長めの反抗期だと思えば可愛いもんスよ
遅れてすみません!
俺達は遺跡を降りる様に進んでいく。
アウレアを避ける様にして進んでいる……筈だが、なんか物音が聞こえる。
ゴンゴンガンガンと連続で地へと何かを叩きつける様な音だ。
走りながら、ユーリがその事へと言及する。
「なあなあ、この音なんだ?」
「戦闘音じゃな」
「やたら暴れてますね」
「サラッと言うなよ……どうすんだ」
「どうするも何も、道は一つ。行くしかあるまい」
つーかリコリスのやつ、分かってただろ。耳良いし魔力感じ取れるし。
ま、ボタン達がいるかもしれないから本当に行くしかないんだけど。
そのまま、俺達はその音の鳴る方向へと進む。
少し開けた場所へと出る(と言ってもまだ狭いけど)。ここは……庭園だろうか。なんか噴水みたいなのがあるけど。
「ハナさん! あそこに!」
ケイカが指す先で、ナイスバディな犬人のお姉さんと腕と足が長い男が熾烈な戦いを繰り広げている。
ドコドコやってるのはあの手長足長おじさんか。なんかキモい動きで犬人のお姉さんへ攻撃を加えている。
どっちが敵だ……両方敵かもしれないが。
まぁ普通に犬人のお姉さんを援護だな。味方に違いないし。
「よしケイカ。あの変なおっさんにサイクロンをパなせ」
「いきなりですか!? サイクロンの範囲じゃ二人共巻き込んじゃいますよ! というか、女の人の方を援護するんです?」
「あの女性は味方だ。俺の勘がそう言ってる」
「また適当を言って……」
「黙れ! ドン!」
黙ドンをキメた所で、俺は人形を操りお姉さんの援護へと向かう。
ふふ……こういう時のハナちゃんは強いぞ。
「そこのお姉さん!! 援護します!!」
「っ!!」
少し驚いたような表情をしつつも、直ぐに切り替えて攻めに転じる犬人のお姉さん。
んー? 少し近づいて見てみると……ガーベラにそっくりだな?
戦闘中なのですぐに切り替えて、おっさんの方へと人形を近づける。
「死ね! 偽ダル〇ム!」
「うぎっ!?」
俺が二刀の剣を持った人形で斬りかかると、色々長いおっさんが素っ頓狂な声をあげ、跳躍して避ける。
かなり素早いな。こいつもなんかの魔物と混ざっているのだろうか。
ま、こっちの方が数が多いんだ。全員で仕留めに掛かるか。
「リコリス、やれ」
「お主、少しは本能のまま動く事を抑えられぬのか?」
俺は理性的に動いてるつもりなんだがな。
そんなお説教を言いながら、リコリスは氷槍を放つ。
数発の槍が男目掛けて飛ぶが、バッタの様に跳ねて避け、その場を離れて行く。
「おい逃げちゃうぞ。ケイカ、今こそサイクロンだ」
「待て主よ。逃げるなら放っておけ。我等は討伐に来た訳では無いのだぞ」
そう言ってるうちに、男の姿が見えなくなってしまった。何だったんだあいつ。
「それよりも、あの女の人ですよね。おーい! 大丈夫ですか~!!」
ケイカがそう言って手を振ると、犬人は警戒した様子でこちらへと話しかけてくる。
「貴方達は……」
「我等は怪しい者ではない。仲間が誘拐されたので連れ戻しに来ただけじゃ」
「リコリス様、いきなり言われても困っちゃいますよ」
「ムウ……そんなものかのう」
「……」
戦える時点で山賊討伐に来た騎士の仲間なんだろうけど、見た目はそれっぽくないな。軽装で黒っぽい服なのでアサシンみたいだ。
俺が観察していると、犬人が口を開く。
「失礼しました。私はヴィネア。山賊討伐に派遣された騎士の付き人です。ご助力感謝します」
「付き人?」
「世話役であろう。まぁ、それだけではない様じゃが」
「……」
「まぁまぁ、今は細かい事気にしないでまずはざっくり状況を説明しないと」
良いな、俺もこんな美人にお世話されてえよ。
犬人――ヴィネアに俺達の事情を話すと、あちらも簡単に説明してくれた。
騎士と共に4人で中へと突入したが、騎士の一人が敵と共に下へ落ちたと。
で、それの捜索及び賊の殲滅をしていたとの事だ。
「でも、ヴィネアさんまで離れたら危ないんじゃ」
「私は元々、単独の行動を主としているので。鼻も利きますし、問題ありません。直ぐにサントリナ様を見つけ、合流しなければ」
サントリナ。どこかで聞いた……ああ、昨日会った美形くんか。アイツも来てたんだ、
と言う事は、ブラキカムが言ってた騎士ってアイツの事か?
「敵と一緒に落ちたってかなりマズい状況なんじゃ」
「あの方であれば問題無く切り抜けるでしょうが……限度を知らないので遺跡を破壊される前に、速やかに見つけ出さなければなりません」
「そういう理由なんだ……」
俺達まで巻き添えくらったらたまったものではないぞ。さっさとボタン達を見つけ出して脱出したい。
ヴィネアに見かけていないかを聞くと、首を横に振って否定する。
「見てませんね。もっと奥へと連れて行かれたのかもしれません」
「そうですか……」
「主よ、先を急ぐぞ。後ろからアウレアが迫ってきている」
「マジで!?」
なんでアイツこっち来てんだ。まさか俺達がいるのがバレてるのか?
あいつキレやすいから言葉選ぶの大変なんだよな。
(ハナ様が挑発するからですよ。因みに、それが無意識だというなら尚更ダメです)
(オイ俺が言おうと思ってたことを先読みして否定するなよ卑怯だぞ)
おっと、言ってる場合では無かった。早くここから離れなければ。
ここはちょっと狭い。迎撃するならもっと広いとこじゃなきゃな。炎使うから暑苦しくて仕方がない。
俺がそんな事を考えていると、ヴィネアが困惑しながら此方へ尋ねてくる。
「どうしました?」
「気付かぬか? 我らが来た道の方から、熱気が迫って来ている。賊ではないが、我らの敵じゃ」
「……先程言っていた、冒険者達を一蹴してここへ侵入してきた狐人ですか」
「その狐人が迫ってきてるんです。結構厄介な火魔法で、逃げるにしても迎え撃つにしても、ここだとやり辛いので一旦離れましょう」
ただの山賊討伐だったのに、余計な事に巻き込んでしまったか。
まぁアウレアがなんでここにいるかは知らんのだが……リコリスと出会った時点で暴れるの確定してるからなぁ。
「では行くか」
「ヴィネアさん、走れます? さっき戦ってたし、疲れてるならこの子の後ろに」
「問題ありません。直ぐに離れましょう」
「よし、じゃあ行きましょう!」
にしし、可愛い犬人が一時的に仲間になったぞ。こんな時でなければ連絡先聞いていたところだ。
「犬人の娘。お主、鼻が利くと言っていたな。あてはあるのか?」
「はい。微かですが、サントリナ様のいる方角は把握しています」
「まずはそっちへ一緒に行ってみるか。人は多い方が良いし」
「……その、サントリナ様を頼るのはやめた方が良いかと」
昨日の感じだと人の話聞かなそうだもんな。そいつがブラキカムの言ってた汪騎士だったら猶の事だ。
ヴィネアが入れば敵対するという事はあるまい。それだけでも十分だ。
俺達は走りながら進み続ける。
ヴィネアもこの暗さなのに躊躇なく走ってんな。それも結構な速さだ。
「ヴィネアさん相当鍛えてますね。騎士もやれるんじゃないですか?」
「ん、そんな事ないよ……あっ、すみません。その様な事は……」
「別に普段話してる言葉で良いですよ。気にする人いないし」
「ごめんなさい。あまり人と喋らないから……」
男からいっぱい声かけられてそうな見た目だが、あんまり会話しないそうだ。
「ほう、そういう事か」
「どうしたリコリス」
「ム? いいや、何でもない。それよりも、油断するな。先程戦っていた男がまた襲って来るやもしれぬ」
はい出ました一人合点して後で答え合わせするやつ。そういうところだぞ婆さん。
「全く少しは素直になって――」
「――救世旋風」
俺が話してる途中で、ケイカがいきなり魔法をぶっ放す。
その直後、後方から炎の弾がぶっ飛んできた。
ケイカの魔法とその炎弾が交わり、轟音と共に相殺される。
「ぐっ!? いきなりかあのアマ!!」
「まだ視界に映ってないのに、いきなり撃ってくるなんて。関係ない人だったらどうするんですか!」
「随分狂暴な狐人。親の顔が見てみたい」
「……すまぬ」
「何故謝るんです? ……あっ」
少し思惟してから、ヴィネアがリコリスの耳や尻尾を見てハッとする。
「不遠慮でした。すみません……」
「気にしておらぬよ」
「まぁ、長めの反抗期だと思えば可愛いもんスよ」
俺がそう茶化した直後、炎の弾が後ろから更に数発、追随して飛んでくる。
「ユーリ!!!」
ユーリが、土魔法を展開する。
土の壁が幾つも出来上がり、炎の弾を塞き止める。
「あいつ地獄耳か?」
「本当に聞こえてそうなタイミングでしたね」
「主よ。余計な事は言うな」
何にしても面倒な事になったな。最初からぶつかった方が良かったか? まぁ、それは結果論か。
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