不敵な笑みを浮かべる美少女は尊いな
後ろから迫りくるアウレアの攻撃を適度に避けながら、良い感じの場所まで突っ走る俺達。
こうしてみると、なんかボス戦前のアクションゲームみたいだ。
「言うてる場合か! ハナは乗ってるだけだけどオイラは必死なんだぞ!!」
「頑張れ、俺の射程圏内に入ったら援護してやる」
「それって追いつかれた時じゃ――」
後ろからまたしても熱気が迫る。
それを、俺は人形の光弾で相殺した。
「めんどくせーやつ。おいリコリス、お前の氷魔法で足止め出来んのか」
「相性が悪い。以前の戦いを見ていたであろう? 直ぐに溶かされて足止めにもならぬわ。魔力の無駄じゃ」
「ケイカの風魔法は……やめておいた方が良いか」
「なんでですか!」
ユーリに乗ったままだとこっちの反動もデカいんだよ。後、派手にぶっ放されても困る。
アウレアが既にぶっ放してるけど。あいつ、マジで道連れにするつもりか?
段々と攻撃の間隔が短くなってきている。もう近いな。
「結構なスピードなのに追いついてくるのか。というか、この遺跡広すぎんだろ」
「地下都市と呼ばれていただけの事はあるのう。少しずつ下っておる様じゃな」
上から落ちて来たのに更に下へ下へと進んでいる。戻る時大変そうだ。
そんな事を思っていると、後ろから、聞き覚えのある女の声が響く。
「リコリスーーーーーッッッ!!!!」
やたらドスの利いた声で、アウレアがリコリスの名を叫ぶ。
「色気のねえラブコールだな。お前が旦那落とした時の台詞を教えてやれよ」
「たわけ。ふざけている場合か」
それほど気にしてない様子なので、取り合えずリコリスがアウレアに固執する事は無いだろう。
俺はケイカに抱き着く様に、くるっと後ろへと向いた。
「わぷっ!? ハ、ハナさん!?」
「見えないと迎撃出来ん。少し我慢しろ」
俺の顎をケイカの頭にのせ、良い感じに固定する。
「よーし。迎撃準備完了! ユーリ、安全運転を心掛けろよ」
「安全運転て何!?」
「ハナさん、手伝おうか?」
「いえ、大丈夫ですっ! 走ってるだけでも体力使うでしょうし、ここは私に任せて下さい!」
ヴィネアは頷きつつも、こちらの様子を窺っている。
ま、こんな小さい子が戦えるとは思えんだろうしな。
そのやり取りを終えた直後、炎を纏ったアウレアが後ろから姿を現す。
以前はボロボロになって回収されてたけど、あの様子をみる限り完治しているみたいだな。俺は未だに傷が残っているのに羨ましい限りだ。
「久しぶりだなアウレア。怪我はもういいのか?」
「しぶといガキが。あのまま死んでおけば良い物を」
「お前の方が瀕死だったじゃねーか。ま、元気そうで何よりだ」
「フン、もうあんな小細工は通用しない。もうお前の出る幕じゃないんだよ」
「そう言うなよ。俺も成長したからな、以前の俺とは一味違うぜ?」
不敵な笑みを浮かべる美少女は尊いなと思いつつ、人形をアウレアの正面へと移動させる。
移動しながらの人形操作は面倒だな。まぁ、割とスムーズに動けるから良いけど。
「そんなガラクタ拾って良い気になってんじゃねえぞガキが」
「ただのオモチャと思っていたら、また胸に風穴空くぞ?」
双剣を握り、真正面から斬りに行く。
アウレアが飛び蹴りで人形を蹴り飛ばそうと試みるも、人形の力が予想以上に強かったのか、鈍い音と共に跳ね返される。
「チッ、どいつもこいつも面倒臭ェ」
「相変わらず短気な奴だ。そんなんじゃ他の人とも、まともに会話出来ないだろ。お前それで良く街の宿屋に入れたな」
「なんでテメーがそれを――」
言葉を終える前に、走るアウレアの横を人形が回転しながら斬りつける。
チリリと擦れる音が鳴り、足で迎撃したアウレアが少し下がる様に跳んだ。
いや、剣で斬ったら切れるだろ。なんで金属音がなるんですかね。
セピア曰く竜の素材が混ざってる剣なんだけどな。やはり幻獣は堅い。
「主よ、やはり我が――」
「お前がやり始めると止められる奴がいなくなるから駄目。せめて広い場所まで突っ走るぞ」
「リコリスッ!! またそうやって逃げるのかッ!!」
蛇が波状運動する様に炎が地を這い、リコリスへと襲い掛かる。
あくまでリコリスが目当てなんだな。
「お主が話を聞かぬから拗れるのであろう」
「どうせまともに話を聞く気がない癖に!」
リコリスが走りながら尾を振ると、冷気が地を伝い蛇行する炎を塞き止める。
「モガモガモガ」
「にひっ!? おいやめろケイカ。俺の胸元でモガモガするな、くすぐったい」
「ぷはっ!? 一言だけ言わせてくだサイ!」
俺の胸元で、額に怒りマークを付けたケイカがアウレアへと叫ぶ。
「そこの我儘狐娘!!」
「ああ? なんだテメェは」
「リコリス様は話し合おうって言ってるんですから、少しは聞いてくれても良いじゃないですか! そうやってすぐ人を傷つける様な真似はやめなサイ!!」
「チッ、今更説教なんて聞く気にも――」
突然、強風がアウレア目掛けて襲い掛かる。
それを躱すように横へと跳びながら、アウレアは目を丸くしている。
「アンタ、自分が今言った事を秒で台無しにしてんじゃないわよ」
「リコリス様はこれくらいじゃ傷一つつかないから貴方もセーフです」
「なんだこのイカれ獣人……」
凄いぞケイカ。あのアウレアを引かせている。俺も少し引いた。勢いで喋る子はあらゆる意味で強いんだ。
このままテン下げして引き上げて欲しい物だが、攻撃は普通に続いている。
そもそも、コイツの相手をしている場合ではないんだ。ボタンとルーファを探さないと。
「アウレア、お前も目的があってここに来たんだろ? ここは一時休戦と行こうぜ」
「ああ? 勝手に仕切ってんじゃねえぞクソガキ。直ぐに死ね」
「まーたそうやってすぐに死を懇願する! お前と一緒にいたルーファがここに誘拐されてんだよ。心配だろ?」
「誰だよ」
「マジかお前……一緒にラフィルに侵入したって聞いてるぞ」
「……ああ、あの痩せこけたガキか」
名前で認識してないのか。あいつやたら自分の名前主張するのに。
「ほら、今は争ってる場合じゃないからやめましょ?」
「私には関係ない」
「関係あるの!」
「なんで逆ギレしてんのよ!?」
コイツ、一々噛みつくから無駄話振ると長引いて時間稼ぎになるな。
このまま適当に話振ってやろうかと思った矢先、ヴィネアが何かを感じ取ったのか、険しい顔をする。
「っ!!」
「主よ……少しマズいぞ」
同じく、リコリスも少し顔を顰めている。
「どうした?」
「前方から広範囲の魔法が来る」
「は?」
俺の声をかき消すように、大量の水が前方から流れてくる。
いや、普通上から下に流れるだろ。なんで下から湧き上がってくるねん。
「あれはサントリナ様の水魔法。あの水魔法こそ、汪騎士と呼ばれる所以」
「やられる方はたまったものではないな。この量は、逸れたお主らに配慮すらしてないぞ」
「サントリナ様はそういう方。目の前の敵が逃れる可能性があるなら、迷わず全力で抑え込む」
「モガモガ、何ですか!? 前見えないから何が起こってるか分からないんですけど!?」
前方から濁流、後方から炎。なぞなぞやってんじゃねえんだぞ。
というか、前方から魔法が来るって事は少なくともそのサントリナって奴はいるんだな。
「リコリス、全部凍らせられんのか」
「出来るが、お主らも凍るぞ」
「ですよねーお前の氷魔法融通効かんもんな!」
「出来ぬことを言っても仕方あるまい。ユーリよ、ここが正念場じゃ」
「ええ! なんとかしてくれよ! 幻獣だろ!!」
「お主とて大精霊であろう。なんとか切り抜けてみせよ」
「嘘っしょッッ!!!???」
ここ一番の無茶ぶりである。頑張れユーリ!! お前が頑張らなきゃ俺も死ぬ!!
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