美少女の自然体をこれでもかと言う程押し出した立ち方を目指している
二人の騎士と話した後、俺達は冒険者ギルトへと向かう。
ラフィルのギルドはディゼノと比べて大きく、洒落た様な外観だ。商業都市だからだろうか。
ちらっと中の様子も見えたが、冒険者たちの服装もどこか小綺麗で、品の良さそうな者が多い。
もちろん、ディゼノの冒険者達が品位に欠ける、という訳でないが。
ただ、あっちと違ってユーリがいても平然としている。従魔の存在を皆が認知している証拠だろう。
そのせいか、居心地は悪くない。まぁ偶に鋭い視線を感じるが。羨望の眼差しを送られるのは大好きだが、そんな目では見ないで欲しい。
そんな視線を受けつつ辺りを見るが、ダイナ達の姿は見えない。
「なんだ、まだ来てないのか」
「直に来るじゃろう」
「じゃあ折角だから、美少女立ちの練習するか」
「なんだそれ」
誰が見ても呆けてしまう様な美しい立ち方だよ。
ジョジョ立ちみたいにバチバチに決めるんじゃなくて、美少女の自然体をこれでもかと言う程押し出した立ち方を目指している。
「こう、ちょっと後ろで手を組んでだな。少し前かがみになって」
「腰でも痛めたのか?」
「ちゃうわ」
ここから、上目遣いで相手を見れば老若男女問わずイチコロよ。ちょっと体を揺らして年相応の幼さもアピール。
「我ながら完璧で自然な動作だ。誰かに試したい」
「その辺にいる無害そうな冒険者の青年に試そうぜ」
「女が良い」
「ブレないな」
女の冒険者もいっぱいいるからな。魔法が使えるし、身体能力も正直こっちの世界だと大差ない様に見える。
華奢で細い体つきなのにすげー力ある奴とかいるしな。どんな構造してんだ。
疑問に思いながら建屋の外で待っていると、中から出てきた眉間に皺が寄っている眼鏡の男と目が合う。
ギルドの職員だろうか。オールバックが決まってるやり手の営業っぽい顔だ。少し顔が怖いけど。
目が合っちゃったので俺がお辞儀をすると、お辞儀を返してくれる。
「ご丁寧にどうも。冒険者の方ですか?」
「いえ、人を待ってまして」
「ああ、そうでしたか。確かに、ラフィル内で待ち合わせる場所には良く使われますね」
「すまぬ、邪魔であったかの」
「いえ、道さえ開けて頂ければ結構ですよ」
予想通り職員だったようで、丁寧な対応を受ける。
冒険者と間違えられるのは初めてだな。
「私、冒険者に見えました?」
「ええ。奇抜な服装に、ここにいる誰よりも自分に自信があると目を見ればわかります。そんな目をするのは、大抵自尊心の強い冒険者の方なので」
なるほど、見た目に囚われずに自身の経験で人を図ってるのね。
奇抜な服装と言う言葉には目を瞑ってやろう。
「えへへ、そんな買ってもらえるのは嬉しいですけど、本当に違うんです。こっちの人は冒険者ですけど」
「ほう、貴方が……」
「まぁ、碌に依頼も受けぬ名ばかりじゃがな」
職員さんがリコリスの方を向くと、少し目を吊り上げる。
「失礼、狐人の方を見るのは久々だったもので。少々物珍しいな、と」
「確かに、あんまり見ませんよね」
「この国の夏は暑いからのう。もう少し気温の低い土地の方が暮らしやすいのじゃろう」
尻尾もっさもさだしな。リコリスは幻獣だが、狐人と同じくひんやりしている方が好みらしい。
「もしや、後ろにいる獅子も貴方の?」
「はい、私の従魔です」
「そうでしたか。……その、冒険者に興味は有りますか?」
「う゛~~~~ん。お誘いは嬉しいのですが」
思わず喉を使い唸ってしまった。まさかの職員から直接の勧誘である。
冒険者紛いの事ばかりやってる気がするが、それでも俺はやらんぞ。少なくとも今のところは。
「ごめんなさい、荒事は苦手で……」
「いえ、こちらこそ急に申し訳ありませんでした。将来有望な方はこうしてお声を掛けているのですが、大抵は断られていますので」
「そうなんですか?」
「ええ、大抵そういう方は自分の将来を既に見据えていますからね。ですが、もしかしたら……と言うのもありますので」
随分とぐいぐい来るやん……そんな褒められるとお話だけでも聞きたくなっちゃうだろ。
しかし、そう思った所で後ろから声を掛けられる。
ダイナ一行だ。待ち人来たる。
「すまん、待たせた……ん? イージュさんじゃないか」
「おや、ダイナさん。六曜の皆様も、ご無沙汰しております」
「ラフィルのギルドで働いていたんですね」
「そういえば言ってませんでしたね」
ダイナは意外そうな声で言う。なるほど、この人はイージュと言うのか。
「どうしたんです? まさかそこの子が何かしました?」
「いいえ、休憩がてら外の空気でもと思い出てきたのですが。なんとも興味深い方がおられたのでお誘いをしていたのですよ」
何かしましたとはなんだ。いきなり失礼な奴だ。
なんかムカついたので、俺はダイナの足を踏みつける。
「いだっ!? いきなり何するんだ」
「俺みたいな美少女が問題を起こすワケ無いだろ! 全く! ぷんすか!」
「口でぷんすか言うなよ」
口で言った方が可愛いだろ。今後もこれは使う事にしよう。
ダイナを折檻していると、隣から声を掛けられる。
「ハナさん、遅れてごめんなサイ」
「けいかー」
「遅いぞケイカ。折角のお出かけなのに」
大方、ルーファといちゃついて寝るのが遅くなったのだろう。以前も俺で似たような事やってたしな。
頬を掻きながら苦笑いするケイカ。その横で、ボタンがぎゅっと抱き着いている。すっかり懐いたな。
「つい夜更かししてしまいました」
「うん、私も少し眠い」
「ガーベラが寝不足なのは珍しいな?」
「……ちょっとね」
ガーベラも寝不足らしい。シーラとガーベラ、夜の部屋に二人きり。何も無い筈は無く――
「何気色悪い顔してんだ」
「ぷりちースマイル振りまいてるのに何処が気色悪いんだ。顔洗ってこい」
シーラが喧嘩売ってきたので適当にあしらいながら、その後ろでうとうとしてるルーファに声を掛ける。
「おーい、生きとるかー?」
「くふぁ……おはようです、ハナさん」
「めっちゃ眠そうだな。大丈夫か今日」
「平気です……」
ルーファが目を擦りながら、挨拶してくる。
おいおい、髪がハネてるぞ。美少女として身だしなみは常に気を使いなさい。ケイカは一体何を……ってお前もかい。
「むむむ、同じ女の子として見過ごせん。ちょっと来い、俺が直したる」
「わわ、押さないで欲しいですよ」
「すみません、ちょっとギルドの隅っこ借りて良いですか?」
「今の時間なら空いているでしょうから、ご自由にどうぞ」
俺はイージュに頭を下げると、ルーファとケイカを引っ張り、ギルドの中へと入っていく。
化粧直しする場所くらいあるだろ。化粧品は無いけど。
「イージュとやら。少し良いだろうか」
「はい、何でしょうか」
ハナが冒険者ギルドの中へと入った後、リコリスが口を開く。
イージュがハナを勧誘するにあたって、気になる事があったからだ。
「お主、あやつを冒険者と間違えたのは何故じゃ? どう見ても荒事とは無縁の小娘にしか見えぬが」
「んー、確かにまずリコリスさんへ声を掛けそうなものだが」
「……一番は先程申し上げた通り、顔つきを見て判断したのですが――」
確かに、あの容姿で魔物等と戦うイメージは無い。
一瞬、困ったような顔をしてイージュは答える。
「私は少し特殊な目を持っていまして。貴方が……リコリス様が魔物である事が一目で分かってしまうのですよ」
「我は魔物ではない、幻獣じゃ」
「人から見たら変わんねえだろ」
茶々を入れるシーラに、イージュが話しかける。
「貴方もそうですね。と言っても、黒龍様の人相はギルド内で知れ渡っていますが」
「悪名だけどね」
「うるせえぞガーベラ」
「龍なのに人相ってのも変な話だ」
神出鬼没、現れては騒動を起こし消える。災厄とまではいかないが非常に手を焼く暴れん坊の龍。
これが以前の黒龍――シーラの評価であった。
話が逸れたので、ともあれとイージュは再び話出す。
「休憩と言うのは本当ですよ? しかし、外に出ていきなり見知らぬ子どもが魔物を二体、そして精霊を付き従えている。どんなスキル……力を持っているかは分かりませんが、無視する訳には行きませんので、お声掛けさせて頂きました」
「確かに、少し驚きますよね」
「ええ。内心、ハラハラしましたよ。襲撃であったらどうしようかと」
眼鏡の位置を直しながら、イージュは苦笑いで答える。
先程の話から、ボタンも魔物だと把握している。その特殊な目の事は、本当なのだろう。
リコリスはそう判断して会話を続ける。
「我らが襲撃者だったとして、どうするつもりだったのじゃ」
「一目散に逃げだしてギルド長の後ろに隠れますね。お恥ずかしい話ですが、私はひ弱で貧弱、腕っぷしはからっきしなので」
「そんな堂々と自虐すんなよ」
胆力があるというか、少し呆れてしまったが話を聞く限り、別段おかしい所は無い。
「そうか。息抜きを邪魔してすまなかったの」
「いいえ。むしろ、良き出会いでした。こちらからも一つ伺いたいのですが、待ち人と言うのは六曜の皆様方の事でしょうか?」
「ウム。暫くはともに行動しておるのじゃ。これから火竜劇団へ挨拶に向かう所でな」
リコリスの言葉に、イージュは神妙な面持ちとなる。
「火竜劇団ですか。という事は、明日もこちらに?」
「そうですね。依頼もそうですが、劇を見にここへやってきたので。ハナ達とは、一緒に王都まで向かう手筈になってるんですよ」
「左様でしたか」
少し考えるような仕草をして、イージュは口を開く。
「火竜劇団は、貴族からの要請でラフィルに来ているのです」
「そうだったんですか?」
「ええ。彼らとしてもラフィルの現状を憂いているのは間違いないのですが、この状況で演劇と言うのもリスクが大きいので此方としては悩みの種になっていますよ」
「確かに、少し違和感はあった」
人を呼び込むのは危険じゃないかと、ガーベラが危惧していたようにイージュもその事を懸念していたようだ。
しかも、明日の劇と盗賊団の討伐日が見事に被っている。ギルド長も、その話を聞き幾度と抗議したが、その日では無いとダメだと突っぱねられている。
ラフィル侯爵へ訴えるも、渋い顔をしてどうにか出来ないかと嘆願してくる始末だ。劇と盗賊団に関係が無い以上、侯爵にそこまで言われてNOと言える筈もない。
そんな不安や不満を顔には出さず、イージュは笑みを浮かべる。
「しかし、王都方面は安全ですからね。ラフィル街内も安全……と言うには現状少し騒がしいですが、六曜の皆様であれば大丈夫でしょう」
「はは、何も無いと良いんですがね」
苦笑いしながらダイナが答える。
経験上、何かしらトラブルがありそうで完全に否定は出来なかった。