ぴかぴかのぎらぎらです
「さて、酔いも完全に醒めた事だし。とっとと服を寄越しなッ!!」
リブラコアは正面から突っ込む。
まるで盗賊の様な事を口にしながら、二人の男へと襲い掛かった。
「オゴラ!」
「おうよ!」
オゴラと呼ばれた男が立ちはだかる。
4本の腕に力を込めて、リブラコアを見据える。
「はっ、腕生やして強くなるなら苦労しねえよ!」
軽快にリズム良くステップを踏み、オゴラの顔面に思い切りストレートを放つ。
その拳を、オゴラは二つの手で抑え込んだ。
「ぐうっ!!! くそ、お前ホントに人間か?」
「だからそれはこっちの台詞……うおっ!?」
腕を戻そうと試みるも、がっしりと拳を握られている。
そして、オゴラは残る二つの腕をリブラコアへと振り抜いた。
「がぁぁっ!?」
鈍い音と共に、リブラコアが壁へと吹き飛んだ。
教会の壁が破壊され、リブラコアは外へと放り出される。
「おじさん!?」
ルーファはリブラコアへと近付こうとするも、ボタンに遮られる。
もう一人の男――ルモロが近づいてくる。
「悪いなぁ。カシラから侵入者は全員殺せと言われてんだ」
「私達、貴方達に誘拐されたですよ!?」
「そうだったのか? でも、見た所自由にしてるし……抜け出して来たって事じゃねえのか?」
「頭悪そうに見えて割と察しが良いですよ!!」
ぎろりとルモロに睨まれ、ルーファはボタンの後ろへと隠れる。
「ま、俺等から物盗もうってんだ。死んでも文句言えねえよなぁ」
「いやいや、いらないんで帰して欲しいです!」
「駄目だ」
四つの腕で弓を番える。
ギリギリと引き絞る音が、弦の固さを感じさせられた。
その弓から、勢いよく矢が放たれる。
ボタンはそれと同時に足を上げた。
「んっ!!」
踵で押し上げる様に、矢を逸らす。
ギィンッ! と、擦れる音と同時に、教会の屋根へ矢が突き刺さる。
「ああ? マジかこのガキ」
「んふ」
そのまま、ボタンは駆け出してルモロの懐に入る。
矢を蹴り飛ばしたその足で、ルモロの腹部へ蹴りを入れた。
「いっ――てえだろ!!」
「うぎゅっ!?」
普通の人間であれば吹き飛び、内臓が損傷する程の威力を持った蹴りを、ルモロは受け止めた。
そのまま、拳を振り下げてボタンを頭上から殴る。
「ボタンさん!!」
ルーファが声をあげると同時に、黒い物体が高速で飛び跳ねた。
「うわっ!? なんだこいつ!!」
「んー」
「ちぃっ! 気持ちワリぃッ!!」
腕を思い切り振り払い、黒い物体――ボタンを吹き飛ばす。
ボタンは地面に落ちるも、そのまま再び人の姿へと変化する。
「ボタンさん!! 大丈夫です?」
「んー、かたい」
打撃では分が悪いと、ボタンは次なる手を打つ。
ボタンの影から、黒く巨大な手が現れる。
「な、なんだありゃ!? オゴラ! 手を貸せ!」
「おいおい、ガキ相手になに手こずってんだルモ――」
リブラコアへトドメを刺すべく近づいていたオゴラが他所を向いた瞬間、瓦礫が宙を舞った。
「やってくれたな4本野郎ッ!!!」
右腕があらぬ方向へひん曲がっているリブラコア。
もう片方の腕でオゴラの顔をぶち抜き、吹き飛ばした。
「だあーっ! くそっ! 腕がいってえ!!」
「おじさん!! 腕が折れてるですよ!! 無理しないで下さいです!!」
「ああ? こんなもんすぐ治る! お前は離れてろ!」
「治る訳ないです!!」
ルーファが叫ぶも、リブラコアは直ぐに追撃をかける。
顔面を殴られ、吹き飛ばされていたオゴラは態勢を直そうとするが、リブラコアが目の前まで迫ってきていた。
「ぐ、この……」
「顔は効くみてーだな!!」
「ぐぶっ!?」
更に顔へと拳を放ち、オゴラは更に吹き飛ぶ。
血を吹き出し、そのままオゴラは意識を失った。
「オゴラ!」
「だくらいず」
「ッ!!」
ボタンの【ダークアライズ】が、ルモロを襲う。
圧倒的な質量の前に、逃げ出す動作をする間もなく影の手がルモロを包む。
【ダークアライズ】の中で、ルモロが苦しみ藻掻く。
全身に圧力がかかり、歪に付けられた筋肉さえも破壊していく。
「うげ……おいルーファ、目ェ閉じとけ」
「うう……言うの遅いです」
酷い状態のルモロを見てしまい、グロッキーになっているルーファ。
「ったく、加減しとけよ。一応俺も殺さなかったんだから」
「ころしてない」
「そりゃそうだが……」
「はな、きらう」
そう言うと、【ダークアライズ】を解き、ボタンはルーファの元へと戻る。
リブラコアは、やれやれと言わんばかりに首を鳴らし、どかっと座り込む。
「そうだっ! おじさん腕はっ!?」
「もう治ったぞ」
「え?」
ルーファが近寄って確認すると、折れていたリブラコアの腕が綺麗に治っていた。
「どうして? さっきまであんな酷い状態だったのに」
「そりゃもちろん、俺のスキルが【回復術師】だからよ」
「そうなんですか? ……なんか顔がムカつくです。あんな心配したのに」
「顔がムカつくってお前な……」
キメ顔でそう言われ、ついそう言葉を漏らしてしまうルーファ。
「でも、さっきまで内緒にしてたのになんで教えてくれたですか?」
「隠し立てする必要は無いんだがな。だが、そんな大っぴらに出来ねえのよ。俺、【回復術師】だけど人を治癒させることは出来ねえし」
「え? でも自分の腕は治せたじゃないですか」
「自分だけだ。自分の体だけ治せる。悪い冗談だ、全く。これで【回復術師】とはなぁ」
どこか遠い目をしながら、リブラコアは虚空へと呟く。
「そうだったんですか……でも、無事で良かったです」
「そりゃどうも。で、ボタンは何やってんだ」
ボタンは、奥にあった数々の盗品をゴソゴソと漁っていた。
「あんな大技使っておいて、元気な奴だな。おいボタン、俺の服持って来てくれ。そこの……あー違う! もうちょっと右! いやいや行き過ぎ行き過ぎ!」
「むー!!」
「自分で取れば良いじゃないですか」
「ったく、仕方ねーな」
よっこいせと立ち上がると、リブラコアはボタンの元へ向かい、自分の服を取りその場で着始める。
がしゃがしゃ、じゃりんじゃりんと金属がかすれる音が響く。
「うわあ……ぴかぴかのぎらぎらです」
「ぴかぴか!」
「おうよ、見た目からキメてかねえとナメられるだろ? 教会のメンツがかかってんだ、手は抜けねェだろ」
「逆に変な目で見られるですよ」
うるせえと、雑に返事を返しながらリブラコアは服を着終える。
「よし、少し休んだら上へ向かうか。こいつらも、暫くは動けねえだろ」
「何だったんですかこの人達」
「分からんな。意識を奪わず無力化出来れば良かったんだが、固すぎて加減が分からんかった」
「うん」
ボタンが、うんうんと深く頷いている。
「なんで腕が4つあるんですかね……継ぎ接ぎしてる様にも見えないです」
「不思議だなぁ。そう言う種族があるって言われた方がピンとくるわ。特に動きがおかしい訳でも無かったしな」
「じゃらじゃら」
その場に座って考えているリブラコアのアクセサリーを、ボタンが弄って遊んでいる。
「こんなとこ、早く抜け出すですよ。またあんなのが出てきたら最悪です」
「そうだな。あんなどたばたやってたらマジで遺跡ごと崩れちまう。さっきのもヒヤヒヤしたぜ。天井が落ちてこねえかってな」
広い遺跡とはいえ、震動でいつ崩れるか分からない。
元々落盤事故の影響で封鎖された遺跡。常に崩落の危険は孕んでいるのだ。
踏んだり蹴ったりです。と、ルーファが言った直後、くぅ。と、可愛らしく腹から音が鳴る。
「もうお昼とっくに過ぎちゃったです」
「おなかすいた」
「そうだなぁ。なんか食べれるモン置いてねえのか?」
「ここにある物食べたら、羽とか腕とか生えてきそうです」
「嫌な事言うなよ」
ボタンがリブラコアから離れ奥にある盗品をごそごそと物色するも、それらしい物は無かったのかしょんぼりしている。
まず、外に出たら飯だな。ルーファとリブラコアは全く一緒の事を考えながら、体を休めるのだった。
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