くるくる回って新しいお洋服にウキウキな美少女をアピール
(なんかいっぱいいる……)
俺はリコリスから、いつもの様に鍛錬という美少女らしくない行動を不本意ながら行っていた。
目の前の氷を捌くので手一杯になっていたので、人の気配に全く気付かなかった……まぁ、リコリスが気づいてるから良いかと楽観しながらもその面子を確認する。
六曜の二人、ブローディアの3人は知り合いなんだが、あと一人……もとい、一匹は知らんな。あれライズだよな? 耳長いけど。いっちょまえにサングラスなんて付けやがって。
「悪いねぇ。とても楽しそうだったんで、声を掛け辛かったのさ」
そのライズが、やたら渋い声で答える。
耳をパシパシしてるのは癖だろうか。愛くるしさを感じるが、声がおっさんなんだよなぁ。
「……お主か。そう言えば、ディゼノへ向かうと言っていたな」
「ああ。ここは色んな意味で退屈しなそうだよ。それで、そこの美しいお嬢さんが主人で良いのかな?」
「はい、そうですけど」
リコリスと知り合いだったのかと思いつつも、美しいと言われたので咄嗟に返す。魔物の癖に分かってるじゃねえか。
「クハッ、そうかい。人は見た目によらねえよなぁ。よろしく、俺はミ・ギグだ」
サングラスを外して、ミ・ギグが名乗ってきた。
自分も名前を名乗ると、良い名前だと褒められた。なんというか、気の良いおっさんだな。後、なんだそのプードルがカット失敗したような奇抜な毛の生え方は。
「で、お前らなんでいるの?」
「居ちゃ悪いのかよ」
ほったらかしにしてた3人にそう言うと、シーラが突っかかってくる。
相変わらず喧嘩っ早い奴だ。でも純情なんだろ? なんて可愛い奴だ。ダイナの野郎、良い女捕まえやがって。
そんなシーラを宥めつつ、ダイナが答える。
「ポーションの原料になる草を取りに来たんだ。この先にあるらしい」
「ほーん。そういや、爺さんも急に大量注文が来たって焦ってたな」
怪我人が出たんだろうな。そりゃそうか、街中にいる非武装の人間が襲われたんだもんな。
「ブローディアさんもですか?」
「……私は、スキルの示す通りに動いてるだけ」
相変わらず危なっかしいヤツだな。強いのは知ってるけど、それでウロウロしてたら美少女は心配だよ。
そんなブローディアの隣にいたシーラが、ずいっと出てきてこちらへと歩いてくる。
「以前会った時はちゃんと話せなかったからな。貴様が幻獣リコリスか」
「お主は……ああ、黒龍の娘か。母親に似ておるな」
一触即発という雰囲気では無いが、どこか好戦的な視線でリコリスを見るシーラ。
そんなシーラに、ダイナが尋ねる。
「知り合いなのか?」
「俺の母がな。以前ストレチアにちょっかい出した時に、こいつとやり合ったんだと」
「酔狂で国を攻める、厄介な女であったな」
どこか懐かし気に語るリコリス。
そんなのもあったな~的なノリで話してるけど……それ、国家存亡の危機だよな? 黒龍VS幻獣って怪獣映画にありそうな構図だ。
シーラはにたりと笑って、手を鳴らしている。
「よし、次は俺と戦おうぜ」
「なんだいきなり」
「ガキはどいてろ」
「はーん?」
失礼な事を言うシーラに軽くガンくれてやったものの、意に介していない。
既にやる気満々である。面倒なのでリコリスに丸投げしよ。
「仕方ねーな。あんま暴れるなよ。リコリス。相手してやれよ」
「勝手に決めるでない」
「シーラに言え」
じゃあ後よろしく。そう言って、俺はサッとその場を離れる。
「良いのか?」
「ダメって言っても聞かんだろ。そっちこそ、依頼の途中じゃないのか?」
「正直すげー困る……怪我人がいるなら早くしたいんだが」
「クハッ、やんちゃな姐さんだ」
「苦労してんな」
重傷者は既に治療済みで、残るは命に別状のない者のみではあるが、早いに越した事はない。
ちょっぴり可哀想だったので、俺はダイナを手伝ってやる事にする。
俺は、後ろの方でのんびり寝ていたユーリに声を掛ける。
「起きろユーリ。仕事だぞ」
「ん~~、なんだよ」
のっそりと、大欠伸をしてユーリが答える。
今までその姿が見えてなかったのか、ブローディアとミ・ギグの目が大きく開く。
「精霊……しかも、高位」
「大きな獅子だなぁ。あれが魔物だったら食べられちまう所だ」
「食べねーよ!」
ツッコミながらユーリはのそのそとこちらへ歩いてくる。
ミ・ギグの鼻がひくひくしている。そういや、ライズってユーリの花の香りが好きなんだっけか。ミ・ギグもそうなのかな。
「ほお、なるほどねぇ。おたくのその……なんだ? 触手? から生えてる花が香りの元か」
「触手じゃないよ蔦だよ」
別にいいだろ。触手でも蔦でもたいして変わらねーよ。
心の中でそう思いながら、ミ・ギグの話を聞く。
「細かい事は気にするなよ。ああ、本当にいい香りだ。愛しのアイツに一輪捧げたい。是非、その花を売ってくれないか?」
「別にこれくらいならあげるぞ。ホラ。そこのねーさんもお一ついかが?」
「……私に?」
ユーリは器用に花の部分を千切って、ミ・ギグとブローディアへ渡す。
またご主人様に許可取らず勝手な事しやがって。帰ったらお仕置きだな。たてがみモフモフの刑だ。
「おお、近くで見ても美しいな。渡すまで枯れない様、大事にするよ」
「オイラは、そう簡単に枯れないぜ。あ、でも水はやってくれよな!」
「……確かに良い香りね。貴族向けに王都で売り出せば、流行るかも」
売るって言っても色々手続きとか面倒そうだし、ユーリしか咲かせられないから、最悪狙われる事もあるだろうしなぁ。
リスクを考えると乗り気にはならんな。
そこはかとなく笑ってお茶濁しすると、ユーリが俺に何用かと聞いてくる。
「それで、ハナ。何か用か?」
「そうだった。ポーションの原料が必要なんだと。えーと名前は確か……クファか。ちょっくら聞いてくれ」
「アイアイサー」
ユーリがそう言った後、がうがうと獅子らしい唸り声を出す。
「んー、ここからあっちの……奥に向かって5分くらい歩いた先に、結構居るな。ロイスの木の下辺りを調べてみ。大量にあるでよ」
「ロイス?」
「細長~い葉の針葉樹だよ」
どこに生えてるかなんて植物に聞けば一発だぜ。自身が採取されるのに正直に答えてくれる。
「おたく、まさか植物の声が聞こえるのか?」
「おう。そのまさかだよん。凄いだろ?」
「クハハッ、エルフの中でも優れた者しか聞き取れないと言ってたが、そうか!!」
なんか満足そうに笑って耳を叩いている。変なおっさんだ。
ユーリはユーリでめっちゃどや顔である。あんま調子乗るとドジるから程ほどにしてほしい。
「すまん、助かるよ。ありがとう」
「同郷のよしみだ、気にするな。報酬半分で許してやる」
「金取るのかよ」
冗談に決まってんだろ。そう笑って、ダイナを揶揄う。
依頼っつーことは、一応ギルドはやってるのな。他の店もやってんのかな。流石に滅茶苦茶にされた所は無理だろうけど。
リコリスが遊び終わったら街へ繰り出すか。服の他にも王都へ向けて色々買わんといけないからな。魔物が出て意気消沈した街の奴らを、俺という最高の美少女を見せて元気付けないとな。
おっと、最高の美少女と言えば、俺の服が初お披露目なのに誰からも突っ込まれなかったな。ハナちゃんちょっぴり悲しいので、自分から聞く事にする。
「そういやダイナ。どうだこの服。最高にカワイイだろ?」
「ああ、見た目はな。そんな服、何処で手に入れたんだ?」
「特注ですよ特注! 王都で有名な、ブティックやってる人のお姉さんがルマリに居てな。仕立ててくれたんだよ。何気に魔物の素材使ってるから防御力もあるぞ」
「そうなのか。魔物の素材は加工し辛いって聞くし、良い腕してるんだな」
全く良い仕事してるぜ。王都へ行ったら、作った人にこんな可愛い美少女が着てるんだと見せてやらなきゃな。
くるくる回って新しいお洋服にウキウキな美少女をアピールしながら話していると、ブローディアが話しかけてくる。
「……それ、シキミの仕立てた服ね」
「知ってるのか?」
「ええ、私も時々行くから」
シキミ……ツバキおばさん曰く、確かにそんな名前だったような……。
「ちょっと良い?」
「え、わ、ちょ」
ブローディアが近づくと、袖の辺りを触ってくる。普通に乳が手に当たってるんですけど!? 袖を見る為に寄せるだけで当たるってどれだけデカいねん。
「ここに、シキミの店でしか付けてない意匠が施してある」
「ホントだ。気づかなかった……良く分かりましたね」
「私も何着か買ってるから。でも、この服は結構凝ってると思う」
「ふふん、私がデザイン案出しましたからねっ!」
この世界の服も悪くは無いが、やはり機能性重視というか、野暮ったく感じる物が多かったので一からデザインしたのだ。王都へ行けば洒落た服もあるのだろうが。
俺が自信満々に言うと、ブローディアはくすっと笑って頭を撫でてくる。
「シキミに負けず劣らずのセンス。とても似合ってる」
「にしし、ありがとうございます!」
「……」
お礼を言って撫でてくるブローディアの顔を見る。
俺を見ているブローディアの目。笑ってはいるものの、何か、とても心憂しているかの様な、そんな瞳であった。
単なる勘違いかもしれないので、そこは突っ込まずにこっちも笑って誤魔化す。
美女ゆえに悩ましい事が沢山あるだろうしな。デリケートな事には安易に探りを入れないデリカシーの有る美少女だからな。
俺らがイチャイチャしていると、ミ・ギグが話を切り出した。
「んじゃあ、俺はここで別れる。スライムを狩らなくちゃならねえからな」
「スライム?」
聞けば、スライムの体液で毛が伸びるらしい。なんか独創的なカットだなと思ったら不本意なファッションだったようだ。
ウサギなんだから生え変わるまで待てばいいのって言ったら、こんな姿じゃ恥ずかしくって思い人……思いライズに会えないそうだ。意外と繊細なヤツ。