ちょっと待ってね、どこからツッコめばいいか考えてるから
2023/5/8
フェイオンがレインハルになっていたので修正しました
コキアの後を付いて歩いていると、大きな広場へと出る。
これくらい広ければ確かにバーベキューくらい出来るだろう。
しかし広いな。こんな大きなスペース普段何に使ってるんだ?
(ハナ様の世界よりも人口に対して土地が広いですからね。大きい市街だと中央に広いスペースを取り、為政者が直接住民に通達するのに使ったりします)
(ほう、演説とかするのか。俺もここで美少女学の演説して脚光を浴びたい)
(ただでさえ厄介事に絡まれているのですから、くれぐれも目立つ行為は避けて下さいね!)
(へいへい)
セピアからいつものお小言を頂きつつ、案内された席へと移動する。
そこへ丁度、先程出迎えてくれたフェイオンが現れた。
「コキアさん、セッティング終わってますよ。僕は戻りますので」
「ありがとうフェイオン。後で誰か交代に向かわせるから」
「ええ。皆さんもごゆっくり」
フェイオンは笑顔で言うと、再び入口へ戻っていく。
「フェイオンさんは食べないんですか?」
「一応、見張りは立てないといけません。以前、不審者が入ってきた時もありまして」
「怖いですね」
過激なファンが暴走して入ってくる事もあるらしい。苦労してんな。
そういった意味でも魔物が見張ってくれるのは助かるな。素人からすれば魔物なんて恐怖の対象だし、近寄らないだろ。
そして着々と準備が整っていく。手馴れているな、よくこうして外で食べているのだろうか。
アルマジロみたいな魔物が、火を吹いて薪を着火させていく。こうしてみると便利だな、魔物。
「じゃあ始めちゃいましょうか。皆、明日が本番よ。景気付けにじゃんじゃん食べてね!」
コキアの言葉と共に、各々肉を焼き始める。
うはぁ、めっちゃいい匂いする。肉の焼ける音と言い、食欲がそそられるな。
「にく! にくー!」
「これボタン。はしたないから行儀良く待て」
興奮しているボタンをリコリスが抑えている。もはや見慣れた光景だ。
「お、マポイフの肉もある」
「あのもちもちしてるお肉です?」
「おう。癖になるんだよな、あれ……うおっ!」
「まだ焼けてない。シーラはせっかち」
「叩くなよ!」
早くも串を取ろうとしたシーラをガーベラが防いだ。
龍だから生焼けとか気にならないのだろうか。
「そんなに急がなくても、たくさんあるから大丈夫ですよ。それに、シーラさんにはお話を沢山聞きたいので遠慮しないで食べて下さいね」
「話ィ? なんのだよ」
「それはもう、貴方が体験した事をですよ。火竜劇団と銘打っているくらいですからね、黒龍の人生譚なんて大好物ですよ」
心なしか、周りの人の目がギラギラとしている。
「……別に大した事してねえぞ。俺はまだそんな歳でも無いしな、少し迷惑かけちまったのは金龍の奴と大喧嘩したとかそんぐらいで」
「それ!! そういうのです!!」
「お、おお」
ぐいっと前に出てくるコキア。
龍同士の喧嘩とか傍から聞く分には十分エンターテイメントだろう。
めっちゃ嫌そうなシーラを、オクナが窘める。
「それぐらい話しても良いじゃないですか。御馳走になるんですし」
「絶対それ目当てで呼んだだろ!」
「良いでは無いか。お主、自身の武勇伝とかどや顔で語りそうじゃし」
「……」
はぁ~? みたいな顔でシーラはリコリスを見ている。
「……仕方ねえな。飯の後でな」
「はいっ、是非に!」
「因みに、そこの狐も幻獣だぞ」
「!?」
シーラはにやにやしながらそう言った。こいつリコリスを道連れにしやがったぞ。
「そうなのですか!? 黒龍に幻獣……お話を聞くだけでインスピレーションが湧いてきそうですね!」
「我は別に大したことは……」
「お前、俺の母親と殺し合っただろ」
「なんと、かの有名な龍獣決戦の張本人なのですか!」
「やれやれ……それは面白おかしく話せるものではないぞ」
そうは言ったものの、コキアも他の団員達もどこか期待の眼差しで見ている。
「まぁ良いじゃん。別に減るもんじゃないだろうし、後で俺にも聞かせてくれよ」
「私も、リコリス様の事聞きたいです」
「仕方ないのう」
「んふー」
ボタンの頭を撫でながら、リコリスは答える。
肉も良い感じになってきて、コキアさんがどうぞと取ってくれたので、ありがたく頂戴する。
食べやすい大きさに切り取られており、タレの様な物がぬられているのか、甘い香りが漂ってくる。
先っぽのお肉を齧ると、ちょっと熱いが香ばしく、予想通り甘くて頬が落ちそうな美味しさであった。
「美味い! にしし、屋台の串焼きっぽい」
「ええ。正に屋台のタレを買ってきたんですよ。明日もこの広場で、店を出してもらうんです」
「お祭りみたいです!」
実際お祭りの様にいくつかの屋台が出店するみたいだ。昨日も色々食べ歩いたが、明日も楽しみだな。
「ユーリ、もう体調は大丈夫?」
(おうよ! うめえなこれ!!)
串から抜いて皿に移された肉にがっついている。人が心配してるってのにのんきな奴だ。
俺も、もにもにと肉を噛みつつ、ルーファの方を見る。
一口が小さくてホントに食えてんのかあいつ。昨日も思ったが、痩せてるから心配なんだがな。
「ルーファ、ガンガン食べろよ。お前はガリガリすぎるからな。もっと体に肉を付けろ肉を」
「大きなお世話ですよ。あれからちゃんと食べてるです」
「うまい」
「待てボタン、串まで食うな。肉だけを食べなさい」
見ろ、木の串まで齧り食ってるから、何事だとコキアが凄い顔して見てるぞ。俺でもビビるわ。バラエティのドッキリか何かか。
「コキアさん、ごめんなさい。串は弁償した方が良いですか?」
「い、いえ、使い捨てだから平気だけど……その子は大丈夫なの?」
「ボタンはスライムだから平気ですよ。私の従魔です」
「えっ、スライムなの!?」
「むふ」
もぐもぐしながらダブルピースしているボタン。お前どこでそれを教わった。
「コキアさんも魔物をテイムしてるんですよね? どこにいるんですか?」
「今は外に出てるんだけど、そろそろ戻ってくる頃合いですね」
「どんな魔物ですか!? 気になるですよ」
「きっと妖精みたいな美しい魔物ですよ」
「アハハ……まぁ、実際に見ればわかりますよ」
どことなくぎこちない返しをしてくる。まぁ、期待されると自信が無くなるのは分からんでもないが。
その後もゆるーく、ボタンやユーリの事を話していると、ドタドタと地鳴りのような音が聞こえる。
「あら、帰ってきましたね」
「コキアさんの従魔ですか?」
「ええ。先に謝りますね」
「?」
何を謝るのかと聞く前に、ズドンと大きな音が鳴り響く。
俺は驚いて、音が鳴った方を向いた。
「コイツは――どういう事だ――」
そう言葉を吐いたのは、音の根源――3メートル程はあるだろう、大きな体を丸めて膝を付き、その鍛え抜かれた体を震るわせている魔物。
意味深な沈黙を間に挟むその魔物は、コキアの方へと顔を向ける。
「コキア――コイツは――どういう事だ――」
「聞き取りにくいから普通に話しなさい」
「既にバーベキューが始まってるって、どういう事なん? 凄い楽しみにしてたじゃん俺さ」
「普通に話せるんかい」
思わず突っ込んでしまった俺の方へ、ぎょろりと目を向けるその魔物。
牛の頭に人と変わりない体躯。牛の様な尾が付いており、人間離れした、浮き出る様な筋肉が特徴的である。
俺が知っている限りだと、『ミノタウロス』と呼ばれる怪物に酷似している。
「そりゃそうだ。俺、ミノタウロスよ? 喋れるに決まってるじゃん。マポイフみたいな図体だけの奴と一緒にしないでくれる? マポとは違うのだよマポとは」
「ヤタロウ、まずは挨拶しなさい。皆様が困惑してるでしょう?」
「初めまして。ミノタウロスのヤタロウです。以後よろしく」
突然背筋を伸ばしてお辞儀をキメるミノタウロスのヤタロウさん。
ちょっと待ってね、どこからツッコめばいいか考えてるから。
「取り合えず、座ってお話するですよ。楽しみだったんですよね?」
「分かってるね君。そうなのよ。俺牛肉大好き。毎日食べたい」
「牛頭なのに牛が好物なのか」
「駄目なん? 魚だって魚食う種類おるじゃん。牛だって牛食べるよ。龍だって龍食うだろ?」
「食わねえよ!!」
どかっと座り、いきなり串を三つほど取って食べ始めるヤタロウ。
いきなりなので少し呆けてしまったが、見た目に反してユニークなだけで粗暴ではなさそうだ。
申し訳なさそうな表情でコキアが口を開く。
「その、失礼をして申し訳ありません」
「いえ、少し驚いただけですよ」
「悪い子じゃないんですが、少し話し方に難があるのです」
「難って何よ。何なん? なんなんなん?」
「今ので難有りと伝わったかと思いますが、大目に見て頂ければと」
「嵐のような奴じゃな」
コントみたいなやり取りだったので、ルーファがくすくすと笑っている。
「大きな角ですね。手入れもバッチリじゃないですか。かなり気を使って磨いてるのが分かりますよ」
「お? 分かる? 違いの分かる女は好きだよ。なんか角折れてるけどワケアリ?」
「訳有りですが、順調に治っているので大丈夫ですよ」
「そう。魔力が溜まってるから破裂したのかと思ったけど、違うみたいだね」
角持ち同士で角談義している。
ケイカの角も以前に比べ大分戻ってきたな。
「で、コキア。なんで俺だけ仲間外れなのよ」
「そんな事しません。私は昼までに戻って来なさいと言った筈ですよ。ちゃんと人の話は聞きなさい」
「ビラ配れって言われたから、在庫全部配ってきたのに」
「全部配る必要は無いです! というかあの量良く全部捌けましたね!」
ぎゃいぎゃいと二人で騒いでいる辺り仲は良いのだろう。
というか良くこんな強そうなの従魔に出来たな。リコリスみたいに自分から従魔になったのだろうか。
別に変な事でもないし、直接聞いてみようか。
「ヤタロウさんはどうやって従魔になったんですか?」
「どうやってって……そりゃもちろんちからづクッハァァァァァ!!!!」
「!?」
いきなり奇声をあげたと思ったら、足を抑えている。
「ヤタロウは、話し合いで従魔になって頂きまして」
「えっ!?」
「……」
「そう、コキアは繊細だからな。俺が守ってやると契約を交わしたんだ」
足を抑えていたヤタロウが驚くも、コキアが一睨みするとまるで子牛の様な目になり俺達へと説明してくれた。
力関係が分かった所で、俺はコキアへと質問する。
「ヤタロウさんめっちゃ強そうですけど、コキアさんも冒険者なんですか?」
「ええ。と言っても、荒事は稀で、専ら王都とラフィル間の運搬依頼が主ですね。王都で何件かのお店と契約していて、頻繁に運送しているのですよ」
冒険者と言うより運送業の人だな。お得意さんがいると収入も安定しそうだ。
魔物大好きなオクナが、目を輝かせながら口を開く。
「ヤタロウさんがいると重い物も楽々運べそうですね!」
「でもまぁ、服が多いな。うん。衣装を頼んでる都合も含め、依頼を斡旋してくれる人間が多いのよ」
「ありがたい事です。素敵な服も一足先に見られて、一石二鳥ですね」
にこやかにコキアが言う。
そうだよ服だよ。その事を聞きたかったんだ。
「コキアさん。ここの団員さん達、全員同じ服を着てるんですけど」
「ええ、素敵な制服でしょう? そのお得意様に頼んで作って貰ってるんですよ」
「確かにセンスあるんだよな」
シーラも、ファッションは興味ある様で口を挟んできた。
せっかくその手のお店に詳しい人なので、そのお得意様含めて教えてもらいたいな。
「もし良かったら、王都でお勧めの服屋さんを教えて下さい!」
「もちろん! ハナさんの様な可愛らしい女の子なら、誰だって着飾りたいもの! 協力するわ!」
「おうおう、珍しくテンション高いな。盛り上がりすぎて、他の奴ほったらかすなよ!」
ヤタロウの言葉は届かず、女の子同士のオシャレ談義は暫く続いた。