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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
へちまくれの流浪少女
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そのちょっとイキってる所がクールでカッコイイです

 アウレアは、ルーファの後をついていく。

 街の周りを沿うように歩いていくこと数分。話ながら歩いていたルーファが立ち止まった。



「ここですよ。あの外壁の下。少し凹んでるです」



 アウレアはルーファが指差す方向を見ると、地崩れが起きたのか斜面となり、本来は埋められ隠れている筈の地の下まで見えている状態の外壁があった。


 その外壁の下に少しばかりの穴……いや、凹みがあった。

 壁の下を掘ったような形跡が見られ、本当人が一人ギリギリ入れるくらいの狭い凹みだ。



「……まさか、あんたが掘ったの?」

「いいえ、最初からこんな状態ですよ。上手く石で隠してたのを見つけました」

「よくまぁ見つけたわね……」

「えへへ」



 確かに、良く見なければ見過ごしてしまうであろう程の穴だ。

 衛兵が見回りに来たとしても意識して見なければ見つからないであろう。



「じゃあ、早速行くですよ」

「……本当にここ通るの? 擦れて服が汚れるだろ」

「そんなの、別に良いじゃないですか」

「アンタ、オンナなんだから身だしなみくらい気を使いなさい」



 まぁ、ガキにはまだ早いか。と、アウレアは一人合点してルーファを見る。

 服はおんぼろ、痩せこけて髪もぱさぱさ。しかし、顔立ちはとても良い。


 見るからに貧そうではあるものの、態度はデカくとても苦労などしていなそうな様子の、歪な少女である。

 そんな少女が、ふてぶてしく腕を組んでアウレアへと言う。



「全く我儘ですよ。じゃあ服を脱げばいいじゃないですか」

「脱ぐかッ!!」



 じゃあ我慢するですと、ルーファは躊躇いを見せずに穴へと体を入れる。

 ルーファ自身痩せているので、するすると奥へ入ってしまった。


 アウレアは仕方なく、ルーファの後に続いて穴へと向かう。

 後で体を清めなければとため息交じりに、穴へと体を突っ込んだ。 



「狭っ!!」

「壁は結構分厚いので、頑張るですよ」

「嘘でしょ……」



 ルーファがすいすいと進んでいくのに対し、アウレアはねじる様に無理矢理前へと進む続ける。

 やがて外に出るころには、アウレアは泥だらけになっていた。



「サイアク……何でこんなことに」

「ほらほら、早く出てくるですよ」



 アウレアは立ち上がり、辺りを確認する。

 人がいる気配は無い。どこか寂れており、本当に街の中かと疑問に思う。



「ここはあんまり人が来ないから、穴が見つかる心配も少ないですよ」

「どこなのよここ」

「ラフィル西区ですよ。ここは貧しい人が物を盗んだり、荒くれ者とかが暴れたりと散々な区画なのです」

「笑って言う事じゃないでしょ」



 いわゆるスラム街である。

 ストレチア王都内で最も貧富の差が激しい街であり、対策を講じても尚改善されず、こうした無法地帯が出来ている。



「ふーん。商業都市なのにそんな汚点もあるのねぇ」

「商業都市だからこそです。お金持ってる人とそうじゃない人の差が激しいですよ」


 そうルーファが言うが、アウレアは興味無さそうに辺りを見回している。


「アンタみたいなチビ、直ぐ攫われちゃうんじゃない?」

「足には自信があるですよ。もう5回は逃げ切ってます!!」

「……よくここへ戻る気になったわね」



 誇る事じゃないとツッコミを入れながらも、そんな区画があるのは丁度良いとアウレアは内心思っていた。



「じゃあ、ここなら衛兵もそう来ないのね」

「少しは見回りますけど、こんな路地裏までは来ないですね」



 それなら、暫くここに滞在するのも悪くない。

 指名手配されている訳でもない為、街を大手振るって歩いても問題無い訳だが、関わらないに越した事はない。


 治安が悪いとて、自分には関係のない話だ。寝床さえ確保できれば、暫くは安泰である。

 そうアウレアが考えていると、ルーファが話しかけてくる。



「それでは私はこれで。今日こそ、バリバリ売りつけるですよ」

「あ、ちょっと」



 どう進めば西区から出られるかルーファへ聞こうとした時、道の先から人の声が聞こえた。

 ルーファもそれに気づき、直ぐに反転してアウレアの後ろへと隠れた。



「何してるのよ」

「多分今の声、この区画の住人ですよ。大抵碌な人間じゃないです」

「私の後ろに隠れんなよ」

「ここ、逃げ場無いですよ……早く外へ戻るです」



 ぐいぐいと引っ張ってくるルーファを無視し、アウレアは声のする方向を見る。

 そこには現れたのは、数人の男達。身なりも手入れがされていない防具を纏っており、見るからに追い剥ぎのような風貌だ。



「なんだぁ? 話し声が聞こえるかと思ったらボロい女が二人。しかも片方はガキかよ」

「泥だらけじゃねえか。既にお手付きかもな……まぁ、見てくれは悪くねェ」



 そんな言葉を吐きながら、男達は笑っている。

 その下卑た笑いがアウレアの癪に障り、眉間に皺が寄る。

 


「おい姉ちゃん、大丈夫か? 良ければお兄さん達と一緒に――」

「ウザい。早く消えろ」

「……あぁ?」



 言葉を遮る様に、アウレアは拒絶の言葉を放った。

 おどけていた男達が笑うのをやめてアウレアを睨みつける。

 アウレアが挑発した時から空気が冷えきっており、暖かな気温でありながら寒気がするルーファは挑発するのを止める様にアウレアへと言う。



「お姉さん何言ってるですか!! 早く逃げないと!!」

「お前も消えろ」

「えええっ!?」



 まさか自分にも罵倒が飛んでくるとは思わず、ルーファは驚いて声をあげる。

 そんなルーファをよそに、アウレアはつかつかと男達の方へ歩み寄る。



「せっかく人が心配してるってぇのに……てめぇ、好意を無駄にしやがって」

「どんな教育受けてんだこのアマ」



 好意も何もねぇだろと思いながらも、アウレアは男達へ向かって言う。



「邪魔。早くどけって」

「このアマ……態度からして多少腕に自信があるんだろうが、多勢に無勢だって気づかねえのか?」

「もういいだろ。少し痛めつけりゃ大人しくなるさ」



 敵意を隠そうともせず、男達は道を塞ぐ様にアウレアの前へと立ちはだかる。



「へへ……ちょいと指導してやるよ、姉ちゃん。ここじゃどれだけ叫んでも誰も助けに来ねえ」 

「……はあぁぁ」



 アウレアは大きなため息をつくと、心の底から鬱陶しいという様な目で男達を見やった。



「まぁ、良いわ。ちょっとムカついてたし、ストレス発散に丁度良い。ぶち殺されても文句言うんじゃねえぞ?」

「やってみろクソアマがッ!!」



 近づいてきたアウレアへ、激昂した男が思い切り殴りつけようと前へ飛び出る。

 殴りかかろうとしたその瞬間、男の腕があらぬ方向へと折れ曲がった。



「あ――」



 言葉すらも出せぬまま、男は派手に吹き飛ばされた。そのまま、壁に衝突し動かなくなる。



「せめて反応くらいしろよ。つまんねえな」



 嗜虐的な笑みを浮かべ、踵を突き出すように蹴りを放つ。

 目の前にいた大男が、体をくの字にさせて吹き飛ぶ。



「な……なんだよこいつ……!!」

「全員で取り囲んじまえ!」



 半数は怯えた様子を見せ、半数は更に怒りを募らせて一斉にアウレアへと向かう。



「チッ、雑魚狩りにすらならないわね」



 それを見て、アウレアは舌打ちをしながら首を鳴らす。

 たたん、と小気味よくステップを踏み、蹴りを放つ。一人、また一人とノックアウトしていく。



「す、凄いです……」



 その様子を、ルーファがキラキラしたまなこで見ていた。



「や、やべぇぞコイツ!!」

「くそっ、逃げろ!! マジで殺され――」

「逃がすわけねえだろ、クズ共が」



 冷たく、しかし熱気の有る声で言い放つと、逃げる背に向けて思い切り回し蹴りをする。

 更に怯え、逃げる男達。その全てを一撃のもとに倒し、瞬く間にこの場を制圧した。



「無駄に汗を掻かせるなよ……ただでさえ汚れてるんだから」



 そんな事を呟いて、何もなかったかの様に前へと進み始める。

 ルーファは、慌ててアウレアへと駆け寄った。



「お姉さん、大丈夫ですか?」

「心配されるほど暴れてねえだろ」

「この人達……死んでないですよね?」

「知らねえよ」



 鬱陶しそうに言うと、アウレアはそんな事よりとルーファへ尋ねる。



「このゴミ溜めから出たいんだけど、どっち行けば良いのよ」

「そう言えばお姉さん、ここは初めてでしたね、こっちですよ。……お姉さんと一緒なら安全に出られるですね!」

「私を利用しようなんて、いい度胸ね」



 ぎろりとルーファを睨むアウレア。

 少し足が後ろに下がるも、ルーファは気を取り直して口を開く。



「そういう意味じゃないのに……お姉さん、感じ悪いです!」

「ああ? 馬鹿にしてんのか?」

「してないですよ! むしろ誉めてるですよ。そのちょっとイキってる所がクールでカッコイイです」

「もっと言い方考えろ」



 そんな言い合いをしながら、二人は歩き始める。

 ルーファは倒された男達が生きているかを確認した後、アウレアと共にこの場を離れた。

次回更新9/18予定

いつもは隔週更新なのですが、諸事情により少し遅れます。

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