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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
へちまくれの流浪少女
133/181

お節介ジジイの戯言だと思ってくれ

 アウレアとルーファはラフィル西区を抜け、北区へと移動する。

 西区と比べ明確に雰囲気が変わっている。先程の寂れた風景は姿を潜め、どこを見ても人が行き交う賑やかな街並みとなっていた。

 あまりの違いに、アウレアは気味が悪いと思いながらも、暫くラフィルに滞在するべく拠点となる宿屋を探していた。



「こんな人だらけで、本当に空いてんのかよ」

「この時間になると何処も空いてない……のは以前の話で、現在はどこもそこそこ空いてるですよ」



 何故かと問う前に、ルーファはここです、と目の前の宿屋を指す。

 なんの変哲もない宿屋。強いて言うなら、他と比べ少し建屋が古く見えるが、汚らしい印象では無く、手入れのされた小綺麗な古宿と言った所だ。



「それじゃあ入りましょう。お姉さん、お金は持ってるですよね?」

「当然じゃない……って、なんでお前まで付いてくるんだよ」

「私もここが良いです」



 アウレアが言葉を返す間もなく、ルーファは宿の中へと入っていく。

 眉間を指でつまみながら、アウレアはその後を追った。


 人の気配はするが、入り口には誰もいない。

 日が落ちて来る時間帯なので、夕飯の準備でもしているのだろうとアウレアは待つことにした。


 その矢先に、一人の年老いた男性が奥から現れた。

 街を歩いていた人々とそう変わらない服装だが、鍛えられた肉体や所々見受けられる傷跡から察するに、以前は戦いに赴いていた戦士だった事が分かる。

 その老人が、アウレアとルーファを見ると話しかけてくる。



「そこの君。見慣れない顔だが、冒険者か?」

「ああ? なによ急に。鬱陶しいから向こうに行けよ」



 追い払おうとするアウレアだが、何とも思ってない風に老人は笑いながら言葉を返す。



「カカカ、そう邪険にするな。泥だらけだから、外で魔物なりなんなりと戦って来たのかと思ってな」

「別に関係ねえだろ」

「いやあ、賊が蔓延ってる中でも仕事してくれて、感謝してるってだけだよ」



 何のことか分からないアウレアが首を傾げると、老人は驚いた様子で口を開く。



「ほお、知らないみたいだな。結構騒ぎになってるんだが」

「誰が何を騒ごうと興味無い」

「門の前で散々言われただろう? 今、盗賊団がロゼ遺跡を拠点にして荒らし回ってると」

(……全然知らねえ)



 門を通って無いのだから何も聞いてないのは当然であり、アウレアは面倒なのに絡まれたなと苦い顔をする。

 そんなアウレアに変わり、ルーファが老人へと返答する。



「ロゼ遺跡ってあのボロボロ遺跡の事です?」

「そうだ。ボロすぎて倒壊の恐れがあるのに、拠点にするなんて命知らずな奴らだよ」

「あそこにはお宝が眠ってそうで興味があったんですよ!!」

「やめときな。賊共に誘拐されちまうぞ。それでなくたって、遺跡の奥に行けば魔物がうようよいるんだ。女の子にゃあ些か刺激が強い」



 そんな所を拠点に使うなんてイカれてるわね。と、アウレアは興味なさげに呟いた。



「カカ、全くだな。世間じゃ『黒い魔物』なんてものも出てくる始末だ。今回の件も、どうもきな臭いが……まぁ、君達にゃ関係ねえか」

「最初からそう言ってるでしょ」

「何、お節介ジジイの戯言だと思ってくれ。カカカ」



 そのまま目の前を過ぎ去ろうとした老人が振り返り、アウレアへと言う。



「腕は立つ様だが、面倒が嫌ならこの街は離れた方が良い。更に厄介事が起こりそうでな。関係ない、で済めば良いんだが」



 神妙な声でそういうと、今度こそ老人は去っていった。



「なんだアイツ。上から目線でムカつくな」 

「全然そんな事なかったですよね!? むしろ優しかったですし。お姉さんはもうちょっと余裕持った方が良いですよ」 

「お前もムカつくな」

「この人怖い!! キレたナイフですよ!!」



 ぎゃあぎゃあ騒ぐルーファの声を聴いて、奥から宿の主人が現れた。

 やっと休める……と、アウレアは疲れた様子で主人に話しかけ、数日分の部屋を取った。



 泥だらけだったので、直ぐに体を拭ける物を持ってこさせてようやく一息つく。

 その間、ルーファはベッドの上で鼻歌交じりに商品を並べていた。



「だから、何でまだいるんだよ」

「え? だって二人部屋ですよ? 私とお姉さんで使うんですから」

「ハァ~~???」

「今までで一番感情籠った声でしたね」



 もう駄目だ疲れた。と、アウレアはベッドへ倒れ込む。



「無理。ストレス過多で何もしたくない。買い物は明日ね」

「流石に疲れたですよ。怖い人に絡まれたり。私も明日からにするです」

「私も面倒なガキに絡まれてうんざりよ。騒いだら叩き出すからな」

「酷いです!! ちゃんとお金払うつもりなのに!!」



 当たり前だろと思いながら、アウレアはルーファを意識の外へ放り出し、今後の事を考える。

 以前、ハナとの戦いでナイフを数本盗られたので見繕わなければならない。


 元々無くなったら補充する程度の扱いだったが、盗られたら盗られたで癪であった。

 ……ダメだ、あのガキの事を考えるとイライラする。やめよう。そう言って、アウレアは頭を振って切り替える。



 あの忌まわしい女――リコリスは何の気まぐれか知らないが、どうやらあの子供に従っている様だ。警戒されている分、以前の様に襲撃するのは分が悪い。

 もっと力をつけなければ。アポロスの力だけでなく、自分自身の実力を。


 そういった意味で、魔物を倒すというのは効率が良い。少し道から逸れれば湧いて出て来るし、殺した所で騒がれず、死体は売れる。

 冒険者は嫌いだが、自分が強ければそれで生計を立てられるのは楽だなとアウレアは思った。



「ま、絶対ならないけどね」

「何がですか?」

「何でもねーよ」



 大嫌いな父と母が冒険者だったので、アウレアには忌諱感があった。

 だが、先程の老人が言うには、盗賊団のせいでこの辺りの治安はよろしくないらしい。そいつらを片っ端から殺すなり捕まえるなりすれば多少は稼げるし、鍛錬にもなるだろう。


 冒険者の真似事になるのは腹立たしいが……他にあても無い。

 数日程、ラフィルで物色した後は盗賊団を潰しに行こう。そも、ルコは王都付近で騒ぎが起きるのはまずいと言っていたので、この盗賊団はどちらにしろ潰さなくてはならない。

 大義名分もあるし、丁度良い。思考がスッキリした所で、アウレアは起き上がり、外へと向かう。



「何処へ行くんです?」

「風呂」

「この宿には無いですよ?」

「ラフィルならどっか探せばあるでしょ。体拭いただけじゃ耐えらんないわ」

「じゃあ私も行くですよ」

「……金は出さねえからな」

「自分で払えますよ!! こう見えても割とお金持ってるです!!」



 そんなボロボロの格好で何を言ってるんだと思いながらも、アウレアは付いてくるルーファと話しながら、宿を後にした。






































 ラフィルの中央に位置する場所に存在する冒険者ギルド。

 どの区画へも繋がっており、何かあれば直ぐ伝達出来る様、街の中心に建てられている。


 そのギルドに、顔に目立つ傷痕が残っている老人が現れた。

 まるで我が家に帰ってきたかのような気軽さで扉を開け、中へと入っていく。



「お疲れさん。何か異常はあったか?」

「カンザギルド長……何か異常があったか? じゃないですよ。貴方がこんな時間に現れるのが異常です」

「カッカッ、そう睨むなよ。仕方ないだろ、お偉いさんに呼ばれてたんだから」

「それにしたって遅く無いですか?」



 眼鏡を掛けた男性が、老人に詰め寄っている。

 悪い悪いと頬を掻きながら、老人――カンザは歩みを進める。



「それよりも、例の件……王都からくる騎士の事なんだがな」

「誤魔化しましたね」

「まぁまぁ。それで、派遣されるのは二人だけだそうだ」

「はぁ?」



 少し前から騎士隊が来る話は広まっていた。しかし、100人をも超える盗賊団を相手どるのに余りにも少ない人員だ。

 眼鏡の男性は、呆気にとられたような顔をしていたが、少し思惟すると何かに思い当たったのか、落ち着きを取り戻す。



「まさか、四騎士の誰かが来るのですか?」

「ああ、レギネ様が御出でなさる」

「寄りにもよって王族ですか……賊相手に」

「相当無茶言ったみたいだな。ラフィル侯もカンカンだったよ」

「そりゃそうでしょう」



 カカカと笑ってカンザは自身の部屋へ入ると、椅子へと座る。



「それで、もう一人はどなたですか? まさかもう一人も」

「ああ、汪騎士サントリナ殿だ」

「それはまた……過剰戦力ですね」

「騎士隊は動かせないが、さりとて王都付近で好き勝手やらせる訳には行かないのだろう」



 それにしても歪ですと、眼鏡の男性はため息をつく。

 カンザは机の引き出しを漁ると、何かを探すように紙を広げ始める。



「ま、なる様になるさ。お出迎えはラフィル公がやってくれるし、儂らは感付いて逃げる奴や討ち漏らした賊共をひっ捕らえる事を考えりゃいいんだ」

「討ち漏らし……ありますか? 四騎士が二人も来て」

「世の中絶対は無いんだ。それに、ありゃただの盗賊団じゃなさそうだしな」



 渋い顔をして、カンザは出した紙を一枚づつ睨みつけながら話す。



「ただの盗賊団ではない……ですか。確かに、規模は大きい様ですが」

「そんなんじゃねえさ。どうにもやってる事がちぐはぐで、盗みよりも別に目的が――お、あった」



 カンザは一枚の紙を抜き出し、残りを元の場所へとしまい込む。

 それから、その紙をじっと見ている。何をしているのかと気になり、眼鏡の男性は声を掛ける。



「それは?」

「別件なんだが、ディゼノのギルドから依頼があってな。人探しをしている様だ」

「以前、便りが来ていましたね。確か、身目麗しい狐の獣人でしたか」

「そうだ。人探しというか……お尋ね者だな、こりゃ。見かけ次第報告、出来れば連行。だが、刺激すると暴れて何をするか分からないから注意しろ、だと」

「ギルド長でも取り押さえられないのですか?」

「儂が出張る気は無いさ。まぁしかし、現役だったとしても難しいんじゃねえか? 何せ、かの有名な幻獣の娘らしいからなぁ」



 

 その人物の詳細に目を通しながら、カンザは言った。

 名前はアウレア。見た目は狐の耳に尾と獣人と大差無く、目つきが鋭い。

 火魔法を扱い、体術もこなせる。変化も出来、四足歩行の巨大な獣となる。


 そして、なにより攻撃的で危険だと書かれている。

 仲間は連れていないが、くだんの『黒い魔物』と関係しており、冒険者ギルドだけでは無く、国としてもアウレアを探し出したい様だ。

 一通り詳細を見た後、ふうっと息をついてカンザは紙を机へと置いた。



「その依頼がどうかしたのです?」

「正にさっき狐人と会ってな。珍しいもんだからつい声を掛けちまった。だがまぁ、そう都合よく見つかる訳も無いさ」

「なるほど……それで、いったいどこで遊んでたのですか?」

「あー違う違う!! ちょっとばかし宿で休憩してたんだって!! いやホント!!」



 言い訳をしながらも、カンザは先程会った狐人の事を考えていた。

 外見の特徴、そして性格は聞いていた話とピッタリ合ってしまう。しかし、子連れとは聞いていない。


 名前を聞いても良かったかもしれないが……聞いたら最後、取り返しがつかなくなりそうで、踏ん切りがつかなかった。

 何にせよ、今は盗賊団を何とかするのが優先だ。冒険者達の面子がある為、騎士に任せきりにする訳にも行かない。



「レギネ様とサントリナ殿は、明日には来るそうだ。朝一でアイツらに声かけといてくれ。サポートくらいは任せて貰わないとな」

「分かりました。ギルドの方々には私から伝えておきます」

「よろしく頼む。さて、儂は――」



 ガタリと席を立つと、カンザは部屋の外へ向かう――ところで、眼鏡の男性に引き留められる。



「溜まっていた仕事がありますので、引き続きここで執務をお願いします」

「ヒエ……」



 体の大きい強面の男とは思えない声を出しながら、カンザは泣く泣く席に戻るのだった。

次回更新10/2予定

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