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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
16/181

生きていくのもギリギリなぶっちぎりの凄い美少女

2018/11/12 会話表示修正

「いざ……!」

けい、レイ。男を見せろ」



 トラウマを克服する。人生はいつも障害だらけで、その障害に立ち向うことが人生なのかもしれない。

 恐怖を感じずに突き進むのはただの蛮勇だ。恐怖を知り尚も立ち向かい克服する事こそ勇気なのだ。



「いざ……いざっいざっ!」

「はよ食え」



 だが、トラウマの克服はそう簡単に出来るものではない。幼少期に植え付けられたものであれば尚更だ。故に、乗り越えた時の成長は著しい。



「もう、しょうがないなぁレイくんは。はい、あーん」

「よし、いくぞ。あー……むぐっ!」

「え? 無視? お前……美少女のあーんをお前……」



 買い出しから帰った後、すぐに夕飯の支度をした。色々あったせいで遅れてしまったのでもうすっかり日が暮れている。

 今日は先程買ったうさぎの肉を早速調理した。いや、焼いただけですが……。

 その代わり焼き加減はバッチリさ。飯の美味さよりも安心して食える事の方が大事なのだ。



「どうだレイ。イケるか? キツかったら無理しなくていいぞ?」

「んむ……」



 神妙な面持ちで咀嚼するレイ。やめてよその顔少し緊張するじゃんか。

 爺さんも微笑みながら様子を見ている。なんかイラッとしたので爺さんの膝を足でぐりぐりする。



「足癖が悪いのう……」

「美少女の足だぞ、ありがたくぐりぐりされるが良い」



 足といえば靴を買い換えられなかったな。履き心地がよろしくないので早めに取り替えたい所だが、優先順位と言うものがある。

 あるものはなるべく後回しにして、足りないものを補充していかないと。一番足りないのは……戦闘力? それも買えれば楽なんですけどね。

 足でぐりぐりしながら考えていると、レイが微妙な表情で飲み込む。やっぱり味も苦手だったか? さっき味見したけどそんなに癖は無かったんだけどな。



「レイ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ。思っていたより美味しかった。美味しかったけど、やっぱりちょっと不安で」



 この後の事を心配してるのか。この心配性め。

 でも子供の時って気分悪くなるのを極端に嫌うよな。いや、大人になっても嫌だけど何というか恐怖感があると言うか。

 その恐怖感ってのを取り除ければ良いんだが。足でぐりぐりしてやるか? いや、レイをそっちの道へ落とすわけにはいかんな。

 ぐりぐり……うーん……。あ、そうか、安心させる方法があるにはあるな。

 俺はレイに近づき、右手をレイの頭に乗せる。



「美少女のなでなでだ。さっきは無視しやがってこの野郎」

「ちょ、ちょっとハナちゃん、うわわっ」



 すごい勢いでレイの頭をわしゃわしゃしてやる。フフ、美少女のなでなでは良い。心が洗われるようだ。

 これによりレイは安心できるし、俺は可愛いしで一石二鳥と言うわけだな。



「あーもう、やめてよ恥ずかしいから」

「余計な心配ばっかしてるからだ。早く食わないとレイの分も食っちまうぞ」



 レイの頭から手を離し、俺も目の前にある肉をつまんでいく。

 おー、うまいうまい。一切れ程味見はしたけどやっぱり肉は豪快に、がっつり食うものだよな。

 と言ってもうさぎの肉なので細切れ肉だけど。いつかどでかいマンガ肉みたいなのを食べてみたい。

 俺が久々、というより転生して初のお肉を味わっているのを見て、レイや爺さんもつられて食べ始める。



「ほほ、儂も頂くとするかのう」

「脂っこいのは苦手だって言ってなかったか?」

「うさぎの肉はあっさりだから……」



 調子いいことを言いつつ爺さんが肉を頬張る。美味そうに食べやがって、飯を作った身としては地味に嬉しくて怒るに怒れん……。

 レイも吹っ切れたようでガツガツと食い始める。うむ、それで良いのだ。子供はガンガン食べなきゃな。

 こうしてレイは肉嫌いを克服する第一歩を踏み出せたのであった。












 夕食後、俺は部屋に戻り一冊の本を読んでいる。

 女神さんに貰ったスキルに関する本だ。ご丁寧に俺が理解できる文字で書いてくれている。気が利く女神さんだ。

 この世界の人では解読出来ないそうなので勝手に読まれても安心。何か聞かれたら俺も読めないと適当に誤魔化せばいい。

 所々で、不気味な挿絵があるので古代文書とでも言っとけば大丈夫だろう。



(今、凄く失礼な事を考えていましたね?)

(いいや、気が利く女神様ありがとうと感謝していた所だ。絵心が無いおかげで何の本か分かりづらい所が良い)

(やっぱり……)



 セピアは軽くため息をつく。別にセピアの事を悪く言ったわけじゃないのに。上司大好きだなこの神様は。

 俺は引き続き本を読む。なんとなく、だが人形遣いというスキルの意味を理解できた気がする。


 最初は傀儡の様に糸で吊って操るのかと思いきや、そうではなく魔糸で自身の魔力を物体に通し、自分の手足の様に動かすらしい。

 確かに木の枝を動かしたのもそうだったな。吊るというよりは、自分と繋げて頭で考えた動きを意識的に動かすイメージだ。

 だが、その物を動かすイメージが難しい。結構強く念じないと動かないのだ。動いたら動いたでラジコンを動かしてるみたいに制御できなくなったり、ずっこけて身動き取れなくなったりする。

 ちゃんと扱える様になるには練習を重ねていかねばダメなようだ。凄い集中しなきゃいけないからしんどい。



(これさ、人間も操れたら最強じゃね? もはや人形使いじゃなくて洗脳魔術師ブレインウォッシャーだけど)

(流石に人は無理ですよ。魔力が通っていない物しか魔糸は繋げません)

(ちぇ、やっぱり駄目か)



 ちょうど今読んでいる所に書いてあった。魔力が通っている物には魔糸は通せないらしい。

 人間や魔物などの生物、魔力鉱石なんかもダメらしい。だが、木の枝なんかはセーフ。植物は特殊な物を除いて魔力を通わせていないそうだ。故に、魔力を通しやすく軽いと杖を作るにはもってこいな材料らしい。

 じゃあ人間の死体は行ける? と思ったがこれもダメ。ずっと魔力を維持していたものには魔力が残留するらしい。それが無くなる頃には骨になってるそうだ。

 死体を操るのは死霊魔術師ネクロマンサーだけどな。そもそも死体操るなんておっどろしい事出来んがな。



(大体わかったよ。要は俺と動かしたい物を魔糸で接続して操るって事だな」

(大分端的ですね。でもそれで正しいです。しかし、魔力の残留については私も知りませんでした。まだまだ勉強不足ですね)

(仕方ないんじゃないか? 女神さんも異例だって言ってたし)



 異例な転生で更に異例を重ね生きていくのもギリギリなぶっちぎりの凄い美少女。幸運なのか不幸なのか。

 幸い時間はたっぷりあるし、じっくりとスキルを身につけて行こう。思ったよりややこしい訳では無いしな。



(よーし、やる気出てきたぞ!)

(では、早速訓練を……)

(寝る)

(ええー! 思わせぶりな事言わないでくださいよ!)



 だって本読んでたら眠くなるんだもんよ。それにな、今日は色々あって疲れた。特に帰り道。

 買い出ししか行ってないのにめっちゃ体力使ったよ。テンションの高い女性との会話はそれだけでカロリーを消費する。



(明日から頑張るよ。俺はやると決めたらやる美少女だからな)

(はい、是非そうして下さい。スライムとの戦闘を見る限りとても不安なので)

(ぐぬぬ……)



 確かに酷かったので何も言い返せない。こけて身動き取れずに死にかけたからね……。

 あれこそ運が良かったのだろう。今は安全な場所に身を置いているが、村の外に出て、一人で行動するのはそれなりに力がいる。



(幸いこの部屋でもスキルの練習はできる。朝昼は店の手伝いをして、夜は部屋でスキルの特訓だな)

(また、夜になったら疲れて寝てしまうのでは?)

(むっ、そんな事はないぞ。セピアくんは俺の事を少しあまーく見ているな?)

(いえいえそんな事は)



 セピアめ、俺がどんくさいからって誂いおって。いつか目にものを見せてやる。

 まずは物を自然に動かせるようにならなければな。店の手伝いもしなきゃならんし、明日から更に忙しくなる。


 ふと、窓の外を見る。この世界は月が無いらしく、夜空は俺が知っている世界の物よりも真っ暗だ。月が無いだけでここまで暗いとは。

 その代わり、星々の光が更に輝いて見える。この世界にも宇宙はあるのか、なんて、考えたらキリがないな。

 俺はこっちの空の方が好きかもしれない。お月さんには悪いが、いっそう暗い空に並ぶ点々とした星が凄く綺麗でな。

 ……うん、夜空を見上げて物思いに耽るなんてガラじゃないな。さっさと寝るか。

 布団に潜り込み、俺はそのまま眠りに就いた。

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