞き止めるか壁作って一時的に安置作るかだな。
「ユーリ、土魔法で分厚めの壁作れ」
「えっ、水に流されちゃわない?」
「今できる全力でやれ。早くしないと間に合わんぞ」
「わ、分かった!!」
直ぐに破壊されるだろうが、考える時間くらいは稼げるだろう。
その間に後ろのうるせー狐と、前方にいるイカれてる騎士を何とかしないとな。
「ああ、円弧させた方が良いぞ。そっちの方が圧力逃がせるし」
「どんな感じ?」
「こう、わっかを半分にした様な形だ」
体いっぱいに表現してやると、正面に向き直りユーリは魔法を使い始める。
ユーリの魔法で、土の壁が構築されていく。うむ、雑だがちゃんと言った通りの形になっているな。
厚めではあるが、流石に水の勢いが強いので長くは持たないだろう。
「おいアウレア。ここ出るまで大人しくするってんなら入れてやってもいいぞ」
「上から目線で言ってんじゃねえよガキが。そのヘボい壁ごと、私が潰してやるよ」
そう言って、自分がピンチだってのに俺達に火魔法を放ちやがった。おーおー、面倒くせえヤツ。
「仕方ねえな。見せてやる、俺の新しい力をな」
格好良く決めつつ、魔糸を更に人形へと繋げる。
魔糸を更に繋げる事で、人形のギミックを更に引き出す事が可能なのだ。
流石人形遣いのスキルを持ったジジイが作っただけの事はある。自分で使う為に作ったのではなかろうか。
「後ろは俺が止める。ケイカは風魔法で壁にぶつかってくる水を極力――」
「もごもご」
「いや何言ってるかわかんねえから」
と言うか、俺が降りればいいか。
ユーリから飛び降りると、俺はアウレアと対峙する。
「ハナ、私が援護する」
「ヴィネアさん」
言うと同時に、アウレアの火玉をかき消した。
火玉を下から斬りつける様に短剣で突く。どっかでみたような動きだ。
……ああ、ガーベラが同じ事やっていたな。もしかして、親族だろうか。
ま、今は良いか。それよりも――
「リコリス」
「……」
「やれ」
少し真剣な声色で、リコリスへ指示をする。
リコリスも理解をしたのか、冷気を纏い魔力を放出している。
「これ、は……っ!」
「この辺でぶっ放すのはまずいが、水魔法の発生源なら問題ない。リコリス、全て凍らせてしまえ」
リコリスは、片腕に魔力を集中させている。
パキパキと、リコリスの周りが凍てついていく。
「リコリス――!! テメェの相手はッ!!」
「お前じゃねー座ってろ」
「ッ!!」
人形が、アウレアへと迫る。
先程よりも俊敏になり、二振りの剣は魔力を帯びて光り輝いている。
その剣をアウレアに向けて振ると、大きく仰け反って回避する。
「にしし、受け止めないのか?」
「チッ!!」
舌打ちをしながら、アウレアは更に距離を取る。この剣のヤバさに薄々気が付いている様だ。
そう、この剣は魔力を流すと切れ味が増す。色も青白く輝き壮麗な美しさを纏う。美少女の俺が扱うにふさわしい双剣となるのだ。
アウレアが避けながら此方へ攻撃を加えようとするも、人形が更にそれを上回る。
蹴りを放つアウレアとすれ違いざまに、人形が剣で斬りつける。
かすり傷がついたアウレアは、俺を睨みつけながら叫ぶ。
「このクソガキがァ!」
「盛ってるところ悪いが、そろそろタイムアップだぞ」
「!!」
ドドドッ、と大きな音を立て荒れ狂う水。濁流がすぐそこまで迫っていた。
ケイカはユーリの蔦で持ち上げられ、上側から濁流へ向けて風魔法を放つ。
「暴風砲火!」
目の前まで迫っている水へ、突風が襲い掛かる。しかし、意を介さぬ様に水は土壁へと激突した。
焼け石に水……ではある物の、無いよりはマシ。
実際、壁は水を受け止め、一部を塞き止めている。
「うおおおお!? ハナ!! ハナ!! これヤバい!! すぐ壊れちゃう!!」
「気合入れろ、お前が待ちに待っていた活躍の時間だ。あと1分は持たせろ」
「オイラが望んていたのはこんな活躍じゃなーい!!」
必死に足元をずりずりと掘る様に前足を動かし、土魔法を行使するユーリ。
壁を避ける様に、濁流が横を流れ抜けていく。
「ぬうっ!! ぐううううっ!!?」
アウレアが端に移動すると、流されまいと壁を掴み必死に抵抗している。
今攻撃すればやれそうだが……いや、人形の射程外か。光弾撃っても良いが、周り破壊して崩れたらまずいか。ただでさえぶっ壊れかけてる所に水攻め受けてるのに。
俺は警戒しつつも、リコリスへと話しかける。
「リコリス。被害は気にするな。頭冷やしてやれ」
「心得た」
リコリスは高く飛び上がると、右腕を前に出し構える。……おお、指が狐さんのジェスチャーっぽくなってる。
狐の様な形……もとい、つまむ様な形に構え、手の先に小さな氷が添えられている。
「しっ」
リコリスは口を閉じて息を吐く様な声を出し、指先の氷を射出する。
テニスボールよりも小さい氷の玉が、一直線に遺跡の奥へと飛んでいく。
「一気に冷えるぞ。衝撃に備えておけ」
「一体何を――」
ヴィネアの言葉が終える前に、奥からビュオンと風のきる音が聞こえた。
その後、吹雪の如き強烈な寒気が奥からなだれ込んできた。
「さっぶっ!!? 馬鹿お前やりすぎだっつの!!」
「お主がやれと言ったのであろう。大元ごと凍らせるには大量の冷気が必要だからの」
「ボタンさん達は大丈夫ですかね?」
「安心せい。ボタンであればルーファを庇いつつ防げる」
こいつと一緒にいると定期的に冷えるから、簡単に着れる上着が必要だな……。
「ハナ! もう無理! 限界!」
「そのうち収まる。もう少し辛抱せい」
「え?」
そう言った直後、水の勢いが弱まっていく。
元が凍り付いたから放出されなくなったって事か?
「ふいい……助かったぜ婆さん」
「気を抜くな。後ろにアウレアがまだおるぞ」
一応警戒してはいるが、なんか大人しいぞ。
こっちを見てはいるものの、様子見てる感じだろうか。
「よし、今のうちに進むぞ。ちょっと寒いけど」
「直ぐに収まる。直ぐに向かうぞ」
「……あの、リコリスさん」
「安心せい。少し凍ったくらいじゃ死にはしない。いや、騎士自身は無事かもしれぬの」
何か言いたげなヴィネアだったが、リコリスが遮る様に言った。
まぁいきなり探してた騎士氷漬けにしたらビビるよな。でもな? こっちが危険な以上仕方ないねん。
普通に考えて人は凍ったら死ぬんだけど……まぁこの世界頑丈な奴いっぱいいるし、気にしない。
「じゃあ行きますよユーリさん。ほら、ハナさんも」
「ケイカは元気だなぁ」
「あんま活躍してないしな」
「は?」
「いや、だっていつもパッとしない……いだだだっ! 毛を引っ張るな!」
「ケイカ、遊んでる場合じゃないぞ」
ユーリも言ってやるな。結構マジに気にしてるんだから。
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