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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
へちまくれの流浪少女
142/181

ロゼ遺跡の偵察

 ラフィル中央区にて。人が行き交う街の中を歩く一人の女性。名はビエネッタと言う。

 特別変わった服装でも無く、ストレチア王国でも一般的な茶髪。髪を肩まで伸ばしており、美人ではあるが注目を浴びる程でもない。


 いわば普通の町娘といった容姿の女性。そんな彼女だが、実態はストレチア王国第一王女レギネの付き人である。

 ラフィル近くにある遺跡――ロゼ遺跡を拠点とする盗賊団を、討伐するべく派遣されたレギネ。


 王女自らが前線へ赴くなど前代未聞と強い反発もあったものの、第一王子にしてストレチア軍の長であるニコライが了承した事によりレギネの派遣が決定される。

 そのニコライから付された条件の一つが、ビエネッタの同行だ。サントリナもいるとはいえ、王女だけで外へ出るなど以ての外。

 更に、直ちに盗賊団の殲滅。余計な事はせず、真っ直ぐに王都へ帰還せよ。と親が子へ言い聞かせる様に指令を出し、レギネ達を送り出す。




「ニコライ様も苦労人だなぁ」



 ビエネッタは思わずそう独り言ちてしまう。自身も、いきなり外へと放り出されたのだ。

 普段からレギネの付き人として身の回りの世話をしており、こういった事もしょっちゅうあるのだが、盗賊団の討伐などと言う危険な任務に付き添う事はそうない。

 レギネやサントリナの強さは知っている為、そちらの心配はしていないが、身の振り方が王女らしくない事は常に懸念しているのだ。



(取り合えず、買い付けておいたものは全て手に入った。後は、明日を待つだけなんだけど)



 万が一の為、ポーション等を準備し終えたビエネッタは、レギネの元へと向かうべく中央区へと歩みを進める。

 本来であれば常にレギネの元へ付き添わなければならないが、この様な事を騎士長に任せる訳にもいかず、こうして付き人であるビエネッタが雑多な準備を全て受け持っている。

 護衛と言う意味ではもう一人御付きの者がいる上に、サントリナと言うこれ以上ない護衛がいる為、ビヨネッタは安心して別行動が出来るのだ。



(あれ? レギネ様は何処へ行ったのだろう……また勝手に行動して)



 待ち合わせの場所へ向かうも、それらしき人が見当たらない。

 王都ならともかく、ラフィルで勝手に行動されると合流するのも一苦労だと、ビエネッタは嘆息する。


 そんな彼女の後ろへ、何者かが現れる。

 身軽な服装をしており、藍色の髪から覗く獣の耳。そして犬の様な尾はくるくると丸まっている。獣人……犬人の女性だ。

 その犬人が、ビエネッタへと声を掛ける。



「レギネ様は今、冒険者ギルド付近の喫茶店にいる」

「ヴィネア。いきなり後ろに立たないでよ……驚くじゃない」

「油断しているビエネッタが悪い」



 犬人――ヴィネアはビエネッタの前に移動する。



「それで、なんで喫茶店?」

「大した事ではない。狐人の獣人を見つけたから軽く聴取してるだけ」

「そういうのって貴方の仕事じゃないの?」

「うん。仕事取られた」



 しょんぼりしながらも、ビエネッタとヴィネアは歩き始める。

 数日前にラフィルへと到着した騎士とその従者達は、その日のうちにラフィル公爵の元へと向かう。


 その折に、盗賊団以外にもラフィルが現在抱えている問題を聞く。

 ラフィル街内でも異常が起こっている知れば、レギネの性格上知らないふりをするというのは有り得ないだろう。 



「それで、レギネ様が突っ走っちゃったの?」

「サントリナ様が主導してた」

「珍しいね」



 いくらレギネとて弁えてはいる様だった。むしろ、サントリナを嗜める側に回っていたという。

 サントリナとしては、二人も騎士長が不在の状況に危機感を覚えているので、さっさと任務を終えて王都へ戻りたいのだろう。

 そう結論づけて、二人はその喫茶店へと向かっていく。しかし屋外に取り付けてあるテーブルを見回しても、それらしき人物は見当たらない。



「いないじゃん」

「さっきまでここで紅茶飲んでた。この後、カンザ様と明日の打ち合わせがあるから近くにいるハズ」

「もう冒険者ギルドで待ってた方が早くない?」

「いや――」



 ヴィネアの視線の先に、二人の騎士がいる。何故か二人して道の外れにある草むらへしゃがみ込んでいる。

 そんな姿をみたビエネッタは、ずかずかとその騎士達へ近づいて行った。



「ちょっとレギネ様!!」

「ビエネッタ。丁度良い、貴方も手伝って――」

「何やっておられるのですか!! こんな草むらでしゃがみ込んで! 王女としての自覚を持って下さい!」

「ビエネッタ、声が大きい」



 街中で王女と公言すると騒ぎになりかねない。ヴィネアはビエネッタを宥めながら場所を移す事に。

 表の通りを避け、路地まで移動し誰も居ない事を確認すると、ヴィネアは片膝をつく。



「ヴィネア。ロゼ遺跡の偵察、ご苦労でした」

「……」

「報告をお願いします」



 言葉を返すことなく次の命を待つヴィネアに、サントリナが報告を命じる。



「概ね、カンザ様が仰られていた情報の通りとなります。総数は確認できませんが、少なくとも50人を越えるかと」

「小隊規模以上なのは確実な様ね」

「貴方がそこまで曖昧なのも珍しい。大体は委細まで徹底的に調べ尽していたと思いましたが」



 サントリナの疑問に、ヴィネアは粛々と答える。



「申し訳ありません。ロゼ遺跡の内部までは確認が出来ませんでした」

「構造上、入口は一本道。瓦礫も退かされて隠密行動するには不向き。でしたか?」

「その理由もありますが、入口には魔物が配置されていました」



 賊と言っても、此度の相手はある程度統率された盗賊団だ。

 その中には魔物を使役する、冒険者崩れがいる。その情報も事前に知らされていたので、滞りなく話は続けられる。



「レクス種、及びレイス種。どちらも索敵に特化した魔物です」

「嗅覚と魔力感知ですか。ベターではありますが、遺跡の構造も相まって非情にやり辛いですね」

「例の黒い魔物かしら?」

「いえ、通常種の様です。傍から見ても異常は感じられませんでした」



 それを聞き、少しばかり安堵するレギネ。

 王都に襲来した大型の魔物を連想したからだ。あれが出てくると、倒せない訳では無いが、被害無く殲滅する保障が出来ないからだ。



「いっその事、遺跡ごと潰せれば良かったのですがね」

「それは公爵が許さないでしょう。中にいる魔物が溢れる危険もありますので」

「ええ、分かっています」



 選択肢の一つとして確認しただけだ。と、サントリナはヴィネアへと返答する。

 ただでさえ崩壊の恐れがあるロゼ遺跡。それを取り壊さず、管理・補修していたのは文化遺産として保守する為だけではなかった。

 遺跡の奥に眠る魔物の群れを、呼び起こさない為でもある。



「因みに、狐人や4本腕はいましたか?」

「いえ、4本腕の人物は確認できませんでした。獣人は1人もいません。しかし、1人だけ気になる男が」



 少し顔を上げ、ヴィネアは話を続ける。



「片腕……左腕の無い男がいたのですが」

「荒事で隻腕となった者が盗賊に落ちたなど、よくある話でしょう」

「いえ、そうではなく。その肩腕が一度ロゼ遺跡の中に入った後、暫くしてまた現れたのですが――腕が、両方付いていたのです」



 その言葉に、思わずビエネッタが口を開く。



「えっ、腕が生えてきたの!? ……あっ、申し訳ございません」

「大丈夫よ。……ヴィネア、それは見間違いでは無く?」

「間違いありません。義手では無く、生身の腕です」



 生えたというのは考え辛い。回復術師ですら欠損した腕を完全には直せないのだ。しかし、見間違いでも義手でもない。



「4本腕と何か関係あるのかしらね」

「4本腕と言い隻腕と言い、そんな簡単に腕が取れたり付いたり出来る訳が無いのですが……貴方が見たと言うのであれば、本格的に考えなければならないでしょうね」



 サントリナは薄く笑ってそう答えた。



「秘蔵する話でもありませんし、カンザ殿に伝えてから考えても良いかと思いますよ。殲滅する事には変わり有りませんし、捕らえられるのであれば話も聞けるでしょう」

「サン、一番心配なのは貴方よ……」



 汪騎士の異名は、サントリナの戦功――いや、所業から来ている。

 サントリナは全ての戦いに於いて、敵の全滅に拘る。最初から戦意の無い者、投稿する者は見逃すが、それ以外への情けはかけない。

 物静かな態度からは想像しえない、四騎士の中で最も苛烈な者。と、第一王子であるニコレイは評価する。



「今回は殲滅と言う命だけど、必ず数人は捕らえる様に」

「ええ、心得ております」

「本当かしら」



 盗賊団だけであれば、加減せずに殲滅するのが好ましい時もあるだろう。

 しかし、これだけの規模であれば強盗や追い剥ぎなど、盗む行為だけでは維持できない。必ず裏に支援をしている者がいる。

 当然、そう簡単に痕跡は残さないだろう。しかし、だからと言ってただ全滅させるという訳には行かない。



「ヴィネア。貴方の方で数人確保しておいて。サンより早く」

「信用がありませんね。最初に降ってくれればそんな心配は無いのですが」

「そんな弱気ならこんな所を拠点にしないでしょう」



 王都の近くにある商業都市。要の一つともいえるこの土地に、いわば喧嘩を売る様にのさばっている。

 学の無い者でも、流石に危機感を覚える筈だ。腕に余程の自信があるか、他に裏の手があるのか。



「逃げる様子は無かったのですね?」

「はい。むしろ、活気すら感じました」

「居付く気満々ね。良い度胸だわ」



 レギネが戦意をむき出しにしてそう言った。



「では、日も登り切った所ですし、冒険者ギルドへ向かいましょうか」

「お待ち下さい」



 サントリナが路地から出ようと歩き出すのを、ビエネッタが引き留める。



「先程何かを探していたように見えましたが」

「ああ! そうよ、いきなり大声を出すから忘れていたわ」



 ぽんと手を打ち、レギネは答える。



「大事な指輪をなくしたって女の子が泣いていたの! 少し時間もあったし、探す手伝いを――」

「レギネ様。国民に対し分け隔てなく接されるのは良い事かもしれませんが、ご自身の置かれた状況を考えて下さい」

「……申し訳ない」



 レギネはしょんぼりとビエネッタに謝罪する。



「サントリナ様も、ちゃんと止めて下さい。騎士長二人が揃いも揃って草むらで地を這ってるなんて状況、ニコライ様が見たらなんと仰るか」

「私はレギネ様の命とあらば何でもしますよ。それに、あの方であれば揶揄われておしまいでしょう」

「それでもお辞め下さい。後、見つかるかも分からない依頼を無責任に受けないで下さい」



 それから暫くビエネッタの説教が続き、ギルドへ向かう頃には昼過ぎとなった。

 因みに、指輪はヴィネアの手によって無事に見つかった。

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