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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
我が道進む百合水仙
129/181

旅の始まり

4章完結です。

前々からキャラクター紹介を出して欲しいとの要望を頂いていたのですが、遅れてしまい申し訳ありません。

章の合間に挟むか、1ページ目に差し込むか色々考えています。

更新頻度は極力維持したいので暫くは出せないと思います。


ただ、描写や文章が分かり辛い等あれば気軽にご意見下さい。

サクサク読みやすいお話を目指しているので、必要であれば加筆修正し、参考にさせて頂きます。

 あれから数日が経ち。遂に王都へと向かう日がやってきた。

 馬車が出るのは朝なので、まだ夜が明けて間もない時間に起床する。空は曙、淡く美しい紅色が差し始めている。


 いつもはこのくらいの時間に起きると半分くらい寝てるんだが、何故だか今日はしゃっきりしている。



「んん~……飯も軽く食ったし、朝風呂もキメたし、バッチリだな」

「忘れ物は無いですか? 遠出になりますから、忘れたら取りに戻れませんよ」

「おう、問題無い」



 一緒に着替えていたケイカがそんな事を聞いてくる。

 元々そんな荷物無いしな。俺は冒険者じゃないし。最低限の装備はするけど。


 武器は軽めの物が多いから所持出来るし、呪術書の内容は全部セピアが暗記してるから聞きたい時に聞けば問題無いし。



「お前こそ王都は初めてだろ。張り切りすぎてヘマしない様に気を付けろよ」

「子供扱いしないで下サイ。昨日からこれでもかと言うくらい準備して気合入れてきたから大丈夫です!」



 むんっと力こぶを見せて、アピールをしてくるケイカ。遠足前の子供みたいなテンションだ。

 それほど楽しみなのだろう、嬉しそうな声色で返事をしてくる。



「ボタン、しっかり目覚めてるな?」

「ん」

「よろしい。ユーリも問題無いな?」

「オイラはハナの魔力がありゃ問題無いよ」



 ボタンを乗せたユーリがそういうと、俺の元へと寄ってくる。

 我が下僕達も準備完了しているので、俺達も早々に支度を終え、下に降りるとジナと爺さんが寛いでいる。

 見送る為だけに無理して起きなくても良いのにって言ったのだが、聞く耳もたんと俺達より早く起きていた。



「おはようございます。ジナさん、お爺様」

「おはよう。ほほ、遂に出発かの」

「はい! リコリス様が準備できたら直ぐに出ます」

「アイツならさっき見かけたな。直ぐ来ると思うぜ」



 リコリスめ、いつも急かす癖にこういう時のんびりしてやがる。



「お店は大丈夫ですか?」

「半年前まで二人で切り盛りしておったからのう。大丈夫じゃぞい。気兼ねなく楽しんでおいで」

「何、俺も暫くここに居るからな。以前よりも楽だろうよ」

「碌に手伝わぬ癖に何を言うておるのだか」



 でも、婆さんが居なくなると氷室が使えないのう。と爺さんは笑いながら言った。

 便利だよな、氷魔法。どこでも冷やせるってやっぱ重宝するわ。



「出来れば暑くなる前に戻ってきてほしいのう」

「あはは、流石にそんな長居しないっしょ」

「そう言ってると実際になっちゃったりするんですよ、ハナさん」



 またフラグ立てしてしまった。長居するにしても平和的な時間を過ごしたいものだな。

 そんな話をしていると、リコリスが現れる。



「ほう、ちゃんと起きれたようじゃな」

「たりめーよ。美少女は人を待たさないんだ」

「たりめーよー」



 ボタンがくるくると回りながら、俺の言った言葉を復唱する。今日も言葉を覚えてえらい。



「おはようございます、リコリス様。もう行きますか?」

「そうじゃな。今から行って丁度良いくらいじゃろう」

「ったく、オイラ早起きは苦手なんだよな。昼くらいで良いのにー」

「主が勝手に約束したからじゃな」

「俺のせいかよ!」



 一緒に王都へと向かうダイナ曰く、早朝から出れば途中、街で宿を取れるらしい。

 確かに野宿よかそっちの方が助かるが、それにしても早い!



「レイだってまだ起きてないのに」

「昨日も稽古をつけておったからのう」

「俺としては助かるが、少しは加減してやってくれよ?」

「それは小僧の為にならぬからの」



 暫くいなくなるという事で、いつもより気合入れて見てくれたらしい。

 お陰でレイも大分体力が付いてきた。今までも十分体力有ったのにな。



「仕方ないな。ダイナを待たせる訳にも行かんからな、行くか」

「起こしても良いのじゃよ? 別に無理させる訳でも無し」

「良いよ、別に今生の別れって訳でもないし。ちょっと長めのお出かけってだけだ」



 俺はそっけなく返すと、そのまま店の外へと向かう。



「全く、冷たいのう」

「ふふ、表立って見送って欲しいなんて言うのが恥ずかしいだけでしょう」

「……ごちゃごちゃ言っとらんで早く行くぞ」

「ツンツンしてますねぇ」

「つんつん」

「ボタン、そう言うのは覚えんでも良い」



 ボタンはつーん! と言ってケイカへと抱き着く。ぐ……これが反抗期か。

 そんなやり取りをしていた時、ジナが後ろから声を掛けてくる。



「ハナ」

「ん?」

「今更、あれこれ言うつもりは無いが。これだけは言わせてくれ」



 くるりと振り返ると、そこにはジナ……いや、心配そうに娘を見る一人の父親がいた。



「その、なんだ。無事に帰ってこい」

「なんすかその歯切れの悪さ」

「い、いや。どんな感じに見送ればいいのかと思って」

「だから、ただのお出かけだってのに。なんでそんな固まってんだよ」



 イマイチぱっとしなかったお見送りの言葉だったが、ジナらしいと言えばらしい。どこかしまらないんだよな。



「にしし、俺は後500年ほど生きる予定だからな。少なくとも親父がくたばる迄は死なねえから安心しろよ」

「っ!! ……そうか」



 すっげー嬉しそうな表情だ。ぐっ、なんか腹立つ。やっぱ言わなきゃよかった。

 俺は前に向き直り、いそいそと外へ向かう。



「ハナさん耳があか……ひゃあっ!? ちょっと!! なんでお尻叩いたんですか!!」

「これねえ、ファミリーのビンタだよ。ケイカもファミリーだ」

「誤魔化さないで下サイ!!」



 朝っぱらから騒がしくなってしまったが、これくらい明るい方が俺は良い。

 俺達は店の外へと出る。ちょっぴり寒いが、日も出てるしこれから暖かくなるだろう。


 そんな他愛のない事を思っていた時に、中からレイが飛び出してくる。



「ちょっと、なんで起こしてくれないのさ!」

「え? ああ、悪い。お出かけだし別に良いかなと思って」

「良くないよ!!」



 おおう、珍しくすげー怒ってる。というか、レイが怒るところ初めて見たかもしれん。



「そ、そんな怒るなよ。悪気は無かったんだって」

「だって……ハナちゃんがそのままどこか行っちゃいそうな気がして……」

「いやそんな事ないから。……うおいっ!? 泣くなよ!!」

「泣いてないよ!!」



 いや嘘つけ。今にも泣きそうじゃねえか。

 うーん、昨日まで普通だったのだがな。お年頃の子供はわからんのだ。俺も子供だけど。


 ……ああもう、仕方ないな。子供を宥めるのはあんま得意じゃないんだぞ。

 俯き気味に震えているレイを、俺はぎゅっと抱きしめる。



「ちゃんと戻ってくるから。まだ爺さん達だけじゃ飯も心配だしな」

「……」

「それに、まだレイに拾って貰った恩を返せてないしな。帰ってきたら、また鍛錬の成果を見てやるよ。にししし」



 ぽんぽんと頭を撫でながら、慰めるようにレイへと伝える。



「レイ。冒険者になったら、出会いや別れが沢山あるんだ。こういう時は、笑って見送ってやろうぜ」



 ジナはレイを宥める様に、明るく振舞っている。



「……うん、わかった。ごめんね、ハナちゃん」

「気にするなよ。鍛錬、サボらずちゃんとやれよ?」

「言われなくても、いつもやってるよ」



 軽く冗談を言って、レイから離れる。

 そういや、同年代の友達が少ないんだったな。そりゃ、寂しくもなるか。



「レイくん。帰ってきたら王都の話をたくさん聞かせてあげますからね!」

「うん、楽しみにしてる」



 ケイカが、にこりと笑ってレイに言う。



「じゃ、行ってくるわ。お土産は期待して良いぞ」

「行ってらっしゃい、ハナちゃん!」

「ほほ、楽しみじゃな」

「変な事に首突っ込むなよ! ちゃんと人を頼れ!」



 ったく、最後までお小言を言いやがって。

 だが、それすらも小気味良く聞こえ、旅の始まりに相応しい見送りだった。































 ハナがルマリを発つ少し前の事。

 まだ日も開けぬ暗いディゼノの街。星々の輝きも届かぬ街の一角で佇む、二つの人影。


 その人物が、手のひらにある黒い丸薬を弄りながら口を開いた。



「……まさか。あれほど動くなと言われていたのに、暴れるなんてね」

「……」



 その女性――ブローディアが、目の前にいるローブの人物へと詰め寄る。

 ローブの人物は、手を上げて悪気が無かったことを示す。



「せめて、私が立ち去った後にしてくれる? お陰で酷い目にあったんだけど」

「……」



 申し訳無いと言った風に、ローブの人物が頭を下げた。

 そのコミカルな動きを、ブローディアはため息をついて見ていた。



(はあ。せっかく最期にこの国を見て回ろうと思ったのに。こんな夜街の端で、一人で喋って……これじゃ私、馬鹿みたい)



 半年後、王都で起こる悲劇の前に……今一度、滅びゆく国をこの目で見る為に旅を始めたブローディア。

 その最中。まさかこの人物に出会う事になるとは。


 未だ正体が分からない、この胡散臭い人物。興味はない物の――ブローディアは不満をぶちまけていた。



「ルコから話は聞いていたけど……本当に、狂ったメンツしかいないわね。まさか街内に魔物を解き放つとは――」



 そう言い終える前に、ローブの人物が手でバツ印を作り止める。

 その後、黒い丸薬を取り出し、そして――



「……貴方、それ」

「……」



 菓子を放る様に上に飛ばし、口へと入れる。その時、顔に掛かっていたローブが外れた。

 ぴくりと、反応するも冷静にその顔を確認するブローディア。

 その顔を見た後、気の抜けた様な声を出す。



「……はあああ。ええ。そう。成程ね。貴方だったの。どこまで私をコケにすれば気が済むの?」

「……」

「言っとくけど。その仕草。貴方には似合わないから。普段から見てる人なら吹き出してるね、きっと」



 手のひらで転がしていた黒い丸薬を見ながら、ブローディアは答える。

 頭をポリポリと掻きながら、目の前の人物は息を吐いた。



「貴方、もう手遅れでしょう? この得体のしれない薬を飲んでる時点で、私より余程深い所まで行ってしまっている」

「……」

「……まぁ、良い。これ返すから。まだ私、人間辞めるか考え中なの」



 ブローディアが投げた丸薬を、ローブの人物が受け取る。

 その様子を見ぬまま、ブローディアは背を向けて歩き始めた。



「今すぐに、この街から出ていく。だから、周りにいる薄汚い物を控えさせて」

「……」

「貴方の事は嫌いだし、その低俗なスキルも許し難いけど。今日は見逃してあげる。良い出会いもあったし」



 一方的に、言いたいだけ言ってからブローディアはその場を立ち去る。

 ブローディアの背を見つめながら、投げ返された丸薬を口に入れ、ガリッと噛み砕き飲み込む。


 天を仰ぐ様に少し空を見ると、その女性も静かにその場を後にした。

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