俺も別の意味で寝れないかもしれませんよ
怖いお兄さん達に取り囲まれたが、無事に撃退。
街のど真ん中なので、とりあえず動けそうな取り巻きにぶっ倒れてる奴らを運んでもらった。
意外と素直な奴らだ。兄ちゃんが心配なのか、リコリスには敵わないとみて取り合えず言う事聞いてるのか。まぁ、両方か。
聞けば、人が来なかった理由は単純に声掛けして止めてたらしい。割と普通だった!!
ラフィルだと、今この道は使えないから遠回りしてくれって言えば従ってくれるそうだ。
衛兵さん何しとんねんと思うが、上手く見回りの合間を縫ってるらしい。巡回の時間バレてるのも問題なんじゃねえか?
それはさておき。
ベンチでノビてる兄ちゃんが目を覚ますのを待ちながら、俺はルーファの苦言を聞いてやっている。
「なんですか、スペシャルハナちゃんキャノンって」
「俺の必殺技パート1だ」
「いくら何でもですよ。ダサすぎです。師匠の人形を使う以上、そんなダサいのは認められないです」
「二回もダサいって言うなよ傷付くだろ」
セピアにも不評だしそんな残念だろうか。
俺のネーミングセンスだと後はファイナル〇ラッシュとかが限界だぞ。
「じゃあお前が適当に考えといて。つーか、そんな気合入れる必要ある?」
「あるです! 分かりやすい名前が無いと人へ伝える時イメージ出来ないじゃないですか! それと、やっぱり格好良くないと嫌です!」
うんうん。格好良い技名は戦闘を華やかに彩ってくれるからね。
ルーファの言葉に頷いていると、いつの間にかガーベラがいなくなっている事に気づく。
「アレ、ガーベラちゃんは?」
「先に宿屋へと戻ったぞ。誰かが遅れる旨を伝えねば、心配するからのう」
「そっか。まぁそんな時間かからねえだろ」
そう言った直後、紫髪の兄ちゃんが起き上がる。
少し痛そうに顎へ手を当てている。掌底が綺麗に決まってたからな。
「ぐ……いつつ……」
「大丈夫か兄ちゃん。喋れる? 顎割れてない?」
「ああ……? うるせ……平気だ、これくらい」
「兄貴!! 大丈夫か!?」
「おう……くそ、なんてザマだ」
顎をさすりながら、起き上がりベンチへと座り直す。
「兄ちゃんには色々聞きたい事があるんだ。俺はハナ。兄ちゃんの名前は?」
「……カカオだ」
カカオくん。
苦そうな名前だな。
「カカオの兄ちゃん、なんでいきなり俺達を襲ったんだ?」
「なんでお前が仕切ってんだ? 狐人はどうした?」
「こいつは俺の従魔だ。俺がご主人様で一番偉いから仕切るのは当然だ」
「たわけ。その様な事で威張るでない」
カカオの頭の上に?が沢山並んでいるが、説明するの面倒だからさっさとこっちの質問に答えてもらおう。
「そんな事はどうでも良いんだ。で、どうして襲ってきたんだ?」
「……」
「言えないのか? 良いじゃねえか、別に言ったって死にゃしねえよ。なあ、お前ら」
「なんでそんな馴れ馴れしいんだあんた……」
取り巻きのおっさんが微妙な表情で俺を見ているが、気にせず話を続ける。
「ルーファが目的だったんだろ? 何でルーファが欲しいんだ? この子じゃ身代金とか期待できねえぞ?」
「そんなんじゃねえ。そいつは――いや、待ってくれ」
額の上を手で掻きながら、カカオは考える様に目を瞑る。
「分かった。話すよ。負けたのは俺達だ。こっちから吹っ掛けておいてこれじゃ示しがつかねえしな。だが、ここじゃ話せねえ」
「そんなにヤバい話なのか?」
「どうだろうな。詳細は聞いてねえが……王都の裏から来てる案件だ。下手すりゃ、マジに消される」
うへえ、マジか……さっき死にゃしねえよって言っちゃったじゃん。まさか本当に言ったら死んじゃうとは思わなかったぞ?
「急に聞きたくなくなったわ」
「いいや、聞いておいた方が良いじゃろ。今後も狙われるのは明白だからの、敵は知っておいた方が良い」
「私、どうなっちゃうですか……」
ルーファが心配そうに俯いている。想定よりもずっと大変な事に巻き込まれていた様だな。
命を狙われてるんだから不安になって当然だ。
「安心しろルーファ。俺と出会った時点でお前は絶対死なない。近いうちに、大手振って街中を歩ける様になる」
「……ハナさん」
ぽんぽんとルーファの頭を撫でてやると、ボタンもルーファの頭を撫でている。ちゃんと気遣いが出来てご主人様は嬉しいよ。
ルーファはボタンに任せて、俺はカカオの方を向く。
「そうだ、ついでにもう一つ聞きたいんだが」
「なんだ?」
「昨日の夕方、俺達の後をつけてたのってお前等なの?」
「昨日? ……俺は知らねえな。お前達は何か知ってるか?」
周りの男達も、首を横へ振っている。誤魔化しているようには見えないが、どうだろうな。
これが本当なら、昨日尾行していた奴は別件らしい。ぐおお、それはそれでめんどくさ。
「それも、後で詳しく聞いた方が良いじゃろう」
「そうだな。だけど、ここじゃ話せねえっつっても、俺達は日を改める程この街に長居しないぞ」
「そんなに時間をかける必要はねえ。おいリブ、あれ持ってるか」
さっき俺を見てたおっさんが、カカオへ小さい紙を渡す。
「今日の夜、その店に来い。ここで詳しい話をしてやる」
「え~~? 大丈夫? 誘い込まれて襲われたりしない?」
「ンな事しねえよ。北区にある店だ、騒いだら衛兵がすっ飛んでくる。この店はガキのお前には些と早いかもしれねえが……」
俺は渡された紙を見てみる。
ッッ!!! これはまさか……ッ!!
「あの店かッ!!!」
「知ってるのか?」
「行った事は無いけど今日行こうと思ってた」
「良い趣味してやがるな。そこは俺等がケツ持ちしてる店だ。聞き耳立てる様な輩もいねえだろう」
なんとびっくり。指定された場所は、昨日見たあの獣人のキャバクラらしき店だった。
よし、大義名分ゲット。時間的に風呂行った後になっちまうが、仕方ないか。
「行く行く、ハナちゃん行っきまーす!!」
「調子の良い奴だな」
「気にするな、いつもの事じゃ。それよりも、他に誰か連れて行っても良いのか?」
「大勢で来るのは勘弁だが、数人程度なら増えても構わねえ。俺がオヤジに説明する」
「親父?」
聞けば、今日その店にカカオが所属している組織のおカシラがいるらしい。
いよいよヤクザ染みてきたな。ハナちゃんの健全な異世界ライフとは程遠いからあんまり関わりたくないんだけど。
しかし、可愛い獣人の女の子が俺を待っている。行かない選択肢はありませんね。
「でも良いの? 返り討ちにした奴らが乗り込んで、そのおやっさんが危険だとか思わないのかよ」
「こうして気楽に話せてる時点で今更だろ。むしろアンタ等、襲われたのに何も思う所はねえのか?」
「別に。怪我してないし。あっ、でもルーファは流石に嫌か?」
「ハナさんやお婆ちゃんがいたから無事だったし、大丈夫です。でも、あんまり近づくなですよ」
「近づかねえよ。そこの狐人にぶっ飛ばされそうだ」
「そこまで喧嘩っ早くは無いがの。まぁ、足は凍らせるかもしれぬが」
「もっとダメだろ」
リコリスの物騒な発言のお陰で、取り巻き達が一層離れて行く。
その様子に苦笑いしながら、カカオは立ち上がった。
「もう平気なのか?」
「ああ。あんた、手加減してたんだろ?」
「そうじゃが、少し力を入れ過ぎた。頑丈じゃの」
「荒事は専ら俺が仕切ってるんでね。頑丈じゃなきゃ身が持たねえんだ」
カカオは笑いながら言うと、周りの男達に声を掛ける。
「動けねえ奴はいるか? ……よし、じゃあ行くぞ。お前等は先に戻ってろ。俺はオヤジのとこへ向かう」
「でも兄貴、返り討ちにされたなんて言ったらどやされるぜ? おまけにいきなり話をしろだなんて言ったら」
「仕方ねえだろ、こいつらはバケモンだ。ただ逃げ帰るだけじゃなくて、話を付けてきたんだから上出来だろ。それよりも、今死ななかっただけマシだと思え」
「目の前でそういう事言わないでくれます?」
俺の言葉をスルーして、カカオは続ける。
「アンタらへ変なマネしない様に、俺から確り伝えておく。オヤジは良いが、他の奴はどう思うか分からねぇ。まぁ、目の届く範囲なら俺が抑えておく」
「あいよ。ま、リコリスがいれば平気だ」
「やれやれ……今日も寝れないのう」
俺も別の意味で寝れないかもしれませんよ。ぐひひ。おっと、美少女に相応しくない笑いが漏れてしまった。
まぁ~~ハナちゃん美少女だし? 夜遊びとかほんとはいけないんだけど、事態は深刻だから仕方ないよね。うんうん。
(ハナ様。先程迄敵対していた者達のテリトリーへ行くのですから、油断なさらないで下さい)
(油断なんてしてないぞ。いきなり襲って来た奴らなんだからまだ信用は出来ん)
(昨日の不審者と言い、今回はいつも以上に複雑な状況です。リコリスさんから離れない方がよろしいかと)
(そうだな。リコリスかボタン、それかユーリのいずれかは必ず近くに付けておこう)
まずは宿屋へ戻って、ダイナ達へ説明しなきゃな。ガーベラが軽く話してるだろうが、まさか今日の今日でそいつらのお頭と話をしに行くとは思わないだろうからな。
ついでだしダイナも誘ってやるか。にしし、俺は優しいからな、楽しい事は御裾分けしてやるのだ。
(……本当に気を付けて下さいね)
(うっす!)
何故かセピアに念を押されながら、俺は宿屋へ戻るのだった。
宿に帰ると全員戻っていたので事情を説明した。
ダイナとオクナは心配してくれて、シーラは俺も居合わせたかったとかワケの変わらん事を言っていた。
「じゃあ、この後すぐに行くんですか?」
「いや、風呂行ってからだな。あんまり遅くなると閉まっちゃいそうだし」
「分かりました。私も行きますからっ!」
「分かった分かった。分かったから抱き着くのはやめなさい」
また俺が襲われたのでもう暫く離れません!! と、ケイカがくっ付いているのだ。
今回は俺じゃなくてルーファなんだけどな。
もしゃもしゃと夕飯のパンを噛みながら、ユーリへと話しかける。
「ユーリはお留守番だ。店に入れるか分からんしな」
「おっけー」
既に眠そうだしな。銭湯には一応連れてってやるが。
「ダイナも来る? あと一人くらいなら平気だぞ」
「俺か? どうするかな……」
ダイナは食事の手を止め、軽く上を向きながら考えている。
「六曜のメンバーも一人はいた方が良いんじゃね?」
「うん、いつまた襲われるか分からないからね。こういう時はリーダーのダイナが行くべき」
「そっか。そうだな、俺も行かせて貰おうか」
「帰ってくるまでは私達も起きてますので! ダイナ、ルーファちゃんの事、守ってあげてください」
オクナちゃんは良い子だね。そこで興味なさげに飯を頬張っているシーラも見習ってほしい。
「ま、困ったら呼べよ。俺が全部倒してやる」
「別に喧嘩しに行く訳では無いのじゃが」
「何甘い事言ってんだ。いきなり襲ってくるような相手なんだから警戒しとけよ」
それはその通りなので、リコリスはシーラの言葉に黙って頷いた。
「そのカカオって人の話だと、昨日の不審者とは別なんだよな?」
「奴が言うにはのう。後でまた話を聞くが、あの様子を見る限り嘘はついておらぬじゃろ」
「今更、嘘ついても意味がないだろうしね」
あいつら、最初は狐人が云々って言ってたな。ルーファ以外にも目的があったのだろうか。
「最初にリコリスへなんか聞いてたけどな。5日前に西区で暴れただろって」
「おお、そう言っておったわ」
「でもリコリス様じゃ有り得ませんよね」
「まぁ十中八九、噂の狐人でしょうね」
「傍迷惑だな」
その狐人、どこで何をしてるんだろうな。5日前じゃもういなくなってるか?
俺がそう考えていると、隣でルーファがブツブツと何かを言っている。
「5日前……」
「どうしたんですか?」
「私が来たのが5日前なんですが、狐のお姉さんと一緒にラフィルの中に入ったですよ。その時、丁度西区で襲われた所を撃退したです」
「それの事だな、間違いなく」
「でも、襲われたから返り討ちにしただけですよ」
「今回と一緒だな」
もしアウレアだとしたら、間違いなくボロクソに相手を貶してボコボコにするだろうから遺恨を残しただろうな。
面倒だ、何故俺がアイツの尻ぬぐいをしなければならんのだ。そもそも王都へ来たのだってアイツがつけた傷のせいだし。今度会ったらケツ触ってやろ。
もしゃもしゃ、ごくりとよく噛んだパンを呑み込み、俺はアウレアへのセクハラを決意する。
「いつになく真剣な表情だな」
「流石のお前でも緊張するんだな」
「いやあ、くだらない事考えてるだけだと思いますヨ」
くだらない事じゃないぞ。本日のメインイベントである銭湯と、その後更にメインイベントである女獣人達の楽園に思いを馳せているのだ。
ついでに、例の狐人がアウレアだったらお仕置きしてやろうと思っていただけ。
俺は水を飲みほしてから、ケイカの元を離れる。
「ふぃ~食った食った。風呂の場所は分かるんだよな?」
「はい、私が案内するですよ」
「今日は文字ばかり目にしてたから、肩がごりごりですよ。早く入りたいです!」
「俺も今日は石見たり絡まれたりで大変だったぜ」
「ぴかぴか」
石の話題を出すと、横でぱくぱく飯を食っていたボタンが光石(俺が勝手に名前付けた)を取り出した。
「おお、まだ光ってんのか」
「買ってもらったんですか? 良かったですね、ボタンさん」
「んふー」
ボタンがいつになくご機嫌だ。
光り物が好きなのだろうか。お前闇属性なのにな。
「それ、師匠の人形に組み込みたいです」
「組み込んでどうするんだ?」
「カンテラの代わりにするです」
「いやまぁ……便利かもしれんが」
発想が地味すぎる。というか人形を光源の代わりにする意味がないのでは。
本人はやる気なので水は差さないが。
「じゃあ寝る前に人形渡すわ。ボタンの石も」
「お願いするですよ。石は後で別の物を購入するので安心するです」
「ん」
ボタンは頷くと、体の中に光石をしまい込む。スライムの体内に入れた途端光が無くなったぞ。どんな理屈だろうか。
……まぁ今更か。と、一旦ボタンの謎は置いといて、俺はこの後の事を話す。
「風呂入った後、そのまま行くわ」
「ハナとリコリスさん、ケイカさんにルーファ。後は俺がカカオの組織が面倒見てる店に行くって事でいいのか?」
「ん!」
「ウム、ボタンもじゃな」
「じゃあ私とオクナ、シーラは宿屋で待機。……あ、ユーリくんもか」
「おう、その辺で寝てるからブラッシングだけよろしく~」
いつものように大欠伸しながら、気の抜けた様な声を出すユーリ。
そんなユーリを撫でながら、オクナは口を開く。
「気を付けて下さいね」
「ああ、穏便に済めば良いんだが」
「ヤクザだからなぁ。いきなり目の前でカカオの指詰め始めたらどうしよう」
「流石に無いだろ」
ダイナは笑いながら言うと、椅子から立ち上がった。
「そろそろ行かないか? 早い方が良いんだろ?」
「そうだな。ダイナ君は男湯の方で一人悶々としてるが良いわ」
「なんじゃそりゃ」
女の子がきゃぴきゃぴやっているのを、男湯で一人じっと寂しく聞いているのは定番だろう。ユーリが一緒に入れれば良いんだがな。
俺達は飯を食べ終わった後、銭湯へと向かうのだった。
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