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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
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なんだか良くわからない花が咲きつつあるんだけど

2018/11/12 セピア会話等の念話表示修正ここまで。随時更新していきます。2章からは修正済です

 二週間が経った。爺さんの手伝いをしたり、外に出て店を見て回ったり、勉強したり特訓したり。あっという間の二週間だった。

 その中でも様々な発見があった。覚える事も多くて、秘密にしなきゃいけない事も多い。とても大変だ。

 おかげで美少女らしい事を全くしていない。美少女らしい事って何と聞かれても困るが。






 俺は朝から家の外にある小さめの庭にいる。小さいジョウロを片手にさくさくと庭の薬草に水をかけていく。

 土と水が多少整っていればどこでも生えるような薬草は自給自足が出来る。爺さんもしっかりとやれることはやっていたらしい。

 手入れも雑草があれば多少抜いてやる程度。農薬や肥料なんかは使わない。それほど高額の物でもないし、ちょっと手入れしてやればすくすく育つのだ。

 故に、誰にでも手に入るからそこまで希少価値はない。それでも育てているのは、需要が多いものを選別して家で育てておけば、火急の際に助かることもあるからだ。



(フハハハ、美少女の寵愛を受けるが良い雑草共)

(微塵も愛が籠もっていませんね)



 俺はひとつずつ、丁寧に水をかけていく。植物を育てるなんて小学校でアサガオ育てた以来だ。

 あれは大変だった。定期的に肥料をやって、ツルが伸びすぎたらカットしてやって、薬剤で害虫避けして。

 植物……いや、生き物ってのは育てるのが難しいと学べる大切な機会だった。

 感傷に浸ってしまったが、それくらいしか経験がない素人だ。薬草がどういう状態でどういう風に育てばいいか分からない。だが――



(セピア……なんだか良くわからない花が咲きつつあるんだけど、これがこの世界の薬草なのか?)

(いえ、私の知り得る限りこんな薬草はありません。明らかに異常です)



 毎日水やって適当に雑草ほっぽいてるだけなのに、どうしてこんな事に……。

 前までここに植えていたのは地味、だが力強く大地の恵みを感じさせるようないぶし銀の薬草くんたちだった。

 だが、現在俺が水をやっているのはいかつい葉っぱに派手派手しい赤や青い色の蕾を蓄えた南国っぽい植物だ。高校デビューしたヤンキーを見ている気分。



(恐らくですが……エルフの力でしょうね。彼らは自然と密接な関係があります。個人差がありますがこの世界の自然、大地、空気。それら全てを守護する力があります。言わば、星の守護者ですね)

(抽象的だな。星の守護者ってお前……えーっと、つまりどういう事だ?)

(今回であれば、恐らくハナ様が使用した水。何の変哲もない水でしたが、ハナ様が持ち、魔力を与えることによってその力が水に入ります。先程も言いましたが、エルフでも力は大きく差が出ます。ハナ様は比較的濃い魔力を持っているのでしょう、その水を吸った薬草が多少なり変異を起こしても不思議ではありません)



 全然多少じゃない気がするが、大体理解できた。

 俺は知らない間に水へ魔力を注ぎ込んでいたみたいだ。それを吸った薬草がえらいことになってしまった。守護する力の割には攻撃的な見た目になったなぁ。

 しかしこれはマズい。爺さんになんて言えば良いんだ。水やってたらプチ植物園出来ましたとしか言えんぞ。



(全部引っこ抜いちまうか。んで適当に薬草探してきて植え直す)

(それが一番かもしれません。ですが、恐らく土もハナ様の魔力が通っている可能性が高いです。通常よりも発育がよくなる程度で済めば良いのですが)



 成程、植え直しても無駄になるか。もういっその事どっかで安売りしてましたって言って爺さんに報告するか?

 この花が薬草に使えれば良いんだけど、この見た目じゃむしろ毒薬になるんじゃないだろうか。



(このままにするのもマズいし、バレないうちにぬきぬきしちゃうか。後で雑草と一緒に燃やしたる)

(少し可哀想ですが、仕方ありませんね)



 あんまり変なことして目立ちたくない。こういう所から素性がバレて大変になるんだ。

 俺は赤色の蕾を持った草の根本を持つ。茎がとても丈夫で持ちやすい。根っこもきっと丈夫なのだろう、俺は力の限り引っ張る。



「む! ぐ! ぐおお……!!」



 想像以上に丈夫だよ。抜けない。エルフの力はあっても筋肉は無いのだ。

 それから頑張ってみたものの、全然抜ける気配ない。完全に根付いてしまっている。



(もう切っちまうか。流石に茎が丈夫って言っても切れるだろ)

(ここまで力強く育つとは。よほどハナ様の魔力が濃かったのかもしれませんね)

(参ったなぁ。そんなつもりは無かったんだが)



 俺は雑草刈り用の鎌を持ってくる。さっさと処理したいので無意識に早足になる。ここは俺に任せっぱなしなのでレイや爺さんは来ないが、絶対じゃない。

 時間も無駄にしたくないしな。まだまだやる事はたくさんあるのだ。



(じゃあサクッと命を刈り取るか)

(また変なことを言って)



 俺はしゃがんで、茎に鎌を当てた。げ、土が服に付いちまった。んもう、さっさと終わらせたい。

 がりがりーっと景気よく刈り取ろうと思った矢先。



(ちょっと待ったーーーー!!)

「ひうっ」



 急に大声で静止される。突然の待ったにビビって、俺は尻もちをついてしまう。いきなりなんだってんだ。



(驚かすなよセピア! 俺、びびらせ系に弱いんだから)

(いえ、私は何も言ってませんよ?)

(ウソつけ、だって今凄い剣幕で)



 俺とセピアで言い合ってると、またも声が聞こえてくる。

 


(せっかくここまで育ったのに何て事してくれるんだ! この美少女の皮を被った悪魔!)



 念話か? 頭に直接罵倒が入ってくる。



(セピア、今の聞こえたか?)

(はい、私にも聞こえました。恐らくは――)

(何ごちゃごちゃ言ってるんだ! 引っこ抜くならともかく茎はダメだろ茎は! 全く最近の若者は――)



 セピアが言い切る前に、ガンガンと念話で罵倒を浴びせてくる。うるせえ……一体誰だこいつ。

 ごちゃごちゃ言ってるって、まさかこいつセピアの声が聞こえてるのか?

 念話には念話で。と言うことで俺は心の中で問いかけてみる。



(誰か知らんがごちゃごちゃうるさいのはお前だ。勝手に人の話を盗み聴きしやがって)

(誰か知らんがって、ひっでえなぁ。目の前にいるじゃんよ)

(目の前……って、まさかお前)



 目の前には変な植物があるだけだが……もしかしてこれが話しかけてきてるのか? ここじゃ以前の常識なんて簡単にひっくり返るしな。

 俺は立ち上がって土を払う。服が汚れてしまった、洗濯機無いから面倒なんだよな。朝から幸先悪いなぁ。



(ああ、この大きな蕾が目に入らぬか……って触るな触るな)

(まさか植物に意思があるとは。セピア、何か知ってるか?)

(はい、植物によっては人と同じ様に意思を持つ種族もいます。普通の人間では会話出来ませんが、高位のエルフはその植物と話が出来ると聞いたことがあります。恐らくハナ様もその力が在るのでしょう)



 植物とお話できるのか。これじゃ安易に道草も踏めないよ。踏まれるたびに怒られちまう。

 やっぱ茎へし折ったりすると断末魔とかあげるのかな。こえー。



(試しに折ってみるか)

(なんでだよ! わー何してんだやめろやめろ! こいつやっぱ悪魔だ!)

(ハナ様、可哀想ですよ)

(冗談だよ、冗談)



 俺は茎から手を離す。植物はふぃーっと口がないのにため息を付いた。



(冗談きついぜ。オイラせっかく意思が芽生えたのに早々死んでたまるか)

(茎へし折ったら死んじゃうのか。根っこがあればまたにょきにょき生えてくると思うんだが)

(死ぬ程痛いの! ショック死しちゃうだろ)

(割と繊細ですね……)



 そもそも植物って痛覚あるのか? と、考えるとキリがないから一先ず置いといて。

 困ったな、こうなると無理やり刈り取るのも気が引ける。かと言って放っておくのもな。

 俺が考えていると、不意に後ろから声をかけられる。



「わ、何この薬草!? こんなの見たこと無いよ」

「ひうっ」



 レイがいつの間にか後ろに立っていた。距離近っ! 思わず飛び退いてしまう。



「あはは、ごめんごめん。朝食の用意ができたよ」

「今戻る所だった。ありがとうレイ」



 どうやら飯が出来たようで、声をかけに来て来れたようだ。

 だが、非常にタイミングが悪い。どう言い訳すればいいものか。



「ハナちゃん、その凄い色した植物なんだけど」

「ああ、故郷の……花を植えてみたんだが大分元気に育ったよ。いつの間にか……いや、予想以上に早く育ったから元々あった薬草が無くな、じゃなくて、スペースがなくなっちゃって」

「いつの間に……ハナちゃんに任せてまだ10日ほどしか立ってないのに。一体何の花なの?」



 我ながら苦しい。なんとかして言い訳を考えておかないと。というかこれ一体なんなんだ。俺が聞きたいわ。この世界に存在する花なのか?



「まぁまぁ、飯が冷めちゃうだろ? 後でちゃんと話すから早く食べようぜ」

「そうだったね。昨日ハナちゃんが言ってた通り朝食はパンと目玉焼き、ベーコンだよ」

「絶対美味しいやつだそれ。飲み物が水しか無いのがマジで悔しい」



 とりあえず飯を食ってから考えるか。今日は店番だから店頭で適当に客の相手してればいい。

 そんな頻繁に人来ないしな。よく成り立ってんなこの店。

 俺とレイが家の中に入ろうとすると、あの植物がまた話しかけてくる。



(行っちまうのかい。せっかく話し相手ができたのに寂しいな)

(安心しろ、また後で来る。それまでにお前をどうするか決めておくよ)

(お! また来るんだ! 期待して待ってるぜ! ……えーと、お母さん?)



 思わずずっこける。レイにどうしたのと聞かれたが笑って誤魔化す。

 勘弁してくれ……なにが悲しゅうて色物植物の母親にならねばならんのだ



(俺はハナ。ハナでいい。というかハナと呼べ。絶対お母さんとは呼ぶな)

(オーケ、ハナね。自分も花だからややっこしいな。オイラにも名前つけてくれよ!)

(へいへい、後でな。考えとくよ)


 

 思わずそう言ってしまったが、果たして名前までつけてしまって良いのだろうか。いざとなったら捨てなきゃいけないかもしれないのにな。

 根っこから掘り出して別の所に埋め直すか? 面倒だなぁ。



(頼むぜー! あ、それともう一つ)

(なんだよ。飯を食いたんだから手短にしてくれよ)

(さっき尻もちついた時ちらっと見えたんだけど、女の子なんだからもう少しかわいいパンツ履いたほうが良いぜ!)

(……)



 俺は振り向きざまにダッシュし、スケベ植物の手前まで来る。



「スマーッシュッッ!!」

(ぐべぇっ!!)



 鮮やかな飛び蹴りが茎にクリーンヒットする。だが、奴の体はなんともない。相当頑丈なようだ。これじゃ鎌で切れるかも怪しいな。



(もうそのまま燃やすか)

(謝る謝る! オイラが悪かった! もう何も言わないから燃やすのだけはヤメテ!)

(経験則だが、案外楽に死ねるぞ)

(生きてるじゃん!? 飛び蹴りがキメれるくらい生き生きしてるじゃん!?)



 朝から頭痛くなってきた。そもそもコイツ目が無いくせにどうやって俺を見てるんだ。

 話してると疲れるので切り上げることにする。レイも突然の行動にびっくりしてるしな。



「ハナちゃん、いきなりどうしたの!?」

「俺の故郷では花が頑丈になるように、こうやって植物にストレスを与えてるんだ」

「大分アクティブで物騒な所なんだね」



 本当にふみふみして頑丈にする事もあるらしいから嘘は言っていない。

 朝飯前からハードな運動だった。肉体的には問題ないが精神的に疲れた。

 俺とレイは今度こそ朝食を食べに向かった。




 ……今日は新しく下着でも買ってくるか。無闇矢鱈に見せるつもりは毛頭ないが、見えない所も拘らなければ美少女とは言えないのだ。

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