タオルを胸の前に持って、ちょっぴり恥ずかしくなってる美少女アピール
という訳でやってきました銭湯へ!
読んで字のごとく銭出して入れる公衆浴場だが、こっちの世界でもそれは変わりない。
「大きいな」
「ラフィル名物の一つだからね。と言っても、王都の方が設備が良いんだけど」
「ここよりも凄いです?」
ラフィルも王都も同じ企業……こっちで言うと商人か? 同じ人が経営しているそうだ。専業なのだとか。
銭湯目的で王都に来る人が後を絶たず、ラフィルにも建てて分散させたらしい。どんだけ人気なんだよ。
「王都だと、他にもサウナとかマッサージとかある」
「ガーベラさん、詳しいですね」
「王都の方はお姉ちゃんと一緒によく行ってたんだ。今は時間が取れないけど」
王都はの方はスパ銭みたいだ。良いねマッサージ。歩きすぎて足がパンパンになる時あるし、行ってみたいわ。
ま、そっちは王都に行ったら考えるとして、まずはこっちの方だ。正面に従業員っぽい人がいるので話を聞いてみる。
料金は銅貨4枚。ざっくり1600円くらいだから結構お高めか? まぁ、現代よりも管理面倒そうだしこれくらいでも良いのか。
そして案の定、従魔はNGだった。だが、従魔が待機できるスペースはあるのでそこにユーリを置いていく。
「王都の方なら従魔でも入れるらしいからな。そっち行ったらちゃんと連れてってやるから」
「約束だぞ!!」
「ボタンはどうするのじゃ」
「人型なら平気だろ。そもそも婆さんも厳密には獣だし」
明確な基準は人型かどうかだな。
獣人ぐらいなら良いが、全身毛だらけだと排水口詰まっちゃうし。お風呂も毛が抜けちゃうと大変だ。
と言う訳で、お金払っていざ中へ。
ちゃんと鍵付きロッカーもあるぞ。締めたらお札取って鍵掛かるやつ。腕に通す紐があって腕に付けられる。中々現代的だ。
俺はぱぱーっと脱いでロッカーへと服を突っ込む。
「ハナさん、ちゃんと畳まないと服に皺がつきますよ。いつも言ってるじゃないですか」
「あー、そうだったわ。風呂入る時っていつも家で部屋着だったから癖がついてた」
「部屋着でもちゃんと畳んで下サイ」
「へいへい」
美少女としてそういうとこ大事だもんな。アイロンとか無いし。ケイカの言う通りに服を畳んで中へと入れ直す。
「ボタンさんも……うん、上手ですよ」
「んふー」
ボタンが出来ました! と言う様に畳んだ服を見せてくる。くそっ可愛いな……最近素が出過ぎてるから少し改めないと。
「ケイカさん、ハナさん達のお姉ちゃんみたいですねっ!」
「そ、そうですか?」
「ホラ行くぞお姉ちゃん、胸スッカスカなんだからタオルなんて巻かなくて良いんだよ……に゛ゃ゛ーーー!!!」
いってぇ!! 尻を思い切り抓られた!!
「ほら、みんなで入るんですから髪を纏める物は持って行って下サイ」
「抓る事無いだろ!!」
「これ、入る前から騒がしいぞ」
全くケイカのやつ、最近遠慮が無くなってきたな。
俺はタオルを胸の前に持って、ちょっぴり恥ずかしくなってる美少女アピールしながら浴場へと入る。
広い! 外から見ても大きかったけど、こんなにスペースあるんだな。
シャワーもあるぞ……いや、なんか違う。シャワーヘッドじゃなくて筒みたいになってる。
そして、そのシャワーの前に置いてある容器を見て俺は目を見開いた。
「ボディソープじゃん!! それにシャンプーも!! あるの!!?」
「普通は石鹸なのに、至れり尽くせりだよね」
「凄い綺麗になるですよね。最初びっくりしたですよ」
石鹸もあるんだ。どこ探しても無かったんだがな。一体どこで売ってんだ?
「王都へ行った時に、案内しようか?」
「良いんですか?」
「当然だよ。それよりも……ほら、座って」
ガーベラが髪を洗ってくれるそうだ。天国かな?
俺が風呂椅子に腰掛けると、馴れた手つきで髪を洗い始める。
おお……久々のあわあわしゃわしゃわ感。ああなるほど、長い髪ってこうやって洗うんだな。目を瞑ってはいるが何となく、どうなってるかは分かる。
「ガーベラさん、慣れてますね」
「うん、お姉ちゃんに良くせがまれてたから」
「にしし、あーんそこ気持ちいー」
「変な声出すんじゃねーよ」
ちらっと隣を見ると、シーラが体洗ってる。
やっぱコイツも直に見るとスゲーな。バインバインだわ。
「やっぱ竜って人型になると全員スタイル良いの?」
「知らねーよ」
「つれないなぁ。今のとこ【変化】使ってる奴は全員……いや、ボタン以外はスタイル良いよな」
種族によって違いがあるのかな。もっと【変化】出来る奴がいれば分かるのかもしれんが。
そんな事を考えながら、ちらちらとシーラの方見てたら泡飛ばされた。しかもこいつ的確に目を狙ってきやがった!
「ぐおお……目が……」
「ガーベラ、もっと強く頭洗ってやれ」
「ダメだよ、髪が痛んじゃう」
シャワーみたいな筒で俺の頭を洗い流してくれる。
水道から流れてるって感じじゃないんだよな。そもそも水道あるんか?
まぁ細かい事聞いてもすぐ忘れるから、そう言う物だと思ってりゃいいか。
折角なので俺もガーベラの髪を洗ってやろう。
ショートだから俺程大変じゃないだろうと思ってたが、ケモミミの処遇に困る。
「耳はどう洗えば良いんですか?」
「後ろ側から撫でる様にしてくれれば大丈夫。直接お湯は当てちゃダメ」
「はい」
優しくなでる様に耳を触ると、ぴくぴくと反応する。
そこは本物のワンちゃんみたいなんだな。ケイカは角だけで尻尾ないし耳も普通だから、獣人の耳を触るのは初体験だ。
フフ……ガーベラちゃんで初体験貰っちゃった。
「キショイ顔してないで早く流してやれよ」
「今キショイ顔っつった奴誰だ??? そこのトカゲか???」
「あ?」
「ああ?」
「もう! 喧嘩しない!」
オクナに怒られてしまったので、シーラとじゃれるのをやめてガーベラの髪をお湯で流す。シャワーっぽい筒の所に突起があって、それを押すと流れてくる。謎のシステムだ。
おお……お湯で流した後のうなじの部分がいろっぺえ。あんまりじろじろ見て嫌われるのも嫌なので、ササッと流す。
「ありがと。シーラ、あんまり酷い事言っちゃダメだよ?」
「コイツにも言ってやれ」
自分から言ってきたのに。まぁ、本気で喧嘩してる訳じゃないから大丈夫だ。
という訳で体も洗ってから、久々に湯船へ浸かる。ちゃんとケイカに言われた通り髪は纏めてるぞ。お上品な美少女っぽくて悪くない。
では……ぐわああああああ……!! 癒される……! 声出すの我慢した俺を褒めて欲しい。
「んー!」
「ボタン、飛び込むのはマナー違反じゃ」
ボタンが、がっしりと頭を掴まれている。流石に公衆浴場で飛び込みはまずいからね。他にもちょこちょこお客さんいるし。
そのままゆっくりとこっちへやってきた。しかしリコリスの奴、生で見るととんでもねえな……。色んな人からチラ見されているが本人は気にしていない様子。流石に慣れてるな。
「おっぱい浮いてんぞ」
「たわけ。それよりも、ボタンをちゃんと見ておれ」
「はなー」
いつもの様にむぎゅっと抱き着いてくる。
ボタンも髪を洗って貰った様でいつもよりサラサラな気がする。
「主よ。この後の事もあるからの、のぼせぬ様に気を付ける事じゃ」
「久々だから満足するまで入りたかったんだがなー、仕方ないか」
「どんなお店なんですかねぇ。お酒とか出るんですか?」
多分女の子とお喋りしながらお酒で金落としまくるお店ですよ。
流石に酒は飲まないが、俺はシラフでも十分楽しめるから問題無いな。
「話をしに行くだけじゃ。どこでも変わらぬよ」
「えー、ちょっとくらい遊ぼうぜ。お前だって久々に酒飲みたいだろ?」
「酒は好まぬ。決して飲めない訳では無いが」
「お前どうでも良い事で見栄張るよな」
「見栄など張っておらぬわ」
ちょっと飲ませてみたい気持ちもあるが、今回ばかりは我慢だな。何が起こるか分からんし。
でも明日にはここを発つから、是非獣人のおねーちゃんからお話聞いてみたいんだけどな~。
「ルーファもいる。あまり無理をさせるな」
「まぁ、そうか。仕方あるまい。王都に行ったら似たような店探せばいいか」
「ハナさんお酒飲みたいんですか?」
酒はどうでも良いが、可愛いねーちゃんとお知り合いにはなりたい。
いわば情報収集だ、情報収集。調停者として現地の人間から社会常識を仕入れないとね。
良い感じに勘違いしているので、そこには触れずに話を変える。
「それにしても――やっぱ風呂は良いな。王都行っても絶対入るわ」
「賛成です」
「その前に、腕の火傷を直してからじゃな」
確かになぁ。見栄え最悪なんだよこの火傷。
今はそこまで痛まないけど、偶にズキズキするから早く治したい所だ。
「自分の体の事なんですから、もう少し深刻に考えて下サイね?」
「そうだよなぁ……あっ、今の凄い美少女っぽい仕草だった」
「ブレないね」
「にしし……褒められた」
「褒めてないよ???」
胸の前で手首を握って何かを決意した美少女っぽい動きをしていると、ルーファがちゃぱちゃぱと近寄ってくる。
「どうですかハナさん! この銭湯は!」
「どうって……普通に気持ちいいし最高だが」
「ふふん!」
「なんでお前が偉そうなんだ」
良く分からん事で偉ぶっている。でもその胸張ってるポーズは使えるぞ!!
真似して俺も胸を張って偉ぶってる美少女を演じる。
「どうですかオクナさん!!」
「えっと、ハナさんはまだ成長の余地があるから大丈夫ですよ?」
「胸の事じゃないです」
なぜか励まされた。別に俺自身の胸はどうでも良いんだがな。
「でも、確かに顕著なんだよな……普乳がいないというか、極端すぎんだよ。デカすぎるわ君ら」
「ンな事言われてもな。つーか普乳ってなんだよ」
「お姉ちゃんの方が大きかったからピンと来ない」
「おばあちゃんも凄い大きいです!!」
「あまり大声で言う物ではない」
「はーい」
ここまで差が出来るなんて改めて女体と言う物は不思議だ。
……なんかちょっと悔しくなってきたぞ。これは女心が芽生えてきたと言っても過言では無いかもしれない。
「まぁ女は胸だけじゃないよな」
「私を見て言わないで下サイ」
「大丈夫だ、俺から見てもケイカはめっちゃ美人だし。でももう少し肉付き良くした方が抱き心地が」
「オクナさん、ちょっと抑えてて下サイ」
「えっ、なに? 何が始まるの? ちょっマジで抑えるの!? 嘘でしょ!?」
「ハナさん、女の子は揶揄ってはいけない事もあるんです」
「自分も女の子ですけど!? つーか声に抑揚が無くて怖すぎる! 待って待って俺も胸無いじゃん! 仲間じゃん!! ストップ!! ストッププリーーーーーズ!!」
湯船で折檻をされながら、二度と人のデリケートな部分を揶揄わないと誓うハナちゃんなのでした。