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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
へちまくれの流浪少女
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美少女を酷い目に合わせる訳には行かないのだ

ブクマ、評価ありがとうございます。とても励みになっております。

 侵入者の目的は何だろうか。どうにも、ただ暴れたいという風にしか見えないのだが。

 大人しくなった牛の丸焼きを見ながら、俺はヤタロウへと声を掛ける。



「で、こいつ魔物なのか? パッと見は人間っぽいけど」

「うーん……微妙」

「なんじゃそりゃ」

「マポイフ見たいな角してたからな。火も効いてたし」

「人間だったら誰でも効くんじゃね」

「いやあ、化け物染みた奴もいるんだ。火で焙っても、雷に打たれても、氷漬けにしても死なないような人間が」

「そんな奴……ああ、まぁ、心当たりはあるけど」



 そういえば、ジナとか正にそんな感じだったな。

 ただ、そんなのが何人もいてたまるかという話だ。

 ヤタロウが、焦げてぴくぴくしてる目の前の牛をつんつんとつついている。



「やはり硬直しているな。マポイフは筋肉も弾力があってな、過剰な熱を与えると急激に固まって動けなくなるんだ」

「じゃあ、その症状が今そいつでも起こっていると」

「ああ。鉄みたいに固まっている」



 となると、魔物が変化してるのか?

 でも、変化できる魔物が別種族と徒党を組んで街を襲うってのも良く分からんが。



(ハナ様。変化の他に、もう一つ考えられる事があります)

(もう一つ?)

(はい。それは――合成獣キメラと呼ばれる生物です)



 おお……ファンタジーな作品に触れていれば、多少なりとも見聞きする単語だな。あっちの世界だと神話由来の言葉だから、知名度は高い。

 しかし、大半は碌でもなかったりする。



(人間と魔物が混ざってるという事か?)

(ええ。その邪法を成す方法は様々ですが。古今東西、どれも禁忌として封されている物です)

(まぁ、よろしくないよなぁ道徳的に)

(ハナ様、他人事の様に仰られていますが、今こそ調停者としての役割を果たす時です!!)



 生き生きと宣言するセピア。

 本来こういう事は起こらん方が良いんだが、セピアとしては俺がお仕事するのを待ち詫びていたようだ。



(役割を果たすと言われてもな。どうすりゃいいんだよ)

(当然、この生物を生み出す法を根絶しなければなりません。見た所、ただ人と魔物を引っ付けた、という風には見えません。ですので、呪術や死霊術の様にスキルを利用した線が濃厚かと)

(じゃあ術者を倒せば元に戻るんか)

(分かりません!!)

(自信満々に言うなや)



 取り合えず、こいつらの正体が何となく分かった。確定じゃないけど、ある程度目途を付けないと動き辛いしな。



(ともあれ、その合成獣キメラを何とかしなければ、この襲撃を抑えてもいずれまた同じ事が起こる可能性もあります)

(そりゃそうだ。で、どうすれば良い?)

(まずはこの場を制圧し、ボタンさんを探さねば。ハナ様は大事な場面で迂闊ですので、咄嗟に身を守ってくれるボタンさんがいないのは気が気でありません)

(ご心配をおかけして悪うございましたねぇ)



 余計な事は考えず、さっさとこの場を収めろってか。

 今もなお交戦しているが、思いの外落ち着いてきている。


 コキアが避難誘導しているようで、団員やその従魔が避難者達を囲って守っている。

 その中でも、執拗に攻撃を加えられている場所があった。先程少し話した、ラフィル侯爵の所だ。


 そこになぜかダイナやガーベラがいて、数人の合成獣キメラ(仮)を相手にしている。

 周りを守っている騎士達も、必死に応戦していた。

 あいつ等の狙いは侯爵だったのか? それにしたって狙い方が杜撰だが。



「俺達はあの獣人共を抑えた後、ダイナ達と合流するか」

「はい! 折角のクライマックスを台無しにした罪は重いですヨ!」



 ケイカがノリノリで風魔法をぶっ放す。お前、序盤から飛ばし過ぎて後でガス欠しがちだってリコリスから叱られてただろうに。

 だが、その威力もあってかあいつ等の動きが大分制限されている。


 俺はユーリに指示して、人形へ魔糸が届く位置まで移動すると、そのまま繋ぎ合わせる。



「魔糸の範囲外へぶっ飛ばされない様にしないとなぁ」

「そりゃあんな真ん前出したら吹っ飛ぶやろ」



 仕方ねえだろ、あそこで何とかしなきゃお前がケガするかもしれんのだから。

 俺は人形を起動させると、俺の元まで引き寄せた。



「入口はケイカとヤタロウとシーラがいれば十分じゃね?」

「つか、入口以外にも侵入経路があるだろ。中に何人かいるし」



 まぁそうなんだが、一応高い壁に囲まれてるから入り辛くはある。

 空飛んでる奴はなんかキモいからリコリスに任せるとして……やっぱ俺もこっちだな。こっちが片付けば他も楽になるし。


 つかすげえ数だな。何十人いんだよ。



「もしかしてこの人達……」

「どうしたケイカ」



 前衛をヤタロウとシーラに任せ、後ろからチクチク人形で攻撃しながら、何か呟いたケイカに聞いた。



「その、村で立ち行かなくなって浮浪している人や、冒険者崩れの様な恰好をしてる人が多くて。もしかしたら、外にいる盗賊団なのかなって思いまして」

「全員こんなだったら噂になってると思うが」

「いや、そうでもない」



 そう、上から声が聞こえた。

 上を見上げると、イーランに乗っているフェイオンが、下へと降りてくる。



「ギルドから聞いている話だと、実体が掴めていなかったようだね」

「掴めてないのに、盗賊団なんて分かるのか?」

「度々盗みは働いていたようだからね。商隊キャラバンも襲われていたし。ただ、着ぶくれてて姿は分からなかったそうだ」



 姿を隠していたのは、こういう事情があったからってか?



「あれか、討伐隊を組まれたから腹いせに街襲ったとかそういう話?」

「今更そんな短絡的な行動するとは思えないけど……」



 フェイオンがすとんと下に降りると、イーランがそのまま前進する。



「ともかく、折角の公演を滅茶苦茶にしてくれたせいで、イーランがご立腹だ。思う存分やってしまおう」

「避難誘導は大丈夫ですか?」

「ああ、ダイナ君たちがいれば大丈夫だろう。コキアさんもいるし―――」



 と、フェイオンが言い終えた直後。後方から、つんざくような悲鳴が聞こえた。



「キャアアアアアアア!!!」

「アリッサ!!」

「リーヴァン様っ! 危険です!!」



 ラフィル侯の孫娘――アリッサと呼ばれた少女が、宙に浮いている。

 そして、引っ張られる様に避難所とは反対方向へと移動している。



「ユーリ!!」

「おうっ!」

「ハナさんッ!?」



 それを見た俺は、すぐさまユーリへと指示する。

 どういう原理であの子を浮かせてるかは知らんが、美少女を酷い目に合わせる訳には行かないのだ。


 結構な勢いで空中を横移動しているアリッサちゃん。

 蔦で搦めとるか? いや、蔦と謎の力で引っ張られて悲惨な事になりかねん。


 取り合えず、近づいてみるか。



「よしユーリ。お前の飛翔力ならあそこ迄行けるだろ」

「でも、空中で襲われたら迎撃しにくいぞ」

「俺が何とかする」



 ボタンがいれば……と、一瞬頭をよぎるが、無い物ねだりしても仕方がない。

 リコリスは……ダメだ、なんか羽生えたおっさんずに囲まれてる。あそこだけ地獄が過ぎる。

 見なかったことにして、意識をアリッサへと向き直す。



「よし、跳べ! ユーリ!」

「舌噛むなよ!」



 ザクっと強く地を蹴り、獅子が飛翔する。相変わらず速い。少しは慣れたと思ったが、姿勢を維持するのも一苦労だ。

 ぐんぐんとアリッサへ近づいていく。彼女は10メートル(3階建てマンションくらい)程くらいの結構な高さを飛んでいる。よく見ると、アリッサが何かから逃れる様に藻掻いていた。


 何かから逃れる様に腕を動かしているので、もしかして……と思い、ナイフを取り出す。



「ユーリ、俺をしっかり支えてろよ」

「もうそろ落下するぞー」

「すぐ終わる」



 確証はないが、俺は自信満々に言う。

 加速が止んできた辺りで、ナイフをぶん投げる。通常ならこんな不安定な、アリッサに当たるかもしれない状態で投げるのは危険かもしれんが、俺なら問題無い。


 アリッサ目掛けて飛んでいたナイフが一斉に左右へ分かれると、周りを旋回し始める。



「――ぐあっ!?」



 虚空から、悲鳴が上がる。

 旋回していたナイフが、何かに突き刺さり赤い液体が流れだす。



「うえっ! 何だアレ!?」

「にしし、大当たりだ」



 羽の生えた男が元からそこに居たかのように姿を現した。いや、実際居たのだろう。

 腹部にナイフが突き刺さり、苦しんでいる。


 そして、抱えていたアリッサを手放した。



「やべっ!! ユーリ!!」

「待て待て、空中じゃ思うように動けんのよ!!」



 シャカシャカと足をばたつかせて、落ちるアリッサへ追いつこうとするユーリ。

 ユーリの方が重いが、まだ上昇中だったユーリよりアリッサの方が落ちる速度が速い。


 蔦を伸ばすにも速度が足りない。

 どうすれば……と思ったその時、アリッサの落ちる速度が減少し始める。



「ハナさん!! 今のうちです!!」



 下から、ケイカが叫ぶ声が聞こえた。

 ナイスアシストだ。俺が以前、地に叩きつけられそうになった時も風魔法で救って貰ったっけ。


 ユーリが落下し始め、直ぐに蔦でアリッサを掬い上げる。

 締め付ける力や重力によって引っ張られて体を痛めないように、丁重に、優しくこちらへと手繰り寄せた。


 俺はアリッサを抱きしめる様に抱え、そのままユーリに支えて貰い着地する。

 衝撃に備えたが、すとん、と思いの外静かに着地した。

 ……ふう、とりあえず一安心だ。

次回更新10/15予定

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