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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
へちまくれの流浪少女
130/181

壮美にて覇者の風格を持つ王女

5章開始です。

 ストレチア王国魔導元帥、『光輝』のルビア・コロラータ。『光輝』の他にも、『守護者ガーディアン』、『天叡大公てんえいたいこう』等、数多くの異名を持つ。

 建国から250年立つストレチアの歴史に、度々その名前が登場する。


 幼き少女の姿をしており、比類なき光魔法の使い手。それ以外に、彼女の情報は記されていない。

 エルフでは無いか、はたまた他の種族。挙句には魔人では無いか、この国を乗っ取ろうと画策しているのでは無いかとあらぬ疑いも掛けられた。

 それでも彼女は、愚直にストレチアへと貢献する。やがて、時と共にそんな悪評が消え去り、彼女は国民からの信頼を勝ち取り、現在もストレチアの根幹を担っている。



 そんな彼女が突如失踪してから約20日後。王都ストレチアに、その姿を現した。

 曰く、ディゼノにて黒い魔物及び魔人と交戦。撃退したと本人の口から伝えられる。


 ルビアから伝えられた急報に、現国王は直ちにその組織への本格的な対策、そして討伐をルビアへと命ずる。

 その報は、ストレチア王都から瞬く間に国内へと広まっていった。



「――兄上の仰られている事が分かりませぬ」

「いや分かってるだろう……お前は気軽に城から、いや、王都から出るなと言ったんだ」



 ストレチア王都の中央に建つ王城。その門前で会話する、二人の人物。その二人を護衛する様に脇へと立つ、若い騎士。

 その騎士が呆れた様子で、その話を聞いている。



「ラフィルに盗賊団が巣食っているとあらば、ストレチア騎士たるこの私が」

「レギネ、分かってくれ。第一王女であるお前が、騎士を引き連れて遠征なんて許される訳がないだろう」

「兄上は、ディゼノへと遊びに行っていたではありませんか!」

「遊びじゃねーよ!!」



 ストレチア王国第一王女、レギネ・バード・ストレチア。言葉にそう返したのはその兄である第二王子のネオだ。

 ルビアより一足早く王都へと戻ったネオは、黒い魔物と魔人の急襲、その旨を国王へと伝えた。

 その時点で、ストレチア国王は魔人の件を公表し、表立って動く事を決断していた。



「確かに規模の大きい盗賊団だからな。騎士団が出てもおかしくない案件だが……それでも、お前に許可は下りないだろうよ。後、ルビアに泣きついてもダメだぞ? アイツは今忙しいからな」

「騎士団が動かせないのであれば、私とサンのみで……」

「もっとダメだ馬鹿野郎! お前抜きで、サントリナが兵を率いるのが無難だろうよ」

「サンばかりズルいです!! 後、野郎ではありませぬ!!」

「ズルいとかそういう問題じゃねえだろ!」

「……」



 二人が子供の様な言い合いをしている横で、汪騎士――サントリナ・コットンが顛末を見守っている。

 レギネが向かう向かわないに関係なく、自身は盗賊団の殲滅へ向かう事は確定している。


 軍議で決まった話を、レギネが介入しようとネオの元へと赴いた。

 第一王女であると同時に、騎士長としての権限をも持つレギネ。にも拘らず、今回軍議に呼ばれなかったレギネはそれを含めてネオへと訴えていたのだ。



「サントリナも何とか言ってくれよ。お前の言う事なら聞くだろ、コイツも」

「……私としては、レギネ様には城で待って頂いた方が気楽なのですが」

「サンッ!! いくらサンとは言え、一人では危険よ!!」

「危険であれば、尚更大人しくして頂きたく」

「……ぐっ!」



 王女の出る幕では無い。そう淡々と、当然の事を当然の様に言い切るサントリナ。

 言葉が詰まるレギネの後、「しかし」と言葉を続ける。



「レギネ様の威光を示すには丁度良いかもしれません」

「なんだと?」

「黒い魔物の件で国民は不安を抱いています。都度、撃退しているとはいえ、被害も少なくない。現に、国境沿いの兵を呼び戻し、人員を確保するので手一杯。その困窮が、民へ伝わっているのでしょう」



 国中で黒い魔物の目撃報告が挙げられ、遂には王都へと巨大な魔物が攻め込まれた。

 その対応に追われ人員が不足しているのを、公表せずとも国民は理解しているのだ。



「それはそうだが、この件となんの関係がある?」

「単純な話です。騎士の強さを見せ、国民の不安を取り除く。完全にとは言いませんが、屈強な騎士達が国の治安に尽力しているとわかれば、少しは民達の心に余裕が持てるでしょう」

「騎士を活躍させたいんだったら、別にレギネである必要は無いだろうが」



 どっちの味方だと言う様に、ネオはサントリナへと問い返す。

 そんなネオの様子に臆することなく、サントリナは冷静に答えた。



「レギネ様は王族であり、騎士。『壮美の騎士』と呼ばれ、国民から慕われています。ルビア様と並び、このストレチアの顔と言っても過言ではないでしょう。今回の案件は、その威光を今一度示すのに相応しいかと」

(レギネの事になるとホント良く喋るな)

「本来であれば、騎士長が二人王都から離れるなど大事で無ければ有り得ません。ましてや、盗賊程度で国家の主戦力を投入するなど以ての外ですが……商都であり、ここからそう遠くないラフィルであれば話は別。早急に賊を殲滅し、物流の制限をほどかなければ、国全体の力が削がれます」



 一息に理屈を述べるサントリナに若干引きながらも、ネオは言葉を返す。



「そりゃあまぁ、そうだ。だからわざわざ、騎士長や王族集めて話し合ってたワケだからな」

「重要ではあるものの、人不足で戦力を避けない。であれば、少数精鋭で乗り込んだ方が合理的です。今、王都に必要なのは個の戦力ではなく、人員ですから」



 まさかレギネを過剰なまでに敬服し、その身を第一に考えているサントリナが同調してくるとは思わず、ネオは頭を抱える。



(兄貴が、レギネを軍議に呼ばなかった理由も分かるな)



 第一王子であるネオの兄が、レギネには知らせず、バレる前に行動に移せと真っ先に命を出していた。

 しかし、何処からかその情報がレギネに漏れ、サントリナと共にネオの前へ現れたのだ。



「仕方ない。サントリナ、兄貴……ニコライ兄様に掛け合ってみろ。軍議で決まった話を、そう簡単に覆す訳にも行かないからな」

「兄上……!」

「ええ、そうですね。承知しました」

「後、親衛隊長――『えん騎士』には黙っておけ。絶対反発するから。グズグズしてたらラフィル侯にどやされるぞ」



 後は兄様次第だ。ネオはそう言って、城の外へと歩き出した。

 サントリナは兵の一人でも付けて下さい。そう、ついでの様にお小言を言うも、ネオは笑って誤魔化す。



「ぐっ、兄上め。あんな自由に街を出入りして。私も冒険者になりたかった……!!」

「あの方は特別ですから。それよりも、急ぎニコライ王子に取り次いで許可を頂かなくては。レギネ様の威光を示すにしても、迅速に、完璧に為さなければ」

「そうね。でも、そんな急がなくても」

「今日中に出立しなければなりません。今も、国民は賊の被害を受けています。遅いと文句を言われる事はあっても、早すぎるという事は無いのです」

「だけどサン、ヴィルポートから戻ってきたばかりでしょう? 無理してないかしら」

「……問題ありません」



 ヴィルポートの魔物を間引く為に派遣されたサントリナ。その仕事を予定の3日程早く済ませ、直ぐに王都へと帰還する。

 帰ってきたのは一昨日。そして昨日、ラフィル付近を拠点とする盗賊団に関する軍議を行い、今日出立する予定だった。

 休む間もなく国内を廻るサントリナを、レギネは心配していた。



「休養であればしっかりと取っています。むしろ、ヴィルポートなど観光とそう変わりませんでしたよ」

「そう言えるのは貴方くらいよ……」

「そうでもありません。『純白の騎士』や『苑騎士』であれば日帰りで済む話です」

「……サン達と比べられる他の騎士が可哀想ね」

(貴方がそれを言うのか)



 『純白の騎士』セントレア。『壮美の騎士』レギネ。『汪騎士』サントリナ。『苑騎士』グローズ。

 騎士の中でも、突出した実力を持つ四人の騎士である。ストレチア王国で名を轟かせ、その名声は他国にも及ぶ。


 そのうちの二人が、盗賊討伐に乗り出すのだ。一介の騎士からしてみれば、過剰だと言わざるを得ない。

 しかしそれでも、レギネは無理を言って名乗り出た。何てことは無い、正義感から来る訴えだった。


 他者から見れば、短絡的で愚かとも言える行為だが、その純粋な熱意があるからこそ、王女でありながらもここまでの実力を付けてきたのだ。

 壮美にて覇者の風格を持つ王女。全ておおきく呑み込む質実剛健の騎士。

 その二人が王都からラフィルへと向かったとの報告を、ネオは複雑な思いで聞いていた。























「ラフィルにて、少女の目撃情報……」



 王都の一角にある、カルミア伯爵の屋敷。

 その屋敷内で、モルセラは自身が従える組織から伝えられた情報に目を通している。



(そのまま逃げてしまえばいい物を……はぁ、面倒な)



 モルセラは、組織の頭領などやるつもりも無ければ、人攫いなど興味も無い。

 もとを正せば、カルミアが彼女を拾った後、王都の裏で暗躍している組織に喧嘩を売ったのが始まりだった。



「僕に内緒で悪い事しようなんて、随分ツラの皮がアツいんだねぇ」



 楽し気にそう言ったカルミアは、モルセラを使って組織を半壊させた。

 単純に、モルセラは強いのだ。どうやってその強さを得たのか、カルミアですら理解出来ぬ程に。


 元S級冒険者が立ち上げたその組織。その幹部、そして頭領を秒殺したモルセラは、知らずの内にその組織の頭領に挿げ替えられた。

 しかし、当時モルセラは10歳。戦闘技術以外は普通の女の子供であるモルセラに、運営など出来る筈もない。


 結局、モルセラを伝ってカルミアが良い様にその組織を運用している。

 既に、その組織はカルミアの『小遣い稼ぎ』や『暇潰し』程度にしか機能していないのだ。


 そんな組織から、カルミアの呪いを解呪した少女がラフィルで目撃されたと情報が入る。

 恐らく、カルミアも対して大事には思っていない話だ。単に、呪いが解かれて気に入らないとかそういう癇癪の一つだろう。



(せっかく一人の時間が取れたのに……やってられないわ)



 そのカルミアが、急に「里帰りする。エルフの領地に君は連れてけないからお留守番よろしく」と、言い出した。

 元々一人でのびのびと生きて来たカルミアだ。モルセラの様な小間使いなど、居ても居なくても変わらないのだろう。


 モルセラ自身は、カルミアからどう思われても良いと思っているし、拾ってもらった恩を忘れた事も無い。

 しかし、それはそれ。年頃の彼女は、一人の時間を使ってやりたい事を満喫しようとしていたのだ。



(見て見ぬふりしちゃおうかな……でも、バレたら更に面倒な事に……)



 カルミアにちくちくどやされるのと、無視して休暇を満喫するのとで葛藤していると、館の扉が叩かれる。

 普通であれば、館を持つほどの有力者であれば見張りの一人もいるのだが、カルミアにはモルセラしかいないので、必然モルセラが対応する。


 モルセラが扉を開くと、そこに居たのはストレチア王国魔導元帥――ルビア・コロラータであった。

 隣には、騎士が二人連れ添っている。モルセラは一歩下がると、ルビアへ一礼する。



「やぁモルセラ。いつもより遅かったね」

「……申し訳ありません」

「いや、責めてる訳じゃないさ。取り付けも無くいきなり来て悪いけど、少し急ぎでね。あの捻くれモノはいるかい?」



 運が良いのか悪いのか、カルミアは先日ここを発ったばかりだった。

 カルミアとルビア。間違いなく面倒な事になっていただろうと、モルセラは内心ホッとした。



「カルミア様は、現在エルフの領地へと赴いております」

「え? アイツが? 嘘だろ?」

「昨日、王都を出たばかりです。黒い魔物の視察だと一報入れていた筈ですが」

「マジかよ……アイツから視察なんて言葉出るとは思わなかったわ」



 私もね。と、モルセラは心の中で毒づいた。



「期間はどれくらいだ?」

「仰られておりませんでしたが……少なくとも、移動で2週間。視察で3日。物見遊山で3ヵ月は掛かるかと」

「パッと見、クールな女なのに冗談好きだよなぁ、お前。アイツを良く分かってるじゃないか」



 愉快そうに笑っているルビアだが、モルセラとしては害を被っている側なので全く笑えない。後、冗談で言ったつもりは無い。



「じゃあ仕方ないな。一応、召致の手紙を……置いても来ないだろうから、頃合い見てまた来る」

「ご足労をおかけします」

「気にするな。……ああ、そうだ」



 ルビアが思い出したかの様に、モルセラへと話し始める。



「『火竜劇団』がラフィルに来るみたいだぞ」

「……それは」

「大規模の盗賊団が出来たらしくてな、その支援との事らしいんだが……却って危ないと思うんだよな。大体、賊がいる場所に人集めてどうする気なんだか」

「……」

「まぁ、彼らには彼らの考えがあるんだろう。法に背いている訳でも無し、既に賊の討伐に騎士が当てがわれているから問題無いさ」



 だから、お前も偶には羽を伸ばしたらどうだと、ルビアは笑いながら言った。

 劇を見るのが大好きなモルセラにとって、それは惹かれる話だ。



「では、失礼するよ。カルミアによろしく言っておいてくれ」

「はい、承りました」



 ルビアが手を振って踵を返すと、控えていた騎士も伴い、礼をして立ち去った。

 その背を見ながら、モルセラはカルミアに叱られる覚悟を決めた。

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