ハナちゃんは、自分に優しい人には優しいのだ
急ですが次回の更新を7/30に変更します。
素晴らしく楽しいひと時を楽しんだ後、俺は予定通りカカオから指定された店へと向かう。
さてどんなお店か……じゃなくて、どんな話が聞けるのか。
「普通のキャバかな。それともクラブっぽい感じかな。指名できるなら牛人の子が良いんだけど」
「真面目にやりなさい」
「いい加減切り替えて下サイ」
ダイナとケイカ両方から辛辣なツッコミが入ったので、ジョークを慎みながら歩く。
何気に直ぐ近くだったのでもう店が見えている。そういや宿へ向かう道の通りだったな。
外装は普通の店だ。お昼とか普通にランチやってそう。
でも、見た感じ昼は空いて無かったからやっぱ夜のお店なのかもしれない。
「私達は先に戻るね」
「皆さん、お気をつけて」
「はい、ユーリをよろしくお願いしますね」
そう言って、ガーベラ達と別れる。
ユーリが既に眠気が限界そうで、大分動きがのっそりしてたから少し心配だ。アイツ重いから引き吊れない……いや、シーラがいるから平気か。
「じゃあ行くか。ハメ外すなよダイナ」
「ハナにだけは言われたく無いな……本当に大丈夫か? 相手はギャングみたいな奴らなんだろ?」
「そんな偏見で言っちゃダメだぞダイナ。大丈夫だ。ああいう手合いは美少女に恫喝するわけない」
「それも偏見だろ!!」
だって実際関わった事無いからわからないもの。
因みに、本日は営業しませんと看板が出ていた。俺等が来るから、と言うよりは元々お偉いさんが来るので貸し切りだったのだろう。
カカオから渡された店名と一致しているので間違いという事も無い。という訳で早速店内へと入る。
中に入っただけで『あっヤバい』と感じる。だって強面の人いっぱいいるもん。
何も知らない人は回れ右するよ間違いなく。
「おっ、来たな」
「来たけど帰って良い?」
「いきなりなんだよ? お前達から話せって言ったんだろ」
真正面で待っていたと思われるカカオが声をかけてきた。
だっていきなりムサいんだもん。今までのウキウキ気分が一気に削がれたわ。
「お前達が思ってるほど程恐い人じゃねえよ。俺としては、そっちの姐さんの方がヤベェわ」
「姐さんはやめい」
「婆さん目つき悪いからなぁ」
「目が細いだけだと思うけどな」
糸目って訳じゃないが、いつも半目くらいだからな。全開眼したらそれはそれで怖いんだけど。
「で、増えたのはそこのお兄さんと獣人の……何の種族だ?」
「犀人のケイカです」
「そんなんいるのか。この辺じゃ聞かねえな」
「そんなんとは何ですか!!」
「まあまあ」
うがーっとカカオへ迫るケイカをダイナが引き留めている。
それよりも、さっさと話済ませたいんだけどな。
そんな目で見ると、カカオは察したのか話を続ける。
「奥にオヤジがいる。そんな畏まらなくても良いが、最低限は弁えてくれよ? 特にそこのチビ二人」
「はは、言われてんぞルーファ」
「ハナさんもですよ!!!」
横で騒ぐルーファをスルーしつつ、奥へと向かう。
少し周りをみると、可愛い獣人の女の子がいる!!
メジャーだと思われる猫人や犬人が多いな。後はケイカと一緒で角が生えてるのもいるぞ。羊っぽいのや俺の探してた牛っぽいのもいる。
寄り道しそうになるが、リコリスにがっしりと肩を掴まれているのでやむなく前へと進む。
店の入り口からは見えない、少し横へ逸れた辺りのテーブル席に、少し痩せたおじさんが座っている。
その周りには、ゴツくて強そうな獣人のお兄さんや目つきの鋭い長髪の兄さんが控えている。
この人がオヤジさんだろうか。
「オヤジ、連れて来たぜ」
「おう、ご苦労さん。悪いな、呼びつけちまって」
「いえ。貴方がオヤジさんですか?」
「オヤジさんときたか。まぁ、社長ではある。肩書の割に、貫禄のある風貌はしちゃいねえがな。立って話すのもなんだし、かけてくれ」
「失礼するです!」
ルーファが元気良く返事すると、いの一番に奥側の端に座る。
一応警戒して欲しいんだがな。端だといざって時に守り辛い。
少しリコリスと視線を合わせると、言いたい事が分かったのかルーファに続く。
「じゃあ……そうだな、軽く紹介させてもらうぞ。俺はブラキカム。この辺でハコビの仕事を請け負っている。カカオ含め、こいつらはその社員だ」
お隣の男達が、一斉に頭を下げる。息ぴったりだ。
「運び……運送業?」
「そうだな。各ギルドと提携して、そこそこ有名なんだぜ? ま、手を出してるのはそれだけじゃねえが……今は良いか。俺はそこの社長をやらせて貰っている」
表向きは物流関係の会社か。なんか凄いそれっぽいぞ。
そんな安易な事を考えつつ、話を聞く。
「で、だ。そこの嬢ちゃん。迷惑かけてすまなかったな。噂を鵜呑みにして、強引な手を使っちまった」
いきなり、オヤジさん――ブラキカムは頭を下げる。
と同時に、他の社員達も一斉に頭を下げる。
俺は面食らいつつも、ルーファへと声を掛ける。
「あー……えっと、ルーファ、どうだ?」
「別に気にしてない……訳じゃないですけど、別に何もされてないから大丈夫です」
「そう言ってくれると助かる。もちろん、今後アンタ達には手を出さねえ、俺やカカオがきっちり言い聞かせておく」
随分と殊勝な事だが、そもそもなんで襲われたかを知りたいんだよな。
「それはお願いしたいですけど、まずなんでルーファを狙ったんですか?」
「……」
少しの間の後、ブラキカムは少し顔に皺を作りながら口を開く。
「王都のとある組織からな、高名な人形師の弟子を保護しろ。と、直々にお達しがあった」
高名な人形師というと、【人形遣い】のスキルを持っていた爺さんの事か。
保護っていうと聞こえは良いけど、実際はさらって来いとかそんなニュアンスだろう。
「以前からそんな話はあったんだ。人形師の弟子が行方不明だから見かけたら声を掛けろ。とか、そんな重要ではない、緩い話だった。しかし、つい最近の話だ。急に強い圧力をかけて来やがった」
ブラキカムはうんざりした様子で話す。
「理由は分からねえ。だが、ともかくラフィルにその弟子がいるから捕まえろ。手段は問わないと、アホみたいな高額を突き付けて来やがった。誰が聞いたって後ろ暗い案件だと分かる。だが、断れない。金の問題じゃない、断ったら何をされるか分からねえ」
「そこまでの価値が、ルーファにあるという事ですか」
「さあな、まさに問答無用だ。当然こっちも探りを入れたが、何も出て来やしねえ。本当に不気味だよ、あいつらは――」
ブラキカムはため息混じりに、眉の上辺りへと指を当て、悩む素振りを見せる。
「で、そやつらは何者じゃ」
「まぁ、そこが知りたいよな。カカオ」
「大丈夫だオヤジ、誰も聞いてやしねえよ」
その組織に大分ビビってるみたいだな。こちとら命狙われてるんから、妥協しないけどな。
「我から見ても、周りに潜んでいる輩はおらぬよ。安心せい」
「……ビクビクして情けねえ限りだが、命には代えられねえ。色んなモン背負ってるなら尚更だ。だが、情報を渡すって言っちまったし、アンタ達には義理立てしないとな」
なんか聞きたく無くなってきたな。それはダイナも同じようで、目が合うと思わず苦笑いする。
「そいつらは通称『霞』と、呼ばれている。そう名乗ってる訳じゃないが、俺等の業界でそう呼んでいる」
「その、どんな組織なんです?」
「何でも屋。と言えばまだ柔らかいが、文字通り何でもやる。盗みもやれば殺しもやる」
予想通りの激ヤバ組織だな。陳腐さすらあるぞ。だが、創作話では無く、現実なのだ。
実感は出来ないが、侮らない様に自分を戒めつつブラキカムの話を聞く。
「そんなのが王都におるのか。衛兵共は取り締まらぬのか?」
「出来るならやっているだろうよ。いくら探しても、調べても実態が掴めない。ありゃ、間違いなく貴族が一枚噛んでるな」
「フム」
「まぁ、そうか」
リコリスもダイナも、予想はしていたのか頷いている。
ケイカはと言うと、とても驚いているのが表情に出ている。人生経験の差だろうか。
「巷で話が出ている呪い騒動も、『霞』の連中がやっていると専らの噂だ。噂程度で騒ぎ立てたくはねえが、怖いもんだな」
「呪い騒動?」
「最近だとディゼノだったか、その周辺で、目の前にいた人間が苦しみ藻掻いた後、突然消滅したって事件があってな」
カカオが説明してくれたその事件、心当たりがあるぞ。
以前、ノイモントへ向かう途中でジナから聞いた事がある。
ルーファの掛けられていた呪いと関係があるかもと、少し考えていたのだ。
「怖いです。苦しんで消えちゃうなんて」
「眉唾物だが、人が消えてるのは確かだ。嬢ちゃんも呪われない様に気を付けな」
「気を付けようがあるまい」
「ワハハ、そりゃそうか!」
まぁ、呪われてたんですけどね。この天才美少女が解呪したから問題無いけど。
冗談のつもりだったのか、ブラキカムは笑っている。うん、全然笑えないからね?
「それで、主らはどうするつもりじゃ。その『霞』とやらの依頼は断れないのじゃろう?」
「ラフィルにいるって話を聞いて、見かけたら捕まえろって案件だったからな。見つからなかったで済む話だ。当然、探られるがそこは上手くやる。カカオを赤子の手をひねる様にあしらったアンタ達も敵に回したくないしな」
おいおい、それで大丈夫なら最初からそうしろよ!
そう思うのだが、あんまりリスクは負いたくないらしい。子供さらうのも大分リスク高いと思うけどな。
「あくまで『保護』だからな。その人形師の爺さんが死んでフラフラしてる弟子を見つけて保護する。なんら問題の無い話だ」
「やり方が強引であったがな」
「悪かったよ。こっちも余裕が無かったんだ」
こっちとしては悪かったよで済む話じゃないが、ルーファは気にしていないし俺もそこまでなので水に流してやろうと思う。
こいつらは悪人だが、そこまで威圧的じゃないし説明もきちんとしてくれたしな。ハナちゃんは、自分に優しい人には優しいのだ。
「ま、良いじゃないですか。ごめんなさいして当人がそれに頷いたんだから、そうネチネチ言うもんじゃないぞ?」
「ネチネチなど言っておらぬ」
「姐さんがそう言うのも尤もだ。当然、言葉だけで詫びを入れようとは思わねえよ」
ブラキカムはそう言って、控えていた部下から袋を受け取る。
「これは?」
「お騒がせした迷惑料だ。足りないか?」
「い、いえ、そういう訳じゃ無くて」
おお……結構良い額が入ってるぞ。思わず顔が緩む。
「……ハナ、あんまり表情に出すなよ」
「にしし、出してない出してない。愛想振り撒くのは美少女として当然だからな」
「それはお主じゃなくてルーファの物じゃがな」
「ハァ~!?」
思わず抗議の声を出すと、それを見たブラキカムは笑い出す。
「なんというか、愉快な嬢ちゃんだな。そういや、この店にも興味があるって言ってたか」
「はい! ああでも獣人の女性のお話がしたいというだけで決して如何わしい意味じゃないです! 私美少女だし! 潔癖ですから!」
「コイツ普段からこんな分かりやすいのか?」
「まぁ、そうじゃな」
何故か、俺のイメージがダウンしている。不思議だ。
「なんなら少し遊んでいくか? と言っても、俺は店に直接どうこう言えねえが。金なら出すぞ」
「良いんですか!!! 勿論です!!!」
「ハナさん……」
「まあまあ、もう話は済んだんだろ? ハナちゃん子供だから難しい話苦手だし、ここらで退散しますよ。話はリコリスが聞いといてくれ。じゃ、そういう事で。行くぞダイナ、カカオ」
「やっぱりこうなったか……」
「え? 俺も?」
二人の手を引っ張り、俺は空いている席へと移動する。
ささっと二人を座らせると、入口のカウンターにいたボーイさんに声を掛ける
「こんばんわ!」
「おや、貴方は先程の――」
「あっちの席なんだけど空いてる子います? どんな子でも良いですよ。フリーでお願いします。あっ、でも牛人の子が空いてたら優先で」
「え?」
「三人なんですけど大丈夫ですかね? 金は全部ブラキカムのおやっさん持ちなんですけど、それと、長居しないけど一応延長前に時間は教えて下さい!」
「あ、あの」
ささっとボーイに希望を伝えると、ワクワクしながら席へ戻る。
にしし、暗い話はもう充分である。ここからは楽しい時間の始まりだ。頭の中でセピアのため息が聞こえた気がしたが、気にしない気にしない。
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