異世界で女の子に生まれたら一度は着てみたい服ベスト3
気づけば、昼食の片付けが始まっている。話が盛り上がってしまい周りが見えてなかった。
「すみません、普段あまりこういう話はしないからつい興奮してしまって」
「いいえ、私も楽しかったわ。時間が出来たらまたゆっくりお話ししたいくらいよ」
「にしし、私もです!」
王都でどんなのが流行ってるとか、そもそも基本的な服装ってどんなもんなのかとか、コキアに色々教えてもらった。
どの国も文化が混ざってるからなのか、服装に統一感は無いらしい。気候によって厚くしたり薄手の物になったりはするが、ストレチア王国はこれと言った特徴は無い。
だから俺みたいなちょっと現代的な服装でもあんまり注目を浴びない。多少変な恰好だなと視線が動くが、それだけだ。
別に変な恰好で目を引きたい訳じゃないが、可愛いねとちやほやされたい俺としてはちょっぴり悔しい。真の美少女への道は、まだまだ先が長そうだ。
俺も片付けを手伝う為に立ち上がると、ヤタロウに客だから良いと止められる。意外と気配りできるなこの牛。
「客人をもてなすくらいは、以前いた集落でもあったからな」
「集落?」
「ああ。コキアについて行く前の話だよ。俺のいたとこは人と関りがあってな。こうして言葉を流暢に話せるのもその人間達のお陰さ」
椅子を担ぎながら、ヤタロウは答える。
意思疎通は魔物特有の鳴き声があるけど、それはそれとして知能はあるから普通に話せるのだとか。
まぁヤタロウは顔が牛なだけで首から下は人間だし、喉の作りも人寄りだろうから違和感はない。
以前であった人と共に暮らしている魔物、ライズは謎だが。
不意に、俺を覆う様に影が出来る。
誰か来たのかと後ろを振り向くと、大きな鷹――イーランが俺を覗いていた。
「どわっ!?」
いきなりなのでびっくりして椅子から落ちてしまった。
デカい鳥が上から俺を見てるとか普通にビビるわ!
「わわ、ハナさん大丈夫ですか?」
「お、おお。それよりこの鳥を早くどかして! 近い! めっちゃ近い!」
すげー見てくるからこえーよ!! 嘴とかめっちゃ堅そうだし、つつかれたらひとたまりもない。
直ぐにケイカの元へ避難すると、イーランは一回羽ばたきし、その場を離れる。
「ひい、ひい……一体なんだったんだ」
「揶揄われておるな。どこか楽しそうな表情であったからのう」
「マジかよ」
あのデカ鳥め……いつか見ておれよ。と言うか、飼い主はどこ行った飼い主!!
辺りを見回すと、フェイオンはダイナと楽しそうに話している。
「まぁまぁ、嫌われてる訳じゃなくて良かったじゃないですか」
「何言ってんだ、普通こんな幼気な少女にあんな大きな鷹が詰め寄ったら怖くて泣いちゃうんだぞ」
「でもピンピンしてるじゃないですか」
「は? 実は滅茶苦茶泣きそうだし。うっうう……グギエェェェェェェェェェ!!!」
「きたねー泣き声です!」
誰がきたねえ泣き声だ。お前の格好の方がきたねえわ。後でちゃんと着せ替えてやるからな。
鳥の鳴き声と勘違いしたのか、フェイオンがこっちを見ていたので大丈夫ですの笑顔を振りまく。
「いつもあんな感じなので大丈夫ですよ」
「そうかい? イーランが迷惑かけちゃったかな」
「直接手を出さなければ平気です」
ダイナのヤツがそんな調子いい事言ってやがった。聞こえてるからな! 後でどついてやる。
「……ハナさん、ルーファさん。それと、ボタンさんも。ちょっといいかしら」
「はい、なんでしょう」
「折角来たのだから、演劇で使う衣装着てみない?」
どこか期待する眼差して聞いてくるコキア。
確かにちょっと着てみたいけど、なんでまた急に。
「イーランが迷惑かけてしまったのもありますし、サイズの小さめな衣装ってあまり使わないからその調整に協力して欲しいのもあります。後、私が見たいからです」
「最後のが本音っぽいです」
「良いじゃないですか、ルーファさんもお言葉に甘えるべきですよ」
「そうそう。採長補短というだろう。ボロガキなんだからお前はもっとお洒落しなさい」
「そうです。サイチョーホタンですっ!」
「ボロガキとはなんですか!」
警戒するルーファだが、ケイカはノリノリで後ろを抑えている。
あっちからこんな素敵な提案されているのに、何を躊躇う事があろうか。据え膳食わぬは男の恥、いや美少女の恥だぜ。
「もちろん着ます!! ボタンも良いよね?」
「ん」
肉を平らげて満足そうなボタンが頷く。
ふふ、そろそろお開きな空気だったがそういう事ならば仕方ない。きっかけを作ってくれたデカ鳥に感謝しなければ。
「じゃあ、早速行きましょう! ホラ行くぞルーファ!」
「急に引っ張るなですよ!! ハシャギすぎです!!」
善は急げと言うだろう。色んな美少女を堪能したい俺にとって、これは最高のイベントなのだ。
俺はルーファとボタンの手を取り立ち上がると、コキアの後を付いて行った。
まずは手始めにと手に取ってもって来たのはなんとメイド服。
いきなり来ましたね。異世界で女の子に生まれたら一度は着てみたい服ベスト3(俺調べ)に入る装いだ。
だが、流石に現代的な物と違い華美ではない。使用人の服なんだから当たり前か。
よく見るフリル的な物は無いし、リボンも付いていない。下もロングで足が隠れている。
でも、全体的に黒っぽいのは素人目に見てメイドっぽいなと思う。それを言ったら汚れが目立たないからと言う生々しい理由だった。
「ふっ、どうだお前ら。最高に可愛いだろ」
「ええ、最高よハナさん」
「素敵です!!」
「私の見立ては間違いじゃなかった……!!」
周りにいた団員たちが各々感嘆の声をあげる。
これこれ、これですよ俺が欲しかったのは。少し目が怖いがもっとやって欲しい。
「使用人がここまで派手だと違和感あるね。や、可愛いけど」
「ガーベラさんは見た事あるんですか? 私は初めてみましたよ。貴族様の使用人てこんな服着てるんですねぇ」
「う、うん。以前、偶々見る機会があった」
そうか、普通の人はほぼ見る事も無いのか。あっちじゃTVやネットが普及してると簡単に見られるからな。
そういった意味でも演劇と言うのは知見を深めるのに適しているのかもしれない。
「ルーファさんもすっごい可愛いですよっ!」
「動きづれーですよ。こんなの来て仕事してるですか?」
「家事やるのに丁度良いんだろ。うん。良く知らんけど」
ちょいちょいとカチューシャを直しながら、ルーファはぶつぶつと言っている。
やっぱこいつ、ちゃんとめかし込めば可愛いんだよな。ポテンシャルはあると思っていたんだ。
そして……その仕草可愛いじゃねえかよ。真似しよっと。
「……」
「そうやって直ぐ人の真似するです」
「良いじゃねえか。良い所はどんどん吸収するハナちゃんなのでした」
「んふ」
ボタンもぽんぽんと頭を触っている。
褐色ぱっつんの美少女がメイド服着てるとか、これ以上なく可愛いだろ。凶悪すぎる。説明不要である。
「ばあばー」
「ほほ、昨日買った装いも良かったが、それも似合うぞ」
「あれなー、着る機会あれば良いんだが」
ボタンがリコリスにむぎゅーっと抱き着いている。
俺もやろう。
「ばあばー」
「誰がばあばだ」
「むぎゅー」
「寄るな」
近くにいたシーラに引っ付こうとしたら引っぺがされた。ちっ、シャイな奴め。
「でも、これで更に演技をするって大変ですね」
「慣れればなんて事は無いですよ。流石にこの衣装で機敏に動くような事はしませんが」
「闘うメイドと言うのもアリだと思いますよ」
「ふむ……頭の片隅に入れておきましょう」
新しいお話の種を植え付けた所で、俺はくるっと回ってスカート部分をふわっとさせる。
いいねぇロングは。ワンピースになってるから安定感あるし黒と白の色使いでお淑やかさも出てる。
そのまま、片足を少し引いて両手で軽くスカートをつまみあげてお辞儀をする。
「ごきげんよう、わたくし美少女メイドのハナと申します」
「おおー、結構サマになってますね。そのお辞儀ってなんて言うんでしたっけ」
「あー? なんだっけか。カ……カ、カーテン……いやカッシーだっけ?」
「カーテシーな」
横からさらっとダイナが答える。そうそう、カーテシーだ。お淑やかと可愛いが同居する素晴らしいお辞儀。考えた奴天才だろ。
しかし初っ端から可愛いわ……カメラがあればな。誰かチートなり現代知識チートなりで作ってよ。
「ちょっとこの可愛さをキャンパスィーに収めたい。誰か絵とか描けないんです?」
「そう描ける人なんていませんよ」
「以前ディゼノで会ったライズが凄い上手だったな」
「ライズが……あの手で描けんのかよ」
聞けばミ・ギグ(サングラスかけた渋いおっさんボイスのライズ)の部下の事で、滅茶苦茶上手いらしい。
それを知ってれば俺を描いてもらう様に頼んだのに……まぁ、今度会ったら頼んでみよう。
「仕方ない。みんなしっかり目に焼き付けろよ、俺の可愛さを」
「よくそんな堂々と出来るですね」
「そりゃおめえ自信しかないからな。お前だって可愛いんだから胸を張れよ。将来メイドさんになれば良いんじゃね」
「うーん、動きづらいしお掃除面倒だからいいです」
メイドの仕事は掃除だけじゃないがな。まぁ、ルーファは走り回ってるイメージだからメイドは合わないか。
「ルーファさん、将来の夢はある?」
「んー……考えて無いです」
「人形作るんじゃないのか」
「仕事でやって行くには難しいです。師匠は顔が広いから出来るですが、私は貴族の知り合いなんていないですよ」
確かに売りつける相手いないと厳しいか。一人二人じゃ話にならないもんな。
「人形を作れるの?」
「はい、と言っても道具が無いですし、安い綿しか手に入らないですからぬいぐるみが限界です」
「あれな。不細工なやつ」
「不細工じゃないです!」
「分かったから頬を引っ張るでない」
道具があれば作れるのか。じゃあ俺の持ってる人形も修理できんのかな。今度見せてみるか。
そんな事を考えていると、コキアも何か考えていたのか少し遅れて口を開く。
「そう……もしよければ、どんなものを作ったか見せて貰えるかしら?」
「まず家に入れないですから約束は出来ないですよ。もし帰れたら見せに行くです」
「ありがとう。楽しみに待っているわ」
劇で人形でも使うのかねぇ。まぁ仕事が貰えるなら良い事だろう。
それから、何着も試着……と言う程時間は無く、リハーサルもあるので直ぐにお開きとなる。
しかしそれでも着替えるたびに可愛いと持て囃されるのはたまらんな。またやりてー。