美少女が顔を赤くしてそっぽ向く姿はたまんねーな
諸事情により更新を2週間延ばします。
申し訳ございません。
次回更新は11/12となります。
「よーし、ナイスだケイカ!」
「ふいー、ハラハラしたぜぇ」
「華麗に奪い返したぜ。取られた者は取り返す。それが俺達奪〇屋!」
「ノリノリだな」
無事にアリッサを奪還したので、直ぐに侯爵の元へと連れて行かないと。
つか、令嬢をこんな風に抱きかかえて良いのだろうか。女の子同士とは言え無礼になるかもしれない。
俺は恐る恐る、アリッサの顔を窺う。
じーっと俺の顔を見ている。きっと俺の事を見惚れているに違いない。
「……」
「あの、アリッサ……様?」
「お姉さま……」
「!?」
お姉さまだと……姉の事をお姉さまって言う人初めて見たわ。
俺もこっちの人生で一度は言ってみたい。だが悲しいかな、お姉さまという言葉が似合う女性と今だ出会えていないのだ。あ、でもオクナだったらイケるかもしれない。後でやってみよ。
と、くだらない事を考えている場合では無かった。この子は気が動転して、俺を姉と勘違いしているのだろうか。
落ち着かせたい所だが、のんびりしてるとまたヘンテコ生物に襲われかねん。さっさと侯爵の元へと帰してやろう。
「もう大丈夫ですよ。移動しますので、しっかりと掴まって下さい」
「は、はい……」
消え入りそうな声で、アリッサは返事をする。
めっちゃこっち見てくる……が、それを無視して俺は辺りを見回す。
侯爵は……見えないな。まぁ、さっき脱出してるの見えたからそっち行けば良いか。
そちらの方を向いた直後、リコリスの声が響く。
「主よ、上じゃ!」
「あーん?」
上を見上げると、羽の生えたマッチョなおっさんがこちらへと近づいてきている。
リコリスの奴、ちゃんと見ておけと言ったのに。
「俺達の邪魔をするなッ!」
「うるせーバカきしょい寄るな!」
早口で罵倒しながら、人形で迎撃する。
カシャリと音を鳴らし、蹴りを放つ様に足を突き出した。
おっさんが叩き割るつもりで手を頭上で組み、思い切り振り下げる。
人形が頑丈とは言え、下に叩きつけられたら傷がついてしまうかもしれない。
だが、当たらなければ良いだけの話だ。
「必殺!! ウルトラハナちゃんフレシェット!!」
景気良くピィーン! と指を弾くと、人形が超加速する。
そのまま、おっさんへ突き蹴りを放つ。
声を出す間もなく、おっさんの腹に蹴りが突き刺さり、派手に吹っ飛んだ。
「にししし、人形の背中には空気を放出する機能があって、一気に加速できるのだ」
「相変わらず名前がダサいなー」
「ダサくない」
「ハナ、急がないとまた来るぜ?」
全く、敵を倒してからのギミック説明は勝者のみが許される優悦なんだぞ。水を差しやがって。
「へいへい、分かってますよ。オイリコリス!! ちゃんと敵止めとけよー!」
「主よ、何処へ行く!」
「ちょいと侯爵のとこまで! 直ぐ戻るから!」
リコリスがなんか言ってるが、気にせずユーリに乗って侯爵の元へと移動する。
お、いた。既に広場から脱出、騎士に周りを囲まれて移動している。
孫娘をほったらかしにして脱出するんかと思う気持ちと、やっぱ侯爵の安全が最優先なのだろうなという気持ちの半々と言ったところだ。
先頭にいるのは火竜劇団の……名前が分からん。確か火吹きアルマジロの主人だったと思う。20代手前っぽい女の子だ。
その人が俺を呼んでいる。侯爵もめっちゃこっち見てる。
ユーリは軽快に人を避けながら先頭へと近づいていく。ちらっとアリッサを見ると、顔を赤くしてサッと目を背けられてしまった。
まずいぞ……恐らく俺が可愛すぎて嫉妬しているのだ。折角助けたのに、嫌われたら俺の人生が危うい。
「アリッサ様、貴方は必ず私がお守りします」
「っ! ……はい!」
必殺『私は敵じゃないですよアピール』だ。アリッサの眼がキラキラしているので少しは信用されているだろう。
必ずとか言っちゃったけど……まぁあっちは何とかなるやろ。リコリスの奴、ちゃんと敵を止められなかった分働いてもらうぞ!
無事に侯爵の元へと着いたのでアリッサを降ろしつつ、俺も降りて頭を下げる。
ヤバい、こういう時どう言えば良いのか分からん。
「アリッサ!!」
「お爺様……!」
アリッサが侯爵の元へと向かっていく。
こう見ると、普通に仲の良い家族にしか見えないな。
騎士達も、周りを気にしつつもアリッサの無事を喜び安堵している。
「ああ……! ハナ殿、なんと礼を言ったらよいか……!」
「いえ、その、何というか……」
俺もなんて言ったらいいか分かんねえ。こういう時人生経験が物を言うんだよなぁ。主にダメな方向に。
どうしようかと思った矢先、助け船が出される。
「リーヴァン様、まずは東区までご移動願います。賊がまたどんな不届きを働くかわかりませぬ故」
「……うむ」
近くの騎士に窘められ落ち着きを取り戻したのか、再び貴族らしい雰囲気を纏って移動を始める。
その騎士に、軽く頭を下げられた。俺も習って、頭を下げて礼を返す。
アリッサはちらちらと俺の方を見つつも、侯爵の隣へと並んだ。
これで安心……だったらいいが、少なくとも東区へ着くまでは気が抜けないか。また消える奴がいるかも分からんし。
というか消えるってなんだよ……以前、ルマリを襲ってきたデカいレクスも消えてたな。どいつもこいつもそうホイホイと簡単に消えるんじゃねえよ。
(そういったスキルがあるのやもしれませんね。私の方で調べてみます)
(パッと出てこないの?)
(何せ億単位の種類がありますので……よく分かるスキル大全に載っていれば良いのですが)
(出たスキル大全)
マジで謎なんだよなその本。……本なのか? だいたい大全なんだから全部載って無きゃ詐欺だろ。
心の中で神様事情に突っ込みつつ、さっき俺を呼んでいた劇団員へと声を掛ける。衣装は着ていないな。裏方役なのだろうか。
「あのー、ちょっと良いですか?」
「ハナさん!」
「わ、なんすか」
「後でその子を撫でさせて下さい!」
「はい?」
いきなり何言ってんだこの人。確かにユーリは俺が毎日丁寧にブラッシングして、美しい毛並みを保っているから触りたくなる気持ちも分かるが。
「はは、まあ、まずこの事態が収拾付いたらですね」
「あっ、すみません。余りに可愛かったのでつい呼び出してしまって……」
「そういう理由で呼んだんですか!?」
大丈夫かコイツ……一応侯爵を先導してるんだよな?
ともあれ、悠長に話している暇は無いので、俺も少しだけ護衛に付きたいと伝える。
「ありがとうございます! 先程は上からいきなり急襲されて手が足りなかったのです」
「消えて空飛べる人間がいるので、上も気を付けた方が良いですよ」
「そんなヘンテコなのが……分かりました。ハナさんは、侯爵の近くで待機して頂いても良いですか?」
騎士が護衛してる中で勝手に混ざって良いのだろうか。しかも俺冒険者ですらないから、身分証明とか出来ないんだけど。
そう思ったが、近くにいた騎士の一人が話に混ざってきた。
「では、私が侯爵へその旨を伝えましょう」
「ありがとうございます。ハナさん、よろしくお願いします」
「では、こちらへ」
騎士の一人が、侯爵へと話し始める。結構その辺ゆるゆるだな。俺が気にし過ぎなだけだろうか。
それにしても、さっきより騎士が増えてる気がする。どこから出てきたんだ。
更に、普通に一般の人も歩いている。しかし、ただ事ではない雰囲気だと察したのか、そそくさと退散するか、遠目から様子を見ている。
それを、騎士達が危険だから家へ戻る様に声を掛けていた。一般人に混ざって不届き者が危害を加える事も考えられるので、極力近づかせない様にしている。
その様子を見ていたら話が付いた様だ。騎士に言われた通りにして、俺は侯爵から少し離れた辺りを並んで移動している。まぁ俺は歩かずユーリが移動してるんだけど。
少し早歩きで移動中だ。走ると体力使うし、何より侯爵がお歳を召しているので無理できない。アリッサもいるしな。
横目で侯爵を窺うと、アリッサもこっちを見ていた。
心配ないですよ~と言う様ににこりと笑うと、またそっぽ向かれてしまった。
だが、ちょっぴり笑顔なので怒ってはいない様だ。
(良いな……)
(何がですか?)
(美少女が顔を赤くしてそっぽ向く姿はたまんねーな。俺も練習しよ)
(オイラもやるわ)
(お前は顔赤く出来ねえだろ)
ちょっと前に屈んでユーリを見ると、ユーリがふにゃ~~と顔を歪めている。
名探偵〇カチュウみたいなしわくちゃ愛想笑いになってんぞ。
(お前それを侯爵の前でやるなよ)
(えー)
(ハナ様、護衛なのですからもう少し辺りに気を配って下さい)
大丈夫だ、ちゃんとユーリがしわくちゃ笑顔で周りを見てるから。ドジって長引かせるような真似はしないぞ。
ちゃっちゃと護衛を終えて、ボタンとルーファを探しに戻らねば。
次回更新11/12予定