なんか不気味だし、ほぼ裸だし、絶対危ない人ですよ
遅れてすみません。
ロゼ遺跡は地下遺跡であり、数百余年もの月日が経つ今でもなお形を保っている。ベゴニア王国の技術が高いのか、地下という日の当たらない空間が経年劣化を遅らせていたのか。
しかし、その地下遺跡も崩壊しつつある。どの建物もひび割れ、少し触れただけでも削れ崩れて行く。
ボタンとルーファは、そんなロゼ遺跡の地下奥へと連れてこられていた。 牢にいれられ、日の光も無い。寒々しい空気が場を支配している。
「ボタンさん! 起きて下さいですよ! ボタンさん!!」
「……んー?」
何度も揺さぶられ、ようやく目を覚ますボタン。
「やっと起きた! もう、起きるの遅すぎです!」
文句は言う物の、牢に入れられ心寂しかったルーファは、安堵してホッと息を吐いた。
「……はな?」
「ハナさんはいませんよ。というか、私達がいなくなっちゃったんです。今頃大騒ぎしてるですよ、きっと」
「……ん」
ボタンはぐるぐると周りを見ている。そして、牢屋の端に目が留まった。
大きな男が、うずくまる様に牢の隅に佇んでいる。
「ボタンさん近づいちゃダメです! なんか不気味だし、ほぼ裸だし、絶対危ない人ですよ」
「めし?」
「絶対違うですよ」
ボタンは首を傾げながら、その男へと近付く。
忠告を全く聴かないボタンに、、ルーファはぎょっとしながらも後ろから声を掛ける。
「ちょっとボタンさん! ダメですって! 襲われちゃうです!」
ぎゃいぎゃいと声を荒げるルーファ。
ボタンが近づこうとすると、うずくまっていた男がゆっくりと体をルーファ達へと向けた。
「うるせえなぁ。今、調子がワリぃんだよ……そっとしといてくれねぇか」
「喋ったです!?」
「そりゃ喋るわ」
手を枕にして、寛いでいるかのように胡坐をかいて寝ている男。
上半身は裸で、下半身も下着のみであり、まるで自宅でのんびり酒盛りでもしているかの様だ。
「あ、貴方は誰なんですか? なんでこんな所に……」
「そう一気に問うなよ。二日酔いで頭がガンガンしてんだ」
「お酒を飲んでいたですか?」
「飲んだのは三日前だ。いや一日飲んでたから二日前かもしれない」
「どれだけ飲んでたですか……」
男の話を聞くと、名前はリブラコア。
酒を飲んでいて、眠くなってきたので横になれそうな場所を探していた。丁度良く洞穴を見つけた為、そこで寝ていたらいつの間にかここへ居たという。
どうやらその洞穴とは遺跡の入口を指しており、そこを根城とした盗賊たちにそのまま捕まったのだろう。
「おばかですね」
「おばか」
「うっせーわ。別にこんなとこ直ぐにでも出れるんだ。むしろ静かな寝床確保できたんだから僥倖よ、僥倖」
「しかも強がりさんです」
「がりがり」
「ガリガリじゃねえだろ。ほら見ろ、この毎日の努力が生んだ結晶を」
腕に力を加えると、コブがこれでもかと言う程に主張しながら隆起する。
それに釣られ、ボタンも腕を出して真似をする。
「うはは、年期が違うわ。まーお前もいい線行ってるぜ。あと数年すりゃ美人になるだろうからな、悪い男に絡まれてもケツ引っぱたけるように、しっかり鍛えとけ」
「ナンパですよ。今から唾つけとく魂胆です。裸で寝てる変態がやっても犯罪です」
「ナンパじゃねえよ。というか何でいきなりそんなボロクソ評価なんだ。盗られたんだよ、服は」
何故半裸なのかというと、寝ている間に身ぐるみ剥がされたのだとか。
暑かったから丁度良いと強がりを言いながら、男は起き上がる。
「1日寝たし多少はマシになったわ。お前達もこの……遺跡だっけか? その入口で寝てて捕まったのか?」
「そんな訳無いですよ。誘拐されたです……たぶん」
「誘拐? ……何かただ事じゃねえみたいだな」
ルーファは、自分たちの事情を説明する。
「ラフィルで演劇見てて、いきなり空中に浮いたと思ったら身動き取れずにそのままこっちに連れ去られた? 随分大雑把だな」
「だってそうとしか言えないですよ!」
「そっちのはなんか知ってるか?」
「んー?」
リブラコアは辺りをぐるぐると歩き回っていたボタンに尋ねるも、反応は芳しくない。
「まぁ何でも良いか」
「良く無いです! このままじゃ私達、死んじゃうかもですよ!」
「わざわざ誘拐するくらいだから殺されねえだろ。そもそも、このまま待つ理由もねえ。直ぐにここから出ようじゃねえか」
「どうやって出るですか」
「入口をぶっ壊すに決まってんだろ」
リブラコアは首をこきりと鳴らしてそう言うと、鉄格子の前へと立つ。
その鉄格子を見ると、リブラコアは不思議そうに口を開く。
「あーん? 他の物はどれも古びて老朽してんのに、これだけ錆付いてねぇ。わざわざ作り直したのか?」
「壊せないですか?」
「馬鹿言え」
リブラコアはにやりと笑う。
鉄格子を一本ずつ、両手で握り思い切り左右へとこじ開けた。
力を入れた様にも見えず、まるで粘土の様にぐにゃりと容易く曲がる鉄棒にルーファは絶句する。
「まずは服だな。流石にさみぃわ」
「……」
「呆けてないで行くぞガキ共」
「ガキじゃないです!! 私はルーファです!!」
ルーファはいつもの調子に戻ると、リブラコアの後ろについて行く。
ボタンはというと、鉄格子の前で立ち止まった。
「ボタンさん? どうしたんです?」
「むー」
先程リブラコアがこじ開けた時の様に、ボタンは鉄格子を掴む。
「オイオイ、遊んでる場合じゃねえぞ。さっさとここから抜け出して――」
「むーん!」
ギギィッと鉄が擦り合わされるような鈍い音と共に、鉄格子が変形する。
「おー……お前……マジか」
「もう牢屋として使えないですね」
「んふー」
満足したのか、満足げに声を出し、ぱんぱんと手を払ってボタンは牢の外へと出る。
「ただ真似したかっただけみたいですね。そういうお年頃なんです」
「そんな茶目っ気ある行動だったか? というか、何なんだお前」
「ぼたん」
「私はルーファです!」
「いや、そう言う意味じゃ無くてな……」
掴まっていたとは思えない暢気な様子で、3人は出口を探すべく歩き始める。
薄暗いものの、ほのかに火が灯っているお陰で、辺りはなんとか見える。
道は一切分からない。しかし適当にほっつき歩いても仕方が無いと、リブラコアは落ちていた木材を取り、地に立てる。
木材から手を離すと、ぱたりと右へ倒れた。
「よし! こっちだ!」
「よし! じゃないです! 適当過ぎです!」
「仕方ねえだろ分からねえんだから。ぶっ壊しながらだと遺跡ごと崩れそうだしよ」
「おじさん、いちいち極端ですよ」
「おじさん言うな」
確かに、何処も崩れ落ちて目印になるような物も無い。
結局、運否天賦で行くしか無いかと、ルーファもがっくり肩を落とす。
「んー」
「ボタンさん、どうしたです?」
ボタンは目を瞑り、唸りながらその場を回り始める。
数秒して、目を開くとリブラコアが選んだ道とは反対側を指し示した。
「ん」
「そっちが出口ですか?」
「なんで分かるんだよ」
「あーたい」
「あーたい? ……温かいって言いたいです?」
「ん!」
首を縦に振っているので、合っているのだろう。
もしかしたら、出口から来る暖気を感じているのかもしれない。
「ホントかよ」
「でも、他に手掛かり無いですよ」
「そうだなぁ。……あ、服どうするか。……最悪、適当に葉っぱとかで誤魔化せばいいか」
「外に出たら話しかけないで欲しいです」
「んなヒデェこと言うなよ」
からからと笑いながら、堂々と半裸で歩き始めるリブラコア。
(う~ん、悪い人では無いです? パッと見、変態ですけど……)
ルーファは警戒しつつも、リブラコアと共にボタンの指す方角へと進み始めるのだった。
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