あんまり傍若無人だと折角の美少女が台無しだぞ?
2018/11/12 会話表示修正
2019/1/28 サブタイトル、ハナの言い回しを主に大幅改稿。内容は変わっておりません。
肉屋を周り、その他食材を買い、俺達は両手に荷物を持ちながら帰り道を歩いている。
「クク、牙を抜かれた悲しき獣よ。全て喰ろうてくれるわ」
「思ったよりも沢山買えたね」
「この美少女にかかればおまけの一つや二つは容易い」
一人暮らしをしていた俺にとって肉の選別はお手の物であった。であったのだが、元の世界と違ってそんな切り分けられて無いし値段もざっくりだしでそこまで知識をひけらかす事は出来なかった。残念。
そもそも肉の種類からしてゲテモノばかりだと思っていたが……なんとありましたよ牛肉。
だが、少量でお高めだった。こちらでの主流はうさぎやイノシシらしい。
魔物肉も売ってはいたが牛肉同様値段的に手が届かない。美味しいのだろうか?
「オーク肉とかしか無かったらどうしようかと思った。まだ心の準備が出来てないからな」
「そんな大袈裟な。魔物なんだから食べられるよ」
「違うのだ!」
そんな動物も魔物もそこに違いはありゃしねえじゃねえかみたいなノリで言われても、やっぱ人っぽいのはこう……ね、色々抵抗感がね。
他にも結構種類があったわけだが、とりあえずメジャーだと言われるうさぎ肉を購入。
割安で他の肉とも大差なく、焼くだけでも美味しいと肉屋の人が言ってた。鶏肉みたいな見た目だし、違和感なく食べられそうだ。
「レイは食べたこと……なさそうだな」
「うん、ごめんね」
「いやいや謝ることでは……ん?」
レイと話していたら、なにやら遠くから騒がしい話し声が聞こえる。喧嘩か?
「騒がしいな。何かあったのか?」
「人も多いわけじゃないし揉め事なんて早々起こらないんだけど……。ちょっと行ってみる! ハナちゃんは先に帰ってて!」
「あっ、おい!」
レイが急に駆け出す。女の子を置いていくとは全く……先に帰っててと言われてもレイが持ってる方に腐りやすいのを詰め込んだからなぁ。
それにちょっと気になる。荷物が重いから早く帰りたいと言えば帰りたいが……仕方ない、行ってみるか。
俺はレイが向かっていった方へと歩く。
(レイめ、ああやってすぐ厄介事に首突っ込むと碌な事にならんぞ)
(ですがその性格のお陰でハナ様が拾われたわけですから)
(むう、セピアに諭されなくてもわかってる)
別にダメだとは言わない。だが、良いことばかりではないとレイに教えておいたほうが良いだろう。
あっちじゃ迷子の女の子に声かけただけで捕まる案件もあるからな……怖っ。
「なんで森に入っちゃいけないの!?」
「いや、だから今は非常時で通行禁止だと……」
アクションが激しいのですぐにわかった。女の子と男が何やら揉めている。いや、正確には女の子が一方的にヒートしているのだが。
というかあの男の方、さっき爺さんと話してた衛兵だ。名前は……アーキスだったか。
「その非常事態を解決する為に来たのよ!」
「ああ、それは良いんだがちゃんと許可書を見せて欲しい。冒険者として依頼を受けたのであれば貰っているはずだが」
「むうう~~そんなの聞いてないわよ。こっちで魔物が現れたって言うから駆けつけたのに……」
「まあまあ、少し落ち着いて」
俺より少し大きいくらいの少女が青髪を揺らしてきゃんきゃんと叫んでいる。
見るからに面倒臭そうな女だ。少し見聞きしただけでも、気持ちばかり先走ってる感じが伝わってくる。
それにあの服装は……目がチカチカする。どんだけ派手やねん。赤と黄色に髪が青……信号かよ。
先に向かったレイが隣で女の子を宥めている。10歳にして既に気遣いを覚えているとは難儀な。
(どうやら先程ダズさんと話していた幽霊騒動の件で揉めているようですね)
(うるさい女だ、ああいうの苦手なんだよな。荷物だけ交換してこようと思ったけど……ここはレイに任せて引き上げよう)
(長くなりそうですね)
俺はその場から離れ歩きだす。
青髪か、女神さんよりも少し水色に近い感じだった。綺麗だったな。
性格は見ただけでかなり強情っ張りだとわかるが。レイもしばらく帰ってこなそうだな。
「もう、少しくらい大目に見てくれても……ん?」
青髪の少女がふと右に視線をやると、風にそよぐ美しい銀髪が目に入った。
遠くからでもわかる太陽の光に照らされて艶めく髪に、雪のように白く綺麗な肌。青髪の少女は、自分が喚いているのも忘れそれに見惚れてしまう。
「どうしたんだい? お嬢ちゃん」
「……はっ、い、いや何でもないわ。そうね、許可書が必要だっていうならギルドへ取りに行くわよ。それでいいんでしょ?」
「ああ、それはそうだが……」
「じゃあそういう事で! 坊やも悪かったわね」
「坊やって……君もそこまで変わらないじゃないか」
アーキスとレイを残したまま、青髪の少女は颯爽と去っていった。
まるで嵐の様な女の子だった。二人は苦笑いしながら彼女を見送る。
「あの人、見たこと無いけど隣町の冒険者ですか?」
「最近冒険者ギルドに来たらしい。ああ見えてもう15歳だそうだ。ちゃんとギルドカードも持ち合わせていたよ」
「何しに来たんでしょうね。頑なに引かなかったのに、急に帰っちゃったけど」
「さてな、パワフルな女の子だったのはわかるがね」
アーキスはハハハと笑いながらレイに言う。
聞けば偶々通りかかった彼女に捕まったらしく、そこで騒動の詳細とリールイ林の事を聞かれたという。勝手に森の中に入らない分まだ常識はあると言う事か。
「所で、レイくんはどうしてここへ?」
「僕は買い出しの帰りですよ。凄い大声で話してるのを聞いて来てみたら、アーキスさんとさっきの人が話してて」
「不安を煽ってしまったかな? 申し訳ない、今後気をつけるよ」
「いえ、アーキスさんが悪い訳ではないです」
レイはそう言うと、両手の絹袋を持ち直す。早く帰らないとハナにどやされてしまう。
お肉は早くしないと鮮度が落ちると言われてるんだった。一先ず丸く収まったので、ここに留まる事もない。
「では、僕は帰ります」
「ありがとうなレイくん。ダズさんとハナお嬢ちゃんによろしく言っておいてくれ」
「ハナちゃんの事を知ってるんですか?」
ハナちゃんが来たのは昨日の夜なのになぜ知ってるんだろう? レイは不思議そうに問う。
「実はお昼時そちらに寄ってね。その時に少し話をしたんだよ」
「来ていたんですか。言ってくれればよかったのに」
「ハハ、日課の訓練でお腹を空かせたレイくんを待たせるのは心苦しいからね」
あの時は卵焼きしか頭になかったから全然気が付かなかった。情報が早いと思ったけど、そういう事かとレイは合点がいく。
「早く戻らなくて大丈夫かい? あの子、可愛い見た目とは裏腹に大分気が強そうだったが」
「気が強いと言うよりは口が悪いだけと言うか……ともかく、僕はこれで戻ります。じゃあまた!」
すたすたとレイは家に戻っていく。
心なしかいつもより楽しげに帰るのを見て、アーキスは微笑ましく思う。
「ハナお嬢ちゃんといい、さっきの冒険者といい、随分賑やかな子たちが来たものだ」
ちょっとした騒動も悪くはないかな? と、国を守る衛兵が少し不謹慎な事を考えてしまう。
何も起こらないのであればそれに越したことは無いが、こうしてこの村の為に人が集まってくるのを見ると多少なり嬉しいものを感じる。同時に、この村を守らねばならないと言う使命感も芽生えていた。
アーキスは今一度気を引き締めて、午後の巡回に勤しむのであった。
元来た道へと戻ってくる。ここから大通りを真っ直ぐ進めば家に着く。
流石に昨日の今日だからな、分かりやすい道から行かないと道に迷ってしまう。
(ま、最悪セピアになんとかしてもらうけどな)
(この道では迷いようがありませんよ。裏道は多少入り組んでいるようですが)
(こういう時、デジタルなマップをすぐ開けないのは不便だな)
前までは行き当たりばったり……と言うか、昨今ではその場ですぐ地図を開けるので大体の場所さえ調べれば後は現地でどうになかっていた。
今後はそういう考えも改めねばならない。気づいたら魔物のテリトリーでした! とか平気でありそうだしな。
(一度通った道は大体纏めていますので、目的地さえ言ってもらえればナビゲートしますよ)
(わお、人力ならぬ神力ナビだ。お安くついてお得だ……うおっ!?)
不意に強めの追い風が吹いた。風が強くなってきたな、にわか雨でも降るのか?
(やっぱ髪の毛纏めてくるべきだったか、うっとい!)
(髪を切るという選択肢も)
(それはない!)
こんなサラサラで綺麗な髪なら、当然長髪で行くべきだろう。サラサラ過ぎて今朝ちょっと手櫛で直すだけで整うくらいだぞ。
そういえば、この世界美容院とかあるのだろうか。貴族だと専属でスタイリスト持ってたりとか? いいなぁ。
(ハナ様、変な事を考えるのは帰ってからにしましょう。風が強くなってきています)
(変な事じゃねーよ大事なことだよ風当たりが強いのはお前だろ!)
そう言いつつも、風が強くなってきているのは事実なので俺は早足で家に向かう。
すると突然、後ろから凄い勢いで走ってくる音が聞こえる。
「そこの女の子ーー!! 少し待ちなさーーい!!」
少し前に聞いた騒音だ。どうやら先程の騒ぎは収まったらしい。
でもなぜ後ろから走ってくる。しかもそこの女の子って事は……。
「こらーー!! 無視するなーー!!」
声が段々と近づいてくる。俺か? 俺だよなぁ周りには女の子おらんし。
どうしようか、なんて考えている時間は無い。そもそも俺もあの子も悪いことしてないのにどうして逃げる必要があるのか。
直感的に何か嫌な予感はするが……。仕方ない、話を聞いてみるか。
俺は立ち止まってくるりと振り向き、青髪の少女を待った。
「ごめんなさい、無視するつもりは無かったの。私に何か用ですか?」
「はあ……はあ……少し待って……。ふぅぅぅーー」
全力疾走したみたいだ。息切れして膝に手を当てている少女を待つ。
そこまでして俺を追っていたのか。と言うか現場に少し寄っただけなのだが、見られてたのか?
「ふぅ。貴方、さっき私を見ていたでしょう」
「大きな声が聞こえたものですからつい好奇心で……覗くような真似をしてすみません」
「まぁ、それは良いわ。貴方、名前は?」
うーん、教えて大丈夫か? 教えたら最後取り返しがつかなくなる気がして。
だが話が進まない。ええい、別に名前教えただけで口座番号がわかるわけでも無いんだ、大丈夫だろう。
「私はハナと言います。その、もう一度聴きますが私に何か用ですか?」
「そう急かさないで。私はスノー、冒険者よ。ディゼノにはまだ来たばかりなの」
スノーという少女が胸を張って自己紹介してきた。なんか凄い誇らしげだ。
冒険者ね、さっきちょろっと聞いたな。ディゼノって確か――
(隣町の名前ですね。きっとこの村から依頼を出す方もいるのでしょう)
(そう言えば依頼がどうこう言ってた気がするな)
と言っても、俺は依頼なんて出していないしスノーに何かしたわけでもない。
幽霊騒動の件で何か聞き込みでもしてるのだろうか。生憎、俺もさっき聞いたばかりで何も知らないが。
「冒険者さんだったのですか。私も、先日この村に来たばかりなんですよ」
「そうだったんだ! 通りで今まで見かけないと思った。そんな綺麗な髪、一度見たら忘れられないもの」
「え? 髪……ですか?」
唐突に髪を褒められて困惑してしまう。いきなり世辞とは。
だが、悪くない。むしろもっと褒めて欲しい。チヤホヤされると美少女はどんどん輝いていくんだ。
「そうよ、さっき見たのは後ろ姿だけだったからわからなかったけど……貴方、髪だけじゃなくて顔も可愛いのね。肌もキレイだし……。ふむふむ」
「ちょ、ちょっとスノーさん」
スノーはじろじろと俺の体を見回してくる。初対面の美少女を舐め回すように見やがって、可愛い顔して下品な奴だ。
しばらくして見終えると、スノーはフッと笑う。
「うん、そうね。貴方、私といい勝負ね」
「はい?」
いつの間にか勝負していたらしい。いい勝負ってなんだ。
スノーは話を続ける。
「その銀髪、端麗な顔立ち、白く透き通る綺麗な肌。まさしく美少女! この世界で一番の美少女たる私に敵う相手なんていないと思ってたけど……そうね、認める。認めるわ」
「ちょっと、スノーさん何を言って」
「貴方は私のライバルよ!!」
「!?」
スノーは俺に指を差して宣言する。失礼だから人に指を差すな。
全然話についていけない。いきなりライバル宣言されるとは。この世界では日常茶飯事なのか。
「ふふん、呆気にとられているようね。真の美少女たる私にライバル認定されたんだもの。そりゃそうよね」
「いいえ、余りの唐突さと傲慢さで呆気にとられていました」
「そんな褒めなくても大丈夫よ」
お約束の返事をありがとう。褒めてねーよ。何なんだこいつ。あんまり傍若無人だと折角の美少女が台無しだぞ?
「それで。他に何かありますか? 無ければ私はこれで……」
「もう、ツレないわね。せっかくライバルになったんだからお話とかして親睦を深めましょうよ。例えばそのサラサラした髪はどうやって出来たとか」
「それを聞くのが目的かーい」
回りくどいにも程がある。最初からそう言えや! 聞かれても何してるって訳ではないから答えられないが。
でもそうだな、たしかに髪や肌のケアは重要だ。男はあんまり気にしないからな、役者やモデルとかは手入れしてるだろうが。
「これは自前なので特に後からどうこうしたと言うのは無いです。それでは」
「あーちょっとちょっと! 待ってよー!」
ごく自然な流れでその場を後にしようとしたが、捕まってしまった。ええい、面倒臭い。しつこい女は嫌われるぞ。
「もう、スノーさんも十分綺麗な髪ですよ。私よりスタイルも良いですし、顔だって可愛いです」
「でしょー! 誰も言ってくれないから少し自信なくしてたのよー!」
スノーの場合は自分からぐいぐい行って逃げられていたに違いない。それじゃダメなのだ。
あざといだろ? あざといだろ? わざとやってるんだろそれ? でもそのあざとさが良い……みたいな方向に持っていかねば。
でも、その服装はいただけない。チカチカして目、痛いし。
「でも、そうですね。強いて言うなら服の色が派手かも。冒険者として必要なのであれば仕方ありませんが、ファッションとして見るならもう少し大人しい色が良いと思います。スノーさんなら白と黒、所謂モノトーンが良いでしょうね。青色のワンポイントや小物を入れるとクールに見えますよ」
「え? ワンポイント?」
「はい、美少女であれば当然服も整えないと」
「も、勿論よ! 当たり前よね!」
折角の美少女なので、可愛い格好して貰いたいじゃない。
取り敢えずこの子には、ツバキおばさんがやってた仕立て屋でマトモな服装を買った方が良い。世話になったしな、宣伝しておこう。
「この村にある仕立て屋で買ってきたらどうです? 値段も張らないし割と良い物が売ってましたよ」
「ホントに!? 仕立て屋ね、わかったわ!」
スノーはまた颯爽と走り出す。忙しい子だな……。
「あっ、ハナ! 貴方は私のライバルだからね! 私の事、ちゃんと覚えておきなさいよ!」
スノーはそう言ってその場を後にした。そういう事あんまり大声で言わんといて、恥ずかしいから。
それに忘れたくてもそんなキャラクターしてねえぜ……てめーはよ。
元気よく走り去るスノーを見届けて、俺は帰路についた。ずっと荷物持ってたから手が痺れた……。




