元気いっぱいに仕事出来ましたっ!みたいなどや顔で答える美少女
ラフィルを出て、ロゼ遺跡へ向けてひたすらに駆ける。
まぁ駆けてるのはリコリスとユーリなんだけどね。
「んー?」
「どうしたユーリ」
ユーリが何かを感じ取った様だ。
俺達を乗せて走りながら、ユーリはその事を口にする。
「この先に、いっぱい人が倒れてる」
「倒れてる? 盗賊か?」
「どうだろ。武器持ってるって言ってるけど。後なんかデカいお爺ちゃんがいるっぽい」
「デカいジジイ?」
ユーリは植物の声を聞く事が出来る。聞くだけなら俺も出来るが、ユーリの耳の良さで遠くの方まで植物のガヤが聞こえるのだ。
植物の声自体が漠然とした内容だから、正確な物じゃないんだけどな。
「リコリース!」
「なんじゃ」
「ちょっと先行って様子見てこいよ。面倒そうなら避けて行くわ」
「嫌じゃ」
リコリスは言う事を聞かない! ジムバッチが足りなかったからチキショウ!
「お主、少しでも目を離すとまたどこかへフラフラ行ってしまうからの」
「そんなことナイナイ。ユーリに乗ってるし、ケイカも後ろにいるし」
「でも、倒れてるなら態々迂回するより、突っ切っても良いと思いますよ」
盗賊じゃなかったらそれはそれで大変ですし。ケイカはそう言った。
でもな、遠回りこそが最短の道だって鉄球使う人も言ってたんだぞ。
そんなこんな言ってるうちに、その場所へと辿り着いてしまった。ユーリがバイク並みの速さを維持できるから快適で仕方がない。
目の前には、確かに人が倒れている……が、倒れているというよりは休憩し、介抱されているように見えるが。
「この人達、冒険者ですね」
「ああ、さっきおやっさんが言ってた奴らか」
「恐らくの。お主らちょっと良いか!」
リコリスが声をあげると、冒険者らしき人達は一斉にこっちを見る。
即座に警戒態勢を取り、剣を構えながら此方へと叫ぶ。
「てめぇまだ居やがったのか!」
「いや、微妙に違うぞ。尻尾が三本ある。あの女の仲間か!?」
などと言っている。
誰かと勘違いしているのか、誰もが険しい顔で此方を見ている。
「待て!! その者達は違う! 剣を納めろ!!」
遠くから、ガタイの良い爺さんがこっちへと急ぎ足でやってきた。
あれは確か……ラフィルのギルドマスタ―か! 遠くから見ても分かりやすいな。
「いやすまん! 今さっき戦闘があったばかりでな。気が張っておるのだ」
「盗賊団と戦っていたのか?」
「いいや、いきなり獣人が現れ、襲われたそうでな。儂は別の所で待機しておったのだが、それを聞いて駆けつけて来た時には皆、地に伏しておった」
「ああ。そいつが狐人だったもんだから、つい警戒してしまった。すまない。」
後ろから、若い冒険者が謝罪をする。
ここでその狐人か。賊と言い、よく分からんキメラのバケモンの言い、狐人と言い。なんか問題が全部一つに集まってきてる気がするな。
やられたと言っても軽傷の様だ。ほんの一部が突破され中へと侵入されたそうで、他は無事だったので引き続き遺跡の周りを見張っている。
「内側を気にしていたから不意を突かれたよ。まさか外から襲撃されるとは」
「反省はまた後だな。手当が済んだら、君達はラフィルに戻れ。イージュにこの事を伝えてくれるか?」
ラフィルのギルドマスター、カンザがそう伝えると、後ろにいた冒険者達は申し訳なさそうにしながらも頷いていた。
軽傷とは言え、怪我したままの人をそのまま置いとく訳には行かない様だ。逃げてきた盗賊を相手にするかもしれんから、そりゃそうか。
「それで、君達は何しにここへ? その様子だと、今がどういう事態か分かって来ている様だが」
「それなんですけど、時間が無いので手短に話しますね。ケイカが」
「私ですか!」
「冒険者たるもの、依頼人への事情説明などスムーズに行わなければならないからな。これも訓練だ」
「面倒なだけじゃな」
「そんな事はなーい!」
という訳で、ケイカがラフィルで起きた事情を説明する。
カンザは驚きながらも、冷静さを保ち言葉を返す。
「ラフィル侯は無事なのだな?」
「はい、と言ってもハナさんしか見てないんですけどね」
「まぁ平気じゃねーの? あんだけ兵士に囲まれてたんだし。ちゃんと東区まで見送ったぞ」
「君、この間と性格が違わないか?」
「ラフィル侯爵様はご無事ですっ! 私も一緒に、東区までお連れしましたのでっ!」
「……そうか」
元気いっぱいに仕事出来ましたっ!みたいなどや顔で答える美少女。
凄いツッコミたそうだったけど、今はそれどころでは無いので我慢しているのだろう。空気読める爺さんだ。
「ううむ、儂らが見回っていた時はその様な少女たちは見ていないが」
「どこか別の場所に、入口があるんですかね?」
「無いとは言い切れんが……もしそうであれば、誘拐も派手に暴れずもっと上手くやるだろう。いくらラフィル侯の孫娘とはいえ、外へと出るタイミングは他にもある。わざわざ大衆の前で連れ去りはしないだろう」
カンザや、他の冒険者たちもボタンやルーファを見ていないという。
本当に遺跡にいるのか? でも、ここしか当てが無いんだよなぁ。
結局、行く事には変わりないのだ。
それをカンザへ言うと、案の定、渋い顔をする。
「出来れば事が終わるまで、ロゼ遺跡へ向かうのは控えて欲しい――が、そうもいかんのだろう?」
「そうですね。邪魔するなら突っ切ります」
面倒事は避ける性分だが、ボタンとルーファの事を思うと、こればかりは譲れない。
「ハナさん、そんないきなり……」
「カッカッカ。いや、良い。むしろ、冒険者として手伝ってくれるなら助かる」
「いや、私冒険者じゃ無いですけど」
「でも、後ろのケイカくんとリコリス殿は冒険者なのだろう?」
「まぁ、そうですけど」
「本当なら保護して避難してもらうのだが、自分から向かうというなら止めないさ。ただ、遺跡の中へ入るなら命の保障は出来ん」
少し脅す様な言い方だが、当然だろう。喧嘩も知らなそうな美少女が賊の根城に入ろうってんだ。止めるのが普通だ。
「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫です。私には仲間達が付いているので! ね、ユーリ!」
「お、おう」
(もっと嬉しそうに、俺を尊敬するような事を言え)
「流石ハナ!! そこに痺れる憧れるゥ!!」
ちょっと三下みたいな台詞だが、及第点だ。ほら、カンザも良い感じに驚いているぞ。
「君、喋れたのか……」
「ん? 喋れるよ? オイラはユーリ。宜しくな爺ちゃん!」
「う、うむ」
そっちかよ。そりゃまあ驚くだろうが。
「主よ。悠長に喋っている場合ではないぞ」
「そうだった。それで、通って良いんですよね?」
「ああ。体裁として、臨時的なギルドの依頼としよう。ラフィルから連れ去られた少女達の保護だ」
「お、何、お金くれるの?」
「まぁ、依頼となるからな。ついでに中へ侵入した狐人を捕縛出来ると良いが、あくまで最優先は先の件だ」
ラッキーじゃねえか。私事の用事済ませて金まで貰える。サイコーだな。
そんな疚しい事を考えていたのが伝わったのか、リコリスからありがたいお言葉を頂く。
「あまり浮かれるな主よ。今から向かう場所は危険なのだぞ?」
「分かっておる分かっておる。お主も我から離れるでないぞよ」
「全くお主は……」
呆れた様にやれやれと口に出すリコリス。
「カカ、仲が良い様だが、本当に気を付けてくれよ。脆い遺跡だ、崩れたら救助もままならん」
「はい、極力戦闘はせずにささっと済ませます」
「そうしてくれ」
盗賊自体は騎士が何とかするだろ。俺達はただボタンとルーファを見つけてそっこー抜け出すだけよ。
狐人が気にならなくも無いが……ま、出会っちまったらそん時考えるか。
「儂は彼らが戻ったら、再びここらの指揮へ戻る」
「ラフィルへ戻らなくて良いんです?」
「イージュが上手くやるさ。儂たちが浮足立っていたら、相手の思うつぼだろう」
元々カンザもラフィルに居るつもりだったが、思いの外冒険者たちが多かったのと、偶々、纏められる者がいなかった為に出てきたとの事だ。
「イージュは戦えぬからな。儂がやるしかあるまい。それに、君達の話だと手強いのがいるらしいからな」
「気を付けて下さい」
「カカ、そちらもな」
カンザと別れ、俺達は遺跡へと向かう。
もうすぐそこだ。これでいなかったら腹いせに盗賊全員ボコボコにしてやるからな。
次回更新3/10予定