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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
へちまくれの流浪少女
141/181

格好良い騎士の前で顔を赤らめる美少女を堪能している

 なんか凄そうな騎士様が来たので、立たせたままというのも何なので座っていただく事に。

 ちょっと目が合っただけで一緒にお茶しようだなんて、軟派な騎士様だ。



「主ら、普通の騎士では無いな。王都から参ったのか?」



 座るなり、リコリスがそう尋ねた。

 結構身分高そうなんだから、もう少し気を使いなさいよ!

 控えおろう無礼者! 侮辱罪で貴様等を連行する! とか言われたらどうすんのさ!

 そんな不安をよそに、美しい姫騎士ちゃんは笑顔で答えてくれる。



「盗賊団を討伐するべく派遣されたの。私の名はレギネ。そっちの強引なのはサントリナ。ティータイムを邪魔してごめんなさいね」



 レギネはそう言って頭を下げてくる。

 滅茶苦茶礼儀正しい。ここまで爽やかな騎士なら性別関わらずコロッと落とせてしまうな。

 俺は美少女チャンスと思い、顔を赤らめてそれに答える。



「……いえ、こんな素敵で凛々しい騎士様方とお茶を楽しめるなんて夢の様です。ああ、えっと、私はハナです」

「リコリスじゃ」

「フフ、凛々しいだって。お世辞でも嬉しいわ。宜しくね、ハナさん、リコリスさん」

「世辞じゃあ無いですよ!」



 姫騎士の鑑みたいな見た目な上にハキハキとしてる。くっころさんって呼ぼうと思ったがそれとは無縁そうだ。

 


「こっちの紅茶を啜ってるのがボタンで、そこで座っている獅子がユーリと言います」



 ボタンはちらっと二人を見るも、また紅茶を啜る。食い気全振りか。

 ユーリも二人を一瞥すると、丸くなって寝始める。まぁ、喋れるってバレると詳しく聞かれそうだし、構わんか。



「大きな獅子ね。リコリスさんの従魔かしら?」

「いや、こやつは主……ハナの従魔じゃ」

「という事は、貴方は魔物使いなの? こんなにも強い従魔を扱えるなんて凄いわ」

「えへへ、そんな凄いだなんて」



 格好良い騎士の前で顔を赤らめる美少女を堪能していると、サントリナが口を挟む。



「早速話を伺いたいのですが」

「サン、いきなり尋ねるのは失礼でしょう。貴方はもっと会話の嗜みを覚えなければダメよ」

「非効率ですね」



 何考えてるか分からない表情でレギネの言葉を否定するサントリナ。

 イケメンの方はどうやら御堅いらしい。



「聞きたい事は二つ……いえ、三つです」

「多いのう」

「直ぐに済みます。まず一つ目。最近、このラフィルで狐人が度々騒ぎを起こす報告が上がっています」

「……ほう」



 サントリナの言葉を聞いて、リコリスが反応する。

 宿屋のおばちゃんが言ってた奴かな。



「西区で被害報告が上がっていましてね。被害者はスリや恐喝などの常習犯。軽犯罪者が主です」

「犯罪者? その人が個人的な私刑目的で荒らし回っているとか?」

「話した事も無いので理由は分かりません。しかし、被害者が罪人だからと言って暴れまわるのを見過ごす訳には行きませんので。それに――」



 サントリナはそこで言葉を止める。 



「どうしました?」

「……いえ、何でもありません。それでお伺いしたいのですが」

「我を疑っておるのか?」

「いいえ、そこまで短絡的な考えではありません。しかし、心当たりがあれば……と思いまして」



 笑みを浮かべて、俺達へ尋ねてくる。

 心当たりか……ドンピシャであるんだよなぁ、大暴れする狐っ子。そいつのせいで王都へ向かう事になってるワケだしな。


 正直話すとこじれそうな気がするが、ここはリコリスに任せよう。

 俺はリコリスに視線で合図すると、やれやれと言わんばかりに首を振る。



「我等は昨日、ラフィルに来たばかりでな。現状がイマイチ掴めておらぬ。みだりに我の考えを伝えた所で、混乱させるだけだろうよ」



 様子見ジャブで来たばかりの無関係観光客アピールから始めるリコリス。

 実際来たばかりなので間違っていない。

 サントリナは姿勢を正すと、軽く頭を下げる。



「それは失礼致しました。そちらのお嬢さんは何か見ていませんか?」



 紅茶を少しずつ飲んでいるボタンへ、サントリナが尋ねる。



「さん」

「え?」

「おかわり」

「ちょ、ボタン……」



 何故かサントリナに紅茶のおかわりを催促している。

 俺は慌ててボタンを止める。



「ご、ごめんなさい。この子、話すのは苦手でして……」

「そうですか」

「ぷっ……ふふふ、いいえ、大丈夫。折角だから一緒に何か頼もうかしら」



 レギネは店員を呼ぶと、自分達の分、そしてボタンの分の追加注文を頼んだ。

 申し訳無いと言ったのだが、話を聞かせてもらう礼だとそのまま注文してしまった。割とレギネも強引な人である。


 紅茶が運ばれてくると、ボタンはウキウキで受け取った。



「ボタン、ちゃんとお礼を言いなさい」

「ん、ありがと」



 感謝の気持ちはちゃんと言葉で伝えるんだぞ、と以前から教えているので、ボタンは滞りなくありがとうと言えるのだ。

 微笑ましいと言わんばかりの破顔を見せるレギネ。美少女のお礼はこの世のどんなお礼よりも尊いからな。


 ごほん、とサントリナが喉を鳴らすと、レギネがスッと姿勢を正す。さっきレギネ様と言ってたからサントリナの方が身分が低いと思っていたが、実際の力関係は別なのかもしれない。



「狐人の件は分かりました。無差別に人を襲っている訳では無い様ですが、必ずしも安全では無いので気を付けて下さい」

「ウム、心得た」

「ありがとうございます」



 特に言及はされず、次の話へ進む。



「では、二つ目に。こちらも不審者の話になりますが」

「そんな危険な者ばかりなのか? この街は」

「いいえ、普段は厳重な警備が為されているのですがね。今は、衛兵が不足しているのです。盗賊団の影響もあり、街内に良からぬ者を呼び寄せているのでしょう」

「ストレチア騎士として、国民に被害が及び申し訳なく思う」



 別にレギネが悪い訳では無いのだが、思う所があるのだろう、申し訳なさそうにしている。

 騒ぎに乗じて悪い事をする奴が原因なんだがな。全く傍迷惑な。

 


「そんな、レギネ様が謝る事じゃないですよ。それよりも、不審者ってどんな人ですか?」

「これがまた、少々胡散臭い内容でしてね。貴族の目撃証言が無ければ話にも上がりませんでした」



 そう言いながら、サントリナはカップに口をつける。

 ……飲み方まで優雅だな。こいつは男だが、美少女として立ち回る参考になるぞ。



「……何故、私の真似をしているのです?」

「とてもロイヤルでエレガンツな動きをしていたのでつい」

「んふー」

「そうですか。それでその不審者ですが――」



 コトリとテーブルにカップを置くと、サントリナは話を続ける。

 ボタンも真似してコトリと置く。サントリナが気に入ったのだろうか。



「――腕が四本、あったそうです」

「それは、魔物では無いのか?」

「いいえ、それ以外は人の形をしていたそうです。服も、冒険者のような出で立ちをしていたと。襲われたという訳では無いのですが」



 さっきの狐人の話とは異なり、あまり興味なさげに語るサントリナ。

 横から、レギネが付け加える。



「こちらは貴族街――東区での目撃情報ね。侯爵が……ここの領主が、気味が悪いから早く何とかしてくれと強い要望があってね」

「気持ちは分からぬでも無いのう」

「下らない。ただの見間違いでしょう」

「そんな事を言ってはダメよサン」



 腕が四本か……パンツ一丁のモンスターを通信交換でもしたのだろうか。

 冗談は置いといて、そんなのいたらそりゃ気が休まらない。



「その様子ですと、特に思い当たる所は」

「ありませんね。初めて聞いた話ですし」



 そんなん見てたら絶対印象に残るしな。

 


「そうですか。では、最後に――」

「えっ、今の話これで終わりですか?」

「まぁこれは信憑性に欠けますので。衛兵の巡回を増やせば済む話でしょう。不安なら私兵として冒険者なり傭兵なり雇えば良い話です」



 すっぱりと言い切り、サントリナは再び口を開く。



「三つ目。これは騎士としてというより、個人的に気になっている事なのですが……」



 サントリナはこちらを見ると、にこりと笑う。



「その端正な顔立ち。見れば見る程美しい」

「え? あ? はあ。ありがとうございます」

「サン、いきなり少女を口説くなんて」



 レギネが冷めた目で見ているのをスルーし、サントリナは話を続ける。



「その眩しい程に美しい顔。しかしどこかで見た事があると思っていたのですが」

「ナンパの常套句じゃな」

「サン……」



 リコリスが茶々を入れ、レギネが氷点下の視線を送るも、サントリナはつゆほどにも感じていない。ある意味凄い騎士である。

 そんなサントリナが、俺の目を見る。



「先程、ようやく思い出しました。貴方は、カルミア伯爵の親縁なのですか?」



 その言葉を聞いて、レギネも俺の顔をじっと見る。言われてみれば……と、妙に納得している。

 なんか前から誰かに似ているとよく言われるが、もしかしてそいつの事か? 何回も聞かれるとなんか俺が二番煎じみたいでムカつくわ。俺の顔をパクりやがって。



(オイセピア。俺の顔は誰かに似せたりしたのか?)

(カラー様に聞いてみない事には分かりませんが、少なくとも全く同じ顔、というのは有り得ないかと)

(そうか。まぁ、セピアやカラー様が悪い訳じゃないからな。悪いのは美しい俺に似たそのカルミアとやらだ)

(いや、そのカルミアさんも悪くは無いと思いますが……)



 逆に会いたくなってきたわ。俺よりも美しい何てことは無いだろうが、どれくらい似てるのか俺が評価してやる。

 そんな不満が顔に出ていたのか、レギネが俺に尋ねてくる。



「もしかして、公言出来ない事情があるのかしら」

「いえ、大した事では無いです。そのカルミア伯爵という方も存じ上げませんので」

「ストレチア王国の北部に広大な森林地帯があってのう。その全てがエルフ領であり、そこの領主がカルミアじゃ」



 リコリスが答えてくれた。エルフ領……という事は、そいつもエルフか。そこもパクりやがって。まさかそいつハーフエルフじゃなかろうな。



「カルミア伯をご存じなのですか」

「面識はあるがの。我は奴に嫌われておるし、こちらから会う事も無い。少し会話した程度の物じゃ」

「そうですか。しかし、どこか雰囲気もそっくりなので、もしかしたらと思ったのですが」



 そこまで似ているのだろうか。やべ、気になってきたじゃねえか。



「リコリス、そいつ……ごほん、カルミア伯爵と私は、そんなに似ているの?」

「瓜二つじゃな。髪の色は違うがの。我も最初は疑ったぞ」

「そんなに」



 決めたぞ。そのカルミアとやらの面を見てやろう。どこにいるか知らんけど。

 それを聞くと、レギネが答えてくれる。



「普段は王都にいらっしゃるけれど、今はエルフ領まで視察へ赴いているわ。帰ってくるのは数か月後だそうよ」



 数か月後か……流石にそんな王都にいる訳じゃないが、エルフなら長命だろうし会う機会はあるだろう。

 カルミア、カルミアね。良し覚えたぞ。男の名前を気合入れて覚えるなんてこいつくらいだろう。光栄に思えよ、カルミアよ。


 そういう訳で結局聞かれた事は全部、何も知らなかったので申し訳無く思いながら、俺はサントリナへと話しかける。



「すみません、お力になれず」

「いいえ、私は満足しましたよ。紅茶も美味しかった。良い店を見つけました」

「私も初めて来たんですけど、美味しいですよね、ここの紅茶」



 貴族向けという訳ではなく、至って普通の庶民向けなお店なのだが紅茶はやけにスッと喉に通って飲みやすい。

 香りも上品に甘い香りがする。アプリコットの様な香りだな。



「もう少し楽しみたいが、公務を疎かにする訳には行きませんのでそろそろ失礼します。ご協力ありがとうございました」

「いいえ、むしろそんな情報を教えて頂いてこちらが助かったくらいです」

「中央区での被害報告は出てないけれど、絶対は無いから注意してね。くれぐれも、西区には近づかない様に」



 二人は立ち上がり店員にお金を払った後、騎士風な礼(良く分からないけどなんか凄い畏まったお辞儀)をして、その場を離れる。

 とても親切で良い人達だった。というか、今の所ストレチアの騎士は良い印象しかない。いや、唯一あのチビ元帥は自分勝手でそこまででもないが。



「割と重要な情報は聞けたし、姫騎士には会えたし。良い暇潰しになったな。それにしてもあの姫騎士ちゃん可愛かったな」

「主よ、気づいておらぬのか?」

「あー? 何がよ」

「あの騎士は王族……しかも、直系の者じゃな」

「は?」



 王族って、ストレチアの? マジで? 知らんわ……気づく訳ないやろ。

 大体なんで分かるんだよ。



「ストレチア王の魔力は些と特別でな。初代国王から代々受け継がれるのじゃが」

「なんでそんな事知ってんだよ」

「旦那が先々代と知り合いであったからの。少し会っただけじゃが、あのような特異な魔力は忘れぬよ。ほほ、懐かしいのう」



 ほほ、懐かしいのう。じゃねーよ!! あぶねーわ王族相手に粗相をするところだったわ。

 ……やべ、ボタンとか平気で失礼してたな。まぁ笑ってたから問題無いだろうが、嫌な汗が出てきた。

 


「知ってたならちゃんと教えろよ!」

「言うタイミングが無くてのう。何、あのような身なりをしている以上、王族としてでなく、騎士として扱うのが良いじゃろうて。変に気を使う方が迷惑であろう」



 相変わらず不遜な態度である。幻獣だから人の身分とかあんまり気にしないのだろう。

 俺の従魔になった以上、多少は気にして欲しい物だ。最悪ストレチア王国から追い出されてしまうぞ。結構この国の事気に入ってるから迂闊な事はしたくないんだがな。



「お、ハナ、終わった?」

「おう、もう行ったぞ。ったく、都合の良い時だけ寝たふりしおって」



 ユーリがのそりと起き上がる。

 しかし、どこか元気が無いな。心なしか髭が下がっている。



「どうした、腹でも減ったか?」

「うんにゃ、そうじゃなくて……」



 きょろきょろとしながら、ユーリは答える。



「あの兄ちゃん、なんか怖い」

「あの兄ちゃん?」

「サントリナという騎士の事か」



 あのロイヤルでエレガンツな騎士か。そんな壊そうじゃなかったけどな。最初は堅そうなイメージだったが不愛想って訳じゃなかったし。



「何か分かんないけど、凄い殺気だった。常に誰か斬り捨てようとしてるような……」

「いやいや、流石にそんなだったら俺だって気づくぜ。なあリコリス」

「確かに、警戒はしていた様に見えたがのう」



 色んな不審者が現れて、常に気を張っていたのかもしれない。不審者に好き勝手やられて、気が立っていたという線もあるな。

 なんにせよ、街中でも警戒しなきゃいけない状況なのは仕方ないだろう。



「精霊をここまで怯えさせるなんて、あの兄ちゃん相当手練れだぜ」

「自分で何言ってんだ。……本当に調子悪いなら、宿へ戻って休むか? 挨拶ならまた後日行けば良いし」

「いや、もう少し休めば平気よ。これくらいじゃ精霊はへこたれないぜ」

「そうか。無理すんなよ」



 なんだかんだ、良い時間になった。ユーリが本調子になったら、冒険者ギルドへ向かうとしよう。

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