スペシャルハナちゃんキャノン!!
中央区から北区の宿へ向かう。どこか静かなラフィルの中央道をのんびりと歩いている。
丁度お日様が真正面に合って眩しい。太陽の周り方も地球と一緒(地球の方が回ってるんだけど)で考えてみれば不思議なもんだ。
異世界の常識を考えながら進んでいくと、隣で歩いていたリコリスが立ち止まる。
「どしたん」
「主よ。静か過ぎると思わぬか」
「うん? ……言われてみれば」
のどかだな~なんて思ってたが、あんだけ人が行き交っていたのに今は誰もいない。
立入を禁じられていた形跡も無かったし、あからさまに誰かが人避けしている。
既に警戒していたのか、ガーベラは特に驚きもせずリコリスへと話しかける。
「リコリスさん、どう思う?」
「さてのう。心当たりが無い。聞いてみた方が早かろう」
道を塞ぐ様に、ガラのわる~いお兄さんが何人も出てくる。
すげえ……本当にこんな事あるんだな。どうやって人避けしてるんだろう。なんて他人事の様に思いながら見ていると、一際目立ってる兄ちゃんが俺達の前に出る。
「悪いね姉ちゃん達。ちょいと強引だが、話を聞いてくれるかい?」
「いきなり取り囲んで話とは、無作法な者達じゃな」
紫髪のイカつい頭した兄ちゃんが、リコリスの言葉を受けて笑いを漏らす。
「だーから悪いなって謝ってんじゃねえか。こっちも急いでるんでね。手短に聞くが――そこのアンタ」
「我か」
「そう、我だ。5日前にアンタ、西区で暴れただろ?」
「5日前? 我は昨日ここへ着いたばかりだぞ」
「何?」
あの兄ちゃんが言っているのは、以前聞いた乱暴な狐人の可能性が高い。
少し間を開けて、兄さんが話を続ける。
「ま、それは門にいる奴に聞けば分かるとして……そこのガキ」
「誰の事だよ」
「兄貴、ガキは三人いるぜ」
「ああーえっと……そこの幸薄そうな灰色髪のガキだ」
「誰が幸薄そうですか!! あなただって幸薄そうなツラですよ!!」
結構強面なのだが、それに臆することなく言い返すルーファ。
「ボロボロだって言ってたが、割と元気そうじゃねえか。オイ、コイツで間違いねえのか」
「名前はルーファだってよ」
「お前、ルーファか?」
「ルーファです!!」
「簡単に答えるなっての!!」
流れる様なボケに思わず突っ込んでしまった。
でも、ルーファの名前知ってるって事は、もしや以前襲われたあの暴漢共の仲間か?
「ルーファに何の用だ?」
「ちょいと入り用でな。そいつの身柄を確保しろって言われてんだわ」
「白昼堂々誘拐か? 随分度胸あるなオメー」
「誘拐じゃないさ。少し王都へお連れするだけ……あ、これ言っちゃいけないやつだっけか。まぁいいさ。さっさとそいつを引き渡しな。手荒な真似はしたくない」
ルーファの方を見ると、フルフルと首を振って拒絶している。渡すのはナシだな。親戚のおじさんって訳でもなさそうだし。
仮に引き渡しても碌な事にはならないだろう。バッドエンドだ。ハナちゃんバッドエンド嫌いだから抵抗しちゃうぞ。
そもそもどこの馬の骨かもわからん、いきなり渡せだのなんだの言う無礼なやつのいう事は聞けないのだ。
「オメーみたいな不埒な輩に俺の子はやれんな」
「偉そうなガキだな。オイ狐人。どうなんだ?」
「はあ。愚問じゃな」
「女の子誘拐する変態野郎に渡す訳ねーだろ。ほら、衛兵が来る前にとっとと消えな」
「お主も挑発するな」
そうリコリスは言うが、取り囲んでる時点で素直に帰してくれる訳ないじゃん?
俺の予想通り、ゾロゾロと周りにいた連中がこちらへと来る。
「安い挑発だが――仕方ねーな。狐人は俺がやる。テメエら、ルーファだけ確保して後はノシとけ」
「おいおい、あの魔物どうすんだ」
「なんとかしろ」
「ちょ、オイ兄貴!!」
紫髪の兄ちゃんが突っ込んでくる。
ちらっとリコリスを見ると、任せろと言いたげに頷いていたので俺はその他取り巻きに目を向ける。
「で、どうすんだ? コイツをなんとか出来るのか?」
「口の減らねえガキだな。やれ、ノイゼ!!」
取り巻きの一人が声を荒げると、遠くにいた男が魔法を放ってくる。
火魔法か。じゃあ魔断の剣で――
「ハナ、私に任せて」
今まで一言も発さなかったガーベラが前に出る。姿勢を低くしながら火の弾へ接近し、下から斬り付ける。
すると、火の玉が文字通り消滅した。おお、そんな事出来るのか。
「ハナは後ろをお願い。前は私が何とかする」
「分かりました。ボタン、俺は良いからルーファを守れ。指一本触れさせるなよ?」
「うん」
ボタンに任せておけば安心なので、俺は後ろの方にいる奴らへ目を向ける。
以前は死にかけたが、今の俺は強いぞ。なんてったってユーリがいるからな。
「よしユーリ、適当にぶっ飛ばせ」
(適当すぎんだろ!)
(殺すなよ。あ、魔法もナシね。道破壊して弁償とかヤだし)
(注文も多い!)
どこか相手が怖気づいてたので、俺の方から攻める。
魔糸は届かない距離なので、ユーリの蔦で軽く締めあげてやるぜ。
ユーリに指示して、数本の蔦を飛ばす。
あんまり強く叩きつけると死んじゃいそうで怖いので、適度に加減してもらう。
だが、流石に相手もぼったちじゃない。蔦が近づくと、直ぐに散って三手に分かれた。
(左右はお前がやれ。セピアは俺の視界から討ち漏れが無いか見とけ)
(分かりました)
(アイアイサー)
俺は中央から来る奴らを止めるべく、人形を取り出す。
ちょいと魔糸を繋げれば直ぐに箱から出せる。人形遣いに優しい設計だ。
「こんな初陣じゃ箔がつかねーが、練習相手にゃ丁度良いぜ」
銀に輝く剣を二つ両手に持つ精巧な人形。
金色の髪を揺らしながら、剣を構える。
「あの人形!? 師匠の作品です!!」
ルーファが驚いている。
見ただけで分かるのか。まぁ、出来の良い人形だからな。後でたっぷりと話を聞かせて貰おう。
それは一先ず置いといて。まずはコイツらを叩きのめす。
中央からは3人。1人は剣を、後は短剣を握って此方へと向かってくる。
「美少女相手に剣向けるなんて人として恥ずかしく無いのか」
「自分で言ってんじゃねえよ!」
3人のうちの1人が律儀にツッコミながら、俺へ――いや、ユーリへと向かっていく。
意外と速いな。チンピラかと思いきやなんかの組織の構成員だったりするのだろうか。
俺は指を動かし、人形をその男の前へと接近させる。
その剣で斬り刻む――のは無しで、まずは武器を取り上げたい。
腕を狙って剣を振るう。それを剣で受け止めようとするが、思いの外力強かったのか少し体勢を崩した。
「チッ、なんだこの人形――ぐっ!?」
更に追撃すると、たまらず後ろへと下がる。そう簡単に無力化はさせてもらえないか。
その間にも、残りの2人がこちらへと近づいてくる。
「テメーらはこれと遊んでろ」
ナイフを4本魔糸に繋げて、そのまま飛ばす。
練習して少しは頭が働くようになったのか、アルラウネのヴェガを相手にしていた時より動きが良い。
2人がナイフと遊んでいる間に、俺は後ろへ下がった男を追撃する。
この人形は色々なギミックが仕込まれている。
こんな小さい人形だが、10個以上はこざかしい、もとい優れた攻撃手段があるのだ。
俺はその1つを使用する。人形が剣をしまうと、カシャリと音が鳴り手を前に突き出す。
「行け! スペシャルハナちゃんキャノン!!」
「ぐふっ!?」
(ダっ……ダサい!!)
人形の手から光弾が放たれる。一瞬で男の腹部に直撃し、吹っ飛ばされた。
質量の有る光弾――ルビアが使っていた光魔法と同じだ。まさか異世界に来てエネルギー弾が見られるとは思わなかったぞ。後ダサくない。
さて、そのまま残り二人も一気に倒してやる。
「パトリオットミサイルキーーーーーーーーーーーーック!!!!」
「えっ!? ちょ、まておごぉっ!?」
人形の超速ドロップキックで1人を突き飛ばすと、直ぐにもう1人の方へ近づく。
「歯ァ食いしばれッ!!」
「うぎぃっ!!」
人形のストレートが左頬に炸裂すると、そのままぶっ飛ばし一撃でダウンさせる。
リコリス相手だと全然効かないんだが、人相手だとすげえな。ケイカとかスノーにやらなくてよかった。
速攻でカタしてしまったぞ。以前の俺とは比べ物にならん程成長しているな!
自画自賛しつつ、残りの5人へと意識を向ける。だが、ユーリが全部蔦で捕獲していたので俺の出番は無いな。
「ユーリ、そのまま拘束しといてくれ」
(らじゃー)
「さーてそれじゃあガーベラちゃんの手伝いでも――」
と、とことこ後ろへと戻ると、既にガーベラは他の奴を抑えていた。
「え、つよ。まさか終わってるとは思わなかった」
「ハナ、大丈夫だった?」
「え? ああはい、大丈夫です。リコリスは?」
「意外と良い勝負してるよ」
「マジ?」
あの兄ちゃんそんな強かったの!? 直ぐにリコリスの方を見る。
そこではリコリスと兄ちゃんがバシバシと肉弾戦を繰り広げていた。ドラゴン〇ールかよ。さっき光弾飛ばした俺が言うのもなんだけど。
「ちぃぃっ! 聞いてねェぜッ!! ンなにツええのかアンタ!!」
「それはこっちの台詞じゃ。思いの外動けるでは無いか」
「余裕そうだなオイ!!」
拳も蹴りも全て容易く受け止められ、一撃でも食らえば大きなダメージを受ける掌底を回避する紫髪の男。
このババアやっぱ強すぎだわ。今の所苦戦してるのアウレアくらいじゃないか?
「だぁぁっ!! くっそ当たんねぇ!!」
「お主以外は既にやられておるぞ。大人しく負けを認めぬか」
「うるせえ! このまま一方的にやられてたまるかよ!!」
「ほう」
そう言いながら果敢に攻め始める。意外と効いてるのか、リコリスも少し驚いた表情を見せている。
根性みせるな。最初のチンピラムーブとは裏腹にアツい奴なのかもしれない。
ただ、根性だけでどうにかなる訳では無いのだ。
「夕餉の時間に遅れる。そろそろ終わりにするぞ」
「余裕ぶっこきやがってッ!! そのままっ――」
言葉を続ける前に、顎へ一発きついのが入れられる。舌、噛み千切って無いだろうな。
紫髪の兄ちゃんが、どさりと倒れた。おいおい、大丈夫かよ。死んで無いだろうな。
「待たせたの」
「殺しとらんだろうな」
「なんじゃ、暴漢の事など気にせんでも良いだろうに」
「ダメダメ、流石にやりすぎは良くない」
「心配せんでも、少し気を失ってるだけじゃ」
その言葉に、まだ意識がある取り巻き共はホッとしている。
慕われてるって事は割と部下思いなのか? ちょっと気になってきた。
乱闘にはなったが、こっちは傷一つ無いし。少し話を聞いてみても良いかもしれない。