表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
我が道進む百合水仙
125/181

私は、貴方達のより良い未来を提示するだけ

 ゴブリン騒動の翌日。未だ破壊の後は残っているものの、既に住民達はゴブリンが荒らしまわった後の後始末を、商人達は露店を並べ、再び活気を取り戻している。

 昨日の今日で直ぐ元に戻るあたり、荒事に手馴れている冒険者の町と言えるだろう。ディゼノがストレチア王国東の要たる所以はそこにあった。


 当の冒険者達は、破壊された街中の整備。マリーの泥を使った魔法の後片付けに駆り出されている。

 連日の騒動で、ギルドは今日も忙しなく人が行き来していた。

 そんな冒険者ギルドの片隅で、二人の鬼人が並んで椅子に腰かけている。



「……なんつーか、大変そうだな」

「大変なのよ……街にゴブリンなんて、余程辺境じゃなきゃ有り得ないワ」

「そうだなぁ」



 その行き交いを、他人事の様に見つめる鬼人の兄妹、アルスとロメリア。

 昨晩、ディゼノ戻った二人はそこで初めて事件の事を知る。しかし、もう落ち着いた後であったのでのんびりと自宅へ戻り、そして悠々とギルドへ報告を行った。



「なんかの前兆だったりしてな」

「やめてよ……不吉な事言うの」

「そうは言うがよ、こんな騒動、他の街でもそうそう無いぜ? もしかしたら、近いうちにもっとデカい事件が――」



 そんな不穏な事を堂々と語っているアルスの前に、水晶玉を持った美しい女性――ブローディアが立っていた。



「俺に何か用か?」

「……不吉な予言。不幸が続く街で、明け透けに語る物ではないわ。気を付けなさい」

「お、おう」



 アルスが座っているせいで直ぐに目に入ってしまった、突如現れた大きな胸が説教を始め、思わず引いてしまう。

 胸、デッカッ!! と、声が漏れそうになるも、アルスは何とか平静を装い言葉を返す。



「貴方は……特級冒険者の、【占術師】ブローディアさん?」

「ええ。特級なんて、ただの雇われって意味だけどね」



 冒険者は基本的に、ギルドに申請して就くものだが、有名無名問わず、有力な人材を引き抜く事もある。それが特級冒険者であり、ランク付けは無い。

 しかし、基本はSクラスと変わりない戦闘力、特異な能力を持っているため、ギルド内でも高い権限を持つ。


 ブローディアの他に5名の特級冒険者が国内にいるが、どれも癖が強い者ばかりで、関わる事は少ない。

 元々暮らしに困ってない者達をスカウトしているので、普段は頼りに出来ないが、緊急時にはギルド保有の多大な戦力となる。



「で、その乗り気じゃないデカ……ブローディアさんが何の用だ?」

「別に。知り合いと似てたから聞いてみたかっただけ」

「オイオイ、ナンパか?」

「ちょっと兄さん……失礼なのよ……」



 アルスは冷たい雰囲気を持つブローディアへ、意に返さず冗談を言う。

 冒険者としてはよくある冗談だが、相手が相手なので、ロメリアは恐縮していた。



「……その態度。間違いなくインカの息子ね。貴方は、その妹さんかしら?」

「なんだ、やっぱ親父の知り合いか」

「そうなの……?」

「ええ、この間、ヴィルポートで偶々出会ってね。……死にかけたわ」

(なんで?)



 アルスとロメリアは話が繋がらずに困惑するものの、何処か遠い目をしているブローディアへ聞く事はしなかった。



「筋肉質な鬼人があんなに……死ぬる」

「おう、そうか。それで、親父は元気だったか?」

「……そうね。元気なのかしら、あれは」

「お父さんに何かあったの?」



 ブローディアの勿体付けた様な言い方に、ロメリアがずいっと前に出てブローディアへと聞く。

 大きな鎧がいきなり動き出したので、ブローディアは少し引き気味になりながらも、ロメリアへと答える



「そ、そんなに心配しなくても平気よ。今、あの人はヴィルポート伯爵に雇われていてね。領主の護衛なら、危ない所へは向かわない筈だから」

「一番危険じゃねえのか? 親父を使うくらいだから、暗殺とか有り得るんだろ?」

「……あまり大っぴらには言わないで。でも、そうね。並大抵の護衛じゃ危険だから、インカが選ばれたのでしょう」

「お父さん……大丈夫かな」



 父親の実力は、子であるロメリアも良く分かっている。しかし、それはそれとして危険な仕事だと聞き、心配だと思うのは娘として当然の事だろう。

 ブローディアはそう思い、手に持っていた水晶玉をロメリアの目の前へと移す。



「……王都」

「え?」

「出会い。練磨。そして難局に立つ。それが貴方達兄妹の、未来」



 突然の予言に二人は困惑するも、ブローディアに尋ねる。



「王都に行けって事か?」

「別に行かなくても問題無い。私は、貴方達のより良い未来を提示するだけ」

「うう、気になる言い方なのよ……」

「……少なくとも、貴方達が苦難に見舞われるのは間違いない」



 確信めいた様子で、ブローディアは二人に宣言した。



「その苦難ってのは、占いの結果か?」

「……フッ」

「なんで鼻で笑ったんだよ」

「絶対何か誤魔化してるのよ……」



 二人は呆れた様に言うと、二人は同時に立ち上がる。

 その動作に、思わずブローディアは笑ってしまった。



「……やっぱり兄妹なのね。妹さんは貴方にそっくりなのかしら?」

「いんや、全然。普段から顔出してたら、逆に兄妹か疑われるくらいにはな」

「もう、その話は良いじゃない。それよりも、私達はもう行くのよ……そろそろ、仲間が来る頃だから……」



 恥ずかしそうにもじもじとしながら、ロメリアは足早に去って行く。



「シャイな子なのね」

「いい加減少しは直せって言ってるんだがな。アンタも、面白がって揶揄うなよ。後で俺に被害が来るんだから」

「……仲が良いのね」



 くすりと笑うブローディア。

 また揶揄ってんなコイツ? と、若干言い返しそうになるも、ロメリアが行ってしまったので後を追う様にアルスはブローディアを横切る。



「もし親父に会ったら、よろしく言っといてくれ」

「気になるなら、自分で会いに行けば良いのに」

「会いに行く時は、自分が納得の行くまで強くなった時って決めてるんでね」

「……そう」



 そう言ったアルスの顔を、ブローディアは流し見しながら思案する。

 その顔はプリムと話していた時の如く、悲嘆の表情であった。


 占うまでも無く、これから起こる悲劇にあの鬼人の親子が巻き込まれる事は言うまでもない。

 せめて、彼等に後悔無くその時が訪れる事を願いながら、ブローディアはその鬼人の後姿を眺めていた。
























 アルスとロメリア、ブローディアが話している冒険者ギルド内。

 その受付近くで、六曜のダイナ、シーラが揉めていた。



「なんで俺が、薬草採取なんてやらなきゃいけねえんだよ」

「そう言うなって。昨日の騒動で街中のポーションが品薄なんだ。ここの冒険者達はその後始末で出払ってるし、俺達が行くのが最善だろ?」

「ったく、ゴブリン如きが面倒な事しやがって……!」



 ぶつくさと文句を言いながら、シーラは腹いせにダイナへと八つ当たりをしている。

 そんなシーラを適当にあしらいながら、ダイナは採取依頼の手続きを進めていた。オクナとガーベラは、既にマリーから声をかけられて、別の依頼を受けている。

 受付から、昨日の出来事を事細かに説明されると、ダイナは驚きを隠さずに言う。



「俺達が依頼に行ってる間、そんな事になってるなんてな」

「たかがゴブリン程度に騒ぎすぎなんだよ」

「そりゃ龍から見たらその程度だろうけどな、俺達にとっちゃ大惨事なんだ。街中を野良の魔物が闊歩してたら安心して夜も眠れないしな」

「ああ、はいはい。分かってるよ」



 絶対分かっていないシーラに、思わず苦笑いするダイナ。

 これでも最初に出会った時よりは、大分物腰柔らかくなったと妥協して切り替えようとした時、冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれる。



「バタンバタンうるせー扉だよな。一体なんだ?」

(あの扉、毎回あんな乱暴に開けられて壊れないのだろうか)



 もう幾度も乱暴に開かれる扉に同情しながらも、ダイナは入ってきた人物を注視する。

 いや、それは人物では無かった。灰色の、中途半端に毛が刈られた毛玉が一斉にギルド内へと入ってくる。



「ライズか」

「ライズ?」

「人間と友好的な魔物だな。冒険者もいるって言ってたが、あんな集団で入ってくる奴なんていたかね」



 ウサギをモチーフにしたゆるキャラの様な見てくれだ。ダイナはどこか安心しつつも、ぞろぞろと入ってくるそのライズ達を訝しげに見ている。



「……襲撃じゃないのか?」

「はは、無い無い。アイツら、力は強いが人以上に平和ボケしてるからな。例え飢餓に入ったとして、物乞いはしても襲うなんて思考には至らねえよ」



 黒い魔物が散々襲撃してきた後なのだ。そうシーラが言っても、その灰色の毛を見ればダイナでなくとも、疑いを抱かざるを得なかった。

 しかし、そんなダイナの気も知らず、そのライズ達が次々に入り、両脇を固めて道を作っていく。

 その毛玉の道を、一匹のサングラスをかけたライズが堂々と現れ歩いている。



「チャオチャオ、皆の衆。泣く子も祈るアルタ教会のライズこと、ミ・ギグ様だ。ちょいと邪魔するぜ」



 ミ・ギグと名乗ったライズが、そう言ってぽてぽてとダイナ達の方へと歩いてくる。

 このままだと絶対面倒な事になる……と、ダイナは思ったが、時既に遅し。目が合ってしまった。



「よう、そこな兄ちゃん。少しお話良いかい?」

「……俺ですか?」

「おたくしかいないだろう。そこの姐さんは……怖いから大丈夫です」

「ああ?」



 ミ・ギグは冗談染みた声色でシーラを揶揄う。

 もしかして、一目で彼女が龍だと気づいたのか? と、ダイナは警戒を強めた。



「あっはっは、冗談だよ。何、大したことじゃない。人探しをしていてな。コイツに見覚えは無いかい?」



 後ろに控えていた眼帯を付けたライズが、一枚の紙を広げる。

 そこに描かれていたのは、鋼の様な、鍛え抜かれた体の厳つい男であった。

 服も、ギラギラと目立つような装飾品に包まれている。



「う~ん……見た事無いですね。流石にこれだけ目立つなら、一目見たら覚えてると思いますし」

「その絵うめーな。お前が描いたのか?」

「はい、恐縮です」



 眼帯のライズは一礼すると、ミ・ギグの後ろへと下がる。



「やっぱそう簡単には見つからねえよな……オイお前等ッ!! 聞き込み開始だッ!!」

「へい、ボスッ!!」



 入り口で控えていたライズが、一斉に散らばって冒険者達に引っ付いている。

 パッと見だと、ペットが一斉に人へ群がってるみたいで可愛いなと思ってしまいつつも、ダイナはミ・ギグへと視線を戻す。



「その人がどうかしたんですか?」

「ああ、ちょいとヤボ用でな。ったく、何処をほっつき歩いてるんだか」

「お前もほっつき歩いてるんじゃないのか? 裏でこそこそ嗅ぎ回るのが教会の仕事だってか?」

「シーラ、失礼だろ」



 シーラが遠慮無しに問うと、ミ・ギグは笑いながら耳をぱさぱさと手で弾いている。



「ま、そうだな。俺は本来そんな役目じゃないんだが――少々きな臭くてな。詳しい事は言えねえが、こそこそ聞き回る時間も無さそうだ」

「どういう事だ?」

「言ったろ? 詳しいこたぁ言えねえって。なーに、身内の話だ。姐さんは気にする必要ねえさ」

「別に気にしてねえよ」



 クハッと、ミ・ギグは笑うも、いきなり耳を立ててダイナの後ろを凝視する。

 そこには、特級冒険者のブローディアが立っていた。



「昨日ぶりだなァねーちゃん。服を台無しにして悪かったな」

「……貴方こそ、自慢の毛を焼いてしまって悪かったわ」

「気にするなよ、むしろおチビさんの方の被害が甚大でね。中途半端に毛を刈るもんだから目立っていけねえや」



 二人共目が据わっている辺り、仲が良い訳では無いのだろう。

 直ぐにそう判断し、ダイナはその間に割り込む。



「えっと、貴方は?」

「……私はブローディア。各地で、【占術師】として占いをして回っているの」

「占い……なるほど。ああ、俺はダイナと言います。こっちはシーラ」



 自己紹介も含め、ミ・ギグにも聞こえる様に言うダイナ。

 どういう経緯で喧嘩したのかと、状況がイマイチ掴めないダイナを気遣ってか、ミ・ギグが口を開いた。



「何、昨日ちょっと喧嘩しただけだ。もうそこのねーちゃんとは仲直りしてるよ」

「ええ、諸悪の根源はどこかへ行ってしまったけれどね。次会ったらタダじゃ置かないわ」

「奇遇だねぇ、俺もそんな事を思っていたよ」



 睨み合っていたと思ったら、今度は意気投合している。

 険悪な雰囲気でも無さそうなので、ダイナは気にしない事にした。



「そろそろ良いですか? 俺達、依頼を受けるので」

「こんな状況で依頼なんてあるのかい?」

「ええ、こんな状況だからこそですね。ほら」



 ダイナが見せたのは依頼の詳細が書かれた用紙。

 そこには、リールイ森林に生息する薬草を採取する依頼内容が書かれていた。

 どんな薬草か、大まかに出現する魔物も書かれている。



「なるほどな。薬がいるのか」

「……思ったより怪我人が出たのね」

「そりゃ、いきなり街に魔物が湧いたら出ますよ!」

「そうか? 適当にあしらえるレベルだと思ったが」



 ダイナ以外は大したことない風に言っている。えっ、俺がおかしいのか? と、ダイナは自分の常識を疑いつつも、話を続ける。



「ともあれ、回復薬が底を尽いたらまずいでしょ? だから、これを受けようかと」

「……冒険者の鑑ね」

「おたくも手伝えばいいだろ」

「面倒……」



 面倒だと言いかけたその時、ブローディアの持っていた水晶玉が激しく光った。

 何かを主張するように光る水晶玉を見た後、ブローディアは再度ダイナを見る。



「……私も同行するわ」

「今、面倒って言わなかったか?」

「私のスキルが、貴方達に付いて行けと言っている」

「胡散臭いスキルだな」



 シーラは、ブローディアを疑いの眼差しで見ている。

 そんなシーラを、ブローディアも真っ向から見つめる。



「そんな女の子同士で喧嘩するなよ、兄ちゃんが困ってるぜ?」

「いや、俺は別に……」

「という訳で、俺も同行させてもらうか」

「はあ?」



 思わずと言った感じに「はあ?」と言ったのは後ろにいる眼帯を付けたライズだ。

 そんなライズに、小さい手を振りながらミ・ギグは言う。



「別にお遊びで行くわけじゃねえよ。俺はスライムの体液が欲しいだけだ」

「スライムの体液?」



 スライムの体液。核を破壊すると得られる、死んだスライムの残骸だ。

 それの使い道は限られるが、何故それが必要なのか。



「ホラ、俺達のイケてる毛並みがこんなになってるだろ? 早く元に戻さなきゃならねぇ。そこで、スライムの体液よ。しっかり調合すれば、増毛剤になるんだな、これが」

「マジか」

「……そんな話、聞いたことあるわ。一時期、それが発覚してスライム討伐が一気に増えたって」



 確かに、増殖するスライムの性質を考えればそんな効果がありそうではあるが……同時に、物を溶かす性質を持っているので、一歩間違えれば大惨事なのではなかろうか。

 王都にもスライム討伐の依頼はあった。それがずっと無くならないのも、そんな理由なのかもしれない。



「という訳だ。ゴズ、お前はミゴラスの倅の事を聞いて回れ」

「はあ……分かりました。くれぐれも、暴走して皆様に迷惑をかけない様にお願いします」

「子供か俺はッ!」



 まだ許可もしてないのに、いつの間にか美女とウサギが付いてくる事になっていた。

 ダイナはまたトラブルが起こりそうだと、不安を抱えながらギルドを後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ