可愛いと言われて恥ずかしがっている美少女はめちゃくちゃ可愛い
2018/11/05 会話表示修正
俺とレイは買い出しのため繰り出している。
爺さんから飯の材料、そして服を買っていいと言われた。ついでに各所の案内もしてもらう。
最初に向かうのは……
「ここが仕立て屋さんだよ」
「やはりここからだな。わくわくしてきた」
「凄い気合入ってるね」
そりゃそうだ。この美少女にどんな可愛い服を着せてやろうかと何度も妄想したからな。
現在、俺はローブを着けている。部屋着としてならともかくあれで外に出るのは些と恥ずかしい。
「それにしても外から服屋って感じはしないな」
「そうかな。上にちゃんと書いてあるし、お外に出すと傷んじゃうからね」
読めないし! 読めたとしても仕立て屋って言葉がもう馴染みじゃないからな。俺としては違和感バリバリである。
見本を店頭に置けば客も食いつきやすいと思うが、そこら辺のキャッチーな宣伝は普及されていないみたいだ。
中に入ると、こじんまりとした店内に幾つもの服が丁寧に置かれている。置かれてはいるが……
「何というか地味だ。いや派手すぎるのも困るんだが」
人の店にいちゃもんを付けるつもりはないのだがもう少しこうなんといいますか、手心というか。
せめて服の一枚くらいは広げて見せるとかそういうの欲しいよね!
俺が店内を見ていると、奥の部屋から店主であろうおばさんが出て来る。
「いらっしゃい。あら、レイくんと……まぁ、可愛らしい子ね。この村では見かけた事ないけれど」
「こんにちわおばちゃん。この子はハナちゃんっていうんだ。今日からうちで住むことになったんだよ」
「初めまして。私はハナと言います。先日この村にやってきたばかりです。よろしくお願いしますね、おば様」
俺はお辞儀をしておばさんに挨拶をする。美少女特有の太陽のような笑顔も忘れずに。
段々こなれてきたな、この愛想笑い感を出さずににっこりとするのがなかなか難しい。
「よろしくね、私はツバキよ。新しい装いが欲しいのかしら?」
「はい、服の予備すら持って無くて……。店内の品を見てもいいですか?」
「ええ、じっくり見ておいき。古着ばかりだし、ハナちゃんくらい可愛い子に似合う物は無いかもしれないけれどね!」
古着屋? いや、元々それが定着しているのだろう。
冒険者なんているくらいだ。装備に金が掛かるから中身は安めに……みたいなのが普通なのかもしれない。
「ちなみに、新品の服を仕立てるにはお金がかかるのかな」
「どうだろう、やって貰ったこと無いからわからないけど……」
古着が嫌なわけではないが、今後の事も考えて知っておきたいな。
お金か……何処に行ってもこのしがらみは付き纏うもんだな。
「新しいものを仕立てるのは大体金貨1枚だね。要望によっては超過してしまうけど」
「金貨!? 結構高いんだね」
「服をしょっちゅう仕立てるなんて貴族様でもなきゃしないからねぇ。羽振りの良い冒険者さんも偶に来るくらいだからね」
出ました金貨! この世界では金、銀、銅と三種の貨幣があって、銅貨1枚でスーパーの肉を100gくらい買える計算だ。つまり400円前後?
それを10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。つまり服を仕立てるのには大体40000円必要ということだ。高ェ!
そりゃ収入ありゃ買えないことは無いだろうが、生きる事に精一杯なこの世界じゃ別の所に力を入れたいだろうな。
「流石に手が届きませんね。でもお金を貯めていつかお願いすると思います」
「女の子だったら誰でもおしゃれしたいものね。良いわ、その時はいっぱいサービスしちゃうから」
「はい! ありがとうございます!」
優しいおばさんだ。今後も色々頼む事になるだろうから仲良くしていきたいものだ。
それにしても高いわ……。皆古着で済ますのもわかる。店頭に置いとく理由もないな。
俺は店の中を見て回る。古着と言っても汚れているわけではない、目立ったほつれも見当たらず、ちゃんと縫い直しているようだ。
「全部縫い直しているんですか? どれも古着とは思えないくらい綺麗ですね」
「ふふ、ありがとう。大体は縫い直しているわね。どうしようも無い所は継ぎ接ぎにしているけれど」
凄いな、服屋だから当然といえば当然だが裁縫が上手いのは憧れる。
俺も手先は器用だがいざやると途中で飽きるんだよなあれ。
その後も会話を挟みつつ、俺は服を見ていった。
「ふふ、古着から掘り出し物を探すのも中々楽しいもんだな」
(ハナ様、レイくんが退屈そうですよ)
男を待たせて服選びするのは女の子の特権。レイも今後のために慣れたほうが良いだろう。天然ジゴロだからな、どうせ女の一人や二人はホイホイついてきてしまうんだ。
だが時間をかけすぎてもよくないな。だいぶ選別出来たからこれでいくらくらいか聞こう。
「ツバキおば様。選び終わったのでお勘定お願いします」
「はーい、こっちに持ってきておいで」
俺は数着の服を選び、おばさんに渡す。
そこまで洒落た物は無いが膝丈まで長さがある、所謂チュニック物があったのでそれとワンピースも数着選んだ。
両方共タイツが似合うのだがここにはなかった。残念、そもそも存在しているかもわからんが。
レギンスもそれっぽいものがあった。女性の冒険者も多いので、やはりと言うべきか動きやすいものが多い。現在の俺は結構小柄なのだが、ピッタリ合う物が見つかって良かった。
(そこまで寒くないしな、ワンピだけでも問題なかろう。それに女の子といえばワンピースだろ。ひとつなぎの大秘宝は美少女なのでした)
(ここの気候はハナ様がいた世界と一緒で四季があります。現在は春の真っ只中ですね。しばらくは薄手の物でも大丈夫でしょう)
(えー、俺寒いの苦手なのに……)
服買う前にそういう事言ってほしいぞセピア。今回買ったのはいつでも使えるけどな。
そうこう言ってると、おばさんが服を確認し終えたようだ。
「全部で銀貨1枚と銅貨2枚だね。足りるかい?」
「ちょうど予算ぴったりだね。ハナちゃん、これで大丈夫?」
「うん、ありがとうレイくん。お爺様にも後でもう一回お礼を言わないと」
やっと……やっとまともに美少女やっていける気がするぞ。ローブ一枚の不思議系美少女を続けるのは無理がある。
肌着も買えたしな。無いとおちおち外も歩けない。
「じゃあこれで……、はい、大丈夫よ。良かったら全部包んであげましょうか?」
「あっ、ちょっと待って下さい。せっかくなので一つそのまま着ていきたいのですけど」
「ふふ、そうね。じゃあ着替えておいき。その扉の影なら誰も見えないわ」
「はい、ありがとうございます」
俺はささっと着替える。うむ、見立て通り大きさはバッチリだ。
今回は緩めのチュニックにすらっとしたレギンスを選んだ。色も全体的に白っぽくて清楚さを感じる。
「凄い似合ってるよハナちゃん!」
「ええ、お人形さんみたいにとっても愛らしくて、素敵よ」
べた褒めである。流石にそう直球で言われると恥ずかしさがある。
とりあえずにへへと笑って返すと、それを見たおばさんにめっちゃ頭を撫でられた。あーだめだすっごい可愛いんだけど恥ずかしさが勝つわこれ。
褒められ慣れていないせいだな。こそばゆくて敵わん。
残りの品をおばさんに包んでもらい、俺はそそくさと店を出る。
「またおいでねハナちゃん。いつでも大歓迎よ。レイくんもね」
「はい、ありがとうございましたツバキおば様。仕立ての時はよろしくお願いしますね!」
「おばちゃん、ありがとー!」
ふう、まさか大事な所で赤くなって何も出来ないとは。あそこで美少女アピールできなくてどうするんだ。
……いや待て、可愛いと言われて恥ずかしがっている美少女はめちゃくちゃ可愛いんじゃないだろうか。
(どう思うよセピア)
(どう思うと言われましても……だいぶ拗らせているのはわかりますが)
(またそうやってナチュラルに刺してくる。彼女出来ないぞ)
(大きなお世話です)
神様に彼女とかいう概念あるのか知らんがな。
こうして俺はついにファッショナブルな服を手に入れた。
二人で外に出た後、ゆっくりと次の目的地へと向かう。
フードを外したからか、妙に風を感じるな。温かで気持ちのよい風だ。銀色の髪が軽く靡いている。
料理の時に纏めていた髪は降ろしている。纏めておくと楽といえば楽なのだが、個人的に普通のロングが好きなのだ。
「次は食材だね。買うものはハナちゃんに任せてあるってきいたんだけど」
「じゃあまずは肉屋に行こう。と言うか食材が売ってる店はどこも見ておきたいけど」
「お肉かぁ。あんまり好きじゃないけどなぁ」
レイは不満そうに答える。
子供が肉嫌いって結構珍しいと思うんだがな。特に男は。
俺はレイになぜ嫌いかを聞いてみる。答えによっては克服させることも出来るだろうしな。
「どうして嫌いなの? 食わず嫌い?」
「いや……、そうだね、あまり言いたくないけどハナちゃんには話すよ」
レイが深刻な面持ちで語り始める。
えっ、そういう展開? 俺油断してたよ。申し訳ないが唐突なシリアスはNG。
まさか肉を食うと興奮して暴れだすとか? 野生開放的な?
「実は……」
「実は?」
勿体つけんなよハードル上がるぞ。これやって話がウケた試しないんだから俺。
レイは覚悟を決めるように顔を上げ、口を開く。
「実は、お肉を食べるとお腹を壊す体質なんだ」
「あ? ああ……はあ?」
どんな爆弾発言があるかと思ったら、なるほど、そういう事らしい。
なんというか、その、深刻な本人には申し訳ないんだがしょうもなさすぎる……。生焼け食ってるだけじゃねえか。
もしかしたら本当にそういう体質かもしれないが……一応確認するか。
「ちなみに、誰が料理したんだ?」
「父ちゃんだよ。父ちゃんは美味しそうに食べるんだけどなぁ。そのままぱくっと」
まいったな、野生の肉食ゴリラと同じ餌を与えられたらそうもなろう。
きっと胃が強靭なんだろうな。それこそ食中毒とか何それ美味しいの? 状態だ。
「わかった。俺がレイのために美味しい肉を食わせてやる」
「大丈夫かな、お腹壊さないかな……凄い気分が悪くなるんだ。父ちゃんは慣れれば大丈夫だって言ってたけど。こんな事で体調を悪くするなんて情けなくて人に言えないよ」
「はあ……。とりあえずお前の親父は忘れろ。つーか薬屋が何食わせてんだ」
レイの親父には色々言う事があるな……。なに息子にいらないトラウマ植え付けてやがるんだ。
だが、これならどうにでもなるな。苦手意識さえ克服させれば大丈夫だ。後はレイの気持ちの問題だ。
「大丈夫だ、俺が作れば絶対に気持ち悪くならない。むしろ元気がもりもり湧いてガツガツ食いたくなるぞ。安心して任せろ」
「うん……わかった! 僕、ハナちゃんを信じるよ!」
段々とレイ家の食事情が掴めてきたよ。きっとヘレナママが早世したのが彼らを歪ませているに違いない。少なくとも親父と爺さんだけではダメだ。
早急な矯正が必要だな……。レイに健全な食生活を送ってもらう為に、俺達は肉屋へと向かった。




